一話 想うゆえの我儘
「あっ……」
そこにいたのは、ライヤだった。
暗い表情を浮かべていた彼は、隠すようにすぐに笑みを浮かべる。
「なんじゃ、柚葉か」
そう言うと、ふとため息をついた。
自分に会ったことにガッカリされたのかと思うと、ちくりと胸が痛む。
柚葉の想い人が彼であるから、なおさらだ。
「あのね、私、聞きたいことが――」
「俺もじゃよ」
柚葉の隣に来ると、寂しげな笑みを向けた。
「他の四護神はともかく、俺はお前さんにとって、頼りないんか」
「ふぇ? そんなことないよ、どうしてそう思うの?」
それは事実で、むしろ頼りにしていたくらいだ。どんな状況でもライヤの余裕を見せる行動に、安心している自分がいた。
「悩み、話してくれんか」
その言葉に、柚葉は肩をびくつかせた。
悩みを抱えていることを、どうして知っているのだろうか。
普段そんな行動をとってはいない自覚があるし、ライヤの方がよっぽど、悩みを示唆する行動をとっている。
かつ、ライヤは今自分が抱える悩みでいっぱいいっぱいなのだろうと、そう思っていた。
「いや、でもそれは――」
アゼーレ超大国を救う術が、柚葉の死と聞けば、悲しんでくれるだろうか。
話してみたい気持ちはあるが、ダメだ、それはできない。
きっと、何の反応もしてくれないだろう。そんなライヤを思い浮かべるだけで、怖い。
それしか術がないから、余計に言ってはいけない気がする。
でも、ライヤにだけは知ってほしいと心の片隅で思っている。
「無理か?」
「……ううん、話したい」
話したって、運命は変わらない。それならせめて、最後のわがままくらい、いいだろう。
柚葉は泣かないように、深呼吸をして高ぶる心を落ち着かせる。
それから、死の運命について話した。
疑うことなく、頷いて相槌を打ちながら、ライヤは真剣に話を聞いてくれた。
「そういうことだけど、でも、不思議と怖くないんだ」
いいや、怖いに決まってる。いくら覚悟ができていても、死に対する恐怖は消えない。
だがライヤを心配させないために、嘘をついた。
「俺は、怖かったぜよ」
「え?」
フレア湖の水面に向けた眼差しは、どこか遠くを見ていた。
らしくないライヤの言葉に、思わず目を見開いた。
「死の恐怖に晒される毎日は、生きた心地がしなかったぜよ。俺は、国王の座なんて、まったく興味もなかったんじゃ。ただ、奴と仲良くなれればよかったんじゃよ。それなのに、母さんのせいで、あんな――」
拳を地面に叩きつける。
それは、怒りや悲しみなど、負の感情がこもっていた。
「すまんな、お前さんの話を聞かなきゃいかんのに、つい」
「ううん、私、ライヤの話を聞きたい。ライヤのこと、もっと知りたいよ」
ライヤが人の前で過去を、心情を晒したのは、初めてだった。
どうして、柚葉の前でこんな話をしてしまったのだろうかと考えても、もう遅い。
だが、彼女は「知りたい」と言ってくれた。それが素直に嬉しいと、思ってしまった。
「とにかく、俺には嘘つかんでほしい。柚葉が笑っていられるよう、俺が守るからの」
「ありがとう、ライヤ。その言葉で、十分だよ」
「なんじゃ、俺は口だけの男か? 他にも、方法はあるはずじゃ」
ライヤは自分の話を止め、立ちあがった。
リウム洞窟で誓ったことを、実行するために。
この力を使って、柚葉を守ると。誰も傷つけない方法は、きっとある。
「……うん、私、我儘だけれど、まだ生きたい」
涙を流しながら、笑った。
ライヤがそう言ってくれるから、本当にあると思えてきた。
一人で悶々と悩んでいた日々が嘘のように、今はポジティブに考えられる。
「もっと我儘に生きんしゃい、柚葉」
差し伸べる手をとり、片手で尻についた草を払いながら、立ちあがる。
大げさに頷くと、柚葉はその大きな手を離すことなく、温もりを感じながら皆のもとに戻る。
「あのね、ライヤが笑っていられるように、私も守るから」
「……柚葉、ありがとな」
結局、ライヤの悩みについては深く聞けなかった。
聞くのではなく、ライヤが自分から話してくれるの待つことにした。
柚葉は、あのとき無言でかわした言葉のようになりたいと考えている。
ライヤと共にいたいと、望んでいる。
どうなるかはわからないが、どんなときも彼を支えることを、心に誓う。




