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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
二章 未来を決める旅
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十九話 苦悩

 意識を失っていたレイの手が、ぴくりと動く。

 それを見逃さなかった柚葉は、レイに近づき、声をかけた。


「レイ」


 名前を呼ぶ声が聞こえ、そっと目を開けると、泣きそうな柚葉の顔が映った。

「よかった」なんて安堵のため息をつく彼女は、本気で心配していたらしい。

 何がどうなっているのかわからないレイは、辺りを見回す。

 どうやら、イズナ岩窟に戻ってきたようだ。


「その手に握られている剣、それは破滅の剣ではなく、希望の剣(ウィッシュブレード)だ。それが我から我が護神(レイ)に授ける、炎の力だ」


 大男が指した先にある紅に染まった双剣が、その手中にあった。

 そこで、何があったのかを思い出す。


「……俺は……俺は、リットンを……」

「レイ? リットンが、どうかした――」

「わああああああああああ!!」


 正気を失ったかのように、思い切り叫んだレイは、頭を両手でガッと押さえ、何かから逃げるようにギュッと目を瞑った。

 頬に涙を伝わせ、それは熱い地面へと落ち、蒸気となっていく。


 大男の力で宙に浮いていたレイは、地に足をつけ、何もかもを拒むようにして、俯き屈んだ。

 嗚咽を漏らすレイを見たのは初めてで、どうしていいかわからず、泣く子をあやすようにその背中を撫でることしかできない柚葉は、心話で大男に聞いた。


『レイは、何をしたの?』

『それは今の戦神子(メイデン)に話すことではない』

『レイを助けたいの! だから、教えてよ!』


 だが、それ以上は返ってこなかった。

 肩を上下に揺らし、流れ出る涙が汗と混じり、地へと落ちていく様を見守ることしかできない柚葉。

 大男は柚葉に近寄ると、彼女の顔の三倍くらいの大きい手を差しだし、握るように命じた。

 それで柚葉は力を得て、皆が待つ入り口へと戻れるらしい。

 せめてレイが落ち着くまで待ってほしい、そう懇願したところ、それだけは承知したようだ。
















 アゼーレ超大国のどこかにあると推測される、天の護神の力を得られる場所を求め、旧マール王国跡地を後にした一行は、野宿をとるための準備を妖精の森(フェアリーフォレスト)でしていた。

 ルシトと初めて出会った場所だ。

 その中でレイとライヤは、単独行動で薪を取りに行った。

 残された三人は、食事の下ごしらえを行い、寒い夜に備えて落ち葉を拾った。


 ロッカスがそれとなく明るい雰囲気を作ろうとするも、ライヤは苦笑い、レイは無表情、ルシトは俯き、夜と共に表情も暗くなっていく。

 それは柚葉も同じだった。

 気分転換と言って、一人で皆の元を離れるも、今回はさすがに、誰も止めなかった。

 皆が何かに苦しみ、だがそれを分かち合えず、今に至るのだ。

 なんでこんなに苦しいんだろう。

 ロッカスに話せないことも、ライヤの複雑な事情も、レイに何があったのかも、そして、ルシトにだって、きっと何かしらあるはずだ。

 皆の知らない、深い事情が。


 皆の苦しみをわかってあげられたなら、今はどんなに楽だったろうか。

 皆が抱えていることを素直に打ち明けられたら、今は笑っていただろう。

 確かに、今からでも遅くはない。

 だが、それはきっと叶わないだろう。


「……戦神子」


 声音も櫂人に似ているのに、そう、櫂人はもう、いない。

 なんだか、皆がばらばらになり、離れていくようで、怖いのだ。


(まほろ)


 目の前にいるのは、黒いコートを身にまとった幻。

 その名の通り、櫂人の幻なのかもしれないなんて、思ってしまう。

 月光の下、そよ風に木々は揺れ、流れに身を任せている。


「……幻」


 四護神誰一人にも助けられないこと、仲間だと思って一緒にいたのに、肝心な時に限って、互いに何も言えないこと、そしてそのまま、死んでしまうこと。

 それが、怖かった。

 だから、何も知らない幻だからか、櫂人に似ているからか、理由はわからないが、誰かに受け止めてほしいと、知ってほしいと、そう思ってしまった。

 気付けば、歩み寄ってきた幻の胸に顔を埋め、泣いていた。

 何も言わずに、頭を撫でてくれるも、それ以上のことはなかった。

 幻にも、立場がある。

 越えてはいけない、一線がある。


「……明日目が覚めれば、すでにそこは、天の護神の力を得られる場所」


 返事のできない柚葉の代わりに幻は、湧き上がる想いを抑えながら、話を続けた。


「力を得たら、パルテノン帝国の城最上階、神の間において、その身を――」

「わかった、ありがとう」


 慰めの言葉もかけられず、その小さな頭を撫でることしかできない幻は、下唇を噛みしめながらも、そっと手を離した。

 ただでさえつらい思いを背負っているであろう柚葉からそっと離れると、何度も服の裾で涙を拭っているのを見て、何とかしてあげたい気持ちになるも、彼女とは正反対のほうへと歩みだす。

 背後で嗚咽をもらす柚葉の声を、聴きながら。


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