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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
二章 未来を決める旅
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十七話 過ちの代償

「くそっ! 俺の狩り場(テリトリー)を踏みにじりやがって!」

「……あんな雑魚相手に、殺す価値もないと思うけれど」

「だがな、ジプシーはこの任務にはついてない! 何であそこにいんだよ!」


 夜、柚葉たちから遠く離れた森の中に、黒騎士(ブラックナイト)の二人がいた。

 大木に拳を突き、八つ当たりするのはグストー。

 だがこんなことでは、怒りは収まらないらしい。

 眼鏡をくいっと持ちあげるグロリアが、お気に入りのノートパソコンと睨めっこしている。


「簡単よ。彼は、ロセリア王国の元住人だから」

「マジかよ! あーくそ! ジプシーの未練たらたら野郎があっ!」


 もう一突きすると、めきめきと音を立てて、拳を打った箇所から裂け、後ろへと倒れていく。

 他の木々も巻き込まれ、大木に押し潰される。


「その変な機械も、壊してやる!」

「これは、アーネスト様から貰ったお気に入りのもの。……いくら兄でも、許さないわよ?」


 煮えたぎるような怒りがこもった熱い視線と、軽蔑するような冷たい視線が交わる。

 だが、ここは妹が一歩譲った。


「――まあ、いいわ。明日は見せ場が来るといいわね」

「フン、この任務、退屈すぎるからな」
















「……」


 誰もが無言になるのは、仕方ないことだった。

 かつて城下町があり、大きな城が存在したマール王国は、溶岩流に飲みこまれ、跡形もなくなっていた。

 今では冷え固まり、マール王国一帯に広がる黒い岩の上を歩いている。


 だが、幸いとも言えようことが一つだけあった。

 なぜか、町の外れにあったレイの家だけは、無傷だった。

 焦げてもおらず、ちゃんと原形を留めている。


「何が、あったんだ……」


 沈黙を破ったのは、レイの重々しい一言。

 そんなレイの問いに答えることは、誰もできなかった。


(――クレールさんは?)


 柚葉は、かつて窮地を救ってくれた恩人、マール王国の王妃であるクレールを探すため、城下町があった場所から、城の方へと走って行く。

 だが、どこもかしこも見える景色は同じ。

 黒い岩、岩、岩。

 城の痕跡は、一つもなかった。


「この辺り一帯には山がないのに、なぜ溶岩が、マール王国だけを襲ったのでしょう」

「俺も思った。まるで、マール王国を狙って溶岩を流したかのような意図が見える」

「答えは、あそこじゃな」


 ライヤが指した方角には、直径二メートル程の穴があった。

 城下町跡の東にあるそれは、覗き込むと、ものすごい熱気を発していた。

 そして、奥が見えない程、深い。

 落ちたら、この世界の反対側まで行ってしまうのではないかと思わせる。

 そして、ここから黒い岩が町へ、城へと流れている。


「……レイ」


 柚葉は、この状況を理解できないでいるレイの手を、そっと握った。

 こんな状況でなければ、嬉しいと思うだろうが、感情が自分からごっそり抜けたような、そんな感覚の中で何も思えなかった。

 柚葉の手のぬくもりさえ、感じられないでいた。


「勘だけど、ここ、イズナ岩窟の入り口だと思う。どうしてこんなことになったのか、わかるんじゃないかな」


 ただ眼前に広がる景色を、呆然と見つめるレイの代わりに、柚葉が俯く。

 悲しい、寂しい、悔しい、それ以外に、柚葉にはわからないような感情がレイの中で渦巻いているのだろう。

 ちゃんと話せばよかったのだろうか、そうすれば少しは、苦しみも軽くなっただろうか。

 今になって、そのことを後悔する柚葉であった。

 

 国民の嫌われ者とはいえど、思い出だってあるだろう。

 レイは、知らなければならない。

 マール王国の、一民として。


「……行こう」


 決意したレイが、先に穴へと落ちていく。

 まるで、命を投げ捨てるかのように、何も恐れずに。

 そんな様子を見て、柚葉は、レイがライヤみたく、自分の命を簡単に投げ出すんじゃないかと、そう思ってしまった。


「レイを、頼むぜよ」

「俺も行きたいが……あぁ、やっぱりダメだな」


 ロッカスが穴に足を踏み入れようとすると、なぜか穴の上に見えない床があるように、立てるのだ。

 地の護神と戦神子しか行けないのだろう。


「柚葉、レイをよろしくお願いします」


 ルシトは、彼女と視線を合わせることなく、発言した。

 自分のせいで、こうなったのではないかと、責任を感じていることを、隠すように。


「うん、絶対帰ってくる。レイと一緒に」


 そして、柚葉の体に人生初めてのバンジージャンプを体験する前の緊張が走るも、迷ってはいられない。

 思い切って、飛び込んだ。
















 不思議な場所に辿り着いた二人は、溶岩が静かに流れている壁に触れないように、慎重に歩いていた。

 真夏の都会のコンクリートと同じような温度の中、尋常ではない程の汗を流しながら、一本道を進んでいく。

 溶岩と言う赤い照明が、本来なら暗いはずの岩窟内を照らす。



「……レイ」


 声をかけてみたものの、その先に続ける言葉が見つからず、あろうことか返事もなかったので、会話はなくなった。

 だが、返事がなくても、話しかけなくてはいけない気がした。

 レイが目の前を歩いているのに、レイの心が此処にはない。

 そんな気がしていた。


「待って、レイ!」


 どんな試練が待ち受けているかわからないのに、この状態では、乗り越えられない。

 そう思った柚葉が、重い足を頑張って上げて、歩く速度を早めて、やっと、レイの汗で濡れた服を掴んだ。

 そこでようやく、歩みを止めるレイが、振り返った。


「私の目を見て」

「……何だ」


 レイは、柚葉の方へ体を向き直ると、その姿を視界に捉える。

 だが、柚葉はレイに見つめられているとは、思えなかった。

 

「確かに、あんなことがあって、普通でいるのは無理だと思う。でも、今は――」

「それは、アゼ―レ超大国を救うためか? ルシトのためか?」

「なっ! 私、そんなこと思って言っているんじゃない!」

「じゃあ誰のためだ? 仲間のためか? それとも、戦神子だからか? やることは果たすから、俺のことは放っておい――」


 パシンッ


 柚葉が、レイの頬を引っ叩く。

 痛みがじわじわ来ると同時に、自分が何を言ったのかを知って、後悔する。


「馬鹿っ!」


 目の前にいる柚葉は、涙を流している。

「どうしてわかってくれないの?」と言わんばかりに、レイを見上げる。

 頬を叩いた右手を、左手でギュッと握る。

 涙が地面へと落ちると、音を立てて蒸発した。


「レイだって、私にとって大切な仲間なんだよ。それに、傷ついているレイを、放っておけるわけない」

「……すまん」


 我に返ったレイは、柚葉の涙を拭いながら、謝った。

 自分がどんなに酷い状況に置かれていようと、大切な人を傷つけて、悲しませてしまったことに変わりはない。


「私も、叩いちゃって、ごめんね。……行こう」


 柚葉は、レイの腕を掴み、絶対に離すもんかと心に誓った。

 離してしまったら、手の届かない遠いところに行ってしまいそうな気がしたからだ。


 そうして、話題もなく、二人が歩き進んだ末、広間に出た。

 円状の形をした黒い岩の上をゆっくり進むと、その先には大男が、鎮座していた。

 全身が、溶岩が冷え固まったように黒く、唯一、緑に光る双眸で、やって来た二人の姿を捉える。

 体長は、レイの二倍はあり、彼が放つ威圧感が半端ではない。

 前に置かれている大剣は、人が持てそうなものではないことが見た目からでもわかる。

 大人の手の平ほどの長さの、厚みがあり、今は黒くくすんでいるように見えるが、それでも怖ろしいと思わざるを得ない、どす黒いオーラを感じた。


「来たか、我が護神(レイ)戦神子(メイデン)よ」

「……お前が、やったのか」


 どすの効いた低い声が響き、地が震撼する。


「我が護神を嫌う者はいなくなったのだ。もっと喜ぶものかと思っていたが」

「こんな俺のことを、好いてくれた人もいた。いくら嫌われようが、あの国には思い出がたくさんあった。……だが、お前の所為で、すべてが消えた」

「我は罰を与えただけだ。国王とやらが、この剣を使おうとしたからな」


 動かぬ重々しい大剣を指す男は、ふん、と鼻で笑った。


「なんでその剣は使っちゃいけないの?」

「これは一度振るえば町を吹き飛ばし、二度振るえば国を消滅させることのできる剣。人が使っていいものではない」


 そんな話を、信じられるはずがない。

 だが、嘘を言っているようには思えない。


「だが、お前はやり過ぎた。他にも償う方法があったはずだ」


 レイが臆せず、動かぬ男をキッと睨みつける。

 その言葉には、柚葉も頷いた。


「それなら、やり直すか?」

「――やり直す、だと?」


 そこで、ようやく、男は重い腰を上げた。

 自信に満ちた笑みを浮かべながら。


「我が護神は、亡き国を蘇らせたいのだろう。それなら、やり直せばいい。その手でな」



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