魔王の血統
カイティアクの町に無事に船を持ってきたヴィア達は、傭兵団斧の鞘に引き渡した。
船を解析してもらうと、北の海を渡るには強度が足りないことが分かった。
改造船を造るには、丸三日掛かるらしい。
魔王城の出来事を、ルキウスの事をボカシながら、皆に話すアル。
「その変な空間に入った時、奇妙な魔獣がいたんだけど、アレなんだったんだろう」
「ソイツの特徴は?」
ラインハルトが興味を持った。
「気持ち悪いヤツ、人の顔だけど身体は獅子で、尾はサソリだった」
「マンティコアじゃねぇか!」
災害級とされるマンティコア、通常はパーティを組んで挑む。
攻守共に優秀な難敵である。
「んで、逃げて辿り着いたのが、魔王城ってか?」
「倒したよ、グーパンで」
「マジかよ…」
「まぁ、アルだもの」
「そうですね…アルですからね」
「なにそれ?」
辿り着いた魔王城で、出会ったのが魔王の血統であるルキウス=ザウリレウス。
マルクス=ザウリレウスの嫡男だ。
しかし、この話は皆には出来ない。
そう約束した。
「そこに何故がシンさんがいた」
シンの話なら問題ないとの判断。
「何故にそこに公爵が?」
「さぁ?何かの調査らしかったけど詳しくは教えてくれなかった」
「ふむ、守秘義務とかもありますからね、言えないこともあるでしょう」
他に話す情報を、アルは持ってなかった。
「暇になったし、魔王城行ってみない?」
突然のリイアの提案。
口止めをされてはいたが、既にルキウスは去っているだろうから、問題ないと思い口を挟まなかったアル。
意外とあっさり到着できた。
昼間に見ると巨大さに圧倒される。
禍々しい黒一色の城は、世界でもここくらいだ。
「これは圧巻ね」
「すげえな、真っ黒だよ」
リイアとラインハルトは素直な感想を言った。
アルは押し黙り、ジルは所用で町に残っている。
「なんか音がするな」
大扉を開け中に入ると違和感を覚える。
「奥の方ね」
「剣戟音…たぶんだけど」
魔王城、謁見の間の方向から戦闘音が聞こえる。
急いで行ってみると、戦っているのは老人と騎士。
しかし、騎士の動きは緩慢で次々と老人に倒されている。
「お爺さんに加勢しよう」
「する必要なさそうだけどな」
「いや、やな予感がする」
ラインハルトの予感は侮れない、悪い予感は良く当たる。
地響きが鳴り始めると、玉座を破壊しながら、下から骨の魔獣が現れた。
「嘘でしょ…」
「コイツは…」
骨だけではあるが、アルはコレに見覚えがあった。
「ドラゴンだ」
禍々しいオーラを放つ骨のドラゴン。
「ボーンドラゴン!」
アルはオリハルコンのダガーを抜き構える。
ラインハルトも二振りのダガーを構える。
「おい!じじい!そっちは任せた!大物はこっちで何とかする!」
「じ、じじい!?」
突然の乱入者の罵倒に、思いの外甲高い声で叫ぶ老人。
「そっちの騎士は死人ね」
司祭でもあるリイアが言うのだから、そうなのだろう。
「アンデットの騎士ってことか?」
「そうね」
「前見て、来るよ」
這い出たボーンドラゴンはアルを目標に定め、右前脚を振り下ろす。
地鳴りを上げアルを押しつぶそうとする。
「ほい!」
両腕を交差させて受け止める、足が床に食い込むが、アルにダメージはない。
「相変わらずの丈夫さね」
「ハルさん、攻撃攻撃」
「ハル?あれ、俺、ライさんでは!?」
「なんかハルさんの方が良い気がして、それより攻撃攻撃」
「お、おう!加速!」
気持ちを切り替え、ラインハルトが自身にバフを掛け、ボーンドラゴンの背後へ飛ぶ。
「天下無双!」
両手武器用の乱撃スキル。
小気味よく、骨と金属がぶつかり合う音が響く。
「硬え!」
手応えがなく不満を叫ぶラインハルト。
「続けて攻撃して!栄光!」
リイアは固有スキルを発動させ、パーティの底力を上げる。
「ほい!」
アルはボーンドラゴンの右前脚を上へ弾く。
体勢の崩れたボーンドラゴンの左後ろ脚を、リイアとラインハルトで叩く。
ユニーク職の戦女神へジョブチェンジしたリイアは、攻撃役もこなせる。
アルは一人で右後ろ脚を攻める。
「すごい斬れ味…」
オリハルコンのダガーは一振りで、ボーンドラゴンの脚を切断した。
再び攻撃に移ろうとしたボーンドラゴンは体勢を崩し両前脚で踏ん張る。
更に二人で攻撃した左後ろ足脚を破壊した。
完全に機動力を失ったボーンドラゴン。
勝負ありと思われたが、ボーンドラゴンの顎から瞬時に黒い衝撃波が放たれた。
「ヤバい!じじい!避けろ!!闇衝撃波だ!」
狙われたのはアル達ではなく老人の方だった。
一直線に飛んでいく。
「僕は老人じゃない!」
両腕を交差させた老人が光を放つ。
「金属化!」
老人の身体は金色の硬い金属と化した。
ボーンドラゴンのブレスは老人ごと死人騎士を薙ぎ払った。
老人は無傷。
「今だ!」
アル、ラインハルト、リイアの波状攻撃でボーンドラゴンは完全に沈黙した。
「やったな、すげえじゃねぇか、じじい!」
「だから、僕はじじいじゃない!!」
金属化を解いた老人は、涙目で必死に訴える。
「お、おう…悪かったよ」
その必死さにラインハルトが引く。
「どう言う事なの?」
「ふむ、気になりますね」
アルとリイアが、興味津々に老人を見つめる。
老人は溜息を吐き、語りだした。
異世界召喚された男は、チート能力と引き換えに老人にされてしまったと言う。
女神の願いを叶えれば、元の世界に帰れるとらしい。
つまり、異世界召喚された勇者である。
その一環としての、死人騎士の討伐だったらしい。
女神の願いは全部で12あると言う。
「僕は先を急がなきゃならない」
「ちょい待ち!」
「なんだよ?もう…」
アルは老人にマルクス=ザウリレウス、元皇帝の魔王の事を聞いてみる。
異世界召喚された者なら、魔王の事を知っていると思ったからだ。
女神から説明されているかも知れない。
実際知っていた。
「魔王は元々人だよ」
「人間…?」
第三崩壊で疲弊した人々は、希望を失っていた。
人々に生きる為の、共通の目標を持たせる必要があった。
それを起こした悪は消えてしまったのだから。
皇帝は魔王となり、全世界共通の敵となり人々の生きる目標となった。
そして、自身を討たせる事でそれが希望になると。
語り終えた老勇者は、薄くなった頭を振る。
「おかしな話だよね?人の希望の為に一人の命が犠牲にならないといけないなんてさ」
他に方法がなかったのかと、瞳を潤ませる老勇者。
なる程、この人は本当に勇者なのだと、三人は理解した。
見た目と違い、清い心を持っている。
「どっちが魔王なんだか、本当に世界を壊したドクターと異王の事を知らないとは言え、悲しい話だよね」
目を伏せる老勇者、三人は何も言えなかった。
ハッピーエンドとは何なのか。
その答えが出ることはなかった。
「僕はもう行くよ…」
老勇者は何かの羽根を投げると、空に消えて行った。
「なにあのアイテム?」
「欲しい」
「便利そうだな」
老勇者の切ない話は、一瞬で謎のアイテムに上書きされたのだった。
何故、魔王城にアンデットが現れたのかは、この時は誰も分からなかった。




