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アルブス  作者: シバザキアツシ
復活編

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34/36

白の君主物語、抜粋

船を陸路で運ぶ為、アル達は北の町チムフトへと向かっていた。

「こんなんで、ホントに運べんのか?」

ラインハルトはロジャーに貸してもらった、荷運び用の獣車と巨大な牽引トレーラーを一瞥する。

「ロジャーさんが言うなら出来ると思いますよ」

ジルはドワーフの職人に絶対の信頼を持っていた。

アルは直接、ロジャーに借りた魔獣ガフベアーの背に跨って、ふさふさふかふかを楽しんでいる。



テズヴァイス公国、カイティアクの町の傭兵団、斧の鞘。

ドワーフ族のみで構成されるこの団、実は戦闘特化の傭兵団ではない。

主に武具の作成で、広く世に知られている。


斧の鞘本部。

「コイツはすげえな…」

アルの武器を作業台に置いて、それを眺める職人集団。

「こんな武器、今まで見たこともないぞ」

「ふむ、素材からして激レアな物だからな」

一番近くで、不思議な短剣を見ているのは、団長のロジャーと副長のトロイ。

白の君主ラド=F=ボルオンの武器を作ったのもこの二人。

そのラドの憧れる、傭兵団刃月の副長だった少年。

青髪の最強の傭兵、ヴィア=ファルセムの刀を打ち直した伝説の鍛冶職人が、この二人である。

「始めよう」

「よし」

固有スキル∶超解析(アナライズ)発動。

流星牙(メテオファング)が今、丸裸にされる。



二振りの月、紅黒月と蒼白月の物語の一部。

その当時の事を、二人のドワーフは同時に思い返していた。


ラド=ボルオン、24歳の時。

まだ名前にFが付く前の話。

テズヴァイス騎士国、カイティアクの町。

そしてこの国がまだ、公国になる前の物語。


刃月にある筋から依頼が届いた。

水竜なのに火を吹く竜の討伐依頼。

水竜は水属性の為、通常火属性のスキルを使う事は出来ない。

ラドが単身、この依頼を受ける事になった。

通常この手の依頼は複数人のパーティで行うもの。

「全く…最近僕の事を、都合よく使い過ぎじゃないかな」

ため息を吐くのは、透き通るような白髪の青年ラド。

この一人の青年は、複数人のパーティの能力を遥かに上回る。

現在愛用の武器、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の大剣、蒼白月(グラム)はメンテ中である。

「刃月で支給された剣も、悪い物ではないんだけど、やっぱり使い慣れたものじゃないのは、少し不安かな…」

鞘から少し抜き刀身を眺めながら呟く。

この町の傭兵団、黒眼は早々に撤退していた。

「まぁ、いつもの事だし」

邪魔されないのは正直ありがたい。

一人の方が戦いやすい。

黒眼は臆病な事は、周知の事実、今更どうとも思わない。

「さて、現れたな、仕事仕事」

標的を目視。

ラドは支給された剣を抜いた。


町中で暴れる水竜、住人は既に退避している。

更に戦いやすくする為、広場へ誘い込んでの戦闘となった。


目は赤く光っている。

水竜は暴走状態である。

「話は出来そうにないな」

水竜は知能がある魔物、人語を理解できる個体も少なくないと言うが、暴走状態では不可能だった。

「え?」

人払いは済んでいるはずなのに、ラドの視界に突如現れたのは10代前半であろう少女。

「まずい!」

何故気が付かなかったのか、気配はしなかったはず。

「いや、それより助けないと!」

走り出すラドだが、水竜は既にブレスを吐く体勢になっていた。

「届け!」

近付く少女、口を開ける水竜。

水竜の口内には、赤い魔力が渦巻いている。

『グルァァアア!』

叫び声と共に火炎のブレスが放たれた。

「届いた!!」

少女をタックルするように抱き抱えブレスの範囲から逃れる。

「ちょい焦げたか…」

ラドの右足首から煙が上がっている。

多少火傷した程度で済んだのは、運が良い方だろう。

まともに受ければ、消し炭になりかねない威力。

「君はあの建物の影に隠れてて」

優しく言うラドの言葉を、意外に聞き分けの良い少女は無言で頷き駆けていった。

「よし!アレ?」

先程、少女を抱えながら、ラドは水竜に一撃を加えていた。

「折れてんじゃん…」

支給された剣は半ばから折れてしまっていた。

「どうする?」

再びブレスの体勢の水竜。

その時、ラドの後方に気配を感じる。

「戻ってきちゃダメ…?」

振り向いた視線の先には、少女ではなく髭面の背の低い男性がいた。

一瞬、頭がバグるラド。

「コレを使え!」

豪速で投げられたのは、一振りの刀。

それをキャッチすると同時に躊躇なく抜刀するラド。

一瞬紅く光った後、漆黒の刀身が現れた。

「柄に付いているトリガーを握るとソイツの能力が解放される!使いどこに気を付けろ!!」

そう叫ぶと髭面のドワーフはどたどたと走り去った。

「ありがたいけど、何だったんだ?」

その隙に充填された魔力を再び放つ水竜。

「軽い…」

さして力を込めずに振るったが、ブレスを真っ二つに裂いた。

「凄…ってかコレって!」

ラドはこの刀に見覚えがあった。

「ヴィアさんの武器…紅黒月(べにくろつき)だ」

髭面のドワーフ、ロジャーがラドに紅黒月のレプリカを渡したのだった。

本物の紅黒月は既に失われている。

「これなら嫌と言うほど見てきた」

ヴィアの事を崇拝していたラドは、幾度となく戦い方を見てきた。

「確かこうやって…ぐあ!!」

握る(アップレヘンデ)∶全ステータス3倍、10秒毎に自身に300ダメージを与える。

鋭い痛みを感じるラド、ダメージよりも痛みの方が厳しい。

一説によると、今まで斬ってきた相手の痛みを集約して、使い手に与えるとされている。

痛みが増せば増すほど斬れ味も増す。

「ヴィアさんはいつもこんな痛みを感じていたのか…」

ヴィアの戦い方は、自身をフルバフ状態にして、一気に決めると言ったやり方。

「僕も一気に!」

(サングゥイス)(エト)解放(アペルトゥム)∶ダメージ限界突破、全ステータス2倍、60秒。

ラドの身体から電撃のような黒い闘気が、バチバチと溢れ出ていた。

「よし!」

ラドは刀を目一杯後ろへ引き、水竜へ向かい飛ぶ。

青い(カウルレウム)恐怖(ティモール)模倣」

敵一体に全包囲13連撃、ヴィアのスキルの模倣だ。

バフのおかげで、ラドの目には水竜の動きはスローモーションに見えている。

「お父さん!」

ラドの後ろから甲高い声が響いてきた。

「え?」

先程の少女が、物陰から飛び出して叫んだのだ。

「くっ!」

既に発動してしまったスキルは途中で止める事は出来ない。

お父さんとはどう言う意味なのか。

『グオォオオオ!!』

斬り刻まれた水竜は、力なく地に伏した。

『………』

血塗れの水竜に駆け寄り抱きつく少女。

水竜の息はまだある、しかし長くは保たないように思える。

「はぁ…はぁ…あの…お父さんって?」

少女に問い掛けるラド。

「この竜はお父さんなの…呪われたって言ってた…」

呪いで父が姿かたちを変えられたという少女。

しかし、この水竜を助ける事は出来ない。

それでも、泣き叫ぶ少女の為に何か出来ないのか。

「くっ!」

拳を握りしめるラド。

救う方法は二つ。

殺す事、封印する事の二つだ。

「僕は…」

ラドは殺す手段しか持たない。

「小僧!そこをどけ!」

先程、ラドに紅黒月を渡したドワーフのロジャーが再び表れた。

「出来るか?リッカルド?」

「えぇ、この地に縛り付けるなら可能です」

「そうか、頼んだぞ!」

そう言うとロジャーは、優しく少女を水竜から引き離す。

「大丈夫だ、暫くは会えなくなるが絶対に助けてやる」

「いいのか?」

「頼む」

頷く灰色のローブのリッカルドと呼ばれた男は、水竜の背に両手を当てると何かを呟き出した。

「話しかけたりすんなよ」

少女とロジャーがいつの間にか、ラドの隣に並んでいた。

「彼は?」

小声でロジャーに話し掛けるラド。

「結界師だ」

「結界師…?」

水竜の身体が青く輝き、光が収まるとその巨体は消えていた。

「お父さん!!」

「大丈夫だ、ほれ、地面を見てみな」

結界師がその場を離れると、地面には複雑な紋が刻まれていた。

「この魔法陣の中に君のお父さんが眠っている、暫く時間は掛かるがいずれは元に戻してやるから安心しな」

「…わかった」

分かってないだろう事が見て分かる、自らの唇を噛み下を向く少女。

「俺の仲間のトロイんとこで暫く住まわせてもらえ、あいつの所には、君と同じくらいの年の子がいる」

「…わかった」

涙目の少女は、何とかこの状況を飲み込もうと必死だ。

「この魔法陣の上に何かを置いたほうがいい」

魔法陣が崩れると、封印が解かれてしまうらしい。

「分かった、後で手配しよう、報酬は振り込んどく」

「あぁ」

それだけ言うと、結界師はさっさと去って行った。

「ロジャーさんは知っていたのですか?」

「あらかたはな、お前さんが弱らせてくれて助かったよ、思いの外スムーズに済んだ、礼を言う」

「いえ…では、討伐依頼は誰が?」

「ま、領主やら国だろうがな、深くは探るなよ、無意味だからな」

「…はい」



数年後、無事に人に戻す方法が見つかり、少女の父は人の姿に戻った。

今でもカイティアクの町の北東部にある広場には、水竜の石碑が残っている。

何故、少女の父が呪われたかは、また別の話。


「アイツの剣のメンテをやった時より興奮するわい!」

解析結果……………………。

「ほう、コイツは…」

髭に手を当て目を細めるロジャーだった。



チムフトで無事に船を手に入れたアル達は、巨大な牽引トレーラーにそれを載せ、再びカイティアクに向け獣車を走らせ出した。

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