白の君主物語、抜粋
船を陸路で運ぶ為、アル達は北の町チムフトへと向かっていた。
「こんなんで、ホントに運べんのか?」
ラインハルトはロジャーに貸してもらった、荷運び用の獣車と巨大な牽引トレーラーを一瞥する。
「ロジャーさんが言うなら出来ると思いますよ」
ジルはドワーフの職人に絶対の信頼を持っていた。
アルは直接、ロジャーに借りた魔獣ガフベアーの背に跨って、ふさふさふかふかを楽しんでいる。
テズヴァイス公国、カイティアクの町の傭兵団、斧の鞘。
ドワーフ族のみで構成されるこの団、実は戦闘特化の傭兵団ではない。
主に武具の作成で、広く世に知られている。
斧の鞘本部。
「コイツはすげえな…」
アルの武器を作業台に置いて、それを眺める職人集団。
「こんな武器、今まで見たこともないぞ」
「ふむ、素材からして激レアな物だからな」
一番近くで、不思議な短剣を見ているのは、団長のロジャーと副長のトロイ。
白の君主ラド=F=ボルオンの武器を作ったのもこの二人。
そのラドの憧れる、傭兵団刃月の副長だった少年。
青髪の最強の傭兵、ヴィア=ファルセムの刀を打ち直した伝説の鍛冶職人が、この二人である。
「始めよう」
「よし」
固有スキル∶超解析発動。
流星牙が今、丸裸にされる。
二振りの月、紅黒月と蒼白月の物語の一部。
その当時の事を、二人のドワーフは同時に思い返していた。
ラド=ボルオン、24歳の時。
まだ名前にFが付く前の話。
テズヴァイス騎士国、カイティアクの町。
そしてこの国がまだ、公国になる前の物語。
刃月にある筋から依頼が届いた。
水竜なのに火を吹く竜の討伐依頼。
水竜は水属性の為、通常火属性のスキルを使う事は出来ない。
ラドが単身、この依頼を受ける事になった。
通常この手の依頼は複数人のパーティで行うもの。
「全く…最近僕の事を、都合よく使い過ぎじゃないかな」
ため息を吐くのは、透き通るような白髪の青年ラド。
この一人の青年は、複数人のパーティの能力を遥かに上回る。
現在愛用の武器、竜殺しの大剣、蒼白月はメンテ中である。
「刃月で支給された剣も、悪い物ではないんだけど、やっぱり使い慣れたものじゃないのは、少し不安かな…」
鞘から少し抜き刀身を眺めながら呟く。
この町の傭兵団、黒眼は早々に撤退していた。
「まぁ、いつもの事だし」
邪魔されないのは正直ありがたい。
一人の方が戦いやすい。
黒眼は臆病な事は、周知の事実、今更どうとも思わない。
「さて、現れたな、仕事仕事」
標的を目視。
ラドは支給された剣を抜いた。
町中で暴れる水竜、住人は既に退避している。
更に戦いやすくする為、広場へ誘い込んでの戦闘となった。
目は赤く光っている。
水竜は暴走状態である。
「話は出来そうにないな」
水竜は知能がある魔物、人語を理解できる個体も少なくないと言うが、暴走状態では不可能だった。
「え?」
人払いは済んでいるはずなのに、ラドの視界に突如現れたのは10代前半であろう少女。
「まずい!」
何故気が付かなかったのか、気配はしなかったはず。
「いや、それより助けないと!」
走り出すラドだが、水竜は既にブレスを吐く体勢になっていた。
「届け!」
近付く少女、口を開ける水竜。
水竜の口内には、赤い魔力が渦巻いている。
『グルァァアア!』
叫び声と共に火炎のブレスが放たれた。
「届いた!!」
少女をタックルするように抱き抱えブレスの範囲から逃れる。
「ちょい焦げたか…」
ラドの右足首から煙が上がっている。
多少火傷した程度で済んだのは、運が良い方だろう。
まともに受ければ、消し炭になりかねない威力。
「君はあの建物の影に隠れてて」
優しく言うラドの言葉を、意外に聞き分けの良い少女は無言で頷き駆けていった。
「よし!アレ?」
先程、少女を抱えながら、ラドは水竜に一撃を加えていた。
「折れてんじゃん…」
支給された剣は半ばから折れてしまっていた。
「どうする?」
再びブレスの体勢の水竜。
その時、ラドの後方に気配を感じる。
「戻ってきちゃダメ…?」
振り向いた視線の先には、少女ではなく髭面の背の低い男性がいた。
一瞬、頭がバグるラド。
「コレを使え!」
豪速で投げられたのは、一振りの刀。
それをキャッチすると同時に躊躇なく抜刀するラド。
一瞬紅く光った後、漆黒の刀身が現れた。
「柄に付いているトリガーを握るとソイツの能力が解放される!使いどこに気を付けろ!!」
そう叫ぶと髭面のドワーフはどたどたと走り去った。
「ありがたいけど、何だったんだ?」
その隙に充填された魔力を再び放つ水竜。
「軽い…」
さして力を込めずに振るったが、ブレスを真っ二つに裂いた。
「凄…ってかコレって!」
ラドはこの刀に見覚えがあった。
「ヴィアさんの武器…紅黒月だ」
髭面のドワーフ、ロジャーがラドに紅黒月のレプリカを渡したのだった。
本物の紅黒月は既に失われている。
「これなら嫌と言うほど見てきた」
ヴィアの事を崇拝していたラドは、幾度となく戦い方を見てきた。
「確かこうやって…ぐあ!!」
握る∶全ステータス3倍、10秒毎に自身に300ダメージを与える。
鋭い痛みを感じるラド、ダメージよりも痛みの方が厳しい。
一説によると、今まで斬ってきた相手の痛みを集約して、使い手に与えるとされている。
痛みが増せば増すほど斬れ味も増す。
「ヴィアさんはいつもこんな痛みを感じていたのか…」
ヴィアの戦い方は、自身をフルバフ状態にして、一気に決めると言ったやり方。
「僕も一気に!」
血と解放∶ダメージ限界突破、全ステータス2倍、60秒。
ラドの身体から電撃のような黒い闘気が、バチバチと溢れ出ていた。
「よし!」
ラドは刀を目一杯後ろへ引き、水竜へ向かい飛ぶ。
「青い恐怖模倣」
敵一体に全包囲13連撃、ヴィアのスキルの模倣だ。
バフのおかげで、ラドの目には水竜の動きはスローモーションに見えている。
「お父さん!」
ラドの後ろから甲高い声が響いてきた。
「え?」
先程の少女が、物陰から飛び出して叫んだのだ。
「くっ!」
既に発動してしまったスキルは途中で止める事は出来ない。
お父さんとはどう言う意味なのか。
『グオォオオオ!!』
斬り刻まれた水竜は、力なく地に伏した。
『………』
血塗れの水竜に駆け寄り抱きつく少女。
水竜の息はまだある、しかし長くは保たないように思える。
「はぁ…はぁ…あの…お父さんって?」
少女に問い掛けるラド。
「この竜はお父さんなの…呪われたって言ってた…」
呪いで父が姿かたちを変えられたという少女。
しかし、この水竜を助ける事は出来ない。
それでも、泣き叫ぶ少女の為に何か出来ないのか。
「くっ!」
拳を握りしめるラド。
救う方法は二つ。
殺す事、封印する事の二つだ。
「僕は…」
ラドは殺す手段しか持たない。
「小僧!そこをどけ!」
先程、ラドに紅黒月を渡したドワーフのロジャーが再び表れた。
「出来るか?リッカルド?」
「えぇ、この地に縛り付けるなら可能です」
「そうか、頼んだぞ!」
そう言うとロジャーは、優しく少女を水竜から引き離す。
「大丈夫だ、暫くは会えなくなるが絶対に助けてやる」
「いいのか?」
「頼む」
頷く灰色のローブのリッカルドと呼ばれた男は、水竜の背に両手を当てると何かを呟き出した。
「話しかけたりすんなよ」
少女とロジャーがいつの間にか、ラドの隣に並んでいた。
「彼は?」
小声でロジャーに話し掛けるラド。
「結界師だ」
「結界師…?」
水竜の身体が青く輝き、光が収まるとその巨体は消えていた。
「お父さん!!」
「大丈夫だ、ほれ、地面を見てみな」
結界師がその場を離れると、地面には複雑な紋が刻まれていた。
「この魔法陣の中に君のお父さんが眠っている、暫く時間は掛かるがいずれは元に戻してやるから安心しな」
「…わかった」
分かってないだろう事が見て分かる、自らの唇を噛み下を向く少女。
「俺の仲間のトロイんとこで暫く住まわせてもらえ、あいつの所には、君と同じくらいの年の子がいる」
「…わかった」
涙目の少女は、何とかこの状況を飲み込もうと必死だ。
「この魔法陣の上に何かを置いたほうがいい」
魔法陣が崩れると、封印が解かれてしまうらしい。
「分かった、後で手配しよう、報酬は振り込んどく」
「あぁ」
それだけ言うと、結界師はさっさと去って行った。
「ロジャーさんは知っていたのですか?」
「あらかたはな、お前さんが弱らせてくれて助かったよ、思いの外スムーズに済んだ、礼を言う」
「いえ…では、討伐依頼は誰が?」
「ま、領主やら国だろうがな、深くは探るなよ、無意味だからな」
「…はい」
数年後、無事に人に戻す方法が見つかり、少女の父は人の姿に戻った。
今でもカイティアクの町の北東部にある広場には、水竜の石碑が残っている。
何故、少女の父が呪われたかは、また別の話。
「アイツの剣のメンテをやった時より興奮するわい!」
解析結果……………………。
「ほう、コイツは…」
髭に手を当て目を細めるロジャーだった。
チムフトで無事に船を手に入れたアル達は、巨大な牽引トレーラーにそれを載せ、再びカイティアクに向け獣車を走らせ出した。




