幕間、ある争奪戦
公共鍛冶場での護衛の依頼があり、ジルはカイティアクに残っていた。
「護衛というか…見張り番みたいなものですかね」
独りごちるジル。
ギルドからの正式な依頼だった。
今日昼までに、町一丸となり制作していた銅像が出来上がると言う。
その銅像を盗むという予告状が届いたのが、昨日の事だった。
「自分に芸術は分かりませんが、何やら凄いものだと言うことくらいは分かります」
見上げるほど大きい女神像。
新品の銅は、思いの外鋭い輝きを放つ。
共同鍛冶場の灯り突如落とされた。
ざわつく鍛冶場。
「来ましたね!」
ジルは女神像に張り付いている。
とても盗める状況じゃない。
と言うか、こんなに大きな物をどう盗むのか。
灯りが戻った時、女神像は消えていた。
鍛冶場泥棒である。
「え?」
考えられるのは、物を小さくするスキル。
瞬間移動スキルの二つ。
「にゃ~!」
「猫?」
再びのミミ、走り回る口に咥えられているのは、先程完成した女神像のミニチュア。
「やはり、小さくして盗んだのか?」
追いかけるジルだが、一向に差は縮まらない。
鍛冶場の職人達も、ミミに飛びつくがあっさり躱される。
「この!」
鍛冶場内を走り回っている。
「逃げる気はないのか?」
ハッと何かに気付くミミ。
「忘れてたにゃ~!」
窓から飛び出し逃げていってしまった。
「追いかけっこが、楽しくて、逃げるのを忘れていた?」
どっと疲れるジルだった。
「追いかけます」
そう言って、鍛冶場から逃げるように外へ出るジル。
「さて、どこへ行ったのやら…」
現在、町は封鎖されているため、門からは外へ出ることは出来ない。
「出られるとしたら…海しかない」
町の西側は断崖絶壁だが、海とつながっている。
あの組織の一員ならあっさり飛び込んで逃げそうではある。
「一先ず行ってみますか」
聞き込みをするジル。
「あぁ、何か西のホテル方面に走っていったよ」
「西のホテルですか…情報ありがとうございます」
そう言って西のホテルへ向かうジル。
「確かに、見た目はホテルですね」
しかし、その後聞き込みをしたが、そのホテルを利用したことがある人は見つからず、いつからあったのかも分からないらしい事が分かった。
そして。
「入り口がない…どうやって入れば?」
ジルがホテル周りで絶望している頃。
そのホテルの最上階のスイートルームに女神像はあった。
「ここならバレないにゃ~!」
1/10000程に縮小された女神像に頬ずりをするミミ。
ミミの狙いは、その手に握られた枝だった。
「神のマタタビにゃ~!!」
その時、ホテル全体が揺れた。
「にゃっ!」
慌てて窓から身を乗り出し確認するミミ。
ホテルの西側は海に面しており、そこから巨大なヘビが上がってくるのが見えた。
「海アナコンダにゃ!」
海アナコンダの狙いも神のマタタビ。
猫にだけ効くものではなかったらしい。
全ての生物が魅了される代物。
それが神のマタタビ。
「渡さないにゃ~!」
巨大な海アナコンダとの戦闘。
始まると思われたが。
「人の建物で暴れるな!」
支配人トロイは、ホテルのバルコニーで二匹に鉄槌を下した。
窓から落ち海に浮く、ミミと海アナコンダ。
西のホテルは、傭兵団斧の鞘の副長、トロイ=マクワが趣味で建てたものだった。
ホテルとして経営はしていない。
ミミが気を失った瞬間に女神像は元の大きさに戻り、スイートルームの天井を突き破った。
「ホテルから生えてるみたいになっちまったな」
いかがわしいホテルのように見えてしまう。
「何とかせんとな…」
一応、女神像は盗まれずに済んだ。
しかし、どうやって降ろしたらいいか分からない。
「作るしかねぇか、巨大滑車を」
未だにホテル周りで右往左往するジルと、更なる問題に頭を悩ますドワーフだった。




