ミカエスは影で活躍する
第8話 ミカエスは影で活躍する
ミカエスはいつものように、夜が明けないうちに起きて鶏の世話をしてから卵を回収した。
薪割りと水くみを済ませたときには、姉が竈でパンを焼いていた。
「パンが焼けるいい匂いがするな。」
「あんたも、具の多い美味しいスープを作りなよ。」
「うん。」
以前は薄いスープだったが、最近はスキルのお陰で具だくさんの美味しいスープが作れるようになり、家族には好評だった。
「兄ちゃん、僕も仕事を手伝いする。」
「あたちも、お手伝いするー。」
俺の最近の活躍で、下の兄弟達がやる気を起こしたようだ。
しかし、まだ7歳と5歳だったっけ?
こんな小さな子供にできる仕事はあるかな?
「う〜ん。」
「お前達、鶏の世話をしな。」
「どんなことするの?」
「朝起きたら、鶏小屋の戸を開けて、卵を回収する。」
「あとは小屋の掃除と、餌や水やりだな。」
「二人でできるか?」
「うん、できる!」
「やる〜。」
「それじゃ、明日からやってくれ。」
「でも〜、姉ちゃんと兄ちゃんは一日働いてるから、今日からやりたい。」
「えらいな。」
カースの頭を撫でた。
「あたちも〜撫でて。」
ミースの頭を撫でてやった。
「キャハハハ。」
「それじゃあ、家の掃除とか洗濯とかやってみるか?」
「うん、やる。」
「あたちもやる。」
「それじゃ、やってみな。」
「わかった。」
二人は張り切って部屋の掃除を始めたが、物も片付けないままやってしまい、しかもほこりを立てて母親が咳き込んでしまった。
「ゴホンゴホンゴホン!」
「ちょっと、母さんが苦しそうだから、ホコリは立てないで、水拭きの雑巾やモップで掃除するんだぞ。」
ミカエスは自分を手本にして、やって見せた。
「こんな感じでやってみな。」
「うん。」
「あとは窓を開けて、空気の入れ替えをすると、母さんの身体にいいかな。」
「はーい。」
しばらく二人の仕事ぶりを見ていたら、隣のカシムさんがやって来た。
「ミカエス、お前の畑が大変なことになっているぞ!」
「えっ! どうして?」
「とにかく自分の目で見てくれ。」
カシムさんに促されて、畑に行って見てみた。
確かに畑は獣か何かに荒らされていた。
「この足跡は何だと思う?」
「これはジャイアントボアの仕業だな。」
カシムさんは元冒険者であり、今は狩人として生活している。
カシムさんの言うことは確かだろう。
「くそうっ、あちこちやられた跡があるな。」
「こんなちっこいジャガイモまでほじくりやがって!」
ミカエスはあちこちを見回して、悔しがって叫んだ。
「俺はこれからジャイアントボアを討伐してくるよ。」
カシムはミカエスにそう言って歩き出した。
「俺もジャイアントボアを討伐したい!」
カシムはミカエスの方を振り返りながら言った。
「気持ちはわかるけど、君みたいな子供にはまだ無理だ。」
そう言ってカシムは歩いて行った。
ミカエスは仕方なく、荒らされた畑の後始末をした。
そして森に行ってしまうのだった。
「絶対にジャイアントボアを仕留めてやる!」
ミカエスは一人呟いて、森のあちこちを探索した。
しかし、ジャイアントボアを見つけ出すことはできなかった。
「くそっ、どうやったら見つけ出せるんだ?」
ミカエスは大岩の上に座って考えた。
身体強化で脚力を活かして探し回ったら、もしかしたら見つかるかもしれない。
と考えたが、なんとなく正確ではないと思えた。
手や足の強化ではなく、視覚、聴覚、嗅覚を強化したらどうなんだろうか?
ジャイアントボアの匂いはわからないし、視覚強化も森の草木があって見えない。
「聴覚強化を試してみよう。」
ミカエスは聴覚を強化して、目を瞑って微細な音を聞き分けた。
微かな風の音、風で揺れる草木、小川のせせらぎ、小鳥のさえずりがつぶさに聞こえてきた。
そんな小さな音をしばらく聞いていた。
「ブッブブヒ。」
「いた!」
思わず声が漏れる。
音が聞こえた方角へと歩いて行った。
途中で何度か耳を澄ませて、ジャイアントボアの気配を探った。
しばらく歩いていたら、ジャイアントボアの巨体が草木の間から見えた。
ミカエスはストレージから二本の木で作った槍を取り出して、右腕を強化した。
そしてゆっくりと音を立てずに接近し、ジャイアントボアの尻を目掛けて、木の槍を投げつけた。
「グサッ!」
「ブヒャッヒー!」
驚きと痛みでジャイアントボアは飛び上がった。
そして攻撃してきたミカエスを見つけると、ゆっくりと反転して頭を向けた。
前足で地面を何度もかいてから、ミカエスに向けて突進してきた。
ミカエスはもう一本の槍を投げたが、避けられてしまった。
仕方なくミカエスは逃げ出した。
しかし、ジャイアントボアの勢いは増して、どんどんと距離を詰めてくる。
ミカエスは強化した腕を振って、ソニックブームを繰り出したが、走りながら後ろに放つものだから、致命的なダメージを与えられなかった。
「このままだと、やられる!」
そうだ! ストレージの物を試そう。
ミカエスは咄嗟に振り返って、地面をストレージにしまった。
すると前方に丸い大きな穴が、一瞬で現れた。
ジャイアントボアはその瞬間に対応できず、落とし穴に落ちた。
そこに頭上から大岩が落下してきた!
ジャイアントボアは落とし穴で身動きができなかった。
その大岩が勢いよく落下してきたものだから、避けられずに、もろにぶつかった。
ジャイアントボアは大岩の衝突で絶命したのだった。
「カシムさん、ジャイアントボアを落とし穴に落として倒したから、手を貸してよ。」
「えーっ! それは本当か?」
ミカエスは仕留めたジャイアントボアをストレージにしまうことをためらった。
ジャイアントボアを解体したり、肉や毛皮などを売るにしても、子供だとあれこれ詮索されて売るのは難しいだろう。
だから、狩人のカシムさんに買い取ってもらうことにしたのだ。
しかも、ちゃんと言い訳や仕留めた現場も偽装して作っておいたのだ。
崖の下に落とし穴を作り、崖の上には丸太で大岩を落としたような跡を作っておいた。
あと足跡なども作っておいたから、信じてもらえるだろう。
「なるほど、確かにジャイアントボアだな。」
「ミカエスが落とし穴を作り、あの崖から大岩を落としたのか?」
「うんうん、そうそう。」
「本当に?」
「うんうん、本当本当。」
「確かにジャイアントボアだし、現場がこの状態だから信じるしかないか。」
「しかし、こんな大岩をよく落とせたな。」
「なんというか、テコの原理で。」
「テコの原理? それはなんだ。」
「丸太を使って落としたんだよ。」
「ふーん。ミカエスは賢いな。」
「カシムさんにジャイアントボアを買い取ってもらいたいな。」
「それは構わないよ。狙っていたし。」
「うん。」
「それと、ジャイアントボアはカシムさんが倒したと言ってよ。」
「ん?」
「なんでだ?」
「だって、ここの領主が子供がジャイアントボアを一人で倒したと聞いたら、俺を兵士にするかもしれないから。」
「まぁ、あり得なくもない話だな。」
「俺が家族と離れたら、困ることになるからさ。」
「頼むよ、カシムさん。」
ミカエスはカシムを拝んで、頼んだ。
「うん、わかったよ。」
「そういうことにしといてやろう。」
「ちなみにいくらになるの?」
「そうだなぁ、安く考えても小金貨1枚にはなるかな。」
「小金貨1枚!」
ミカエスは驚き興奮した。
毎回ジャイアントボアを討伐したら、貧乏から脱却できると思ったからだ。
こうしてミカエスはジャイアントボアをカシムに買い取ってもらい、意気揚々と帰宅するのであった。
しかし、このジャイアントボアには、まだ続きの話があったのだが……。
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