ミカエスは影で誘拐犯を倒し活躍する
第12話 ミカエスは影で誘拐犯を倒し活躍する
ヒミン村では子供がいなくなる事件が起きている。
一人や二人なら、そんなに騒ぎにはならなかったが、5人や6人の子供がいなくなると、そうも言っていられなくなった。
最近では、オルフェスの街から衛兵がやってきて常駐するようになったし、小さな子供はあまり外に出さないようになっていた。
このヒミン村は貧しい農村だった。
貧乏人の子沢山とはよく言ったもので、村の住民の子供は1家庭に5人くらいはザラにいた。
我が家も子供が4人ほどいたが、母親が病気になってからは、5人目はまだできていない。
「お前達、最近村の子供達がいなくなっているらしい。なるべく家の中にいなさい。」
父親のロンデが珍しく酒を飲まずに、子供達の心配をして言った。
父親のロンデは不当契約事件からは、酒場に寄らなくなり、家でもあまり飲まなくなっていた。
そのせいもあって、家の家賃や生活費に困らなくなってきていた。
「そうだぞー、お前達みたいな可愛い子供達はさらわれちゃうから、家の中で遊んでなよ。」
俺はカースやミースにそう言って聞かせた。
「お姉ちゃんやお前もだぞ、ミカエス。二人ともしっかりしているから、大丈夫だとは思うが、気をつけなさい。」
「はーい。」
姉ちゃんと俺は、声を揃えて返事をした。
しかし、村の子供がいなくなる事件は収束するどころか、まだ続いた。
村に常駐する衛兵達は3人から12名に増えた。
衛兵による村周辺の巡回は盛んに行われていたし、犯人の手がかりは一向につかめなかった。
俺もさすがに不安になり、姉のマリナが帰宅する夕方には宿屋へ迎えに行くようになった。
しかし、俺は相変わらず森へ出かけて行っては、狩りや水くみなどを行った。
それから、週に一度は街の市場へ行って、収穫した野菜や水や狩りした獲物を売った。
俺から金を巻き上げようとしていた、あの男はあれ以来現れなかった。
「ああいう手合いは、しつこいもんだからなぁ。」
などと店番をするミカエスの口から、思っていた言葉が自然と漏れた。
「なんだい? ミカエス。何がしつこいって?」
隣で商売していた小物屋のおばちゃんが聞いてきた。
「いつか俺から金を巻き上げようとしていた男のことだよ。」
「ああ、いたね。」
「あたしゃあれ以来、あんたが絡まれていたら、この用意した棒で叩いてやるって決めたんだ。」
「ははは、それはありがたいや。」
「ありがとうね、おばちゃん。」
「それよりも、最近では子供の人さらいが増えているらしいから、あんたも気をつけなよ。」
「今日は珍しく、父さんが用事を済ませたら迎えに来てくれるって言ってきたから、安心なんだよ。」
「へぇ~、それは珍しいね。暗くなる前に父親と帰りなよ。」
「はーい。」
しかし、ミカエスが夕方近くまで待っても、父親のロンデはやって来なかった。
「おばちゃん、父さんは用事で来られないみたいだから、今日はこれで帰るよ。」
「ああ、そうしなよ。父さんが後で来たら、事情を説明しとくからね。」
「ありがとう、おばちゃん。」
「じゃーね。」
市場の常連のおばちゃんと別れ、ミカエスは街を出ると、荷車をストレージにしまって村へと向かった。
村に向かういつもの道だったが、道には人影がなく静まり返っていた。
突然、森から物音が聞こえてきた。
「キィーキィーキィー!」
鳴き声がしたから、ぎょっとして思わずのけぞってしまった。
「なんだ、鳥か……。」
ミカエスは気を取り直して、さらに村を目指して歩いて行った。
突然、森から物音がしたから、また鳥かと思って無視していた。
しかし、それは怪しげな大人達で、ミカエスの口を押さえたと思ったら、麻袋の中に放り込まれた。
こんな麻袋など、身体強化やストレージから刃物を出せば簡単に脱出できるが、あえてやらなかった。
おそらく、この連中は最近頻発している子供誘拐犯だと思ったからだ。
いっそこのまま普通の子供として奴らに捕まり、捕らえた子供達の居場所を突き止めてから、やっつけようと考えた。
「ちょっと、どこへ連れて行くんだ?」
「うちは貧乏だから、身代金は高くできないよ?」
「そろそろ夕飯の支度をするから、帰りたいんだけど?」
などと言ってみたが、全て無視された。
ミカエスは麻袋に入れられたまま男に担がれて、よく分からない家の地下室へと運ばれた。
袋から出してもらえたのはよかったが、帰り道がよく分からないのは困った問題だった。
「ほれ、また村の仲間が増えたぞ。」
「いい子に大人しくしていたら、ご褒美に飯を食わせてやるぞ。」
そう言って男は地下室の扉の鍵を閉めて上の階へ行ってしまった。
この地下室の部屋には、俺を含めて8人の子供が捕まっていた。
子供達はほとんどが見覚えのある村の子供だった。
「なんだ、ロンデさんの子供のミカエスか。」
「そういうお前は肉屋の息子のマリスか。」
「あっ、お兄ちゃん!」
道具屋のミリーも捕まっていた。
「あらら、ミリーまで捕まっていたのか。」
「うん。」
部屋の中は暗くて、一箇所だけ明かり取りのはめ殺しの小窓があるだけだった。
窓の明かりからして、まだ夕方くらいだ。
明かりの下で、捕まっている全員の顔を見た。
しかも、天井に近い場所にあるから、中からは手が届かないし、外の様子も分からなかった。
「さてと、どうやってここから逃げたらよいかな……。」
ミカエスは思考を巡らせて、あれこれと考えた。
自分一人ならば、簡単に誘拐犯をやっつけてから歩いて帰ればよいのだが、この子供達をどうやって逃がすか迷った。
子供達の前で能力を見せてしまえば、きっと村中に噂が流れて目立つだろう。
やはり子供達が寝静まった頃に、こっそりと能力を使って誘拐犯を退治し、朝になったら皆を連れて行くのがベターだと思った。
「ははは、どうやったって、ここからは逃げられないよ。」
「上の階には怖い男が6人もいるからな。」
マリスはミカエスに、無駄なことをするなと言っているように聞こえた。
「へぇー、大人の男が6人もいるんだね。よく分かったね?」
「俺が初めに捕まったからな。食事や水を運んで来たり、様子を見に来たりしていたから分かるさ。」
「ふうん。」
「それじゃ、その悪い男達は子供達をさらって、何をするんだ?」
「何か人買いにまとめて売り飛ばすって、話していたよ。」
「あー、俺達は人買いに売られてしまうのかぁ。」
「何かミカエスは他人事みたいに言ってるけど、お前も売られるんだからな。」
「あはは、そうだね~。」
ミカエスが笑いながらそう言うと、マリスは呆れたような顔をした。
しばらくすると、辺りがかなり暗くなってきた。
上の階から、誰かが階段を降りてきて、地下室の鍵を開けた。
人相の悪い男達が現れて、ランプを向けた。
「1、2、3、4、5、6、7、8人、全員いるな。」
「大人しくしていたみたいだから、食事と水を持ってきてやったぞ。」
なんだか恩着せがましいが、あえて逆らわないで聞き流した。
男達は水の入ったバケツとバスケットを置くと、扉を閉めて鍵をかけて立ち去った。
「衛兵が増えて、辺りをうろついているから、そろそろ潮時か?」
「そうだな、そろそろボスが引き上げる頃合いだと、言うだろうさ。」
「俺はガキの面倒はウンザリだからな。」
「俺は早く女遊びがしてーな。」
だんだんと話し声が遠のいていく。
そして扉が閉まる音がして、何も聞こえなくなった。
バスケットの中には丸パンが8個入っていて、それぞれが受け取った。
中にはめそめそと泣きながら食べる子供もいたが、ミカエスは明るく振る舞っていた。
「夕飯がパンだけとは寂しいなぁ。」
ミカエスはこっそりとチーズとナイフをストレージから取り出して、チーズを切り分けた。
「おい、ミカエス! そのチーズとナイフはどこから出したんだ?」
「ははは、それは秘密です。」
そう言って子供達にチーズを配った。
他にも川魚の塩焼きや焼き肉を七輪で焼いて食べさせてやろうと思ったが、やめた。
「あははは、今夜はこれが精いっぱいの食事だ。」
子供達はミカエスの出したチーズと明るさに助けられて、少しは元気を取り戻したようだった。
パンとチーズと水を飲んだら、あとは話をして気を紛らわせるか、寝るしかなかった。
ミカエスはさっさと寝てしまうと、マリスは呆れた。
「こいつは大物なのかバカなのか分からん奴だな。」
ポツリとそう呟いた。
明け方近くになると、鳥たちのさえずる声がして、ミカエスは起きた。
「仕事で疲れたせいか、寝過ごしちゃったな。」
そう言って起き上がり、子供達が皆寝ていることを確認すると、扉をストレージにしまい、地下室から出た。
階段を上り、一階の扉をまたストレージにしまい、身体強化した。
酒を飲んですっかり寝ている悪人達を、ストレージから出した縄で一人ずつ縛り上げていった。
三人目を縛り上げて、4人目を縛ろうとした。
その瞬間だった!
三人の悪人は起き上がり、ミカエスを睨んだ。
「お前、どうやって出てきた?」
「フフフ、扉をどかして出てきたんだよ。」
三人の悪人は一斉にミカエスに襲いかかった。
しかし、全身を身体強化しているミカエスの敵ではなかった!
素早く避けて、一人をパンチし、一人を蹴り飛ばした。
二人ともミカエスの攻撃で吹っ飛ばされて倒れた。
「子供だからと侮っていたが、大した身体能力をしているな。」
最後に残っていたのは一番強そうな、おそらくボスだろうか?
頬に傷のある、一番強そうな顔をしていた。
その男が剣を抜いて振り回した。
「シュッ! シュッ!」
そしてミカエスに斬りかかってきた。
ミカエスは危ないと思って、無意識にソニックブームを放った!
すると、悪人の剣は折れ、吹き飛ばされて壁に頭をぶつけて倒れた。
折れた剣が空中で回転し、ミカエスの足元に刺さった!
「ひぃ!」
そしてミカエスは冷や汗をかきながら、悪人達を縛り上げてから、子供達を起こして脱出した。
「ミカエス! どうやって地下室から出て、どうやって悪人を倒したんだ?」
「それは、偶然鍵が開いていて、酔って寝ていたから、縛り上げただけだよ。」
「手柄はマリスに全部やるから、お前がやったことにしておいてくれ!」
「えっ!? でも~。」
「いいから、いいから。」
「俺のことは秘密にしといてくれよな。」
「うん、分かったよ。」
こうしてミカエスは誘拐犯を倒し、子供達を救い出したが、マリスが活躍したことになった。
マリスは一躍村の子供の英雄に祭り上げられてしまったが、本人は功績を誇張して語った。
マリスは調子よく自分の英雄譚を作って吹聴した。
「俺は子供達を救い出し、悪人達をばったばったと倒していったのさ!」
「すげぇー、マリスは実は強かったんだ。」
「普段はぱっとしないけど、いざとなるとカッコいいんだな。」
「今度なんかあったら、マリスに頼ろう!」
その様子をミカエスは生暖かい目で見ていたのだった……。
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