21話 シロツメクサ
現在、諸事情によりパソコンでの執筆作業ができずスマホから投稿しています。
チェックはしていますが、至らない箇所、読みにくい部分あるかもしれません。
順次、改稿していくので宜しくお願い致します。
十月に入ると、僅かに残っていた夏の熱も完全に消えて無くなってしまった。
この街は寒くなるのも早い。
暑さが和らいで、日差しの強く感じるような日も少なくなったなと思ったらあっという間に寒くなる。
半袖では寝られなくなるし、朝方も嘘のように冷えて起きるのも面倒になる。
校内は完全に衣替えしていて女子の白セーラーも冬服の黒に変わっていた。
「まさか、二見がなあ!」
「俺未だに信じられねえんだけど」
そんな事を言っているのはサッカー部に所属する男子達だった。
転校する者として注目を浴びているんだろうか。休み時間になるとやってくるクラスメートは毎回違うが、話すことの無かった顔も多い。
俺を囲う集まりの中には久瀬結月もいた。多くの生徒が冬服の黒に染まる中、結月だけは白いニットのカーディガンを羽織っていた。
シロツメクサみたいな淡いクリーム色のカーディガンだ。 夏服の白と色合いは同じなのにこちらは暖かそうだった。
「二見って向こう行ったらどこ高狙うの?」
サッカー部男子たちと一緒に来ていたギャル系の女子がそんな事を聞いてくる。
大沼という、クラスであまり関わらない女子だ。
彼女もまた、結月と似たようなベージュのカーディガンを羽織っているが、サイズはゆるゆるでこちらはルーズな印象を受ける。
「まだ決めてないんだよね。今はそれどころじゃないっていうか、向こうのクラスがどんなんなるか不安しかない」
「フーン。まあ、うちも志望校なんてまだまだって感じだけどさ」
同じような着こなしでもこんなに変わるのかと思いながら、大沼に愛想笑いで合わせた。
「二見君なら大丈夫じゃない? 頭いいし、性格だって良いし次の学校でも大丈夫だと思うけど」
そう発言したのは集まりの中に『珍しく』いた白石だった。
俺の成績がどれくらいか彼女もまた良く知っている。
その上で、俺が安心できるような言葉を掛けてくれる。
「良いよねえ、あんたらアタマ良い人達はさ」
結月や俺と同じくらい、クラスで上から数えた方が早い白石の一言に大沼が辟易している。
わざとらしいため息と、まっすぐに矯正された突き刺さりそうな髪先が近くでふわふわ揺れる。
その距離感がやっぱり俺は怖かった。
普段話しない女子はやっぱり苦手だなと思ってしまう。
と、そんな感情が顔に出ていたのだろうか。
「大沼、アキ困ってんぞ。ほらほらみんなもアキあんまいじめんじゃねえ!」
紘一郎がそんな風に助け舟を出してくれるの、どっと笑いが起こった。
「はあ? 別にそんなんじゃないし。二見、うちそんな怖くないでしょ?」
「怖くない」
「大沼、アキを誘導すんな」
「はあ!?」
そこでまた笑いが起きる。結月も、紘一郎の大笑いには遥かに及ばないが可笑しそうに腹を抱えていた。
必死に笑い声が出過ぎないように堪えている姿は控えめだけど俺の中にはっきりと残った。
「アキ君って女子ほんと苦手だよね」
「そう?」
「八雲君たちと全然反応違うもん」
放課後、俺は結月と二人で帰りながらそんな会話をしていた。
図書室でだいぶ時間を潰したのでこの時間は周りに帰る生徒の姿はない。俺たちだけだ。
夕陽が照らされた無人の帰り道は別世界の空間みたいだった。
「そんなに?」
結月はうん、と大きく頷く。
「なんかね、河野くんたちと何人かでいつも一緒にいるじゃない? 男子同士だと無邪気って感じで、少年だよねーって。よく灯子や千歳と話してた」
そう言って楽しそうに口元を緩めた。
前に、美原たちも似たようなことを言っていたような気がする。
「結月たちの間ではそんな感じだったのか、俺ら。てか、少年ってなんだ」
ちょくちょく美原たちにいじられるときに言われる。
女子が苦手な野郎同士、精いっぱい学校生活を楽しんでやろうと振る舞っていただけだ。けど、そういう風に見られていたんだろうか。
最近はバスケだったけど、カードに携帯ゲームにいろいろやったな。
ああ、カードゲームは桑園もやっていて、それで意気投合したんだっけ。もう誰もやらなくなったけど懐かしくなる。
「私ね、そういう姿をいつも遠くから見てたんだよ?」
結月が少しだけ口調を和らげながら呟いた。
俺は思わず彼女の瞳を見返していた。
とくとくと、また鼓動が速くなり始めた。
「俺も」
その鼓動を聞き取られたくなくて、俺も結月を見て言った。
少しだけ背を丸め、透き通った鳶色の瞳と同じ目線で見つめ合う。
「いつも美原たちと一緒にいるの、俺も知ってた。いつも静かに美原の隣で相槌打ってるの。優しそうな笑顔でさ。そういうの見て、なんか良いなって思ったことあるかも」
それがクラス替え間もない頃の第一印象だ。
クラスの中ではそこそこに可愛いなあって……なんとなく思ってた。
「ごめん。結月のこと大して知らなかった癖に、俺結構勝手に言ってる」
結月の瞳が胡桃のように丸まる。
「いいよ」
そっと結月が俺に手を伸ばした。俺の指先を探るように絡め、がっちりと握ってくる。
「私も二年に一緒になるまでアキ君の事、知らなかったし。一年生の頃とか……」
「六組だったよ、俺は」
「そうだったね」
初めて話したと思うけど結月は確信を持った顔で俺を見た。
「大沼さんと一緒だったんでしょ? 千歳から聞いた」
「ああ、あと林とか中村も同じだったな」
そう言われて思い出す一年の記憶。正直二年の今のほうが楽しいと思えるクラスだった。
「結月は?」
「私? 二組だったよ」
「そうだったんだ。初めて知った……」
呆然とする俺を見て結月が面白そうに口元を押さえる。
「そう考えたら、俺達このクラスで一緒にならなかったら全然お互いのこと知らないまま過ごしてたかもな」
「ねっ」
言いながら俺は結月の手を強く握り返した。
「アキ君。最初のテストで私と同じくらいの順位だったよね?」
「そうだっけ?」
ここの学校は学年の高得点者の順位が張り出される。それをモチベーションにしている奴もいる。
クラスの天才と言われる岸なんてまさにそれだ。あの勉強お化けはそれだけをモチベーションに毎回一位を取り続けている。
ついでに言えば俺も社会系の科目だけ点を取れるのでモチベーションになっていた。
「一年の時も名前は見てたかもしれないのに、初めてクラスでアキ君のこと知った」
「影薄いからな俺」
くすくすと、夕暮れの路地に結月の笑い声が溢れた。
「そうだったんだ」
「うん。日本史ほんと凄いと思う。岸君と同じくらいじゃない?」
「あんなの暗記だって。それに日本史だけ良くてもなあ」
「ううん。凄いよ。私アキ君に日本史で勝てたことないよ」
俺はあまり意識したことは無かった。理系でほとんど勝ち目はないが、日本史や国語では俺は結月と十分張り合えている程度に思っていた。
でも、まさか結月にそんなふうに思われていたなんて意外だった。
「なに、照れてる?」
結月が小さな肩をコツンとぶつけてきた。その柔らかな感触に俺はドキッとする。
「ほんと、八雲君達といる時のアキ君って『少年』って感じなのに」
俺の心の揺れが分かっている。そう言いたげに結月は余裕の表情で俺を見上げた。
「こういう時のアキ君ってかわいいよね?」
「そう?」
弱気になってるだけなんだけどな。
でも、そういう風に考えてしまうのは結月には悪い気がした。
「大沼さんに妬いちゃったんだ。さっきも」
「へ?」
不意に、思いもしない一言が飛んでくる。
結月はこちらをちらちらと窺うように見ながら、
「あの人は一年の時からアキ君見てたんだよね。なんか照れてるアキ君見てたら少し、胸がチリチリした」
大丈夫だよ。俺は心の中で結月にそう告げながら、
「大沼は単に怖いだけ。、別に照れてるわけじゃないよ」
「アキ君だなあ、ほんと」
どこか嬉しそうに、結月は遠くを見上げた。




