16話 喪失感と何かの予感
久瀬と紘一郎とそれから桑園。
四人で人のいない第二図書室に集まってレポートを作る。資料館でみてきた収蔵品を思い出して感想を書きながら、俺は一人考えていた。
あのラブレターには、今日の時間と呼び出し場所が書いていた。
誰が書いたんだろう?
まずそれが疑問に浮かぶ。
俺と最近話した女子だろうか?
そんな憶測をいくつも考えた。
しかし、それはどれも否定に変わる。
美原も白石も、この時間はそもそも用事があるのだ。呼び出して放置なんて悪戯をするような女子ではないことは、同じ班で行動したから知っているつもりだった。
久瀬だってそうだ。絶対にありえない。
そもそも今も目の前で一緒に作業することになっていたのだから。
「秋良、ここ任せられる?」
「ああ、悪い」
桑園が見学中に記したメモをもらう。
みんな一生懸命だ。
その中で俺だけが意味のない考え事をしている。
そう、意味がない。
行く気のない呼び出しをあれこれ考えても仕方のないことだ。
「二見君」
不意に久瀬が俺を呼ぶ。
「遠い顔してない?」
「そう?」
「うん。なんか黄昏れてる」
そう言って久瀬は笑う。
俺はそれに冗談で笑い返した。
しかし、一方でなんとなく寂しい気もした。
もう一度、久瀬にも『アキ』と呼んでほしかった。紘一郎たちみたいに。
でも、ここにいる他の奴らにそういうのは聞かれたくなかった。
「秋良が寝ないように注意してくれてんだよな、久瀬さんは」
ふふっとこぼれる桑園の笑い声。
「はいはい。さっさと終わらすぞ」
図書室での勉強や作業は許可されているが、あまりここでは騒げない。俺達は小声で時折やり取りしながら作業に集中した。
桑園のメモを見て、自分も見てきたマンモスの化石を思い出そうとする。
しかし、記憶に残る圧倒されるような大きな牙を持つ象の姿より、まず先に浮かぶのはさっきの教室。
机の中に入っていた見知らぬピンクの小さな便箋だった。
――やっぱり悪戯なんだろうか?
――でも、どうして今なんだ。
もし、転校のタイミングじゃなかったら俺は舞い上がっていたかもしれない。
それが悪戯だとしても、呼び出された場所にのこのこと足を運んでいたかも。
でも、やっぱり今じゃダメなんだ。
軽く読み流してのうろ覚えだが、呼び出し場所は今日、この時間帯だった。場所は学校の裏庭。
もし、本当にその手紙が悪戯の類のものでなかったのだとしたら、今頃、手紙の主はその場所に姿を現しているかもしれない。
しかし、あいにく図書室は学校の正門側にある。裏庭を見るために渡り廊下を超えて別の校舎まで行かなければならない。
本当に誰か来ていたとしても俺がここから知る術はなかった。
レポートを終わらせて俺達は教室に戻った。
そうしたら、あのラブレターは消えていた。
机の中、付近の床、いくら探しても見つからない。押し込んだタイミングで置き勉の教科書に挟まってしまったのかもしれない。そう思って何冊ものページを一枚ずつばらばらめくって確認してもダメだった。
竜野と二人で見たあの手紙が幻だったかのように。
手紙はいくら探しても見つからなかった。




