15話 謎めいた手紙
その日の最後の授業を終え、理科室から帰る途中のことだ。
すぐ前を歩く久瀬たちの背中が見えた。
美原と白石といつもの仲のいいメンバーで固まっている。
同じ班としてそれなりに話をした間柄だ。話しかけようと俺は近づいた。
「美原さん」
「おう、アキじゃん」
振り返った美原は機嫌良さそうだった。紘一郎みたいに俺の名を呼んでくるのがどうもむず痒い。
「なにアキって」
「二見君のあだ名。ね?」
そう言って俺に同意を促す。
あのキャンプファイアーの場にいなかった白石は不可解そうな顔をしていた。
「千歳は二見君の名前知らなかった? 秋良だからアキ」
久瀬が教えてやると白石はにんまりした顔になる。
「へえ、アキねえ。なんかそういう感じするかも」
「そういう感じって何だよ」
「少年って感じ」
「どういう意味だそれ」
三人は歩きながらくすくす笑っていた。
周囲を歩くクラスメート数人はこのやり取りを見て不思議そうな顔だった。
普段、俺がこんな風に女子と話をすることが珍しいのか、美原たちに半分いじられてる様子が気になるからなのかは知らない。
「で、何? アキ?」
「やめてそれ。美原さんが言うと馬鹿にされてる気分になる」
「馬鹿にしてないよー。んで、ほんと何? 聞くよ?」
「市街地見学のレポートの話なんだけど」
ああそれか、少し拍子抜けしたように美原は小さく呟いた。
「そろそろ提出しなきゃ駄目だと思うんだけど、進んでるのかなって」
「ああ、それ」
美原は久瀬達と顔を見合わせた。
「女子の方はもうできたよ。男子の方は?」
「桑園が進めてる。紘一郎はこういうのへたくそだし、俺もやるよ」
「ごめんね。なかなか合わせられなくてさ」
白石が小さく片手を挙げて目を瞑った。
白石は文化祭の実行委員もやっていて、秋の終わりに行われる文化祭の準備をもう始めている。バド部の美原ほどではないが、なかなかに忙しいようだった。
そうか。文化祭なんだよな。
その頃にはでも、俺はいない。
そう考えたら少し寂しさが胸を掠めた。
「私ならいつでも大丈夫だよ」
「ええ、でも結月大丈夫? 周り男子だけだよ?」
俺の方を見ながら美原が冗談交じりに久瀬をいじる。
しかし、久瀬は微笑を絶やさないまま、
「二見く……アキ君がいるなら私も大丈夫だから」
そう言って俺の方を見つめてきた。
なんだそれ、そういうのやめてくれ。俺は思わず視線を逸らす。
「じゃあ、頑張ってね。ア・キ♪」
「灯子、なんかそういう言い方だと違う風に聞こえない?」
白石がそんなふうに揶揄する。
「図書室でやる? 私最後までいれるよ?」
「久瀬さん、助かる」
二人を無視して久瀬に答えるとにっこりと頷かれた。
「桑園と紘一郎がどこまで残れるかは分かんないけど、とりあえず記事にするところだけは見てほしいから」
「アキ、やる気満々だね、よしよし♪」
白石まで俺のことをいじり始める。
「じゃあ、そういうことだから!」
俺は放課後合流することを確認すると、どうにもこの空気が耐えられなくなって三人を追い越すようにその場を後にした。
教室に戻り、帰りの支度を進める。
ふと、机の中に覚えのないものがあることに気づいた。
取り出してみるとそれは小さな封筒だった。
ペールピンクの封筒の中には便箋が二つ折りになって入っている。
「それラブレターじゃね?」
見慣れないものを取り出したまま途方にくれる俺。いち早く気づいた竜野が大げさに反応する。
「……見せろって」
「いやだよ」
しかし、もう便箋は開きかけている。竜野はそれを半ば強引に取ると中身を読もうとする。
「おい」
気になってる俺も竜野に近づく。二人で覗き込むようにそれを読んだ。
便箋には俺の名前が書かれ、その上で場所と時間が指定されていた。
どうやら人違いではないらしい。
「俺分かるわ。これ女の字だ。やったな二見」
「なんで竜野がわかるんだよ。お前のイタズラか? わざとらしいぞ」
「俺がこんな手の込んだことするかよ」
確かに、さっきのはしゃぎっぷりは竜野の素だ。
演技にしても迫真すぎる。
「行けよ……相手はマジかもしれないだろ」
「女に書かせていざ行ってみたら不良連中のカツアゲって可能性もある」
「ぶふーっ!」
竜野が盛大に吹き出した。
「いや、マジでさ。行ってみたら? 彼女できるかもよ?」
竜野は俺をからかういつもの口調だ。でも、なんとなく嫌味な感じはしない。
「これからやることあるんだよ」
「ラブレターほっぽり出してやる用事ってなんだよ」
「この前の研修のレポートの残り。紘一郎達と残ることになってる」
それを聞いた竜野はぷしゅぷしゅぷしゅーと、口から面白い空気音を吐き出しながら自分の椅子に座り直す。
「じゃあ俺が代わりに行っとくか? 誰が来てるか確かめても良いぜ」
「どっきり成功とか言われたら『ふざけんな』って言ってやってくれ」
冗談半分、本気半分で言ってやる。
しかし、その瞬間だった。
「おーい竜野、部活行くぞ!」
「あーい!」
同じ野球部の男子に呼ばれ、竜野はショルダーバッグを背負うとさっさと行ってしまった。
「なんだよ、最初から行く気なんて無かったのかよ」
散々に茶化すくせに。
もし、竜野が本当に見てきてくれるのなら頼むつもりだった。
でも、本人にその気は最初から無かったらしい。
「どうしようこれ」
迷ったが、結局俺はその手紙を机にそっと押し戻した。
そして、紘一郎や久瀬が待つ図書室へと急いだ。




