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12/24

12話 焚火を囲んで女子にいじられる。

 肝試しを終えてしばらく男子同士で話していた。

 そこから広場に戻ると、生徒はそこかしこに残っていた。

 あとは宿泊する班に分かれて施設に戻るだけ。他に予定されている催しはもう無い。

 それなのにみんなまだこの場に残っているのは意外だった。

 この光景を目に焼き付けようと、俺は改めてこの広場を歩いてみることにした。


 キャンプファイアーの台の火はまだ残っていて、ぱちぱちと落ち着いた音が爆ぜる。

 その炎に寄せられるように何人かが腰を下ろして眺めていた。

 その中に見覚えのある顔が二つ見える。

 同じ班だった女子二人、美原と久瀬だった。

 二人は少し離れた芝地に並んで腰かけて残り火をどこか遠い目をして眺めている。


「なにしてるの?」

「まだ寝るまで時間あるから」

 話しかけてみると久瀬が答える。


「こういうのいいなって話してたんだ。ね、灯子」

 そう続けると、美原は黙って頷いた。

 いつもはどちらかというと美原の方が良くしゃべると思っていたので意外だった。

 さっきの肝試しもあってか、ここでは久瀬の方が元気そうに見える。


「美原さん、大丈夫だった?」

「大丈夫ってなにが?」

「肝試し、呆然としてたよ」

 美原の顔が羞恥心で染まるのが分かった。


「やだ、見てたの二見君」

「やっぱそう思うよね、二見君も」

 隣の久瀬は肩を竦めて笑いをこらえている。


「やめてよ。ああいうのほんとダメなんだって。そう言う二人は平気だったの?」

「私全然平気だよ? でも、二見君はびっくりしてたよね」

「え? いつ?」

「ほら、隠れてた鬼が出た時」

「ああ、あれか」

 それを聞いて久瀬はまた笑う。

 あの時、確かに俺は久瀬よりも驚いていたと思う。

 手足をひきつらせてびくっと動いてビビりまくり、めちゃくちゃ恥ずかしかった。


「久瀬さんは度胸ありすぎだよ」

「ほんとにね、結月って意外に強いんだよ――てか」

 言いかけた所で、ふと美原が俺を見上げた。


「二見君からこうやって話しかけてくるの、レアじゃない?」

「え?」

 傍らの久瀬と肩を肩でつつき合いながら、二人は俺を見て含み笑いだ。


「いつも男子同士だと面白いのに、おとなしい時とのギャップすごいよね」

「美原さんもそんな事いうのか」

 さっき肝試しで久瀬から聞いた事、そのまま美原にも言われた。


「女子のこと嫌いなのかなって、よく話してたんだよね」

「うんうん」

 ジャージ姿の二人は身を縮こませて可愛らしく笑顔を作る。

 改めて言われるとこうやって話している事が恥ずかしい。頬が熱くなってきたのは火の傍にいるからだけじゃないらしい。


「お、二見君顔赤くなった」

 美原はそう言って茶化す。さっきまで元気を失っていたのに偉い変わりようだ。


「でも、美原さん――」

「え?」

「美原さん、顔真っ青だったよ」

 思い出すと沸々と笑いがこみ上げていた。


「うわあ。めっちゃいい笑顔、腹立つ」

「あれは笑うから。灯子ほんとにゾンビみたいだったもん」

「ゾンビ! ゆづ酷い」

 美原が久瀬をぽかぽか叩こうとする。それを避けようとする久瀬。

 くすくすと笑いながらふざけ合う女子二人。それを見ていたら、焚き火がぱちっと爆ぜた。


「あーたのし。 こんな時間が、ずっと続けばいいのに――」

 笑い終えてようやく落ち着いた久瀬が放ったその一言。

 俺はそれを聞いてハッとした。


 とても大事なことを思い出した。

 俺はもうみんなと一緒にいられない。この中学をいずれ転校する。

『その日』まで、もう二か月切っていた。

 久瀬にこの話をしなきゃいけないのに。

 しかし、今はとてもそういう事を言える空気じゃなかった。


「そう言えば、二見君って下の名前『あきら』なの?」

 美原が座った足を延ばしながら、そんな事を聞いてくる。


「ほら、男子――紘一郎とか『アキ』って呼ばない?」

「いつの間にかつけられた変なあだ名な。紘一郎から言い始めたんだよ」

「変じゃないよー。ね? ゆ(・)づ(・)」

 女子同士にも同じように呼びやすいあだ名があるらしい。久瀬が軽く頷く。

 俺はあだ名で呼ばれるのが男子同士でも恥ずかしかったから、こういう風に肯定されるのは少し嬉しかった。


「アキ君」

 久瀬がそっと呟いた。思わず見ると久瀬は口元を抑えてこちらを見ていた。

 ここなら、炎のせいで自分の顔が赤くなっていても悟られないかもしれない。それがありがたかった。


「お、結月いいじゃん。なんかそれっぽい」

「それっぽいってなに……」

 美原は今日一番のテンションで俺をぱっと見る。


「んじゃ。呼びやすいし、これからうちらはアキって呼ぶね」

「ええ……」

「いいじゃん。同じ班になったんだし」

 困惑する俺。久瀬はそんな俺を優しい顔で見ていた。


「桑園君は?」

「は? あいつはハ(・)ル(・)キ(・)モ(・)ニ(・)ア(・)でしょ?」

 美原が答えるとぷっと久瀬が噴き出した。


「かわいそうなこと言うなよ」

 俺だけが真面目な顔をしている。


「しかも、あいつあそこにいるし」

「あーほんとだ。桑園君いるね」

 美原達と一緒に遠くを見ると、気づいた桑園が手を振ってくる。あいつも何人かで話をしていて楽しそうだ。

 こっちには来そうにない。


「分かったよ。好きに呼べば」

 二人は満足そうに頷いた。

 遠くの桑園がそろそろ建物の中に戻りそうな雰囲気だったので、俺も続くことにした。

 それにあいつとは寝る部屋も同じだ。


「じゃあ、そろそろ寝るね」

「おやすみーアキ♪」

「おやすみなさい、アキ君」

 砕けた調子で軽口を飛ばす美原と違って久瀬は丁寧にぺこりと頭を下げてくる。

 俺も思わず同じようにお辞儀をし返していた。


 恥ずかしがって久瀬たちの顔を見ることもできないまま、俺は踵を返した。

 じゃりじゃりと砂地を踏む靴の音が夜風に響く。


 ――言えなかった。

 神様は俺に思ってもいなかった奇跡みたいなやり直しの機会をくれた。

 でも、俺に残された時間はもう無い。

 第一、いつ現実に戻るかもわからない。

 もう一度振り返ると、まだ楽しそうに焚火を見ている美原と久瀬の姿が見えた。


 言おうと思ったのに、彼女たちの楽しそうな笑顔を見ていたら言葉が詰まってしまったのだ。




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