10話 ゆらゆら揺れるキャンプファイアーの炎
点呼と共に朝預けていたバスの荷物を取りに行く。
寝泊まりする部屋の男子で固まって荷物を置いたら夕食が待っていた。
うっすらと記憶に残る狭い食堂は今回も健在で俺達は押し込められた空間で味の薄いカレーライスとサラダをたらふく食べた。
そして、短い入浴時間を経てジャージに着替えた俺達は自然の家の広場に集められた。
森の中にぽっかり空いた大きな広場にはキャンプファイアーが組まれていて、学年の生徒会メンバー主導でレクリエーションの準備が進められていた。
「アキ。いたいた! おーい」
河野が俺を呼ぶ。
良く考えたら食堂も班ごとに食べていた。こうやって仲のいいメンバーが集合するのは久しぶりかもしれない。
暗がりでお互いの顔ははっきり見えないけれど、欠けてるやつは一人もいなかった。
「なんかアキ、泣きそうじゃね?」
「は?」
「うっそお前、なんで!?」
茶化すような事を言いながら、彼らに悪意はない。
何となく、こういう風に集まることも無いんだと改めて自覚して感極まってしまった。
俺は目にたまったものを悟られないようにばちっと目を瞬かせる。
「キャンプファイアーの火のせいだよ。鼻にしみない?」
「まあ、たしかに。てかこれから何やんの?」
言うが早いか、用意されたでっかいラジカセからノイズ混じりのBGMが鳴り出す。
どこかで聞いたような陽気でヘンテコな曲だ。
「マイムマイム? なにそれ」
友人の一人が心底不可解そうに周囲を探っていた。
マイクで説明する生徒の話では輪になって踊るらしい、男子も女子も。
それを見た瞬間、河野が悟ったように表情を一変させる。
「うわーやりたくねえ」
大袈裟に嫌がるけれどあっという間にその輪は出来上がっていく。
男子は男子同士、女子は女子で固まっている。
「おい」
河野が端っこにならないように俺達の間に割り込んできた。女子と繋ぎたくないんだとすぐに分かった。
「ほら、そこちゃんと輪作れ!」
マイクを持った担任が俺たちの方を露骨に注意する。
少し離れた所にはクラスの女子が数人で輪を作っていて、その中にいる豊川と目が合う。
「ていうか、紘一郎どこ行った」
見ると、少し離れた場所でフォーメーションの完成に率先して参加していた。手を繋いだ両脇にいるのは当時少し浮いていた男子ともう一人は女子だった。
あいつなりの気づかいか。
「秋良。繋ぐ?」
近くまで来ていた豊川がそんな事を聞いてくる。
前の時は誰と繋いだんだっけ? 俺は記憶を掘り返そうとするがどうしても思い出せなかった。
記憶が見事に飛んでいる。
「いいでしょ?」
「うん、まあ」
どこかそっけない態度で接してしまう。何気なく繋いだ豊川の手のひらは柔らかくて汗ばんでいて仄かに温かかった。
女子相手に完全に緊張しまくっている。
どこか豊川もいつもと違う。なんでこういう時こそいつもみたいにはしゃがないんだよ。
「どう踊るの?」
小首をくいと傾けて見つめてくる豊川。その瞳の奥は炎に照らされてゆらゆらと煌めいていた。
「わかんない。豊川こういうのやったりした?」
「さあ、知らな――」「あっ!?」
ほぼ同時に声が出る。
反対側の手を繋いでいた河野たちがおもいきり動き始めたのだ。
引っ張られた身体を転ばせないように、俺は必死にその動きに身体を合わせようとした。
「きゃあ!」
「うは!」
「足踏まないでよー!」
そんな嬌声があちこちから聞こえてくる。
森の中にぽっかり空いた広場。真ん中のキャンプファイアーを囲んでみんなで踊る。
輪になって炎に近づいては離れる。それを繰り返すだけの単調なダンスだ。でも、そんな踊りにもすぐ慣れてみんな楽しんでいた。
あちこちから聞こえる声のせいで元々聞きづらかったスピーカーから流れる音楽は殆どとぎれとぎれになっている。
――それでも流れに任せよう。
俺は曲が鳴りやみ豊川たちが手を放してくれるまで、この踊りに自分を合わせるのでいっぱいだった。
ぱちぱちとキャンプファイアーの焚火がまだ燃えている。
その中でいくつかのクラスごとに分かれてレクリエーションが始まった。
俺達のところでは肝試しが行われるらしく、集められる。
「マジでやんのこれ」
誰かが不安そうに呟く。
明るい焚火に大勢の生徒。さっきまでいた開けた広場と違って、ここから先に広がっているのは夜の闇に包まれた森閑とした雑木林だった。
整地された遊歩道らしいが、この時間帯にここを歩くのは流石の俺でも少し怖い。
指示されるまま、昼間の班ごとに集まる。
どうやらここから二人ずつ組んで進んでいくようだ。
「こういうのはやっぱ男女ペアだよね」
桑園がそう言って班員を見渡す。
美原と組みたいんだとすぐに分かった。
「二人ずつで行くのか?」
女子たちの様子を窺ってみるが拒否反応はないようだ。こういうとき、嫌だと反発されたら男子として軽く落ち込むものだから正直ほっとする。
そうこうしている内に順番を待っていた人の数が減っていく。
紘一郎と白石が出発し、俺達にも出発の時間が迫る。
「頼むよ班長」
桑園はそんな事を言って励ますが、美原の懐中電灯を持つ手はかたかた震えていた。
午前中のみんなを引っ張る活発な女子リーダーの姿はそこには無かった。
「灯子ちゃん大丈夫かなあ」
見送りながら久瀬が心配そうにしている。二人の背中は徐々に暗闇に消えていった。
「じゃあ、次は……秋良と結月だな」
担任がそう言って俺達に懐中電灯を渡してきた。




