第19話 奇襲
前方二体、後方二体。
蒼真は一瞬で判断を下した。
「悠斗、航、前を頼む! 後ろは俺が――」
悠斗と航が前方に駆け出した。紅葉が前方の二体を指差し、位置と距離を叫ぶ。
蒼真は振り返り、弦に矢を番えた。後方から迫るゴブリン二体。通路の暗闇の中で緑色の肌が真帆の《光球》の残光を反射していた。距離は十五メートル。
弦を引き、放った。蒼い軌跡が先頭のゴブリンの胸を射抜いた。崩れ落ちる。
だが、二体目が速かった。
一体目の横をすり抜け、蒼真の矢が届く前に後衛に到達した。棍棒を振りかぶり。
「真帆!」
蒼真が叫んだ時にはもう遅かった。
棍棒が真帆の左肩を打った。鈍い音が通路に響いた。真帆が横に吹き飛び、壁に背中をぶつけて崩れ落ちた。《光球》が一瞬不安定に揺れ、空間が暗くなった。
「真帆ちゃん!」
里奈の叫び声。
蒼真は右太腿のナイフケースからナイフを引き抜き、ゴブリンに向かった。投げない。手持ちで斬りつけ、牽制する。ゴブリンが棍棒で受け、蒼真を押し戻した。
くそ、近接は不利だ。
背後から足音が迫る。悠斗が前方を片づけて駆け戻ってきた。
「どけ蒼真!」
蒼真が横に跳ぶ。悠斗の《脚力強化》が炸裂し、蒼白い光を纏った槍がゴブリンの胴を貫いた。粒子化。
四体全てを撃破。
だが。
「里奈――?」
蒼真が周囲を見回した。里奈がいない。杖を抱えた姿が、通路脇の横道の先に消えていく残影だけが見えた。
――逃げた。
里奈は真帆が殴られた瞬間に凍りつき、恐怖に駆られて走り出したのだ。
蒼真の胸に後藤の声が蘇った。
――独断専行は絶対にするな。
魔導通信機を握った。
「後藤先生、第5班の神代です。帰路で奇襲を受けました。小林真帆が左肩を負傷。中村里奈がパニックで逃走。方向はエリアマップ上で第2層降り口に向かう南東方向です」
ノイズ。そして後藤の声。昼行灯のトーンではなかった。
『――何があった』
蒼真が手短に状況を報告した。
『追え。班を分けるな。全員で行動しろ。俺も向かう』
「はい」
『神代』
後藤の声が低くなった。
『お前の判断で班員を死なせるな。全員連れて帰れ』
通信が切れた。
蒼真はナイフをケースに戻し、真帆の側に膝をついた。
「真帆、肩は」
真帆が壁に背を預け、左肩を右手で押さえていた。顔を歪めてはいるが意識はしっかりしている。
「……《小回復》」
温かい光が左肩を包んだ。真帆が息を吐く。
「大丈夫、動けます。でも、魔力の限界があるから今は何度もは……」
「十分だ。歩けるか」
「歩けます。里奈ちゃんを追わないと」
真帆が立ち上がった。左肩を庇いながらも、足は止まらなかった。
航が横道の入口を確認していた。
「足跡がある。まっすぐ走ってる」
紅葉が《視力強化》で横道の先を覗いた。唇を噛んでいた。
「あたしが気づいてれば。前の索敵に集中しすぎて、後ろの二体を見落とした」
「俺もだ」蒼真が言った。「後方警戒が頭から抜けてた。紅葉だけの責任じゃない。班長の俺が後方を意識してなかった」
紅葉が蒼真を見た。蒼真は横道の先を見つめていた。
「――行くぞ。全員で里奈を追う」
五人が横道に突入した。紅葉が先頭を行き、里奈の足跡を追う。
「足跡がまっすぐ走ってる。振り返ってない。完全にパニックだ」
蒼真は弓を握りしめた。矢筒の中の矢は残り四本。
――全員連れて帰る。




