第18話 プレート、発見
広い空間に出た。
幅十五メートル、天井は五メートルを超える。第1層の通路を歩き続けた目には途方もなく広く感じた。真帆の《光球》が天井近くまで浮かび上がり、空間全体をぼんやりと照らした。
「三体。中央やや奥。固まってる」
紅葉が手信号を送りつつ、小声で報告した。《視力強化》の目が暗闇の奥を捉えている。
「パーティか」
航が呟いた。
「そうみたい。棍棒持ちが二体と、素手が一体」
蒼真は空間の構造を見回した。左右に岩の柱がいくつか立っている。遮蔽物として使える。奥に通路の入口らしい暗がりが見えた。あの先がプレート設置の指定地点のはずだ。
「作戦を立てる。俺が先制で一体仕留める。悠斗と航は俺の矢が当たったら突入。残り二体を制圧してくれ」
「おう」
「了解」
蒼真は里奈を見た。
「里奈、撃てるか」
里奈が杖を握り直した。指先はまだ白い。だが目は前を向いていた。
「撃ちます」
声に震えはあった。だが初戦で固まったあの時とは違う。返答が一度で出た。
蒼真は右の岩柱の陰に移動し、弦に矢を番えた。距離は三十メートル。弓道場で何千本も放った距離だ。
魔力を纏わせる。蒼い光が灯った。
呼吸を整え、放った。
蒼い軌跡が空間を一直線に貫いた。ゴブリンの首に命中。即死。
「行け!」
悠斗が《脚力強化》で踏み込んだ。蒼白い光を纏った槍が残りの棍棒持ちの胸を貫く。航が横から斬り込み、素手のゴブリンを《斬撃強化》の一撃で仕留めた。
三体が粒子化した。光の粒が六人の体に吸い込まれていく。
「よし」
蒼真は声を出して頷いた。矢は残り五本。
「神代さん、矢って消えるんですね」真帆が覗き込んだ。
「粒子化の時に巻き込まれるようだ。突き刺さってなかったものは回収できるけど、矢はデリケートで再使用できない場合も多いから残数の管理が必要だ」
「弓術士ってそこまで考えるんだな」
航が感心したように言った。
蒼真は苦笑した。弓術士は矢がなければ弓を持った一般人だ。残弾管理は死活問題になる。
次はもう少し丁寧に急所を狙おう。無理に狙って貫通させてもそれはそれで矢柄に負担が掛かる場合がある。それに思っていた以上に粒子化で持っていかれてしまう数が多い。もっと大きい矢筒を用意すべきかもしれない。
メンテナンスノートに書き込みたい課題がまた増えた。
◇
空間の奥の通路を抜けると、壁面に刻印が彫られた小さな窪みがあった。
「ここだ」
蒼真がエリアマップを確認した。指定地点。
壁際に台座が設置されていた。
台座の上には金属製のプレートが置かれており、そこには東京探索者学院の紋章が刻まれている。今回の探索実習の目標物だ。
「おおー」悠斗が素直に声を上げた。
「やった!」紅葉がガッツポーズ。
「やったー!」真帆が両手を上げた。
里奈が小さく息を吐いた。杖を握る手の力が、ほんの少し緩んでいた。
「……着いた」
蒼真はプレートの紋章を見つめた。
――六人で行って、六人でここまで来ました。
後藤への報告は帰ってからだ。だが胸の中で、一度言っておきたかった。
「よし、回収完了。さあ帰るぞ。帰るまでが実習だ」
蒼真の声に六人が頷いた。
◇
帰路。来た道を戻る。紅葉が前方を索敵し、隊列を維持して進む。
プレートを回収した達成感で空気が少し緩んでいた。悠斗が「腹減った」と言い、航が「うるさい」と返す。紅葉が「あたしもー」と乗っかり、真帆が笑う。里奈も小さく口元を緩めた。
蒼真もその空気に少し浸った。
――いい班だ。
その時、蒼真の背中に何かが触れた。触れたのではない。空気の流れだ。背後から、微かな振動が足裏に伝わってきた。
足音。
蒼真が振り返った。
通路の奥、来た方向の暗闇の中に、何かが動いていた。
「紅葉、前方は」
「クリア。どうしたの?」
「後ろから来てる」
紅葉が目を見開いた。振り返り、《視力強化》を後方に向ける。
「二体。ゴブリン。こっちに来てる」
同時に、紅葉の目が前方に戻った。
「前にも二体! さっきの索敵にはいなかった。通路の横道から出てきたみたい!」
前後から合計四体。
蒼真の背中に冷たいものが走った。
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本話までは一日三話投稿を行っておりましたが、次話以降は一日一話、朝六時の投稿となります。
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