第112話 決勝・中盤
矢を番える前に、もう一度、足の親指の付け根に体重を乗せ直した。
半歩引いた分の重さが、左右の足の裏に均等に戻ってくる。竹井の盾は依然として真正面に立っている。本村の槍の穂先は、悠斗の槍と空気の中で平行に並んだまま動かない。
ここで、フェイントは、もう仕掛けない。
仕掛けない、という意思を竹井に伝える形で立つ。視線を石柱の影へ流すこともしない。スローイングナイフの柄に指を触れることもしない。矢を番える動作だけを、最初から最後までまっすぐ通す。
竹井が読みを切り替えてくれれば、それで一手分の隙ができる。
蒼真は番えた矢を、進藤あかりの杖の先端へ向けて引き分けた。
引き分けの角度は、今までの六射と同じ。
弦を離す瞬間、足の親指の付け根を半歩内側へ寄せた。
弦が離れた。蒼い軌跡は竹井の盾の上の縁を回り込まない。本村の槍の右側面をかすめるぎりぎりの角度で進藤あかりの杖の根元へ向かった。
竹井の盾の動きが、半秒、遅れた。
盾の上の縁を警戒していた竹井の意識が、足元の角度の変化に対して反応しきれなかった。盾は半歩上へ動こうとして、本来必要だった右下への動きが間に合わなかった。
矢は進藤あかりの杖の柄の真ん中を浅く擦った。
判定光が進藤の右手首の外側で点って消えた。軽傷未満。けれど進藤の杖の先で組み立てかけていた《光矢》の光は、今度はまる一拍止まった。
「進藤さん、組み立て止まりました」
真帆の声が、後衛の左から短く飛んできた。
「次の《光矢》、少し遅れます」
「真帆、ありがとう」
蒼真の返事も短い。視線は進藤の杖ではなく、竹井の盾の縁に戻している。
竹井が初めて口元を少しだけ動かした。
「神代、今のは何だ」
「答えない」
「だろうな」
竹井の盾が、半歩、右へ流れた。射線を塞ぐ位置取りを組み直しに来ている。
読みの軸が、視覚から、足の運びの方へ動き始めた。
試合経過、五分四十秒。
悠斗の左肩が本村の槍の刺突に擦られた。判定の赤い輪郭が点った。軽傷一。
悠斗が「ちっ」と短く舌打ちして、半歩下がった。槍の構えはそのまま、足だけで間合いを取り直す。
「悠斗、深さは」
「皮一枚。動ける」
「無理するな」
「無理してねえって。本村、刺突強化の溜め、来てる。次が本命だ」
航が悠斗の左後ろから走り込んで、剣の柄頭で本村の槍の腹を弾いた。槍が、空気の中で一拍だけ斜めに泳いだ。
「悠斗、息整えろ。次の溜めは、俺が殺す」
「殺すって、お前、ちょっと言葉強くね?」
「強くて悪いか」
「悪くはねえ」
悠斗がふっと口の端で笑った。本村の方も、槍を一度握り直して再び正面に構え直した。
佐藤がここで動いた。
石柱の陰から紅葉の右斜め前へ一足で滑り込んできた。小剣の刃が紅葉の右の二の腕を擦った。判定の赤い輪郭が点って消えた。軽傷一。
「うっわ、近っ」
紅葉が悲鳴のような声を上げて、左へ二歩飛び退いた。小剣を抜く動作はせず、両手を上に上げてバランスだけ戻す。
「蒼真! 佐藤、出てきた。私の二時方向、距離三メートル!」
「距離戻せ! 深追いされるな」
「了解、班長!」
紅葉は後ろ歩きで距離を作りながら佐藤の足元から目を離さない。佐藤もそれ以上は深追いしなかった。石柱の陰へ戻る半身の動きは、最初の踏み込みと同じくらい速い。
悠斗・紅葉の二人に軽傷一が乗った。
ここで、真帆が動く前提だった。
「真帆、悠斗から先に」
「了解です。悠斗さん、少し下がってください」
悠斗が一歩、後衛の方へ下がった。本村の槍は航が引き受けて、剣の腹で受け流している。
真帆が杖を両手で握り直して悠斗の左肩へ向けた。杖の先端の白い光は、これまでの《小回復》より輪郭が一回り大きい。
「《回復》」
《回復》の輝きが悠斗の左肩の判定箇所を包んだ。判定の赤い輪郭が点滅してから消えた。軽傷一の判定が解除された。
悠斗が左肩を一度、ぐるりと回した。
「お、これ《小回復》より明らかに効きが速い」
「《回復》は初実戦投入なので、ちょっと緊張しました」
「マジか。緊張してたのにこの仕上がりかよ」
「悠斗さん、戦線復帰、お願いします」
「了解、班長代理」
「班長代理じゃないですから」
真帆が口元だけで小さく笑った。
悠斗が前衛に戻る。航が「悠斗、戻った」と短く呼んで、本村との二対一の構えに戻した。
続いて真帆が紅葉の右の二の腕に《回復》を回す。こちらも一回で軽傷の輪郭が消えた。
「真帆、ありがと! 助かった!」
「紅葉ちゃん、無理しないでくださいね」
「するわけないじゃーん」
「するときの方が多いです、紅葉ちゃん」
「ちょっと、真帆まで、それ言うの」
紅葉が両手を腰に当てて、口を尖らせた。それでも視線は石柱の陰の佐藤からは離さない。
軽傷二つの解除に、真帆の魔力が二回分。それでも杖の白い光の輪郭は、まだ序盤と同じ太さを保っている。
◇◆◇
観客席東側、上段から二段下りた位置。
凛は両手の指を組み合わせたまま膝の上から動かしていなかった。マフラーの内側で息が短く出入りしているのが、ほのかの位置からだけ見えていた。
「あの白魔法使いの子、《小回復》の上、習得済みだったんだ」
「《回復》?」
「うん。光の太さ、全然違う」
「ほのかから見ても、すごい?」
「すごいよ。同期で、ここまで安定してる子は少ないと思う」
「……そっか」
ほのかはペットボトルの蓋を半分だけ緩めて、一口だけ飲んだ。凛は両手をほどいて、太腿の上に置き直した。
「凛ちゃんは、どこ見てたの?」
「神代の七射目。盾が避けたのに当たってた」
「うん、変な軌道だった」
「足元の角度で隙作ったんだと思う」
「見る場所、ほんと違うね」
「ほのかの見方も、私は分かりやすいと思う」
ほのかがふっと笑った。凛はそれ以上は言わずフィールドの東側へ視線を戻した。マフラーの中の口元は、少しだけ緩んでいた。
観客席のさらに二段上、立ち見の柵の前で、須藤大河は腕を手すりに乗せたまま動かなかった。
「《回復》、入った」
声にはしない。自分が須藤班の試合で「もう一発の判定」を取られる前に《小回復》で凌がれた感覚が、視界の左半分に重なった。
今の真帆の《回復》は、あの時の《小回復》より効きが一回り深い。
その差分の分だけ、蒼真班の試合時間が伸びる。
◇
試合経過、六分四十秒。
ここで動いたのは、里奈だった。
「《氷矢》」
里奈の杖の先端から白い結晶の矢が飛んだ。序盤の二射よりも輪郭が太い。狙いは藤島美香の左前、斉藤花帆の杖の先端。
斉藤は《火球》の組み立ての最中だった。蒼真班の前衛二枚――悠斗と航――を狙って組み立てを続けていたところに、後衛の左から斜めに伸びてくる白い結晶の軌跡が割り込んだ。
火と氷の属性が空気の中でぶつかった。火球の輪郭が組み立てきれずに散る。氷矢も威力の半分を相殺で失い、斉藤の右肩の外側を擦った。判定の赤い輪郭が点って残った。軽傷一。
「斉藤、《火球》、止めた」
航が本村の槍を捌きながら、振り返らずに声を投げてきた。
「火属性、こっちの後衛狙ってた。里奈、ナイス」
「ありがとう、ございます」
里奈は杖を握り直した。白い結晶の輝きは、ここでまた一段淡くなっていた。
斉藤がもう一度、杖の先端を構え直した。今度は火球ではなく、《火壁》。蒼真班の射線に対して防御を取りに来た。
ところが発動の最中、里奈の四射目の氷矢が再度斉藤の杖の先端に飛んだ。
斉藤の《火壁》の発動が二度目に空気の中で散った。氷矢は斉藤の左の脇腹を擦る。判定の赤い輪郭が深く残った。軽傷二。
これは足を止める氷ではない。火を押し返し、火魔法使いを落とすための氷だった。
「もう一射、撃ちます」
里奈は後衛の左で杖を握り直した。今度は前の二射より、声に張りが出ていた。
里奈の五射目――この相殺戦で三発目の《氷矢》――は、斉藤の左の鎖骨の上を擦って、判定の赤の輪郭を三発目に乗せた。
「斉藤選手、KO判定。退場」
フィールド係の声がスピーカーから降ってきた。斉藤は杖を握ったまま後ろへ半歩よろめき、退場ゲートの方へ歩き出した。
「里奈、今の一射、助かった」
「はい。けど、《氷矢》は累計五射目です。少し、重くなってきました」
「分かった。次からは俺が合図するまで温存」
「無理じゃないです。撃つって決めてました」
「だからこそ、残す。最後の一本、必要になる」
里奈の白い結晶の輝きは序盤の三分の二くらいの太さに落ちていた。けれど杖を握り直す指の力は、最初の一射目より確かに強い。
火魔法使いの斉藤花帆を、氷魔法使いの里奈が属性相殺で削り切った。秋のイレギュラー対応以降の里奈の成長が、決勝戦の中盤で最初に判定値の形になった瞬間だった。
◇
試合経過、七分二十秒。
竹井班の前衛が、組み直しに入った。
本村が槍を一段引いて竹井の盾の右後ろへ位置を下げた。代わりに佐藤が石柱の陰から斜めに出て、本村が空けた右前列のスペースに入った。前衛の重さを下げ、機動の速さを上げる組み直しだ。
「蒼真、配置、変わった。佐藤が前」
航が剣を本村と切り結びながら、視界の隅で蒼真にだけ届く声を投げた。
「悠斗、槍の押し合いはここまで。佐藤の機動を切る役、回せるか」
「回す。本村は航、頼んだ」
「任せろ」
悠斗が槍を一度立て直して、佐藤の方へ向き直った。佐藤が前に出てきた瞬間が、悠斗の槍の間合いだ。
航と本村の槍が、再び平行に並んだ。
ここで蒼真は、八射目を番えた。
番える前に、息を一度、肺の奥まで通した。
弦を引き分ける感覚がこれまでの七射と違う。指先に乗る重みが一段深い。
『弐』。
月曜の夜、メンテナンスノートに「明日、終わる」と書いた行の上に残した一文字。九十五。九十五の安定でここで使う。
矢の先端が、藤島美香の左の鎖骨の上を捉えた。
藤島はちょうど、里奈の六射目の氷矢の軌道に対して氷壁を組み立てている最中だった。氷壁の発動で杖が右へ流れている。左の鎖骨の側へ意識が向いていない。
弦を、離した。
蒼い軌跡が、普段よりも一段濃く、空気を裂いた。
判定の赤い輪郭が藤島の左の鎖骨の上で点り、そのまま消えなかった。
一発判定KO。
藤島が後ろへ半歩よろめいて、杖を取り落とした。フィールド係の声がスピーカーから降ってきた。
「藤島選手、KO判定。退場」
竹井の盾が、初めて、はっきり半歩ずれた。
ずれた位置を、戻すのに半呼吸、余計にかかった。
その半呼吸の間に里奈の七射目の氷矢が進藤あかりの杖の先端を擦った。判定の赤を点す。軽傷一。氷矢の方も、ここまでで判定値を二度乗せた。
◇◆◇
「重い射、来たな」
後藤が、西側最上段の手すりに肘を乗せ直した。藤村が隣で頷いた。
「『弐』ってヤツですか」
「決勝でも当ててきたな。九十五って言ってたな、あいつ」
「百の九十五なら、まあ、ここで撃つのが筋ですね」
「筋だな」
後藤は煙草の箱を内ポケットから半分出して、また戻した。藤村が横目でそれを見て小さく笑った。
「先生、それ、もう何回目です」
「数えてないけど、お前が数えてるなら教えてくれ」
「三回目です」
「教えなくていい」
藤村が小さく吹き出した。
観客席の凛は太腿の上に置いていた手をもう一度組み合わせ直していた。今度は指の関節が白くなるくらい強く握っていた。ほのかは横でペットボトルを膝の上に戻し、視線をフィールドへ戻した。
◇◆◇
試合経過、九分十秒。
竹井班、残り四人。蒼真班、無傷六人。
ここから、竹井班が崩しに来た。
進藤あかりの杖の先端が、これまでとは違う方向に振られた。
《光矢》の組み立てが、初めて、まる一拍の遅れもなく完成した。
白い矢の輪郭が、進藤の杖の先端から、まっすぐ蒼真の方へ向かって伸びてきた。
軌道は、本村の槍の隙間を縫う、低い直線。
蒼真が反応する前に、真帆の声が後衛の左から飛んだ。
「《光盾》」
白い六角形の輪郭が、蒼真の右肩の前に半分の大きさで一枚展開した。進藤の光矢が、その六角形の中央で白い輝きをぶつけて散った。判定光は点らなかった。
「真帆、ナイス!」
悠斗が前衛から振り返らずに声を投げた。
「進藤さん、神代さんを狙ってきました」
「分かった。次、来る前に一発返す」
蒼真の声が、いつもより半歩、低くなった。
怒っているのではない。狙われた事実を、戦術の上にもう一段乗せる作業に入っただけだ。
真帆が杖を握り直した。指先がかすかに動いている。
「神代さん、次、私が《光矢》を撃ちます」
「止めるんじゃなく、当てるんだな」
「はい。対人戦では初めてです」
「怖いなら、俺が別の射線を作る」
「大丈夫です。班員を守るためなら、撃てます」
真帆の声に、迷いはなかった。
ただ杖を握っている指先の関節だけが、ほんの少し白くなっていた。
「分かった。小林の一本として数える」
「はいっ」
真帆の杖の先端の白い光が、これまでの《光盾》とも《回復》とも違う形に伸びた。光の矢の輪郭が進藤あかりの杖の先端へゆっくり飛んだ。
進藤が次の《光矢》を組み立てかけていた手が、ぴたりと止まった。
真帆の《光矢》は進藤の左手首の外側を浅く擦った。判定の赤い輪郭が点って消えた。軽傷未満。
「届きました」
真帆は後衛の左で杖を握り直した。
「すみません、軽傷未満で」
「いや、十分だ」
蒼真は短く返した。十分だ、というのは、判定値の話ではない。
白魔法使いが攻撃に回ったという事実が、進藤あかりに「次の光矢は撃てないかもしれない」と思わせる。それで十分だ。
観客席の凛が立ち上がりかけて座り直した。ほのかは横で何も言わず、ペットボトルの蓋を一度締め直した。
立ち見の柵の前で、須藤大河が手すりに乗せていた腕を、いったん下ろした。
「白魔法の娘、撃ったか」
声にはしなかった。一年前の春の自分の試合では、相手の白魔法使いは最後まで攻撃に回らなかった。蒼真班の白魔法使いは、四分の壁の前に撃つ判断を出した。
差分の分だけ、また、試合時間が伸びる。
試合経過、十一分四十秒。
蒼真班、無傷六人。竹井班、残り四人。
ここまでの試合経過で、蒼真班の魔力消費は、里奈と真帆に集中して乗っていた。
里奈は《氷矢》七射と《氷壁》二枚、それに《氷床》(帯状応用)一本を発動済。真帆は《光盾》一枚と《回復》二回、《光矢》一発を発動済。
里奈の杖の白い結晶の輝きは、序盤と比べて明らかに一段弱くなっていた。
「里奈、残りをまとめてくれ」
「攻撃は二発、防御壁は一枚。氷床は最後の一本です。そこを使ったら、私はほぼ終わりです」
「なら氷床は切り札に残す。壁は進藤の射線を切る時だけ」
「分かりました」
里奈の声がいつもより半歩低くなった。淡々と自分の残量を読み上げる口調だ。
杖を両手で握り直した時、指先がほんのわずかに止まった。
白い結晶の輝きが、輪郭の端だけ揺れる。
真帆の方は、まだ余裕がある。
《光盾》一枚分の余力を残す前提で運用してきた結果だ。
「真帆」
「《光盾》一枚と《回復》一回。最低限を割らない残りです」
「十分だ。最後の防御は小林に預ける」
「はい」
魔法使い二人の残量が、ここで、対称的に分かれた。
氷魔法使いの里奈は、攻撃と防御と妨害の三役を一人で抱えて、序盤から中盤までで魔力を着実に削った。
白魔法使いの真帆は、回復役の本分を守る運用で、最後の余力を残している。
その差分が、決着の時に、誰の魔力が誰の隣で機能するかの差分になる。
試合経過、十二分三十秒。
蒼真班、無傷六人。竹井班、残り四人。
航が本村の槍を二度連続で剣の腹で受け流し、本村の右の前腕を擦った。判定の赤い輪郭が点って残った。軽傷一。
本村が「ちっ」と舌打ちして、半歩、後ろへ下がった。
「航、いいね今の」
「悠斗、押し込め」
「押し込む」
悠斗の槍が、本村の右の前腕の同じ位置をもう一度突きに行った。本村が槍で受けたが、刺突強化を溜める時間がもう取れなくなっている。
佐藤は紅葉と距離を取り合ったまま、踏み込みのタイミングを掴みかねている。紅葉の二時方向への動きが、佐藤の左半身の機動を制限している。
観客席の凛は両手の指を口元の前で組んだまま動かなくなっていた。ほのかも、もう声をかけずフィールドの東側を黙って見ていた。
試合経過、十三分十五秒。
竹井の盾の動きが序盤よりも半呼吸遅くなり始めた。
体力強化のスキルは出力が控えめな分、長時間運用の負担が確実に積み上がる。竹井の足の運びは、最初の三分の頃よりわずかに重い。
蒼真の九射目が竹井の盾の左の縁を回り込む。後衛の進藤あかりの右脇腹を擦った。判定の赤い輪郭が点って残った。軽傷一。
進藤が「あっ」と短く声を上げて、杖を右手で握り直した。
続けて里奈の八射目の氷矢が飛んだ。藤島の抜けた穴の側――進藤あかりのさらに右側から本村の右後ろを抜ける軌道。本村が槍を引いて軌道を逸らした。氷矢は本村の右の太腿を擦り、判定の赤い輪郭が点って消えた。軽傷未満。
「里奈、残り二発。次は進藤の杖だ」
「魔法の組み立てを止めるんですね」
「ああ。人じゃなく、杖を削る」
「分かりました。手元、狙います」
里奈の声に、迷いはもう、なかった。
十一分経過。
蒼真班、無傷六人。竹井班、残り四人。進藤と本村に軽傷一ずつ。佐藤と竹井は無傷。進藤の白魔法による回復は残り魔力の関係でもう回らないだろう。
試合の流れが、はっきり蒼真班の側に傾き始めた。
観客席の凛が、口元から手をほどいた。
須藤は手すりに腕を乗せ直した。
後藤は煙草の箱を四回目に内ポケットから半分出して、また戻した。藤村が今度は何も言わなかった。
蒼真は矢筒の縁から十射目の矢を一本取り出した。
残り、十四本。
決着までの距離が、ここから急に短くなる。




