## 第一章 ―― 祈りの街を離れて ――
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街の名をカルノという。
古い名だった。誰がつけたのか、記録には残っていない。伝承によれば、最初の人々がこの地に辿り着いたとき、風の精霊がこの名を告げたという。だから街の人々は風を敬い、鐘が鳴るたびに祈る。祈りの言葉の中には「カルノの加護」という一節がある。加護とは何か、何から守られるのか、子どもが聞いても大人は微笑むだけで答えない。
「大人になればわかる」と言う。
ノアは十七になったが、まだわからなかった。
街は城壁で囲まれていた。城壁の高さは大人が三人立っても届かないほどで、表面には長年の雨と風で黒ずんだ苔が張り付いている。門は東西南北に一つずつ。夜明けとともに開き、日没の一時間前に閉まる。その時間の外に出入りしようとした者がいたという話は、ノアは聞いたことがなかった。
外は危険だと教えられてきた。
荒廃した大地が広がっている。水も食べ物もなく、獣が群れをなして徘徊している。そして最も恐ろしいのは、祈りを捨てた者の末路だ。カルノを離れた人間は必ず死ぬ、と長老たちは言った。精霊の加護が届かないからだという。加護が届かなければ、人は三日と生きられない。
それを疑ったことはなかった。ずっと、なかった。
だが今は。
ノアは城壁の内側の小路を歩きながら、その壁を見上げた。石と石の間の隙間から、細い草が一本、外に向かって伸びている。草は風を受けてわずかに揺れていた。内側に生えた草が、外へ向かって伸びている。ノアはそれを見つめた。
この草は、加護がなくても、外に向かって伸びている。
「ノア」
声がした。振り向くと、アタカが路地の角に立っていた。
幼馴染だった。同じ年で、同じ通りに生まれた。子どもの頃、一緒に丘に登って雲を数えた。アタカは雲の形に名前をつけるのが好きで、「あれはカメ」「あれはパンを食べる老人」と言っては笑っていた。ノアは笑いながら、少し羨ましかった。あんなふうに何かを見て、すぐに名前をつけられる感性が。
今のアタカは笑っていなかった。
表情は静かだった。だが目が、何かを決めた者の目をしていた。右手を胸の前で握りしめている。その指の間から、細い鎖がこぼれていた。
「見せてもいいか」とノアは言った。
アタカは少し躊躇ってから、手を開いた。
銀色のペンダントだった。親指の爪ほどの大きさで、表面に模様が刻まれている。ノアは目を細めた。それは紋章のようなものだった。渦を巻く線が、中央で交差している。風を描いたものだと、直感した。なぜそう思ったのかはわからなかった。ただ、そう感じた。
「どこで」
「お母さんの形見の箱の中に」とアタカは言った。「お母さんも、どこから来たのか知らなかったって、手紙に書いてあった。ずっと隠してたみたい。私に渡すために」
「いつから持ってた」
「三年前から」
三年間、言わなかった。ノアは少し驚いたが、何も言わなかった。アタカには言えない理由があったのだろう。そしてなぜ今日言ったのか、それも聞かなかった。アタカの目が教えていたから。
「長老のサルマに見せたら」とアタカは続けた。声が低くなった。「『それを持つ者は、街に居続けることはできない』と言われた」
ノアは黙っていた。
「どういう意味か聞いたら、答えてくれなかった。ただ、『遠い昔からそう決まっている』って」
「それで」
「だから、行く」
アタカはペンダントを握り直した。その手は震えていなかった。ノアには、それが不思議だった。怖くないのか、と聞こうとした。だが聞く前に、自分の胸の中で何かが動いた。あの渇きが、ここだと言うように、熱くなった。
「なら、俺も一緒に行く」
言葉は考える前に出た。
アタカは驚いた顔をした。それからゆっくりと、三年ぶりに見るような笑顔になった。「ノアらしい」と言った。
「らしい、か」
「うん。ずっとそうだったから」
その言葉の意味を、ノアはうまく掴めなかった。だが追及はしなかった。やることがある。夜明け前、鐘が鳴る前に出なければならない。二人は互いに頷いた。




