第三部 ― 足りなくはない ― 第一章 ― 風の源郷へ ―
## 一 北東の道
第三部が始まる頃、四人の旅は四十日を超えていた。
北東への道は、これまでと違う景色を持っていた。荒野が少しずつ変わり、やがて草が増え、低い木が現れ始めた。水場も、以前より見つけやすくなった。風が、常に後押しをするように吹いていた。
セラが「なんか、生きてる感じがする」と言った。「前より、草とか、虫とかが多い」
「源郷に近づいているのかもしれない」とノアは言った。「風の力が強い場所は、生命も豊かだと、声が言っていた」
「虫が多いのは、正直、慣れない」とアウラが言った。
「贅沢だ」とカイルが言った。
四人の会話が、自然になっていた。沈黙も苦ではなく、言葉も飾らない。長い旅が、そういう関係を作っていた。
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## 二 追っ手との決着
四十五日目、追っ手との最後の対峙が来た。
今度は、数が多かった。十五人以上。逃げることはできない囲みだった。
だが、カイルが前に出た。
「交渉する」とカイルは言った。
「何を」とノアは言った。
「俺の名前で、時間を稼ぐ。その間に、お前たちは進め」
「一人残すわけにはいかない」
「約束は覚えているか」とカイルは言った。「置いていかない、という約束を、俺はお前たちに言った覚えがない」
「言ってない」とアウラが言った。「でも、私たちはしました。カイルさんを、置いていかない」
カイルは少し困った顔をした。珍しい顔だった。
「俺は死ぬとは言っていない。ヴァン家の名前で交渉できる。時間を稼いで、後から追う」
「本当に来るか」
「来る」とカイルは言った。「まだ、木を彫っていない」
それが、カイルの言える最大の約束だと、ノアは感じた。
三人は進んだ。カイルが一人、追っ手の前に立った。
「俺はカイル・ヴァン」とカイルは言った。「ヴァン家の者だ。話を聞け」
追っ手の中に、動揺が走った。ヴァン家の名前は、彼らにとっても重みを持つ名前だった。
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## 三 三人で進む
三人は走った。
後ろで声がしていた。カイルの声と、別の声が交わっている。交渉が続いている証拠だった。
「カイルさんを信じる」とセラが走りながら言った。
「信じる」とノアも言った。
アウラは何も言わなかった。だが、ペンダントが光っていた。これまでの光とは違う、安定した、強い光。守るための光だった。
「アウラ」とノアは言った。
「大丈夫」とアウラは言った。「力が、はっきりと動いてる。自分のものとして、使えてる気がする」
三人は北東へ向かって、走り続けた。




