第二部 ― 名の欠片 ― 第一章 ― 塔 ― 一、二、三
## 一 近づく影
その日のうちに、三人は塔の麓に着いた。
近づくほどに、その大きさは現実感を失っていった。麓に立っても、全体を見渡すことができない。見上げると、表面は滑らかな金属のようでありながら、所々に文様が刻まれている。文様は風を象ったような、渦を巻く線だった。アウラのペンダントに刻まれているものと、よく似ていた。
アウラがペンダントを取り出した。文様を見比べる。「同じだ」と小さく言った。
「確かに」とカイルも言った。「全く同じ模様だ」
ノアは塔の表面に触れた。冷たかった。だが、その冷たさの中に、何かが流れている感覚があった。脈動のような、ゆっくりとした律動。生きているわけではない。だが、止まっているわけでもない。
「この塔は何のためにある」とカイルが言った。「誰が作った」
「わからない」とノアは言った。「でも、ペンダントと繋がっている」
三人は塔の周りを歩いた。半周ほど進んだところで、入り口らしきものを見つけた。アーチ状に開いた、暗い空間だった。中から、風が吹き出していた。
「ここから、風が出てる」とアウラが言った。
「出てる、というより」とノアは言った。耳を澄ませる。「呼吸してるみたいだ」
吹き出した風は、しばらくして止まった。それから、今度は塔の中へ向かって、風が吸い込まれていった。
呼吸。
その言葉が、ノアの胸に残った。
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## 二 入り口の前で
「入るのか」とカイルが聞いた。
「迷う必要はないと思う」とノアは言った。「ここまで来たのは、ここに来るためだった気がする」
「気がする、では弱いな」とカイルは言った。だが、止める様子はなかった。槍を構え直しただけだった。
アウラがペンダントを握りしめた。「私が先に入ってみる」
「危険かもしれない」とノアは言った。
「だからこそ。これは、私に関係がある気がする」
ノアは少し考えた。それから「一緒に入る」と言った。「一人にはしない」
アウラは頷いた。
三人は入り口に向かった。アーチの下に立つと、空気が変わった。外の荒野の乾いた空気とは違う、湿った、しかしどこか清潔な空気だった。
中は暗かった。だが、完全な暗闇ではなかった。壁面のあちこちに、薄く光る文様があった。その光が、足元を照らしていた。
「明かりがある」とアウラが言った。
「自然のものか」とカイルが聞いた。
「わからない。でも、危険な感じはしない」
三人は中へ進んだ。
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## 三 螺旋の通路
入り口から続く通路は、緩やかに下っていた。
壁は滑らかな素材で、所々に渦の文様が刻まれている。文様は等間隔ではなく、密度に変化があった。ある場所では文様が密集し、別の場所ではほとんどない。
ノアはその密度の変化に気づいた。「文様が多いところと少ないところがある」
「何か意味があるのか」とカイルが言った。
「わからない。でも、密集してる場所は、何かの目印かもしれない」
通路は螺旋を描きながら、下へ下へと続いていた。どれくらい歩いたか、わからなくなった。時間の感覚が曖昧になる場所だった。外の光は届かない。壁の文様の光だけが、唯一の明かりだった。
しばらく歩くと、アウラが足を止めた。
「ペンダントが、また熱くなってきた」
ノアは確認した。ペンダントが、薄く青白い光を放っていた。峡谷で見たものと同じ光だ。だが、今回は熱が穏やかだった。激しい反応ではなく、静かに共鳴しているような光だった。
「これも反応してる」とアウラは壁を指した。
壁の文様が、ペンダントの光に合わせて、わずかに明滅していた。
「文様が、ペンダントに応えてる」とノアは言った。
「ということは」とカイルが言った。「この塔は、その紋章を持つ者が来ることを、想定して作られている」
「想定して、というより」とアウラが言った。「待ってた、みたいな」
その言葉に、三人は一瞬黙った。
待っていた。何が、誰を。
答えは出なかった。ただ、通路はまだ続いていた。




