09.心を射溶かす破魔のようで・・・・
(1737.10/--)
ーーーー体育祭当日。最初のプログラムである入場行進と宣誓の後。体育祭運営本部の横に座る放送部員が、進行の為の合図を学校内全体に伝える。
「訳ありペア競走に参加する生徒は、入場口に集まってください。」
一応、プログラムの合間は、トイレや水分補給用に少しの休憩時間が空けられている。その上で、所要時間内に集合が完了すれば、休憩時間を終了し、放送部員から入場の合図があって、次プログラムが始める。
「訳ありペア競走、選手入場。」
合図があり、1年、2年、3年の順に入場していく。
訳ありペア競走は・・・というより任意の参加者だけが参加する個別競技では、全学年が一度に入場し、1年、2年、3年の順に競技が執り行われ、全学年が同時に退場する。
逆に学年全員参加の全体競技の場合は、学年ごとに入場と競技と退場を執り行う。
ーーーーそういうわけで、私は先頭に立たされた。
1年1組。第1走者。しかもクラス委員長と副委員長。・・・・まぁ、仕方ないとしか言いようがない。けど・・・・
「なんでアタシがプラカードなの。美十でしょ持つの。」
「兎美麗さんの方が背が高いので。」
「聞いたよそれは。けど納得はしてないから。絶対に委員長の役目。これは。」
「副委員長は委員長の補佐でしょう。ならば私の代わりをする事に否は言えません。」
「いや、体調悪いならわかるけどさ・・・。元気ピンピンじゃん?しかもリレーまで掛け持ちして・・・・。」
「個別競技はあくまでも任意参加です。とはいえもちろん、なるべく1人1枠ですが、それはあくまでも推奨。人の集まり次第では掛け持ちも可。やりたい人は2つまでやっていいよ。それがルールです。そして枠は余った。ならば私はやりましょう。それに、兎美麗さんだってやってるではないですか?」
「だって美十が・・・・いや、うん。・・・そうだね。男子か女子かの限定の対抗リレーでないと、午後の部は暇になっちゃうし。」
「そういえば兎美麗さん、結局部活動には入らず終まいですか?」
「まあ、うん。・・・なんか悩んでたら結局・・・・。」
「エリカさんにテニス部に誘われてませんでしたか?」
「そーだけど・・・見て、なんかなぁ・・・って。」
「他の部活も?」
「・・・まあ。」
「そもそも兎美麗さん、どういった部活がやりたい・・・という願望は?」
「ん〜・・・・なんか・・・・なんて言うか・・・・その・・・・・」
思いつきはした。けど、口にはしなかった。・・・・だって恥ずかしい・・・から?
・・・まあよくわからないけど、とにかく口にはしたくなかった。
「思いあたるモノはあるんですね。」
「・・・・まあ。」
「じゃあ作っては?」
「いや、それは難しい・・・・のかな?」
「人が集まりそうにないと?それとも準備自体が難しいとかですか?」
「人は・・・・どうだろ。・・・多分集まる・・かな?けど、先生が許可出さないと・・思う。」
「・・・・力添えはしますよ?」
「いや美十には・・・・・なんでもない。」
「入りますよ?兎美麗さんが望むのなら。」
「いやいや・・・大丈夫。ほんとに。・・・大丈夫。」
「・・・・そうですか。」
「・・・なんかごめん。」
「いえ。兎美麗さんらしいので、別に構いません。」
「らしいって・・・・。」・・・・アタシはそういう人間なんか・・・・。・・・そうか。
ーーーー美十は、優しい。
美十は人の心を慮る事ができる。それでいて、人の事を歯牙にも掛けない冷徹な理性も併せ持っている。
美十は矛盾の塊。でもそれ故に、あまりにも優しい。・・・・人にどれ程厳しくしても、それは当人がルールを・・・ひいては人様に迷惑を掛けているから。だから厳しくする。けれど寄り添いもする。
美十は太陽みたいで、全てを見通す眼を持っていて、その灼熱と心眼により、凝り固まった心を柔軟になるまで焼き溶かされてしまう。・・・けれど流離う美十は何処まで行っても朧げで、とても危なっかしいと・・・・最近は、そう感じるようになった。だから・・・・。
・・・・それもあった。でもそれ以上に、私自身が変えられていく。ずっと理性的で冷静でいたはずの私が、感情的で情動的になるように絆されてしまった。それが良い事なのか悪い事なのか分からなくて、なによりあまりにも不甲斐ないと自覚してしまって・・・・・だから私は、美十からは距離をとることにした。
ーーーーとはいえそんなこと、出来るはずもなく。・・・だって私は・・・・・。
「はぁ・・・・。」
午前の部が終わり、昼休憩。多くの生徒が親や友達と昼食を取る中、私はさっさと昼食を終え、心に湧く情動に逆らうようにして、美十の居ない場所へとあちらこちらへーーーーー。
暫く歩き回り、校内へ入ることに。・・・「教室から外を見れば、少しくらい変わるかな」・・・・なんて思ったりして・・・・・。けどーーーーー
「あれぇ〜・・・・ど〜しよ〜・・・・・。」
「エリー?」
下駄箱前で、エリカが立ち往生していた。
「あ、ソーチョー!」
「どーしたの?」
「あっと・・・靴が見つからなくて・・・。」
「靴?」
「・・・うん。ちゃんとエリのとこ、入れてた筈なんだけど・・・・・」
そう言いながら、エリカは下駄箱にある靴をひとつずつ確認し回っていた。
ーーーーふと、思い出す。
・・・そういやさっき・・・・。
玄関口に入る前。校内の窓際、下駄箱が見える位置から、女が2人顔を覗かせていた。
・・・・あいつら・・・・・あの笑顔、そういう・・・・。
何となくではあるけど、察した。・・・まあ、そういうことなのだろう。・・・・さっきのあの2人がエリカの靴を隠した・・・と。
ーーーーとはいえこれは推測。ただの偶然かもしれないから、私も一緒になって靴を探し回った。
「見つからない・・・・。ど〜しよ〜・・・・。」
下駄箱は、全て見た。その周りも、全て探した。それでも見つからず。
・・・・どーするか・・・・。
悩み、けれど直ぐに決断する。
「誰か借りれる子、いる?この後、部活動行進でしょ?部活入っていない子で、靴のサイズが近い子。」
「探してみる。」
「・・・見つからなかったら、最悪アタシの靴使って。ここ、置いとくから。」
「うん。ありがと。」
ーーーーそう言ってエリカは去っていった。
・・・・さて、私も行くか。
さっき見た2人。顔は覚えている。・・・美十のせいで他クラスとも少なからず縁があって、そのおかげで名前も分かったていた。
・・・・1年2組。・・・・。
教室を前に、少し立ち尽くす。
・・・・いや、悩む必要なんてない。私一人でも・・・・。
落ち着き、深呼吸。
・・・・常に冷静。感情的になって自分優先で語らない。・・・・よし。
思い浮かべるは美十。彼女のように、私もやってやろう・・・・と。そう息巻いて教室の扉を空けた。
「兎美麗さんだ。」「つみれちゃん?」「総長・・・。」「おお・・・。」「おい。」「どうしたんだろ・・・・。」
教室内の反応は様々。昼食を食べながらも口を開く者、手を止める者、あるいは無視する者。・・・とはいえ大抵は驚いていて・・・・。
・・・・私が来たら悪いかよ。・・・・・まあいいや。
気にせず、取り敢えず部屋を一望。
・・・・居ないか。
目的の女2人は居なかった。
「あぁ・・・・・・」
居場所を聞こうと口を開く。・・・けど思い留まる。
・・・・聞くべき?・・・いらぬ噂が立つかも
そう考えて、自分で探すことにした。
・・・・エリに迷惑は掛けられない。
そう思い、歩き回る。・・・さっきまで教室には居たわけだし、ならばトイレだろう。・・・あるいは屋上行きの途中階段でたむろっているか・・・・・。
ーーーーー階段の踊り場で、2人を見つけた。
「ちょっと。」
「なに。」
明らかな怪訝な表情。
・・・黒か。・・・いや、決めつけは良くない。
「聞きたいことがあるんだけど。」
「・・・・・。」
2人とも、不満顔で黙ったままだった。
「エリーの・・・・エリカの靴が見つからなくて探してるんよ。それで見てないかな?・・・ってさ。」
「知らない。」
「そっか。」・・・・あ、ちょっと待って。話終わっちゃった。
「じゃ、行くから。」
言って、2人は去ろうとする。
「いや、ちょっ・・・と待って・・・・欲しいかも。」
・・・・どうしよ。どうする?・・・いや無理でしょ。ならもう直接聞くか?
「まだ何かあんの?」
「いや・・・いや、うん。エリカの靴。アンタらが隠したんじゃないかって思ってさ。」
「は?なにそれ?知らないんだけど。」
「いや、もちろんアタシだってアンタらを責めてるわけじゃない。ただ見たって子がいてさ。それで一応、ね?」・・・・嘘だけど。
「誰そいつ。」
「プライバシー保護の観点より、黙秘させてもらいます。」
「あっそ。とにかく知らないから。それじゃ。」
「わかった。」・・・・・まあ、無理か。
思い、去る2人の背中を眺めていた。
ーーーーー「ほんと笑える。見たあの顔?ぜったいウチらのこと犯人だってさ。あぁ・・・いい気味ぃ〜。」
「いいの?」
「なにが?」
「そろそろ返さないの?このままじゃエリカちゃん・・・」
「は?知るかよ。どーせ他人の靴使うでしょ。ウチはもう知らない。」
「・・・・・・。」
「なに?不満なの?」
「・・・・・うんん。」
「だったら黙ってりゃいい。どーせ誰も知らない。アイツの言ってたこともどーせウソだよ。」
・・・・とのことらしい。
彼女らの後を付け、暫く。勝手に話し始めてくれたので、証拠が揃った。・・・録音とかはしてないけど。
・・・・まあ、私が聞いたし、なら後は私がどうにかすればいい。
ーーーーというわけで、2人の下へ。
「なに?」
・・・さっきと同じか。まぁ、私が違うから同じにはならないけど。
「話、聞いてたよ。アンタら、やったんだ。で、どこ?」
「は?知らんし。」
「いやだから、聞いてたから。今おもっきり話してたじゃん。」
「いやだからなんのこと?」
「はぁ?今ここで喋ってたじゃん。エリーの靴隠したままでいいのかってさ。それにアンタ、もう知らないっ言ってたじゃん。」
「だから?なに?ウチは知らな〜い。」
「いい加減に!」
強く言って、近寄る。そして胸ぐらを掴もうと・・・。
「きゃ〜イジメられるぅ〜。」
決して大きな声ではなく、けれどもしかしたら誰かに聞こえていたかもしれない。・・・そう思って、けれど気にせず詰め寄る。
「いい加減しろよ!」・・・ダメだ、落ち着かないと。・・・・冷静に・・・・。
一度、深呼吸を入れる。そしてしたたかに口を開く。
「幼稚。稚拙。浅慮。愚か。・・・ハッキリ言ってバカ。あんまりにも頭が弱い。だからそんな事しかしない。いいよ別に。エリーには友達いっぱい居るし、代わりの靴なんてすぐ見つかる。」
言い立てる度に、彼女からも反論がある。けれどそれを無視して更に責め立てる。
「いい気味ぃ〜とか言ってたけど、こっちの方がいい気味ぃ〜・・・だよ。ってかどーせアンタ友達居ないんでしょ。ああそっか。好きな人をエリーにでも取られちゃった?だから怒っちゃったんだ。だから靴なんて隠しちゃったんだ。」
煽る・・・ことが正解なのかはわからなかった。けど、でもまぁ手を出すよりは・・・・。そう思って・・・言い終えて、胸ぐらから手を離す。
「母親居ないくせに。」
「あ?」
何故、そのような事を言ったのか。ハッキリ言って理解できないし、関連する理由も見当たらない。けれど私が反応したのを見て、彼女は続けた。
「もしかしてあのクソエリカのこと好きになっちゃったの?ああそれか桜華の方?いっつもベッタリだもんね。ママァ〜っつってんでしょどうせさぁ!オマエの母親死んじゃったもんなぁ!」
ーーーー私とその女、2人して声が大きくなっていた。だから覗く生徒が増えていた。・・・・けれどそんなこと知りもしない。見えていない。
・・・・冷静さなんて・・・理性なんてクソ喰らえ。
ーーーー思い、想い・・・そして怒りに駆られ、握り締めた拳を振り上げたーーーーー
・・・・悪いのは私。
私が最初に彼女を煽った。
煽り返されて、殴ってしまった。
どう考えたって、間違えてる。
「・・・・なんで・・・・。」
なんでこんなことに・・・。
結局、エリカの靴は見つからなかった。
彼女らが隠したという証拠も・・・そもそも彼女らが隠したという認識さえ生まれなかった。
・・・だから、私がただ一方的に悪い。
・・・・わかってる。・・・・わかってる。・・・・でもーーーーー
やり切れないこの怒りはどうしたら・・・・・。
やるせないこの心に、どう折り合いをつけたら・・・・・・。
・・・・離れよう。・・・美十といると、絆されてしまう。感情的になってしまう。
・・・・周りが見えなくなるくらいなら・・・・距離を置いて、自分を取り戻そう。冷静で理性的だったあの頃に・・・・。
・・・・間違えているのかもしれない。それはわかっている。けれどそれが、私の決断だった。
【体育祭・種目】
『1年限定・全員参加』→
『2年限定・全員参加』→ソーラン節
『3年限定・全員参加』→
『全学年・全員参加』
→大縄跳び[練習有り]
→ムカデ競争[10人×4回×50m(直線)]
『全学年・各参加者』→クラス別対抗リレー
(男子限定)[4人×100m(トラック半周)](4人)
(女子限定)[4人×100m(トラック半周)](4人)
(男女混合)[女子2×100m(トラック半周)、男子2×200m(トラック1周)](4人)
→訳ありペア競走[8回×50m(直線)][二人三脚、背中で風船運び、手繋ぎ縄跳び、デカパン](16人)
『体育委員、及び、生徒会各参加者』
→応援歌[振付あり]
『部活動参加者・全員参加』→部活動行進
『部活動参加者・各参加者』→部活動対抗リレー
(運動部・男子限定[2×200m+2×400m])
(運動部・女子限定[2×100m+2×200m])
(文化部・男女混合[2×50m+2×100m])
(尚、人数が足りない場合は、各部活動の担当教員が参加するものとする。)
【体育祭・種目順番】
ーーーー午前の部ーーーー
1.入場・開会式・宣誓(全員参加)
2.訳ありペア競走(1年→2年→3年)(各参加者)
3.ムカデ競走(1年→2年→3年)(全員参加)
4.クラス別対抗リレー・男女混合の部(1年→2年→3年)(各参加者)
5.教員+PTAによる綱引き大会(各参加者)
6.大縄跳び(全学年)(全員参加)
ーーーー昼休憩ーーーー
7.体育委員より・応援歌(振付有り)
8.セレモニー(得点状況の確認・各部活動の過去の実績紹介)
ーーーー午後の部ーーーー
9.部活動行進・各部活動の現在の実績紹介(部活動参加者)
10.部活動対抗リレー
・文化部男女混合(各参加者)
・運動部女子限定(各参加者)
・運動部男子限定(各参加者)
11.ソーラン節(2年)(全員参加)
12.クラス別対抗リレー
・1年、女子限定、及び、1年男子限定(各参加者)
・2年、女子限定、及び、2年男子限定(各参加者)
・3年、女子限定、及び、3年男子限定(各参加者)
13.閉会式、得点発表、表彰、閉幕




