10.男の背中は乗り心地抜群のようで・・・・
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抱えた恋心に終わりはない。
ーーーー恋とは・・・・相手を知り、共に歩み、最終的に全てが嫌悪感で染められること。
それが、ありふれた恋の在り方。情熱的な恋の在り方。
けれどそれは本当の恋ではなかった。ただ純粋な想いに駆られて、突っ走っただけに過ぎない。
もちろんそれも1つの在り方だとは思う。けど、でも本当の恋心は永遠のものだから。・・・ずっと側にいて、側にいて欲しくて、ただそれだけでいい。冷めることも膨らむこともない。ずっと変わらない永遠。それが、本当の恋心。・・・・だから抱えた恋心に終わりはない。
・・・・果たして、私が抱えたモノが”それ”であったかどうかは定かではない。
みんなが言うには、恋焦がれると胸が熱くなるらしい。その人のことばかり考えてしまうらしい。その人に夢中になってしまうらしい。
けれどでも、私は美十にそんなこと・・・・。
「ない」・・・とは言い切れない。でも、みんなが言うような恋心は、私の胸中にはなかった。
もちろん一緒に居たいと思った。側に居てほしいと思った。でも、これを恋心と呼ぶには、「どうも違う」と感じてしまう。
・・・・尊敬?・・・崇拝?・・・・・わからない。
でも、それでいい。私は、それでいいと思った。
不必要に悩んだり迷ったり考えたりするよりも、ただ心のままに、美十の側にいようと・・・・。
ーーーーーその結果が”アレ”だった。ならばもうーーーーー
・・・・離れよう。添い遂げることなく、ただ、彼女の為に、心身を尽くそう。
ーーーー恋心は完全に否定する。その上で、側にいるとーーーーー
ーーーーーそれが、私の歩む道。だからミト・・・。これ以上、私に寄り添わないでーーーーーーーー
ーーーーーカサカサ・・・・カサカサ・・・・。
茂みの音に、目を覚ます。
暖かな陽光が、森を抜けて私を照らす。
・・・・朝・・・いや、昼前?・・・結構寝てた・・・のかな・・・・。
もしかしたら、1日2日と眠りに入っていたのかもしれない。そんな感触を味わいながらも、物音が聞こえた方向を警戒する。
ーーーー明らかに大きな影。
「だれ!」
隠れようかとも考えたが、フィリデイだし、最悪の場合は殺り合えると確信して、手近にあった木の棒を掴み、構える。・・・・が、瞬間、違和感を覚える。
・・・・ッッ!?なんで今までッッ!!
ーーーーなぜ、今まで気づかなかったのだろうか・・・・。こんなにも歩いたというのに・・・・。
ーーーー己の現状を知り、足が竦み、咄嗟に物陰に入ろうとした・・・・が、遅かった。
「お、おお!・・・おぁッ!すまない!」
茂みを抜け姿を見せた男が、慌てて顔を反らし、両手で視界を塞いでしまう。
・・・・何して・・・。
思い、行動の意味を理解した。
・・・・アタシッッ!!!
慌てて恥部に当たる2カ所を、腕と手を使い最大限に隠す。・・・そしてへたり込む。
・・・・顔・・・あっつ・・・。・・・やっばぁ・・・・。もぉ・・・・なんでアタシは・・・・・。
「・・・・ふぅ。あ、あの、服、ありませんか?」
落ち着いて聞く。・・・・相手は、私を見て顔を反らしたし、今も見まいと背を向けている。つまりは”理性的で堅実な人”なのだろう・・・と信頼して。
「あ、ああ、ちょっと待て。・・・えっと、背を向けているから顔から手をどける。」
わざわざ説明してくれるあたり、本当に良い人なのだろう。
・・・・運が良かった。
思い、けれど直ぐ様否定する。
・・・・こんなところにいる時点で、碌な目に遭ってないな・・・・。
私も彼も、運が悪い。なにせここは『喪失地』。フェアリエにより奪われは土地。・・・・即ち、ここらには人が居らず、フェアリエが闊歩しているということ。
「今、そっちに投げる。着替えたら言ってくれ。」
言って、彼があり物をいろいろ投げてくれた。
・・・・厚手の大きな布切れに帽子に・・・・・・包帯?・・・いや、マフラー?
横は数m、縦幅20cmくらいの白く細長い布切れだった。
・・・・ああ、サラシか。こんなものまで・・・・。・・・・褌にでもすればパンツになるかな・・・・・。いや、動き回ることを考えたら胸を支える方が優先か・・・・。下は最悪布切れで覆うだけでも・・・・いやどうだろ。汚れが直接付くのは避けた方が・・・・・・・・。
考えている間にも、彼がリュックの中を漁り、使えそうな布類を・・・更に服を脱ぎ、それすらも渡してくる。
「ああ・・・っと、パンツはいるか?俺が今履いているのにはなるが、必要なら脱ぐ。」
シャツ1枚と迷彩柄の長ズボン姿の彼が、両手を挙げながら聞いてくる。
・・・・・なんで両手挙げてるの?・・・まあいいや。
「大丈夫。今あるので十分。」
言って、着替える。
ーーーー大きな布切れは、腰に巻いて、裾を股の後ろから通して巻いた内側に差し込んでズボンの形に。
ーーーーサラシは胸に巻いて、その上から渡された上着を切る。
ーーーー帽子は、中に髪束を入れた状態でかぶる。
「できた。」
言って、彼に近づく。
すると彼も振り向く。正座をしながら。
・・・・別にそこまで固くならなくてもいいのに・・・・。
「・・・・ああっと・・・傷の手当もしようかと思ったんだか、近くに清流がある。そこで先に洗い流してからにしよう。それでいいか?」
「うん。」
「靴は・・・・すまない。あり物じゃ直ぐに作れそうにない。移動は俺が背負おう。その足じゃ辛いだろう。」
「別に・・・」
「気にするな。荷物は後で取りに来る。」
「フェアリエは?」
「近くには居ない・・・だろう。ここまでまだ一匹とも出会っていない。それに、簡易守護結界もある。」
「なにそれ。」
「ああ、守護壁の簡易版みたいなものさ。この生命石持った状態で、6本の杭を対象を囲うように地面に刺す。するとフェアリエが避けてくれる・・・・ってもんさ。」
胸に掛けたネックレス。その飾り部にある青白く濁った石と、少し黄ばんだ白色に武骨な見た目をした杭が6本。それらを見せながら、彼はそう言った。
「そんなのあったんだ・・・・。」
「ああ。・・・・移動しながら話そう。」
言って、彼は手に持った6本の杭を再びポケットに仕舞い、私の前で背を向けしゃがむ。
「ありがと。」
躊躇うことなく、彼の首に手を回し、背中に体を預けた。
「よし!・・・そらッ!・・・っと。」
立ち上がり、ふらつき、踏ん張り・・・そして歩き出した彼が、話の続きを始める。
「・・・簡易守護結界。フィグラチェラレ。・・・造られたのは最近さ。」
「えっ?」
守護壁の製造には苦労している。それなのに、同様の特殊効果を持つ物が作られたという。・・・・もしそれが本当なら、いずれ守護壁の製造も可能になるということだろう。
ーーーーそれを知り、驚きの声を上げた。・・・・が、そうではないらしい。
「とはいえあくまでも、守護壁を研究していた過程での副産物さ。・・・・要は、元々あった守護壁を解体して研究していた時に、そういう使い方もできると解った。それで一部をこうして転用した。それを俺が持っていたってこと。」
「じゃあ数はないんだ。」
「その通り。数も少なく、そもそも今ある守護壁の一部。これ以上の増産は今ある守護壁の消費を意味している。上はそれを嫌って今ある以上の簡易守護結界を造ることはなかった。だから広く知られることもなく、一部の人間だけが実験的な意味で持っていた。」
「もしかして偉い人?」
「ああっと・・・・・・いや違う。これは元々俺の上司が持っていたもんさ。ただ・・・その・・・な?」
「そっか・・・。うん。」
・・・その人は死んでしまったんだろう。
「そもそもどうしてここに・・・・そういやだけど、アタシは月見里 兎美麗。名前、まだ聞いてなかった。」
「そういやそうだな。俺は、蓮華 躑躅。3等・・・・いや、ただのおじさんさ。」
・・・オジサンって・・・そこまでの老け顔には・・・・・。ああいや、叔父さんか。・・・うん。
「・・・・それで、ツツジさんはどうしてここに?」
「フェアリエの巣・掃討作戦が破綻した時、俺たちはあの崩落には辛うじて巻き込まれなかった。・・・だが他はそうじゃない。フェアリエの巣に叩き落とされた連中はフェアリエに殺されて、それを助けるために俺たちや動ける生き残りの部隊がフェアリエを引きつける役目を担った。」
あの状況でもちゃんと動いてたんだ。・・・やっぱりすごいな・・・・。
「それでまあ、あの手この手でフェアリエの注意をこっちに向けて、そのまま引きつけながらフェアリエの巣から離れていった。・・・・もちろん、死ぬつもりでな。フィリデイが居ない状況でフェアリエに追われるんだ。・・・・もし装甲車に守護壁が使われていたら違ったかもしれないが、そもそもそれだとフェアリエを引き付けることができない。だから結局は助かる見込みなんてない役目を果たそうと、因幡とは逆方面に向かって通常の装甲車で全力疾走さ。銃をぶっ放しながらな・・・。それで・・・・まあ、生き残る為にいろいろはした。けど犠牲を重ねるだけで・・・・結局、簡易守護結界を持っていた俺だけが生き残ったってわけさ。」
「・・・・そっか。」
・・・彼は、何故自分が簡易守護結界を持っているかを口にはしなかった。けどきっと、それは持たされた物で、自分から奪った物ではないのだろうことは、彼の在り方から用意に推察できた。
「・・・・なら、生き残って帰らないとだね。」
「・・・・ふっ。・・・ああ、そうだな。」
ーーーー既に大いに疲れているであろう彼の足取りは次第に軽く・・・・。きっとフィリデイと出会って希望がより強く芽生えたのだろう。けれど・・・・・。
・・・・ごめんなさい。アタシ・・・・フィリデイじゃないみたい・・・・。
恐らくは、フィリデイである。ただの人間に戻ったわけではない。・・・けれど、フィリデイとしての戦闘能力は、皆無。それを先程理解した。
木の枝を握った筈の拳は余りに弱々しく、心に宿る筈の熱は完全に冷え切り・・・・ただ、恐怖と不安と痛みだけに染まっていた。
・・・・そこにいたのが彼で良かった。・・・その瞬間に感じだ安堵は、母を見つけた迷子の幼子みたく・・・・本当はただ泣きじゃくって抱擁されたかった・・・・。
・・・・本当に、良かった。
ーーーーーそうして私は、彼の背に体を預けながら、再び深い眠りについてしまったーーーーーーー




