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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
アジサイ[第一章]
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08.全てを見通す眼を持つあの子は、

1741.4/--

(1737.9/--)

 ーーーー美十と出会い半年近く・・・。まだまだ知らないことは沢山だけど、それでも「美十は普通じゃない」ということは理解した。

 まるで「超能力者なのか?」と勘違いしてしまうほどに、人の心をよく知っている。もしかすると本当に覗かれているのかもしれない。それくらい、美十という人間は異常だった。

 とはいえ美十は、それを曝け出すような真似をしない。基本的には心のうちに仕舞い込み、必要な時に必要な要素だけを抜き取り話しかけてくる。また話の内容にも自然と言い含める形だから、「心を覗かれている」という恐怖や嫌悪を感じることもない。・・・というか大半は、「私のことこんなにも見てくれてるんだ!」・・・って思うだけで、「美十に心を覗かれている」なんてことに気づきもしない。

 ・・・・いや、実際に覗かれては・・・いないはずで・・・。でもだとしたらどうしてあんなにも・・・・。

 ーーーー本当に、美十は一体何者なのだろうか。・・・美十が見てる世界は、私とどれ程違っているのだろうか・・・・。

 疑問に思えば、何時しか自然と美十の姿を追っていた。美十の仕草一つ逃すまいと注視していた。・・・・副委員長として後ろを歩くときも、離れているときも・・・・片時も美十から視線が外れることはなかったような気がする。

 そのせいか、周囲には変な噂が流れた・・・が、「この際仕方ないか」と割り切っていた。

 ・・・・けれど今現在に至っては、それがとてつもなく不愉快に感じてしまう。


 ーーーーお墓の帰り道で美十と一悶着あって以降、どうも私はおかしくなってしまったようだ。

 ・・・・ハッキリ言っておくが、私は別に美十に惚れていない。決して惚れてはいない・・・はず。

 確かにあの瞬間は満たされていた。・・・・けれど後になって思い返せば、恥じらいが大きく、驚きが大きく、それ以前に既に感情がぐちゃぐちゃになっていた。そのせいで抱擁(ほうよう)によって得られる幸福感が異常な程増幅されて、私の脳内を犯し尽くしていた。・・・・ただ、それだけ。後になって冷静に思い返してみても、当時のような情動は沸き起こらず、寧(むし)ろ『申し訳ない』気持ちが溢れてきた。

 ・・・・面倒を、かけちゃったかな・・・・。

 ーーーー思い、けれど口にはしなかった。


 「兎美麗さん?」

 「んぇッ!?あっ!・・・どーしたの?」

 「・・・・大丈夫ですか?」

 「うぇ?何が?」

 「いや、情緒というか何と言うか・・・・。」

 明らかにおかしいのは私も同じか。・・・いや、私の方が一方的に・・・・いやいや、そんな事は・・・・。 

 「だ・・・いじょーぶ。」

 「・・・・そうですか。」

 美十は恐らく・・・いや、絶対理解している。私がおかしな事についての原因を。

 だけどそれは違う。誤解だ。私は決して美十の事を・・・好いてはいるけど、決してそれは恋愛的な意味でなく、大切な友人として・・・・うん。そうだ。その通りだ。私はおかしいかもしれないが、それは決して恥ずかしくて照れくさくてキョドっているわけではない!

 「取り敢えず体育祭については、体育委員に全任せとしましょう。」

 「・・・う、うん。」

 「とはいえ私たちもクラス委員長として補佐役を・・・体育委員が必要を求めた場合は、手を貸します。」

 「りょーかい。」

 「・・・まあですから、いつも通りですね。」

 「そーだね。」

 ーーーークラス委員長である美十と副委員長である私。体育委員である男の子と女の子、プラス先生。計5人での体育祭に関する話を終えたあとの出来事。

 美十と私だけが教室に残り、それでーーーーーー

 「・・・・兎美麗さんは、どの種目に出場するか決めましたか?」

 黒板横に紙を貼りながら、そこに記されていた内容についてを美十が口にした。

 「いや、まだかな。美十のほうは?」

 「私は・・・まあ余り物が出れば・・・・でしょうか?」

 「なにそれ。やりたい種目とかないの?」

 「特にないですね。」

 「まあそっか。アタシも同じだし・・・・どーしよっかな〜・・・・。」

 体育祭は10月の半ば頃。残された時間は既に1ヶ月を切っている。だから教室内に体育祭に関する紙を順々に貼っていっている。その上で、クラス別個人種目への”自主的”なエントリーは今週いっぱいで締め切りとなっている。

 美十はエントリー枠に空きがあれば、それをやるらしい。

 ・・・・なら私も、空きがあればそれをやろうかな・・・。・・・なんて思ったり。

 ーーーーふと、気づく。

 ・・・・二人三脚。

 そこが空欄のままに今週が過ぎたと想像すれば、体育祭が少し楽しみになったーーーーーー

 

 体育祭における個人競技のエントリー枠は、全部で28つ。・・・ただ、内6つはそれぞれ男子限定か女子限定となっている。つまり女子である私がエントリーできる枠は、残りの22枠ということ。

 振り分けとしては、『女子限定のリレー枠』が4つ。『男女混合のリレー枠』が2つ。二人三脚を含む、『訳ありペア競走の枠』が16つとなっている。

 そして『訳ありペア競走』は、『二人三脚』『背中合わせで風船運び』『手繋ぎ縄跳び』『デカパン』の4つの種目の合併だから、二人三脚のエントリー枠は4人。

 運動が苦手な子がこちらに集まるとしても、二人三脚は体が一番密着する分、仲良し小好しの友達同士じゃないと中々にエントリーしにくい。しかも阿吽(あうん)の呼吸が必要で、他の種目が各自ギミックにより走力を奪われる中、二人三脚は走力もそれなりに必要になってくる。つまり運動な苦手な子は二人三脚を避けるはず。そう考えると・・・・・。

 ・・・・行けるか?

 うちのクラスはしっかり者が多い分、2組の能天気共みたいにベタベタ触れ合うような友達付き合いの子たちが少ない。

 仮に1枠埋まっても、もう1枠までが埋まるとは考えにくい。

 ーーーーー考えれば考える程に、余りそうな気がしてきた。

 ・・・・行けるな。

 無意識に、軽く微笑んでいた。

 美十がチラリとこちらを見たのが分かったが、特に何も言ってこなかったので気にしないでおくことにしたーーーーーー


 ーーーーー4日後。・・・エントリーの締め切りが明日に迫った木曜日の2限終わりの休み時間。

 エントリー用紙の前に立ち、名前を書き込む女の子2人の姿があった。

 ・・・・あの子らは・・・そこそこに運動神経が良かったっけか・・・。

 思い、考えるは、「どの枠が埋まるか?」・・・ということ。

 恐らく、ペア競走であることに違いはない。2人だし。・・・・それにリレーに関しては、そもそもの人気がない。

 応援側は毎年盛り上がるし、準備も簡単。だからこそ『男子限定』、『女子限定』、『男女混合』と3つもあるのだろうけど、やる側からしたらただ走るだけの競技。しかも”笑い合って楽しむ”というより、”ガチンコ勝負を楽しむ”という感覚。・・・・もちろんそれが好きな人もいるだろうけど、一般的な考えとしてはやっぱり何かしらの要素があって欲しいもの。だからこそやる側からしたら、『訳ありペア競走』の方が”楽しみやすい”。

 そういうわけで、恐らく彼女らもペア競走に名前を書き込んでいるのだろうけど・・・・・。

 ーーーーー席を立ち、前のドアから教室を出るその道中で横目に見る。

 ・・・・・ああ。

 二人三脚の枠は埋まっていた。

 ・・・・・そっか・・・。

 思いの外ショックを受けたみたいで、無意識に、わかりやすく落ち込んでしまったーーーーーー


 ーーーーー翌日。朝。

 「ん?」・・・・え?なんで?

 二人三脚の枠に書かれていたはずの二人の女の子の名前が、私と美十に書き換えられていた。

 「・・・・・は?・・・ちょっ、ちょっ、ちょっ!ッ美十!」

 恐らく・・・いや絶対に、美十が書き換えた。だから美十に慌てて駆け寄る。

 「どうしました?」

 なんだこいつ、いけしゃあしゃあとしやがって。・・・いや、それよりも・・・・・。

 「あれ!どーゆーこと!」

 黒板横の用紙を指差しながら問う。

 「ああ。・・・頼み、変わってもらいました。」

 「だからなんで!」

 「いえ、昨日、兎美麗さんがあまりに落ち込んでいましたので。」

 「いや・・・・でも・・・・・」

 「お二人も、快く変わってくれましたよ。」

 言われ、彼女らを見る。・・・あまりにも得意に満足げな表情で笑っていた。

 ・・・・なッ・・・ふざけんな・・・・・。ふざけんな・・・・・・。

 私は、美十の机に手をついたまま深く項垂れた。

 「・・・はぁぁぁぁぁ・・・・・・・。」

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