07.爛漫と世界を包む天使のようで・・・・
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「エリのことは『エリー』って呼んでいいよ。」
「わかった。それじゃあアタシは・・・・・。」
考えて、悩む。
・・・・あだ名なんて・・・付けられたことなかったな・・・・。
「しゃ〜なし、エリーが決めていいよ。」
「いいの!?じゃあねぇ〜・・・・ん〜・・・・ん〜・・・・・・・」
思った以上の長考に笑いながらも、待つこと数分。
「う・・・うさぎ?」
あまりの安直さにシュン・・・・と真顔になる。・・・後ついでに、それは普通に嫌。だから・・・・
「チェンジで。」
「あはは・・・だよね。なんか難しいね。こう・・・そもそもエリ、ツミレちゃんのことまだ知らないから・・・・。」
・・・ん?あだ名は名前をモジッてとかじゃ・・・・あぁ、いや、この娘がそういったスタイルなのか。
「わかった。それじゃあ後でいいよ。今はそのままで、ね。」
「うん!そーする!」
ーーーーー・・・エリー・・・・。・・・エリカ・・・。天光 エリカ・・・。
大丈夫。・・・覚えてる。覚えてる。覚えてる。・・・・忘れてなんかない。
思い起こせば、みんなの顔が・・・みんなの名前が浮かんでくる。・・・・だから「私は大丈夫」・・・。まだ自然と笑っていられるーーーーー。
・・・・帰ろう。早く・・・・。
進む足取りは、泥沼に沈んでしまったかのように重たい。けれど心だけは、いつまでも空を羽ばたいているからーーーーーーーー
ーーーーー「総長!押忍ッ!!」
目の前で頭を下げるエリカを見下ろしながら、頭を抱える。
『総長』。・・・それが、私に付けられたあだ名。
美十が『委員長』。私が『総長』。・・・・ならエリカは『子分』か。そんでもってあの子が『御嬢』で?あっちの子が『番長』?
・・・・いや、待て。そもそもなんで『総長』なんだよ。
「エリ〜。”みんなの前”でそれは、や・め・て・ね?」
「すいやせんソーチョー!!」
いや、やめろし。
「・・・・はぁ・・・。」
額に手を当てため息を吐く。ーーーーが結局、速攻で定着していまった・・・らしい。・・・・裏新聞から再三にわたって話が来たし、どうやら私のいないとこでは当たり前のように『総長』という符号を付けられているとの伝聞を聞かされて、それを理解させられた。
とはいえ私を前にして『総長』と口にするものは、エリカと恐れ知らずの他数人だけだった。・・・・あと時折ではあるけど美十も・・・か。
「・・・・納得いかないなぁ・・・。」・・・なんで私が『総長』なんだよ・・・・。
別にバイク乗り回してないし、荒くれ生徒をまとめたりしてないし・・・・。
印象としては『美十の付き人』って立ち位置だと思うんだけど・・・・。
・・・・因みにどうやら、『番長』なるあだ名を付けられた人も居るらしい。
「・・・ふっ。」・・・・その子とは仲良くなれそうだな。
・・・・さて、あだ名の件に関しては取り敢えず保留としておくとして、部活をどうしようか・・・・。
夏休み間、ちょくちょく学校に立ち寄りエリカに案内されるがままにいろんな部活に触れてみたけど、結局決めず仕舞いでここまで来てしまった。
その間、エリカとは仲良くなれたことは、まぁ・・・・・・よかったのだろうか?・・・・『総長』なるあだ名の原因は此処に集約しているのだけれど?
・・・・まぁ、良いとしよう。過ぎてしまった事だし・・・・。タラレバを垂れても仕方がない。
・・・・さて。
進む足取りはいつになく軽いような気がする。・・・ただ、心に巣食う病魔が日に日に大きくなっていることを忘れてはいけない。
私は・・・・辛い?
・・・・不確定だ。・・・何と言うか、辛くて苦しいのに、それを歯牙にも掛けず生きているというか・・・・。辛いことに変わりはないのに、最早それが嘘で、それこそが真実かもしれない・・・と思えてしまう。私はただ辛くありたいだけで、本当はもう何の気なしに生きていけるのだと・・・・。
ーーーー帰り道。私はお墓に寄った。
そして知る。己の弱さをーーーーーー
ーーーー進む足取りが次第に重く・・・・。それでも、一度踏み出した歩みは留まることを否定し前へ前へと進み行く。
・・・・大丈夫。・・・・大丈夫。・・・大丈夫。・・・大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。・・・・大丈夫だから・・・・・・。
ーーーー『締め付けられる心は、こんなにも苦しいのか』・・・と知る。
呼吸は浅く、動悸はより激しく・・・・。
暑さによるものでない汗が滲み、嫌に寒気を強くする。
それでも進み、母の前へーーーーー。
『月見里家之墓』
ーーーー触れる。震えた指で。
ーーーー崩れる。震えた脚が。
ーーーー落ちる。震えた瞳から。
「・・・・あぁ・・・はは・・・はははは・・・・・・あははははは!!!・・・ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
ーーーーーこれで、良かったのだろう。抱えきれなかった想いを、ようやく吐き出せたのだ。ならばこれを間違いなど、言えるはずもなくーーーーーー
ーーーーお盆の日。その日も此処に来たはずなのにな・・・・。
その日と今日で、何が違ったのだろうか・・・・。
・・・・分からない。けど、それでいい。
小さな”ナニカ”が積み重なって、それがふとした切っ掛けで破裂する。
些細な出来事を切っ掛けと言うには余りに物足りなく、けれどいくら振り返っても大きな出来事は見つからない。・・・・きっと後になって、「ああ、そんなこともあったな・・・」・・・って思いつくかもしれないけど、でもそれだって沢山あった些細な出来事のひとつに過ぎない。
だから気にすることはない。・・・・気にすることなく、今まで通りに日々を送ればいい。・・・・だって後悔なんてしていないから。道を切り替えるのは、後悔を知ってからでいい。私はそれでいい。
ーーーーお墓に寄った帰り道。
こんな偶然もあるのか・・・と、立ち止まる。
「・・・兎美麗さん?」
視線の先には美十がいた。
「こんなところで・・・・」
「ああ・・・こんばんわ?」
「・・・・ええ。こんばんわ。」
静かで優しい口調だった。そして、お墓から帰るその道すがらを知ってか、美十が私に近づく。
「あぁ・・・えっと・・・・・・」
目尻を赤く腫らした今の顔を見られまいと、あらぬ方向を見る。・・・・朱色がかった夕焼け空だと、泣きじゃくった後の顔もバレまいて・・・・。
「・・・・おかえり。」
不意に、そっと撫でるように、美十が私を抱いた。
「んひッ?!」
こそばゆくて、驚いて、素っ頓狂な声が漏れる。
・・・・身長差的には私のほうが大きいから、周囲から見れば私が美十を困らせたように見えるかもしれないし、変な誤解を生ませるかもしれない・・・・が、逆も逆。
・・・・困り果てたのは私。
・・・・慌てたのは私。
・・・・恥ずかしがっているのも私。
・・・・カチコチに固まっているのも私。
・・・・顔を赤くしているのも私。
・・・・全部・・・私。私が襲われている!
「へぁッ・・・ぇぁ?・・・ぇぁぁ??」
なおも続く素っ頓狂な声を無視して、美十がもう一度口を開く。
「・・・・おかえり。」
・・・・訳がわからないよ。・・・おかえり?何が?どして?どこから?いつ帰ったの?ここが・・・家!?
「あぉ・・・ぉあ・・・ぉあ・・・ぉぁぁぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・ん゛ッう゛ん゛。・・・ふぅ。・・・すぅ・・ふぅ・・・・。・・・うん。・・・・た、ただいま?」
ーーーーチュンチュンと鳴く小鳥たちがーーーー。
ーーーーザァザァサワサワと喚く草木たちがーーーー。
ーーーーミーンミーンと煩い蝉たちがーーーー。
・・・・聞こえる全てが、まるで私に向けられた祝賀のようでーーーーーー
「・・・・おかえり。」
抱いた腕を離され、今度は両手を取られーーーー。
「・・・・おかえり。」
ーーーーーきっと感情的になっていたせい。
・・・・頬がこんなにも熱いのも、
・・・・胸がこんなにも苦しいのも、
・・・・取られた手がこんなにも暖かいのも、
・・・・心臓が今にも張り裂けそうなのも。
・・・全部・・・全部きっと、感情的になっていたせい。どれも私が弱っていたから。ただ、そこに付け入られただけ。・・・・だから!
「・・・・一緒に帰ります?」
「・・・ん。」
ーーーー誘われ、頷く。
ーーーー手を引かれ、歩く。
・・・・こんな時間が、ずっと・・・・。
ーーーー願い、彼女を見る。・・・・それだけで・・・・・ただただ嬉しかった。満たされていた。
そんな刹那的な瞬間が、時間を永遠に拡張していくーーーーー。
・・・・この世界には私と貴方の2人だけ。
・・・・歩けど歩けど、道は一向に途切れない。
・・・・夕焼け空が終わりなく続いていく、来ることのない明日まで・・・・このままずぅっとーーーーーーー




