06.明るさ満点のあの娘は、
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・・・・・あれ?ここは・・・・。
日が落ち、日が昇り、日が落ち、日が昇り、日が落ち、日が昇り・・・・・・・・。
幾度繰り返されたのか・・・・。
もう何日もこうしていたような・・・・・。
ーーーー目が覚めてみれば、茂みの中で倒れていた。・・・・覚えていることと言えば・・・そう。確かフェアリエが居た。沢山のフェアリエに囲まれていた。
ーーーー咄嗟にインシーニェを手に取ろうと・・・・しかし腰に伸ばした手は空を切る。
驚き、焦り、恐怖に駆られる。そして駆け出した。
フェアリエの大群の中を、恐怖に染め上げられた思考で走り続ける。
フェアリエを掻き分け掻き分けて、痛む足が血だらけになりながらも走り続けた。そうして私は・・・・・。
・・・・おかしな事だ。・・・なんで私は、フェアリエに襲われなかったのだろうか・・・・。
心の中は凪のように平穏で、とても清々しい気分に浸りたくなる。・・・けれどその異常性を理解する度、私の中にある”ナニカ”がざわめき始める。
・・・・落ち着こう。とにかく現状を・・・・。
冷静に、まずは自分の様態を見る。
・・・・裸だ。
正確には、裸に近いほどに、衣服がボロボロに破れ去っていた。
・・・・まずは服をどうにかして・・・・あと靴か。
血だらけの足。・・・体中にかすり傷がつく中、足だけにはあまりにも酷い怪我を負っていた。
ーーーー意識すると、ジクジクと痛み始める。
「・・・・いッ・・・つつ・・・。」
・・・・さて、どうしたものか・・・・。
周囲を見回し、靴に使えそうな何か・・・何でも・・・ありそうなもので言えば、なるべく大きな葉っぱを探す。・・・が、見つからない。
見渡せる範囲の葉っぱは、どれも小さいものばかり。・・・・もっと広範囲探せば見つかるかもしれないけど、この足で歩くのは避けたほうが・・・・。
・・・・それよりもまずは洗わないと・・・か。
早急に必要。且つ、寄生虫や病原菌の心配も考えなければ・・・・。
詳しくはわからない。けれどこの状況で自然物を使うのは、やっぱりやめた方が良いかと判断。ナメクジが這った跡とか、菌糸が張ってたり・・・・。
かと言ってこの傷じゃあ裸足で歩くのも辞めたほうがいい。
・・・・さて、どうしたものか。
とはいえ考えるまでもなく、思いついていた方法を選択する。
・・・・大丈夫。此処には私は1人。・・・・うん。
『既に』でもあるし、気にするのもあれなので、なけなしの服を破り足に巻き付けた。
・・・・我慢。・・・・というか気にするな。とにかく今は・・・先に水源を見つけよう。
傷だらけの足を・・・ひいては全身を洗うため、なるべく綺麗な流れのある水場を探す。
・・・・そもそも何日・・・・私はこの状態で・・・・。
ここに至るまでの記憶は朧げで、幾日過ぎたのかがハッキリしない。
こんな森の中、傷だらけのまま清潔さを欠いてしまえば、直ぐに感染症を患ってしまいそう。・・・それにテレビで時折見る遭難者の中には、『蠅に卵を産み付けられた』・・・なんて人もいた。・・・・流石に体の中で蛆虫が蠢くのは御免被りたい。
ーーーー想像すれば、ゾワゾワ・・・っと、身の毛がよだつ。
・・・落ち着こう。まだ大丈夫だから。
化膿は避けられないだろうけど、感染症と蛆虫だけはなんとしてと避けなければ。・・・命と心根に関わる。
ーーーーそうしてその場しのぎの布靴を作り終えた私は、痛みに耐えながら慎重に歩き始めたーーーーーーーー
ーーーーーー7月下旬。夏休みの始まり頃。
「部活には入られないのですか?」
「ん〜・・・・」
「お嬢様、青春ですよ?」
「・・・・いや、でもこれといって興味も無いし・・・・。」
「興味なんて関係ありません。やってみれば案外楽しいものですよ?」
私にそう問う家政婦さんはどことなく楽しそうで、もしかしたらこの人も今青春を謳歌しようと、私という中学生を相手に同じ立場で話しているのかも・・・・なんて思ったり。
それで少し、家政婦さんの昔が気になった。・・・・ついでに言うなら、アドバイスを欲したのかもしれない。私だって別に本気で・・・・・・。
「・・・・蕾さんは何してたの?」
「私はお嬢様部にてメイドをしておりました。」
「お嬢様部・・・・。そんなのあるんだ・・・・。」
「はい。・・・といっても私が通っていたのは私立の女子中学校であり、且つお家柄もそこそこに高い人たちの集まりでしたので、それが高じて創立時よりお嬢様部の発足に至った次第だとか。・・・つまりは教育の一環ですね。」
「へ〜・・・・。ん?でもメイド?」
「はい。えっと・・・実は一昔前までは、メイド部は存在していたんです。ただ・・・・。そもそもお嬢様部とは、それ相応の振る舞いと強かな風格を身に着ける場という理念の下成り立っていたのです・・・が、同校の皆様はそれ相応のお家柄ということで幼少の頃よりそれなりの教育を受けていました。なので結果としてお嬢様部の理念はあまり機能しておらず、どちらかというと『みんなで楽しくお茶会しましょうね』という場になっていたのが事実ですね。
そして、生徒数の減少、加えお家柄のご都合もあってか、そもそもの部活動参加者自体が少なくなっており、『どうせお茶会するならメイドも混ぜてしまおう』・・・ということで、メイド部とお嬢様部が合併する運びとなったのです。」
「へ〜・・・・。・・・・蕾さん、女子校?」
「はい。」
「青春はあったの?」
「ええ。・・・いえ、そうですね。・・・まあ、あったと言えばありました・・・ですか?・・・本格的に経験する機会は、私には訪れませんでしたが。」
「・・・後悔?」
「いえ、どちらかというと羨望・・・憧れですかね。」
「憧れ?」
「私自身にそういった機会は・・・ゼロではありませんが、しかしどれも中途半端でして・・・・。しかし同校の皆様の中・・・何よりお嬢様部の中に、青春を満喫しておられる方がおりましたので。」
「目の前で見せられて、羨ましかったんだ。」
「・・・・そうですね。眩しく、楽しそうで・・・・やはり、青春が不十分な他とは違いました。・・・・それに後になって皆様と話す機会も多くあったのですが、やはり皆様、大小違いはあれど青春に対する不満は抱えておりましたから。」
「だからアタシにも青春をと?」
「はい。・・・・いえ、正確にはその機会を・・・ですか?後悔は、どの道付き纏います。が、経験しようと努力したかの有無によって、そこには明確な違いが生まれると思いますので。」
「・・・・そっか。」
「はい。・・・・友達と・・・あるいは恋人と、海に行った。一緒に勉強した。買い物に行った。夏祭りに行った。・・・・それらの有無により、今後の後悔の種類が天と地程に変わるでしょう・・・・と、私は思いますので。」
「思い出作り・・・的な?」
「はい。・・・・思い出があれば、当時の日々も思い出せます。・・・当時の日々を懐かしむことができれば、感情が色褪せることもありません。・・・それ故後悔はあれど、失望することも失意に陥ることもないでしょう。・・・・私はそう考えます。ですからお嬢様。・・・部活、しましょう!」
「・・・まぁ、考えてみる。」
ーーーー翌日10時頃。・・・・結局私は、学校へと向かうことにした。
・・・・あっつ。
日差しのせいで、余計に気分が乗らない。
・・・・もっと早く家出ればよかったかな。
・・・・っていうか部活動見学・・・まだできるかなぁ・・・・・。
憂鬱な気分のまま、それでも引き返そうとは思わなかった。
・・・・ジメジメ・・・カラカラ・・・・。
日差しのせいで汗が吹き出し、もの凄いスピードで体から水分が抜け落ちていく。
加えてミーンミーンと大合唱を奏でる蝉共はあまりにうるさくて、イライラが絶頂期を迎えていた。
「うわぁっぷぁッ!!」
中学校へ行く道・・・曲がり角に差し掛かったタイミングで、同校の生徒が飛び出してきた。
「ごめッ!だいじょーぶだった!?」
「うんアタシは。・・・アンタこそ大丈夫?」
驚きでイライラが落ち着いたおかげで、冷静に言葉を返せた。
「うん!ありがと!あっ、エリ行くね!」
・・・能天気と言うか天真爛漫と言うか・・・・。忙しない娘だったな・・・・・。
とはいえその屈託の無い笑顔や声は、思いの外心を解してくる感じだった。
・・・・あれは、2組だな。
思い、軽く笑う。・・・・理由や意味は、特にない。
ーーーー出会いは何時だって偶然で、その瞬間は唐突やって来る。・・・・朝のあれは、まさにその布石だったーーーーーー
「好きです!付き合って下さい!!」
「・・・・あ、えっとぉ・・・・。」
教室の中、朝に会った娘が告白されていた。
その娘の視線が、私に向く。
つられて告白していた男の子も、こちらを向いた。
「・・・・なんか、ごめん。」
・・・・タイミングぅ・・・・。
ーーーー朝。学校に着いたあと。・・・私は「どうしようか」と迷った結果、何となく1組の教室へと向かうことにした。・・・・その道中。ちょうど2組の入り口を横切ろうとした瞬間に、これだ。後1、2歩遅ければ、見つかることなくやり過ごせただろうタイミング。けれど実際そうはならず、バッタリと鉢合わせてしまった。それも告白の口上を述べたタイミングでーーーー
「・・・・はぁ。」
1組の教室内。美十の席に座り、ため息を吐く。
・・・・引き返したほうが良かったかな・・・・。隣りに居るって分かってれば、告白しにくいだろうし・・・・。
とはいえ今から引き返すのも・・・・いや、「鞄を置きに来ただけ」ってことでで手ぶらで通り過ぎれば、自然か?・・・・・・いや、ないか。姿が見えた時点で終わり・・・・。うん。
「あっ・・・・えっと・・・・。」
頬杖をついて運動場を眺めていた私に、さっき告白されていた子が駆け寄ってくる。
「エリは・・・エリカ。よろしく・・・で、いい?」
朝の天真爛漫さとは違い、恐る恐る・・・という雰囲気に、少し違和感。だから・・・・。
「何そのぎこちないの。」
笑って聞いた。
「あは・・・ごめん。」
「いいよ。・・・それで、どうだったの?」
聞いていいものかと思いつつも、場の雰囲気を変えるためにも聞いてみた。
「あぁ・・・・うん。断ったよ。」
「アタシのせい?」
「ううん!違う!・・・違うよ。・・・・エリ・・・そういうのまだちょっと分からなくて・・・・。」
「ふ~ん・・・そっか。・・・あ、アタシは兎美麗ね。月見里 兎美麗。よろしく。」
「ツミレ・・・ちゃん。・・・うん!よろしく!」




