05.あの子の内なる灼熱に焼かれて・・・・
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『どうして傷つけ合うのですか?』
『どうして仲良くなれないのですか?』
『心が痛いです』
『苦しいです』
『楽しくありたいです』
『僕らはひとりじゃない』『僕らはみんな一緒』
『僕らはひとつ』『みんなでひとつ』
『命はひとつ』『意識はひとつ』
『だから怖くない』『寂しくない』『辛くない』
『楽しい夜』 『楽しい朝』
『いつも一緒』 『いつまでも一緒』
『ほら、海風は命の匂い』『命の雄大さを教えてくれる』
『ほら、草木は自然の匂い』『自然の優雅さを教えてくれる』
『ほら、太陽の光は暖かな安らぎ』『母なる星に愛情を教えてくれる』
『ほら』 『ほら』 『ほら』 『ほら』『ほら』『ほら』『ほら』『ほら』『ほら』『ほら』
『・・・・・ほら。僕らは命の塊。僕らは自然の徒。僕らは星の子。だから何も恐れないで。此処は還るべき場所。穏やかな光りに包まれて胎児に還る。やがて星に還る。だから何も怖くない。だから・・・キミもおいでよ。』
「・・・・うん。』
「アナタのお家はそこじゃないよ。ほら、みんな待ってるから。・・・・だから歩いて。」
『・・・・ぇあ・・・あ・・・」
振り向き、駆け寄り、泣きじゃくる。
側にいる貴方を抱き締めて、ずっとずっと泣きじゃくる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛・・・・・・・」
ーーーーーもう戻れない。
・・・・・そんな事はない。
だから歩こう。歩こう。歩こう。
ーーーーズタズタに引き裂かれた足で大地を踏み締め続ける。
何時か辿り着けると信じて・・・・アナタの言葉を信じて、今はただ歩き続ける。
ーーーーーー教室の中。美十と2人で仕事をこなす。
「・・・・ねぇ。なんでそんな構うの?」
ふと思い至り、聞いた。
「何のことですか?」
「いや、生徒にさ。・・・・別に注意するだけでいいし、それがめんどいなら無視したり、適当にあしらったりすりゃいいじゃん?ルール破って人に迷惑かけてるのは向こうなんだからさ。」
「・・・・そうですね。」
「・・・・それだけ?」
もっとこう、具体的な理由が聞きたかったのだけど・・・・。
「説明できることでもないので。」
「どーゆーこと?」
「そのままの意味です。」
「は?」
「私にもよく分からない。それだけです。」
「ああ。」
・・・・いや、だとしたら相当だな。自分から手を焼くなんて・・・・。
まあでもそれが、彼女の真性・・・『当人が持つ人間性の根源』・・・とでも呼ぼうか・・・・。
彼女は、そういう人間なのだ・・・・と、漠然とではあるけど理解する。
ただ、その在り方自体にはどうしても腹が立つ。
・・・・自分を犠牲になんて・・・・。
とはいえ、当人はその事をまるで歯牙にも掛けず平然とこなすので、私からとやかく言うべきでないと口を噤む。・・・・・が、その皺寄せが私に来るのはいただけない。
「アンタの言ってることは概ね正しいし、注意された子も納得してる。けど・・・・」
彼女は、人が持つ合理性と感情をよく理解している。だから相手を知り、慮り、その上で理性的に説き伏せ、納得させる。・・・・相手に寄り添った上で、『大多数が受け入れやすい合理的な説明』を行い場を収めている。その一連の話術に、人は反論することを躊躇う。ただだからって、それはあくまでも収めているだけ。いくら納得しようと、人の心にある不満は取り除けない。
「裏じゃグチグチ言ってる子もいる。特に”あの”グループ。・・・やっぱ注意されたぶん不満は溜まるし、それを何処かで吐き出せなきゃ結局誰かが犠牲になる。」
「何が言いたいんですか?」
「・・・・・要は、アンタに注意されて溜まった不満を、別の誰かにぶつけてるってこと。」
「いじめ・・・と?」
「そーゆーこと。」
「どこで?誰が?」
静かで、無表情。・・・・これといって憤慨しているように見えなければ、興味を持っているようにも見えない。・・・・だというのに、なぜかとてつもなく怖くなった。「何をしでかすか分からない」という直感が、恐怖を顕にさせてくる。
「何する気?」
堪らず聞く。
「委員長の役目として、止めさせます。」
「どうやって?」
「それは時と場合によるところです。」
「・・・・殺さない?」
「はい?」
口にはしていなかったが、「何言ってんだこいつ」・・・と言われた気がした。
「何でもない。まあとにかく、よろしく。」
「兎美麗さんも一緒でしょう?」
「・・・・うんまぁ、ついて行くかな。」
「それで、誰ですか?」
「ああ、それは・・・・・・。」
問題は、美十にもある思う。・・・・なぜか?
・・・いや、アンタは1年1組のクラス委員長であって、他クラスの委員長ではないだろう・・・ということ。つまりは、何故か美十は他クラスの生徒であろうと当たり前のように注意していたから。・・・・行く先々で校則違反者を見つける度に、注意していたから。
いくら委員長として出来ていようと、それはやり過ぎというものだ。
ーーーーそういうわけで、他クラス内でのイジメ行為を、何故か別クラスである美十が止めさせることになった。
・・・・ああ、私もか。
ーーーー補足として、中学校のクラスは、一応、小学生時代に培われた性格・・・正確には教師から見て定められた大まかな性格を元に、それぞれ分けられている。
例えば1年1組は、『しっかり者クラス』と呼ばれている。・・・・宿題忘れや遅刻は今のところ皆無で、掃除当番、給食当番のサボりも無く、授業態度は良好。そういう生徒が集められたのだから当然と言えば当然なのだけど・・・・。
逆に1年5組は、『暴れん坊クラス』。・・・・遅刻自体は少ないけれど、宿題の放棄、当番のサボり、授業態度は悪しと、新任先生には任せられないクラスとなっている。だからこそ生徒指導を兼任するような先生が担当している。
因みに、1年2組は『能天気』。1年3組は『平凡』。1年4組は『ちょっと変』なクラスである。
とはいえ、建前上そういった風に分けられているだけで、中には人数合わせだったり、統制を取るためだったりで、違った性格の生徒が交じっているなんてことはざら。
例えば1年5組には、燕 累飛という生徒がいる。彼は5組のクラス委員長であり、性格的には1組であってもおかしくはなかった。・・・・ただ、腕っぷしや人となりを加味され、暴れん坊たちの”まとめ役”として、5組に編成された・・・らしい。
そして今回の問題点であるイジメに関しても、言ってしまえば5組の面々が原因であり、イジメられている対象は、おそらく人数合わせとして入れられたであろう物静かな子だった。
ーーーー校舎端、クラスの教室から離れた位置にある女子トイレ。
そこそこに新築なせいか、地味に広い。そのくせ日当たりが悪く、電気をつけなければ中は薄暗い。
本来であれば赤外線センサーによるオンオフなので、人が居る限り明かりがつくはず。けど今は一部が壊れていて、少し明るくなる程度。外からでは注視でもしない明かりの有無はわからない。
加えてクラスの教室近くにトイレがあるせいで、わざわざここまで来る生徒は皆無。
正直、なんで作ったと言わざるを得ない一室。
噂では、改築前のトイレ事情。その名残だとか。・・・・呪いがどうとか、花子さんがどうとか・・・・。
逆に密室とも言えるそこは、エッチをするにはもってこいの場所。「もしかしたら教師間でそういった関係の人がいた結果、改築に至っても残されたまま、挙げ句新築に漕ぎ着けてしまったのかもしれない」・・・とも言われている。
そんな密室は、イジメやエッチに際し、あまりに在り来りな場所だった。・・・・そのせいで軽く失笑してしまった。
ーーーー中に入れば、3人の女子生徒。
「・・・・何?悪い?」
イジメの主犯が、美十を見て開き直った。
相当にフラストレーションが溜まっていたのか、思いの外暴力的なイジメの惨状が目の前にはあった。
「もとはといえばアンタが悪いんでしょ。ウチらは・・・」
言い訳を並べる主犯に近づく美十。そして・・・・主犯の頬をひっぱたいた。
「いッ!・・・アンタ!」
有無を言わさず美十の2発目が炸裂する。
「ッッ!!ッざけんなッ!」
主犯も攻撃態勢をとった。・・・が、その手を直前で掴み止める。
「殴りますか?」
「委員長がなに暴力振るってんだよ!」
「悪人に対する裁きです。」
「はぁ?!」
「まぁ、構いませんよ。貴方に手を挙げた時点で、私も悪人ですからね。しかし・・・」
「うるさい!」
話を遮り、逆の手を振り被る主犯。けれどそれもまた美十が掴む。
「・・・しかし既に悪人である貴方が再び罪を犯すというのならば、私も再び罪を犯しましょう。それでも貴方は殴りますか?」
言って掴んでいた両手を離すと、怒りに駆られた主犯が美十に再び殴りかかる。・・・がしかし、柔軟で靭やかな体を駆使した美十が、主犯のおヘソ目掛けて正面から蹴りを入れた。
「う゛ぐッッ・・・・」
お腹を抑えて倒れ込む主犯。
「愛の鞭です。改心するまで振るい続けますよ。」
「ちょっ、”美十”?!」
・・・・いややり過ぎ。これのどこが優しい人間なんだ・・・・。
美十の暴力性を垣間見た気がした。
ーーーーその後数度突っかかってきた主犯とその取り巻きに対し、美十が何度も愛の鞭を振るった。・・・・正確には、突っかかってきたというよりもこの場から逃げようとしているように見えたけれど・・・・。
・・・・これはもうイジメでしょ・・・・。
恐らく美十自身も、それは理解しているとは思う。理解した上でこの女は、暴力を振るっているのだ。
「・・・ごべ・・なさい・・・・。」「・・・さい。」
トイレの床にへたり込みながら、ようやく謝罪を述べた2人。
・・・・これで取り敢えずは・・・・。
「教師に言いますか?」
終わるかと思ったが、まだ続くらしい。
「い・・・ません。」
主犯の言葉に、そこそこ元気そうな取り巻きが勢いのある首肯を繰り返す。
「言っていいですよ?」
「・・・んぇ?」
苦しそうな表情で顔を上げる主犯は、いまいち言葉の意味を理解していないようだった。
かく言う私も、美十の考えが理解できない。
・・・・というか流石に止めないと・・・・。
「・・・・”美十”。」
肩に手を置かれた美十が、私を一瞥する。
「まぁ、”今日のところ”はこれくらいで。」
言って、トイレの奥・・・・服を脱がされていた子に近寄る。
その子の顔が若干恐怖していたのは、間違いではないだろう。
「ほら、服を着てください。」
その子が小さく頷き、いそいそと、脱がされていた服を着る。
「今後何かあれば、いつでも私の下に来てください。」
美十のその言葉にも、その子は小さく頷くだけだった。
「さ、行きましょうか。」
そうして私たちは、曰く付きのトイレを後にしたーーーーー。
「”美十”。流石にやり過ぎ。」
「兎美麗さんもやりたかったですか?」
「いや、だから・・・・。」
「言いたいことは分かってます。・・・・”意外でしたか?”」
言葉に言い含めてもいない心の中の感情を、言葉にされる。
「・・・まあ。アンタにしては、ね。・・・・すぐ人に世話焼くし、性根は優しい人間だと思ってた。」
委員長という立場上人を注意はするけれど、それはあくまで体裁的な文言。実際的には、対して怒ってもいなければ、寧ろ理解ある味方のようにも思える。・・・だからこそ性根の優しい人間だとばかり思っていたんだけど・・・・。
「私は優しいですよ。」
「確かにそれもそうだけど、そうじゃない部分もあったんだってさ・・・・。」
「・・・・ぐちゃぐちゃなんです。」
「は?」
「心の中はぐちゃぐちゃで、本当は全部ぶち壊してやりたいんですよ、私。」
「ん?」
「表面上の自分だって私の一部。だけど裏の顔だって私の一部。・・・優しい私も、暴力的な私も、どちらも私自身。・・・・ただ私は、1人の人間として・・・・社会的な動物として、そうあるべきと自分を律していたに過ぎません。」
「・・・・あぁ・・・そう。」
言っていることは、いまいち理解できない。・・・・後になって思い返して・・・「ああ、なるほど」・・・と理解できるけど、当時として未熟者。中学1年生の私は、ただなんとなくで納得するだけだった。
「兎美麗さんは、苦しくないですか?」
「え?」
聞かれたことに、理解が遅れる。
言葉は耳に届いているはずなのに、何故か脳みそはそれを処理してくれなかった。
「・・・・貴方は、乾いている。その瞳も、心も。・・・いつも辛そうで、泣きそう。そのくせ表には普通を貼り付けて、必死で感情を抑え込む。」
「何を・・・・」
「泣いてもいいんですよ。落ちる涙は、抱えきれない感情ですから。それを無理して背負っていたら、心が先に壊れてしまう。」
「アタシは・・・・」
「貴方は子ども。まだ不完全なまま。自分で折り合いなんてつけられない。だから吐き出すしかない。そのくせ貴方は、一丁前に・・・・」
「うるさい。」
静かに立ち上がる。
そのまま鞄を持って、立ち去った。
・・・・私は大丈夫。心は痛くない。辛くない。
・・・・涙は弱虫の証。だから泣かない。ママのように強くなるためにも、泣かない。
・・・・私は何も、苦しんでなんかいない。私は大丈夫・・・・ーーーーーーー
ーーーー歩く先は、何処とも知れず。それでもただ向かうべき其処へ向かって、ひたすらに歩き続けるーーーーー




