01.空に見える月は何処までも美麗で・・・・
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月見里。それが、かの一家の苗字。
由来としては、『山が無く、月がよく見える里』・・・・つまり、『山無し故の月見の里』。だから『月見里』と書いて『月見里』と呼ぶのだとか。
それを口にする度に、周囲の人々は「とても風流だね」・・・と返してくる。
始めて産まれた長女には、『めい』と名付けた。
苗字にある『月』に因んで、『名月』から取ってつけた名前。美しく輝く月のように、育って”ほしかった”。
次に生まれた次女には、『兎美麗』と名付けた。
『お月見』と言えば『兎の餅つき』。ただ『餅』は、名前にするには微妙だし、『兎』だけだと物足りない。なので、『お月見の日に見た月』をイメージして思い浮かんだ単語である『美麗』を付け加える事にした。
また隣の国では、月の兎は『不老不死の仙薬』を杵で搗いているのだとか。
そういうこともあって、『兎美麗』が誕生した。
兎美麗の後に生まれた長男の『涼』、次男の『雪』、三女の『桜』は、それぞれ『生まれた季節』とそれに因んだ『月』を由来に名付けられた。
そうして月見里一家は、それはもう楽しい”ひととき”を過ごしていたーーーー。
木の洞。その中で蹲ったまま、目を開く。
・・・・行かないと・・・・。
行く当ても分からず、ただ歩く。・・・・いや、帰るべき場所は分かっている。けれどそれがどの方向か定かでないから、ふらふら・・・ふらふら・・・。
足取りは千鳥足。・・・お酒なんて飲んではいないけれど、酷く酩酊しているような気分。心がふわふわ・・・ふわふわ・・・。
「・・・・あえ?」・・・・何して・・・・。
思い通りに動いてくれない体は、何もない茂みで立ち尽くす。
開きっぱなしの口からはヨダレが垂れ落ちていて、視界は何処まで行っても朧げなまま、グーグー・・・グーグー・・・。
近くの木にもたれ寄りかかり、ゆっくりと腰を下ろす。
ジャリジャリジャリ・・・。露出した肩が樹皮で切り裂かれ、ジクジク・・・ジクジク・・・と、血が滲む。
だけど気にすることなく・・・気づくこともなく、私は静かに眠りにつく。
「・・・・・・。」・・・・みん、な・・・待っ、てテ・・・・。
ーーーーー案内された病室の中は、冷たくて薄暗くて狭い。・・・そのせいか、どこか隔離された世界に放り込まれたかのような錯覚を覚える。
「・・・・・ママ?」
ベッドに眠る母の体は、白いシーツで覆われており、その顔にも同様の小さなシーツが掛けられていた。・・・そのせいで顔がよく見えない。
「おかぁ!!おかぁ!!!おかあぁ!!」「あぁぁぁぁ!!!!」
2人の弟は、動かぬ母を前に大泣きしていた。
父も、涙を流しこそしていなかったけど・・・・その表情は悲しみに苦しめられていた。ただ、真っ赤に充血した瞳で母を見つめていた。
私に抱っこされている末っ子の妹は、暫く前まで大泣きしていたせいか、私の腕の中でぐっすりと眠っている。小さな小さな寝息と鼓動を私に伝えながら、強く、”今も生きているのだ”、と・・・・・。それに気づいてーーーーー。
心臓が内側から、激しく胸を打つ。何度も何度も、痛い程に打ちつける。当たり前の挙動なのに、とても苦しい。苦しい。苦しい。・・・・けれど、涙は溢れてこなかった。
末っ子はまだ幼いから仕方ないにしても、弟たちや父は『悲しい』という感情を剥き出しにして吐き出していた。
それなのに私はただ呆然と立ち尽くして、心も体も『驚き』と『混乱』にのみ支配されていた。『悲しい』という感情で母を送り出せずにいた。・・・そんなだからいつまで経ってもーーーーーー。
ーーーー母の命日は、私の誕生日と同じ。
家族の誰かが誕生日の日、母はいつだって早めに帰ってくる。あるいは仕事を休む。
けれどあの日は、仕事が長引いたらしい。・・・「ごめん!ちょっと帰り遅くなっちゃう!(ぺこり)」・・・と、携帯に連絡が入った。
だから私たちは、リビングでゲームをしながら待っていた。家族団らんのまったりとした時間だったーーーー。
ーーーー夜も更けり、「ママ、帰り遅くない?」なんて話が出始め、少しの不安を抱え始めた頃・・・・暫くして、父の携帯がなった。
その音に、私は恐怖した。
だけど直ぐに首を振る。・・・・「心配しすぎ。大丈夫だから」・・・と。
しかし電話に出た父の驚きと慌てよう・・・・そしてなにより震えた声で、「兎美麗!・・・・ちょっとお母さん、事故に遭ったみたいでな。父さん、行ってくるから、涼たちのこと、頼む。」・・・・そう言って急ぎで車に乗り込む父を見ていまい、とても怖くなった。寝ていた妹が突然に泣き出したのも、同じタイミングだった。そのせいで、余計に怖くなった。・・・・そして結局、私の母はーーーーー。
・・・・母の笑顔が好きだった。
料理を手伝ったり、一緒に洗濯物を畳んだり・・・そんな時に見せる、いたずらっ子がニカッっと笑った時のような・・・ちょっとニヤけた屈託のない母の笑顔が好きだった。
・・・・懐かしい。・・・・「お金か!?なんか買いたいもんでもあるんか?!」・・・って、毎回のようにからかわれたっけ・・・・・。
きっと母は、もちろん嬉しいけど、暗に「手伝わなくてもいい。もっと好きなことしたらいい。」・・・と、伝えていたのだと思う。
母がそういう人であると、私は知っている。もしかしたら母は、昔、家のことをたくさん手伝わさせられて、自分の時間をたくさん失ってしまったのかもしれない。そんなだから、私たちには「せてめもっと自由に時間を過ごして欲しい」・・・と・・・・。
・・・でもね、ママ。アタシは、手伝うのが嫌とか、手伝わされて苦しいとか・・・・そんなことは一度も感じなかったよ。むしろ楽しかった。ママといっぱい話せて、一緒に過ごせて・・・・・・・楽しかった・・・・・。
・・・・そうだ。私は望んで手伝った。自分の意思で、母を手助けしようと決めた。決して、無理矢理に手伝わされていた訳では無い。むしろ母こそが、そういった行為を嫌っていた。だから・・・仮に私が何もせずとも、母は文句一つ言わなかっただろう。
そんな母の在り方を、私は知っている。知っているから、私は、母を手助けしようと決めた。
私は母の力になりたかった。・・・・なれていたって、信じたいーーーーー。
「・・・・これからは、アタシが頑張らないとな。」




