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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
43/57

32.ヤマト国奪還作戦・本格始動

1741.4/--(上旬)

 海への道を切り開いた事で、食糧難は解決したと言って良い状態となった。これで少しばかりか、因幡の雰囲気が好転してくれればと願う。けれどーーーー。

 食糧確保の間も随時進行中であった因幡増築計画が、遂に限界を迎えようとしていた。・・・守護壁(クストース)の数が足りていないんだ。

 因幡増築計画第一段階においては、予備の守護壁(クストース)を用いて、外縁部に新しい区画を作る。そうしたら外壁が二重なるから、内側の壁を撤去して再利用。そうやって今までは増築を行ってきた。

 でも、守護壁(クストース)の数には限りがある。だからどこかで増築は打ち止めもなってしまう。それは分かってたこと。

 だからこそ今まで、”最も重要な問題”の解決の為、因幡の”研究員”たちは奔走していた。

 私たちが幾度がフェアリエを持ち帰ったのも、研究内容を問題解決の糸口とする為。

 けれど今日日(きょうび)に至っても解決の糸口は掴めず、研究員自身の口からも、「どうやっても無理だ。故に、”早急に連絡を取る必要がある”。」・・・との声が囁かれていた。だというのに・・・・。

 その”連絡相手”は未だ音信不通。どこで何をしているのかが全くの不明であり、結局、因幡増築計画も打ち止めにするしかないとのことで、その方向に舵が切られたーーーー。

 「製造技術ってそんなにも秘匿性が高かったんですか?」

 「ああ、そうだね。」

 ツミレの問いに、唐獅子一佐は即答した。

 守護壁(クストース)の製造技術については、大部分が既に明かされている。が、しかし、一部の特異な工程であったり、そしてなにより、守護壁(クストース)の根幹を担う”核”に必要な"特異な素材"である、”強化剤(イコル)の製造方法”についてだけが、未だに秘匿され続けれいる。

 フェアリエに忌避感情を抱かせる為の加工とでも呼ぶべき工程。一番大切であるその工程の部分だけが、いつまでも秘匿されているのが現状。そのせいで、今、因幡で作られている守護壁(クストース)は、どれも普通の壁でしかない。

 「イコルって結局なんなの・・・・。」

 腹立たしくも不安。違和感を拭えないせいでどこか気持ち悪い。・・・・そんな表情と声色で、ツミレが呟く。

 強化剤。あるいはイコル。正確には【イーコール】それが、造った人が付けた名前。

 意味とかは、特に記されていない。けど、ネット内から流れてきた情報では、”神々の血液”として呼ばれていた。

 ーーーーふと、フィリデイの部隊名が『神子隊』であることを思い出すーーーー

 フィリデイとは、”神の子”という意味らしい。

 ・・・神々の血液と、神の子・・・・。

 心の奥で、納得感が湧く。

 神話の話ではあるけど、人間にとって本来は毒であるはずの神々の血液。あるいは霊液だったか。

 それを取り込み馴染ませた生物を、わざわざ神の子として呼ぶのは、「確かになるほど」と思わせられる。

 けどそれ以前に、”現実的な話”として、そもそも神様って居るのだろうか?

 ・・・まあ、私は居るって考えてるけど。

 空虚であれ実体であれ、どんな形だとしてもきっと存在はしてるっていうふうに・・・・。・・・うん。

 けどでもそれは、あくまでも私の空想、私の中での話であって、この現実に存在が保証されているのかと聞かれれば、それには言葉が濁るところ。

 だというのに現実では、イコルやフィリデイが誕生した。・・・・もちろん、比喩としての表現かもしれない。というかそれが可能性としては大きい。

 とはいえ多くの研究者が・・・・。因幡だけじゃない。他の砦街(カストラ)でも同様に研究に奔走した研究者たちが、揃いも揃ってこの事態だというのは、流石におかしいと思わざるを得ない。

 彼らだって馬鹿じゃない。寧ろ探求者の中でもさらに賢い人たち。そんな人たちが、揃いも揃ってこの事態。

 「神が居るのだ。神の御業が必要なのだ。」と言われれば、「そうか、だからクストースは作れないんだ。」と納得してしまうかもしれない。そんな事態においては、どうしてもイコルやフィリデイというものに、”畏怖の念”を抱いてしまう。それ故に、腹立たしさや、不安を抱いてしまう。・・・・これは仕方のないこと。でも、割り切れない。

 「強化剤(イコル)については現在も鋭意研究中・・・なんだけど・・・・。こっちも、もともとの予備本数が少なかったせいで、ね?」

 「03以下状態だったフィリデイに打ちましたもんね。」

 「そうだね。」

 ここで言う03とは、適正値に合わせて注入した強化剤(イコル)の本数のこと。

 つまり03以下状態とは、4本目の強化剤(イコル)を打っていないフィリデイたちのこと。

 ・・・・4本。それが現状の対フェアリエにおいて、”最低限必要”なライン。C判定のフィリデイ、という前置きも必要だけどね。

 まあとは言っても、B判定であれA判定であれ、3本以上打っておくに越したことはない。・・・って言っても、既にA、B判定のフィリデイは大半が戦場に向かってたから、4本を超えてるのが大多数だとは思う。未だに戦場未経験のフィリデイなんて、大抵は足が竦んだC判定か、適正の足りないD判定以下か、”表舞台に出てこない”B判定以上のフィリデイだけだから。

 ・・・・今更な話にはなるけど、私たちは803は、本当によく戦場に立ち続けたと思う。

 あの戦場では、怪我とか精神病とか精神的衰弱とかで、後退して交代したフィリデイが多くいたらしい。そしてなにより、戦死してしまったりして・・・・。

 そんな中を、ほぼ初期の戦闘からクィーンクェ戦が終わるまで。実に・・・・・8ヶ月くらいか。

 思ったりも少なくて、驚く。

 濃密すぎたせいか、てっきり数年単位でやっていたものだと・・・・。

 いやはや、こう見ると思ったよりも・・・いやいや半年だとしてもその全ての日々を戦い続けたんだし、すごく頑張って戦い続けた。その中で・・・・・たった1人の犠牲だけでこうして生きて、その上で、自分の意志とは関係無く帰らざるを得なくなった803部隊は、そりゃあもう本当に優秀な部隊だったと見て良いと思う。

 ほんと、それなのになんで・・・・。

 いや、それは仕方のないこととして割り切るしかないのか・・・・。

 「じゃあ今後の方針の主柱としては、まず第一に、意識改善の為、『但馬』との直接的な交流を可能とすること。第二に、守護壁(クストース)の製造を可能とするため、フェアリエ専門研究機関との連絡を可能とすること。第三に、継続的なフェアリエ討伐による安全地帯の拡大化。第四に、”フェアリエの巣”を除去。そして最終目標として、ヤマト国内からのフェアリエ一掃!これでいい?」

 「・・・まあ、それくらい夢は持っておかないとね。」

 ツミレの大言に、唐獅子一佐は笑って返答した。

 ・・・・最終目標に関しては、今、ツミレが初めて口にした。・・・・今まで誰も口を大にして言ってこなかった内容を、初めて、明確にした。

 正直言って、不可能な内容。現状としてフェアリエの全体数は、甘く見積もってもC判定以上のフィリデイの総数を100倍にした数。更にそこには総数不明の3型成熟体〈ノビリス〉が含まれ、また3型成熟体〈ノビリス〉と張り合えるフィリデイは、全体の数から更に"大幅"に減ってしまう。

 総当りを行ってもいずれジリ貧で、避けたとしたらフェアリエの繁殖に手が間に合わなくなる。

 作戦を上手いこと立てた上で、好調に状況が進み続けなければならない。

 これは謂わば、学校の屋上から投げた鉛筆を、”意識的に連続して飛んでいるスズメに当て続ける”ようなもの。

 フェアリエには一切の手が加えられないという状況で、フェアリエの数と動きを完全に把握し、場を作り、装備を整え、最大限の援護を行い、そして適正タイミングで攻撃し、適正時間で終わらせる。それらを連続して連日繰り返す。これでもまだ不安要素が多く残るというのに・・・。

 まあでも、かつて私たちが生きた日常を取り戻すためには、これは必ず行わなければならない通過儀礼とも言える。ならば、そう。・・・・いつかは通らなければならない道。それ故、そこを通るまでに最大限準備はして、必ず達成されなければ。

 ・・・・うん。やっぱり最終目標ってのはそれであって、それ以外はあり得ないと言ってしまって良いと思う。

 「とはいえ取り敢えずは、未踏破エリアからさらに先。『但馬』までの安全地帯の確保を優先的に、な。」

 最終目標を掲げるのは良いが、まずは目下の作戦遂行に注視しろ・・・と、藍実教官がたしなめる。

 「そうだね。最終目標を遂げるためには、全ての砦街(カストラ)の生存が必要不可欠。けれど海までの距離があるせいで、未だに食糧難が続く砦街(カストラ)もある。まずはそこを助ける為、砦街(カストラ)同士の直接的な繋がりを持っておきたい。それに、ある程度のフェアリエが掃討されれば、輸送機だって飛ばすことができる。そうなれば最終目標までの距離が一気に縮むだろうね。」

 エリア踏破。事は順調に運んでいる。そう信じて良い。

 だけど、だからといって油断は禁物。相手はフェアリエ。蟻を踏み潰す人間。その人間を踏み潰す存在。

 ひとつの油断が大敗を招く結果とならないように、常に細心の注意を。

 「頑張ろうね、みんな。」

 ツミレが笑顔を見せる。

 不思議と、重さは感じない。だけでなく、どことなく、「自分は死んでしまっても良い」と・・・そう、考えてるように感じてしまう。

 そしてそれは、みんなも・・・私自身も同じ事。

 人が持つ絶対の恐怖心。死に対する本能的な反応が、薄れていっているような・・・そんな感じがする。

 だけど同時に、すごく矛盾してるのかもしれないけど、生きることに対する渇望は人並み以上だと、そうも感じ取れる気もする。

 これが単純な人の成長過程なのか、それとも死への恐怖が薄れたこと、それを紛らわす為の心の変化なのか・・・・そういった詳しい事は、いまいちわからない。

 ・・・わからないままのほうがいいのかな・・・。

 でもどの道、進む方向は変わらないから。だからーーーー。

 ・・・・うん。

 頑張ろう、みんな。

 頑張ろう、私。

 一緒に、生きていこうね。・・・ショーコちゃん。


 ーーーー翌日。唐獅子一佐が、告げる。・・・「フェアリエの巣を見つけた。」・・・と。

 場所は、但馬へ進む道すがらの横道。避けては通れない道。それ故に、排除する以外、選択肢は無い。

 だけど昨日の今日。頑張ろうという気持ちを再確認した分、少し不安が募る。

 これはただ、心が機敏に反応しているだけか・・・・。

 それともフィリデイとしての危機感知能力が警鐘を鳴らしているのか・・・・。

 真実は、目的地に辿り着かないとわからない。

 「やってやろうじゃん!」

 「ついに本命だ!」

 「解放の第一歩だ!」

 不安を紛らわすように・・・・だけど心からの陽気混じりに、みんなが声を上げる。心を奮わせる。

 ・・・そうだね。

 ・・・やろう。

 ・・・・決めた以上は、頑張ろう。

 私も覚悟を再確認してーーーー。

 

 ーーーーそして私たちは、因幡を旅立った。

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