31.燦然と煌めく
燦然と輝く太陽に照らされることなく、森の中を突っ切って行く。
生い茂る木々が木漏れ日を送ってくれるはずが、装甲車の中には光が届かない。
フェアリエが持っているかもしれない銃による攻撃に備えて、窓の少ない車を用意した。それは分かるけど、『どうせなら外の景色を楽しみたかったなぁ』なんて気持ちが胸に燻っていた。
ーーーー暫く何事もなく走っていた装甲車が、止まる。・・・・周辺環境の確認を行うそうだ。
「・・・現在地、Iの01。フェアリレーダーによると、進行方向である12時方面、約700m先に1型〈オペラリウス〉を5体。2時方面、約2km先に1型〈オペラリウス〉26体、自爆型〈エクスプロデンス〉3体程の群れ。3時から9時方面まで、300m圏内に1型〈オペラリウス〉42体をまばらに確認、且つ、接近中。10時方面、反応なし。11時方面、約600m先に1型〈オペラリウス〉12体。以上。」
「確認了解。フィリデイは接近中のフェアリエの対処にあたります。他班は装甲車にて待機をお願いします。」
「作戦了解。治療準備は完了していますので、怪我人は直ぐに装甲車へ。」
「補足了解。ありがとうございます。」
ツミレが観測班の人との確認作業を終え、こちらへ向き直る。
「フィリデイ1班は6時方面を担当。2班は3時方面、3班は9時方面、4班は4時5時方面、5班は7時8時方面を。フェアリエは”まばら”だから、範囲は状況に応じて対応。以上。行動開始。」
「「「「了解!」」」」
そうして始まったフェアリエとの戦闘は、1型成熟体の〈オペラリウス〉しか居なかったことで、つつがなく完了したーーーー。
「周辺環境の確認作業に移ります。護衛、お願いします。」
「了解。みんな、無線の確認。終わったら各班に分かれて行動開始。」
「「「「了解。」」」」
各班に分かれ、200m付近までの周辺環境を確認。
植生や地形を地図と見合わせ、修正。加え、フェアリエの分布を地図に記す。
「各班へ、確認作業の終了を。各員集合次第、再出発します。」
「「「「了解。」」」」
ーーーー状況は、至って順調。ガタガタと揺られながら、整備されていない道を走り続ける。
暫くしてーーーー。
「ガッ!!!」
先頭を行く車両から鈍い音が響き、各車両が止まる。
「接敵!!」
ツミレからの合図を受け、フィリデイが装甲車を降りる。
「数、2体!3型〈ノビリス〉です!」
観測班は何してたんだ・・・。いや、この場合だとフェアリレーダーか。
やっぱり、何かあるってことでよさそう。
「みんな慎重に。油断しないで。」
敵は、3型成熟体〈ノビリス〉。クィーンクェや同時期発生した融合体〈アマルガム〉との戦闘跡地で確認された、新個体。
確認から既に1年が経ってるけど、それでも今なお個体最強格の状態である脅威。
発生確認初期の3型成熟体〈ノビリス〉の元である第2種幼体〈レジーナ〉は、どれも格が低かった。
けれど時間が経った今に至っては、格の高い第2種幼体〈レジーナ〉含めた大多数の個体が3型成熟体〈ノビリス〉へと成長しており、且つ、3型成熟体〈ノビリス〉と成ってから既に十分な時間も経っている。
即ち、12/22の悲劇当時、私が相対した3型成熟体〈ノビリス〉とは、比べ物にならない程の強さを有しているということ。それが2体。
・・・・とはいえ、2体か。
数の有利は、こちらにあり。そして私たちは、フィリデイ全体の中でも強者に位置する。だから、まず負けることはないだろうと安心する。
「前方よりフェアリエ接近!数、17体。先程確認した個体です!」
「確認了解。みんな、早めにこの2体片付けよう。」
ツミレの指示を受け動くフィリデイ。しかし、当のフェアリエは下がって距離を取る。
「厄介な・・・。」
誰かが口を開いた。
・・・本当に、その通り。厄介だ。
私たちは、下手に前には出れない。罠かもしれないから。
直前までフェアリレーダーに反応がなかったフェアリエ。それが2体だけとは限らない。
最悪の想定として、少し進んだ先・・・私たちを挟み込むようにして、左右に、銃を所持したフェアリエが居るかもしれない。
一応、盾は所持している。けど銃弾を防ごうと陣形を作ると、その分、移動速度は落ちる。
下手に前に出て、装甲車から離れるのは避けたほうがいい。
けれどそうすると、目の前のフェアリエとの距離は縮まらない。加え、周囲からフェアリエが近づいていている。
今は17体のフェアリエが・・・何れは、さらに多くのフェアリエが引き寄せられるかも。だとしたら、後退も視野かな・・・・。
「現状維持。取り敢えず、接近する17体を先に対処。盾持ちは、側面に。17体は正面で受ける。戦闘態勢に入ったら、陣形を緩く広く。以上。」
「「「「了解。」」」」
ーーーー少し待ち、17体を目視で確認。木々にぶつかりながら、それでも接近してくる。
「戦闘態勢!」
合図を受け、軽く広がる。
3型成熟体〈ノビリス〉の2体に、動きは無し。けど、警戒は怠らない。
・・・さて、やるか。
インシーニェを握り締めーーーーそうして始まった戦闘は、程なくして終了。結局、3型成熟体〈ノビリス〉に動きは無し。
このままじゃ埒が明かないと言う事で、石ころを持ったツミレが振りかぶる。そして投げつける。石ころを。3型成熟体〈ノビリス〉に。
「ストライーク!」
アサヒの掛け声。・・・石ころは、見事に、3型成熟体〈ノビリス〉の顔面に命中した。
「プロ行っちゃう?」
「チームならここに・・・って、来たよ。」
ようやく、3型成熟体〈ノビリス〉が動いた。
こっちに向かってきている。
「囲むよ。盾は側面に展開して周囲警戒。」
短く告げられた指示を受け、展開。ーーーー結局、苦戦することなく討伐が完了した。
その後、この2体を持ち帰ることになった為、探索は一時打ち切り。私たちは因幡に帰還したーーーー。
・・・結局のところ、3型成熟体〈ノビリス〉とは何なんだろうか・・・・。
12/22の悲劇での1体。・・・今日の2体。・・・・どちらも、普通のフェアリエとはあまりにかけ離れている。その差異に、どうしても違和感を覚えてしまう。
思い出されるのは、ヤン先輩や美十ちゃんとの話。そしてなにより、戦場での・・・・フェアリエ戦争が始まって以来、小さく、けれど確かに囁かれ続けている”噂”。
『フェアリエとは何か?』『フィリデイとは何か?』・・・・誰一人として、それを明確に、詳細に、科学的に説明できる者は居ない。
私たちは無知だ。無知でしかない。無知でいることしかできない。・・・これは研究の秘匿性、非透明性故の結果。
フェアリエ発生以降、専門の研究機関による発表は、何時だってどこか足りていない。ずっと大事な部分を隠している。
でもそれは、あくまでも私個人の憶測でしかなく、大々的に見るなら研究機関は、重要な情報を何時だって吐き出してくれている。それが大衆の意見。・・・いや、表面上の意見と言うべきか。
この大事に至り、人はその裏面上の意見を求め、あるいは決めつけ、吐き出し始めた。
何が起きたかと言うと、不安や恐怖といった種が研究機関・・・・引いては”私たちフィリデイにまで”向けられ始めたということ。
しかしその一方で、フィリデイを神性視する者もまた増加傾向にあり。プラスして、より心酔度が増している気もする。
大衆の意見が二極化し始めている。そのくせどちらに転んだとしても、私にとっては害悪にしかならない。・・・・みんながどう感じるかは知らないけど。
でも、私は英雄とかにはなりたくない。そういった器を、私は持ち合わせていない。
かといって大衆の身勝手で責め立てられるのもごめん。腹が立ってうっかり手が出てしまえば、更に敵愾心を煽りかねない。最悪の場合、人の手によって”フィリデイの処刑”が行われるかも。
・・・・笑える。現代で魔女狩りが見れるかもしれないとは・・・・。
まぁ正直、その心配はあまりしていない。
人は学習する生き物だ。過去を学び、未来を求める生き物だ。
確かに一部には理解不能な人間がいるけど、彼らの暴挙は理性ある大衆によって阻まれる。
現代人は現代人。過去の価値観ではなく、現代の価値観を元に行動を起こす。魔女狩りとかいう不明確で浅慮な行動は、現代人からしてみれば知能が低い馬鹿の行い・・・猿がイモムシ相手に醜態を晒すようなものだろう。大衆に笑われ、すぐにあぶれる結果となる。
だからこそ、警戒はしていても、心配することはない。人はそこまで馬鹿じゃないって、私は知ってるから。
でも馬鹿じゃないが故に・・・利己性の塊であるが故に、警戒を怠る事だけはしてはいけない。使い捨てにされることだけは避けなければならない。
大局を見据えて今後の行動を考えないと、簡単に除け者にされてしまう。それだけは、絶対に駄目。因幡で暴動を起こしたあぶれ者たちのようにはならない。
この世界・・・砦街の外には、人の生きれる領域が存在していないのだから。
そしてそれは、私たちとて同じこと。
昼夜問わずフェアリエに襲われれば、いずれ衰弱して殺される運命。守護壁付近であれば問題ないかもと思うかも知れないけど、あそこらには既にあぶれ者たちが住み着いているんだ。
簡単に利用され、大衆の意により除け者にされた、醜態を晒した猿の集まり。そこに私たちのようなあぶれ者が落とされれば、居場所無く、また、害悪に蝕まれて終わりとなってしまう。
そうなるくらいなら、全部殺してしまったほうが早いだろう。でもそしたら、本当に居場所を無くしてしまう。
やっぱりここに残る以外、選択肢は無いと判断していい。
幸いにして、私たちはフィリデイ。存在するだけで価値が生まれる生き物。戦える限りは・・・いや戦えずとも、フィリデイとしの価値を保証する為に私たちは生かされ続けるだろう。
それが良いことなのか悪いことなのかは定かでないけれど、でも生きていける保証があるというのは、心をより平静へと導いてくれる材料となる。
私たちがこうして落ち着いていられるのも、フィリデイとして戦闘経験を積んだ以外に、そういった要因が絡んでいるのかも知れない。
・・・・うん。だからこそ今は、目の前のことに全力で取り掛かろう。まずは海へ。海産物、大きな食料資源の宝庫を目指して。
そうして私たちはーーーーー。
幾度と続く探索に脚を運び続けた。そしてついに、その時は来る。
「海だぁぁぁァァァァ!!!!!」
「磯の匂いだぁぁぁァァァ!!!!」
「死骸臭だぁぁぁいぃぃぃ!!!」
「ちょ、それは無しでしょ。萎える。」
「よぉよぉお嬢さん方。水着似合ってんねぇ〜。どうどう?一杯やってかない?奢るよぉぉ?」
「結構です!」
海と磯風を前に、みんながはしゃぐ。
「・・・・綺麗。」
みんながノリノリの中で呟かれた、誰かの一言。
・・・本当に・・キレイだ。
久しぶりに見た海は何処までもキラキラしていて、私たちを向こう岸へと導いてくれるかのように、真っ赤な太陽が青々とした海を照らしていた。
照らされた海面では白い光が煌めき、やがて黄金の大橋が向こう岸まで繋がる。
ついつい渡りたくなってしまうその大橋は、けれど今はまだ進むことができない。
この先にある数々の都は、どこも廃墟と化してしまっているだろうからーーーーーーー。
1741.3/--(中旬から終わり頃にかけて)




