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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
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29.鳥籠の中、飼い慣らされた家畜

 探して、探して、探し続けてーーーーけれど、ショウコの両親は、見つからなかった。見つからないまま、『因幡(いなば)』への道の安全性が確保され、本格的な避難が開始された。

 

 ーーーー『因幡』は、数日前までの簡易避難所とは訳が違う。・・・そこには第三兵学校があり、田や畑があり、浄水場があり、栄えた街並みがあり・・・・それらを取り囲むようにして、守護壁(クストース)を用いた外壁がそびえ立つ。

 また、フェアリエの中で唯一、壁を越え侵入してくる可能性がある『アレート』に関しても、外壁上部に並ぶ機関砲によって対処が可能であり、即ち、ここに逃げ込みさえすれば、フェアリエの危険に晒されずに済むという・・・そういう場所。けれどーーーー。


 ーーーー外壁側面の壁上通路・・・あるいは哨戒デッキとでも呼ぶべき場所から、外の世界を見渡す。

 ・・・デトメス大陸も、こんな感じで滅んでいったのかな・・・・。

 ・・・・・砦街(カストラ)。かつてそこらの周囲一帯は、『緑豊かな大地』と言う名の『ド田舎』だった。

 建てられた家々の周囲には、田や畑、そして荒れ地がいっぱいで、少し進めば緑が生い茂る山。・・・「自然がいっぱいで穏やかな生活空間。」・・・そう言えば聞こえは言いが、実際のところ、発展したこの現代においては、近くにコンビニもなければドラッグストアもなく、生活用品を揃えるために「ドライブ旅行ぉだぁ〜。」・・・なんて言ってしまえそうな始末。・・・・あまりに不便で、だけどどことなく、『この星に産み落とされた1つの命』であることを教えてくれそうな、そんなド田舎がーーーー。

 兵学校の周囲・・・・砦街(カストラ)が栄えるごとに、緑は消え去り、人工物が立ち並び、投棄されたゴミが散らばり、そして排気ガスが、大きな澱みを作り始めていた。

 ・・・移動中に見た、『”整備されなくなった”用水路』。その中にゴミを見つける度、心には、嫌な気持ちが募っていく。私たちはこの星に産み落とされた1つの命だというのに・・・どうして・・・・。罪悪感がなければ、感謝の心すらない。あまりに醜く、穢らわしく・・・・けれどそんな人間を、私たちは守っている。・・・醜さと穢らわしさの象徴たる砦街(カストラ)に逃げ込んでーーーー。


 ・・・・壁上通路から見渡せる街並みは、私の故郷じゃない。

 第三砦街(カストラ)、『因幡(いなば)』。その外側。・・・かつては自然が多かった場所。・・・今は建物が立ち並ぶ場所。

 目を閉じていても、静かな街並みが思い起こせる。・・・・『因幡』までの道のりで見てきた動かない街々の、人っ子ひとりいない綺麗な街並みがーーーー。

 ・・・記憶はまだ新しい。

 「どう?」

 「寄ってこないだけで沢山いる。みんな隠れてる。」

 木々や建物の隙間に視線を向ければ、彼らの視線が返ってくる。

 ・・・しっかりと私たちを捉えてる・・・・。

 それでも、襲ってこないのは、守護壁(クストース)が持つ特異な性質のおかげ。

 「中は?」

 「荒れてる。食糧も衣服も住居も足りないって。」

 「大丈夫かな・・・。」

 「大丈夫じゃないでしょ。許容量超えすぎてるんだから。・・・最悪、口減らしでもしないと。」

 「そう・・・だね。」

 実際問題、このままじゃ本当に死者が出る。人が人を殺しかねない。人数が多すぎるんだ。

 因幡や他の砦街(カストラ)は確かに大きいけど、だからといって、”それら全てを使っても、国の全人口を収容できるわけじゃない”。まだ、その域にまで到達していない。あくまでも開発は途中段階なんだ。なのにーーーー。

 その折に発生したフェアリエの襲来。人数がパンクするのは、仕方のないこと。とはいえこのままじゃ、すぐに崩壊する。”自給自足できるまで”人数を減らさないと。つまりは、”本来の許容限界以下に”・・・・。

 ・・・砦長や唐獅子おじいちゃんはどう対応するんだろ。

 ・・・最悪私たち自身で動く?・・・いや、それはやめたほうがいい。

 ーーーー追い詰められた人々は、”何もししない”日々の中で、『責任の所在』を求めた。そしてその矛先のひとつとして、『フィリデイ』があげられた。

 そこからは早いもので、1日とまたずに『ある噂』が広まる。

 曰く「フィリデイがフェアリエを呼び寄せた」・・・と。

 その詳細とか原理とかはどうでもよく、ただ、フィリデイのせいでこの事態が引き起こされたと、誰かしらが声を上げた。

 まったくはた迷惑なことで。

 とはいえ、大見得切って間違いだとも言い切れないのが現状。

 なにせフェアリエは、”特に”フィリデイに吸い寄せられる。

 『どこからどうやってやってきたのか』。その方法を無視するなら、確かにフィリデイがいたせいとも言えるかもしれない。

 ・・・ま、馬鹿な極論としか言えないけど。

 どんな問題があったとしても、ここにフェアリエが現れた以上、いずれそれは引き起こされていたと考えるのが常識的な思考であり、”人間がこの星に住まう”以上その事実は変えられない。・・・それならやっぱり、フィリデイはいてくれなきゃ困る。もし居てくれなきゃ、もっと死者が増えていたから。・・・最悪人類全滅だってあり得たかも。

 ・・・・あ、いや・・・・でも、もうちょっと少なくてもよかったのか・・・・。そうすればいい感じに死者が増えて、砦街(カストラ)が許容限界を大幅に超えることはなかった・・・・かも?・・・とすれば、今の荒(すさ)んだ空気が生まれることも・・・なかった?のかな・・・・。

 ま、どっちの方が良かったとかそんな話、今は必要ない。過去をどうこう言ったって今現在の状況が変わるわけじゃないんだから。・・・・今の状況を変えるには、今という時間の何処かで動き出さなくちゃ。

 「さあショーコちゃん、行くよ。」

 「そうだね。取り敢えず今日は・・・あっちの方にまで行ってみる?」

 「らじゃ。・・・姫華(ひめか)ちゃんと蓮花ちゃんは・・・・。」

 「下にいるよ。」

 「よし、じゃあ合流して出発!」

 2人も行動を始める。・・・・目的としては、第一に食料。第二以降に、衣類、寝具、家具、使えそうな電化製品、だったりの回収。他にもいろいろ。

 必要なものはリスト化されているから、それを確認しながら探索を続ける。まあ、探索・・・じゃなくて、不法侵入と盗みなんだけど。

 ・・・・仕方ないよね!だからこれは、「どうしようもない事態につき、緊急的処置としての正当な行いである」と言わせてもらいます。

 「わ、すご。ロリータだ。」

 昇子の目の前に、着飾ったマネキンが静かに立っていた。

 「姫華ちゃん好きそう。」

 似合うかどうかはさておき。

 「・・・渡してみる?」

 「渡してみよう。」

 なんとなくだが、即決だった。

 

 「「お〜〜〜・・・・・・。」」

 ロリータ姿の姫華を前に、圧倒され、ちょっと引く。

 「それだけ?!・・・ナスタぁ〜。」

 ショックを装う姫華が、蓮花に飛びついた。そんな2人を前に、言身は、自身の感情を整理し説明する。

 「いや似合ってるんだけど・・・可愛いんだけど・・・なんか頭と体で雰囲気が真逆と言うか・・・。」

 「あ、わかる。服に対して不気味さが皆無。ヒメち、顔が映えすぎ。」

 柔らか〜く違和感を伝えた言身だが、しかし昇子はどストレートに言葉を投げた。それを聞いた姫華はーーーー。

 「そっかぁ・・・・まぁいいや。暫くこのままでいよぉ〜。」

 若干しんみりな表情をするものの、特に構わずといった姿勢で蓮花の周りを歩き出す。

 「動きにくくはないの?」

 素直な疑問を言身が聞く。

 「若干はね?でもまあナスタが守ってくれるし・・・ね?」

 「そうだね。」

 正面から蓮花の顔を覗き見る姫華と、軽く笑い「当たり前」と肯定する蓮花。そんな2人を前に、昇子が「やれやれ」と首を振り口を挟む。

 「・・・何してんだか。」

 聞いた蓮花が、上からの視線を昇子に向け発言する。

 「持ってきた人が何いってんだか?」

 「渡すって言ったのはコトミちゃんだよ?」

 即座に返した昇子の言葉を前にして、蓮花は「なんだ・・・。」と、攻撃態勢を解いた。

 「ほんと?!」

 姫華が言身の両手を握る。

 「あ・・うん。まあ・・・喜んでくれるかなと思って。」

 「もち!喜ばないわけないよ!ちょ〜嬉しい!ありがと!コトみん!」

 「うん。よかった。」

 笑顔がまぶちぃ。絆されちゃうぅ・・・って・・・。・・・しかしまったく、本当に何してんだか。周囲にはフェアリエが沢山いるっていうのに・・・。

 けどま、大事だよね。こういうのも。・・・人混みプラス荒れた空気のせいで、だいぶストレス溜まってたし。・・・良い息抜きになった。

 

 「おーら〜い。おーら〜い。おーら〜い。」

 ロリータ姫華がヘリを誘導し、言身たちはその傍ら少し離れた位置で、周囲を警戒していた。

 現状、フェアリエにこれといった動きはない。時折攻めてくる個体が数匹いるけど、残りの大多数はただひたすらにこちらを観測しているだけ。

 ・・・まったく、何がしたいんだか何がしたいんだか。


 ーーーー3日後。『因幡』内にて暴動が起きた。

 仕方のないこと・・・ではあったのだろうと思う。だから、どの道いずれは起きていたことだろうとも思う。

 鳥籠の中にギュウギュウ詰め状態。プライベート空間なんて無ければ、挙句お腹も十分に満たせない。人の三大欲求すべてが満たされない状態。それでストレスが溜まらないわけが無い。

 現状、食料は完全配給制で、ひとつの家を複数の世帯で共有し、あぶれた世帯は兵学校や店舗などの公共施設に押し込められた。・・・仕切りと言えばカーテンのみの、ほぼ吹きさらしの場所に・・・・・。

 正直、大地震直後の避難場所よりも悲惨な状態・・・と、言えてしまうかもしれない。

 荒れるのは当然。あとはいつ、怒りが暴発するか。それだけの状態だった。・・・そしてそれは引き起こされた。

 全員が不安に苛まれ、誰かが怒りの声を上げ、多くの者らは共感し・・・そして”数人の扇動”の下、一定数の者が立ち上がった。

 彼らは言う。

 「因幡にはもっと食糧がある。」

 「砦長やその一家は自分の為に食糧を隠している。」

 「あいつらは広々とした空間で自由に過ごしている。」・・・・などなど。

 やがて暴動が引き起こされ、そして1人の男が因幡長公館の門を越えた。そして2人目、3人目と続く。・・・・そうすればもう止まらない。

 怒りと正義による興奮で我を忘れた暴動者たちが、大量に公館内へと押し入っていく。しかしーーーー。

 砦長や唐獅子おじいちゃん。つまり偉い人たち・・・正確に言うなら、この因幡という砦街(カストラ)を、『秩序ある鳥籠として先導、守護、存続していか無ければならない人達。』・・・・彼らが、「この時を待ってました」と言わんばかりに、行動を開始した。

 沢山の人達が公館内へと押し入る中、その外周を因幡管轄軍の兵士が取り囲む。・・・手に小銃を携えて。

 何度も言うようだけど、因幡内は人で溢れすぎている。プライベート空間も無ければ食糧だって乏しい。・・・いや、やがて尽きる。だからーーーー仮にこのままいけば、因幡内の秩序は崩壊する。そうなれば、外部からの食糧補給もできず、全滅エンドまっしぐら。それを阻止するためには、『因幡を拡張』しなければならない。『因幡内の人数全体を、自給自足で賄えるだけの食糧と住居が確保できるまでーーーー。』

 しかしそれを待ってくれるほどの『利他性』を、人間は持ち合わせてくれない。

 ならば結論はひとつ。『口減らし』である。・・・人数の許容量を溢れすぎた状態から、少し溢れてる・・・もしくは正常値の状態へ。

 ただ、それをしたって食糧問題だったり住居問題が完全に解決するわけではない。けど、人数が減りさえすれば・・・・『暴動を起こすような輩を一斉に排除』できれば、今後とも『統率はより簡単にとれるようになる。』

 これは絶対的に必要な犠牲ってやつ。だけどーーーー。

 無辜(むこ)の民に対して、いきなり、「ここから出て行け」とは言いづらい。というかそれをすれば、『さらなる暴動』が巻き起こるかもしれない。また、「政府要人・・・偉い奴らから先に出て行け」とも言われるかもしれない。

 それらを避けるために取った方針。それが今回の、この暴動を利用すること。・・・・人を使い、人を扇動し、人に罪を着させる。後は「大義名分」とか「秩序維持」とか「因幡存続の為と正義」を”カタり”、暴動者を一斉検挙。そして追放。併せ、暴力沙汰だったり強盗だったりの犯罪行為を行った人間も追放。

 これで因幡内は人口が減ってスッキリ。また、砦長の組織や軍隊の強権を強調。・・・・過激な強硬手段ではあったけど、因幡内の秩序は、”表面上”、安定を取り戻した。

 ーーーーと、まぁ、これはあくまでも私の憶測でしかないんだけど、でも間違えているとは思わない。だって、「砦長や、その一家、直轄組織の人間は、たまたま因幡長公館にいなかった為に怪我は無かった」・・・とか、「今まで軍隊は消極的にしか動いてなかったくせに、ここにきて180度方針転換した動きを披露した」・・・とか。もうそんなの・・・・。

 多分、私だけじゃない。因幡の住民、その大体が、今回の茶番劇に気付いていた。でも誰も、これが「茶番」だとは口にしなかった。「砦長や軍隊が悪」だとは、口にしなかった。


 ーーーーまた、数日が過ぎた。

 「気持ち悪いね、ほんと。蛆虫みたい。」

 「思っても口にしちゃ良くないよ。」

 因幡から追放された人間。その大多数は、守護壁(クストース)の恩恵を受けるべく、因幡の外周に張り付くようにして生活を初めた。・・・フェアリエの襲撃を心配して。

 ・・・・当然だけど怖いらしい。まあ、ここら一帯は既に私たちが狩り尽くしたし・・・・・多分大丈夫じゃないかな?って思うけど・・・・。

 食糧とかは知らない。その辺の雑草とか虫とか食べて凌いでるんじゃない?かな?・・・後、野生動物とかも?

 調理器具だったりは余り物渡されたみたい。私たちのおかげ。使い道はあるけど余りすぎてるゴミは、結構集まってたから。

 因みにフェアリエは、野生動物・・・というより人間以外の生き物を、基本的に襲わない。理由とかは知らないけど、襲われない。

 ・・・興味ないのかね?食料なら人間だけじゃなくてもいいだろうに・・・・。

 そういったわけで、野生動物はチラホラト確認できる。いや・・・因幡周辺の開拓が進んでいたせいで、チラホラとしか確認できなくなったと言うべきか。

 ・・・何(いず)れにしろ、頑張って生き残って。そしたらいずれ守護壁(クストース)の増築が進んで、君らが住めるスペースも作られるだろうからーーーー。

1740.12/22 〜 1741.1/--

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