28.雨が振った。そして全ては洗い流された。
ーーーー頭を貫くサイレン。
ーーーーけたたましく鳴り響くベル。
ーーーーそれらをかき消す人々の絶叫。
・・・なんで・・・なにが・・・いや、それよりも今は・・・。
迫る爪を素手でいなしーーーー。
「コトミさん!」
「ふッ!はぁぁッ!」
ルリカから受け取った木の棒をフェアリエ胸に突き刺し、そのまま壁まで吹き飛ばす。
「・・・べキャ・・・。」・・・所詮ただの棒切れ。肉を突き刺すことはできても、後ろの石壁にまでは刺さってくれなかった。
・・・このままじゃダメだ。インシーニェがないといくら攻撃しても徒労に終わる。再生されて終わりだ。
「ショーコちゃん。”アレ”、取ってきて。」
周囲に人が居るため一応、明言は避け、ショウコにお願いする。が、しかしーーーー。
「なら一緒に。」
コトミと離れたくないショウコは、当たり前に渋る。
「ダメ。誰かがこいつ抑えておかないと。」
「ならルリカちゃんが行けばいいじゃん。」
”足を竦ませ腰を抜かし立てなくなった”ルリカを指差しながら、ショウコが言う。
「バカ。見りゃ分かるでしょ。早く。ほら!」
「・・・チッ。」
明らかにルリカを睨み、舌打ちをしながらも、ショウコは渋々、全力で走り出したーーーー。
ーーーー周囲を見回す。
泣き叫ぶ子ども。逃げ惑う大人。カメラを向けてくる脳無し。腰を抜かして立てない女性。・・・女性は立ち上がれないながらに、コトミの右側斜め後ろで子どもを抱きしめいている。
・・・親子か。・・・日の入りを見た帰りだったのかな。・・・なら、できるだけそっちには近づけないでおこう。
・・・とはいえ・・・・ショーコちゃんが戻ってくるまで、持つかな・・・・。それに・・・・。
過剰に溜まった唾を飲み込む。
インシーニェがあると言えど、それは、唐獅子という男が、”できる限りの融通”を利かせて持たせている武器に過ぎず、即ち、今あるインシーニェは、包丁よりも短い・・・言ってしまえば、テーブルナイフより少し大きい程度のナイフでしかないわけで・・・。
そんな貧弱武器一本で、果たして目前のフェアリエと殺り合えるかどうかと問われれば、それは明らかに難しいと答えざるを得ない程の・・・・。
何故ならこのフェアリエ。こいつは、”コトミたちが今まで戦ってきたどのフェアリエよりも強く、硬く、そして賢い”。そんな奴が・・・。
一応、融合体討伐跡地で発生が確認された新種がいると聞かされてはいたが・・・しかし心の奥底で、所詮フェアリエと侮っていたそんな新種が、今、目の前にいる。目の前で笑ってみせた。圧倒的な畏怖と近親感を背負って・・・。
こんな奴を前にしてマトモに殺り合うなど、状況を理解できない馬鹿のやる事でしかないの。だが、それでもーーーー。
・・・ルリカちゃんと一緒ににひたすら耐える。この場で!
久方ぶりに、心を奮い立たせる。
・・・大丈夫。・・・大丈夫。
胸がジンワリと熱を帯び始め、確かな鼓動が全身を波打たせる。
・・・幸いにも空間は開けてる。戦えるスペースは十分にある。・・・けどーーーー。
消せない不安が何度も過る。
フィリデイとして備わった特殊な感覚器官が、警鐘を鳴らす。現状をより鮮明に精査する。
・・・多分こいつ、三型成熟体だ。でも・・・・こいつ多分、成り立ての状態だし、成熟前の女王個体としての格もぜんぜん低い・・・・。
即ち、まだ寝起き直後で行動が鈍く、且つ、三型成熟体としての真価を十全に発揮できない・・・・要は、三型成熟体の中では”恐らく”弱い部類の個体であると・・・・。
・・・とはいえ、突き刺した後に力負けしてた・・かも?
先程の攻防を思い起こす。
笑った後に襲いかかってきたフェアリエを素手でいなし、受け取った木の棒をフェアリエの胸に突き刺し、そのまま壁に固定してしまおうと・・・。だがその直前に、一瞬の踏ん張りと硬直・・・即ち、力負けしている感触を察知し、咄嗟の判断で、投げて叩きつける方向にシフトした。
・・・まぁ、木の棒が石の壁に刺さるわけもないから、どのみち投げて正解だったな。・・・・さて、今からはどうするか・・・。
目前の三型成熟体が動かないこの時間を使い、現状を冷静に分析する。
・・・距離をとってさえいれば、力負けとかは関係ないし、注意さえ払っていれば問題なく避けれる程度の速さ。・・・つまりこの場であれば、問題なく耐え凌ぐことができる。・・・だけど・・・・。
フェアリエはフィリデイに寄ってくる性質がある。けれど・・・多分大丈夫だろうけど・・・でももし仮に、この場から逃げるような個体であれば?・・・まして、人間を殺すことを優先するような個体であれば?
・・・やっぱ守るが優先かな。なんせこっちからの攻撃は危険だ。カウンターを避けられる自信がない。それはさっきいなした一撃で感じた。プラスそもそも攻撃が通じにくいし、できるのはあくまでも拳を肉に食い込ませるくらい。だけど・・・それでうまく吹っ飛んでくれればいいけど、体幹強くて耐えられたなら?・・・そしたら私の動きがワンテンポ遅れる。結果、私の頭が吹っ飛ぶ。つまりやばパァァン。・・・しかも、なんか二人いても厳しそな気がする。二人まとめてやばパァァンされる気がする・・・って、さっきからルリカちゃん、近づいてきたは良いけど、声かけてこないな。フェアリエも全然動かないし・・・・。
フェアリエからの熱い眼差しが注がれていることに気がつく。
・・・え、ちょ、ん?・・・私のこと見てる?・・・あ、ルリカちゃんのことも見てるな。・・・・フィリデイが気になるか?いや、寝ぼけてんのか?お前寝起きだもんな。・・・・まさか私らのこと同類だとでも?やば。ノーだよ。ちょ、どうしよ・・・・。
危機感を持ちながらも、場の状況のせいか、少しづつ思考が逸れ始める。・・・周囲の状況までもを精査し始めてしまう。
・・・正直、やばいのはお前だけじゃないんだ。周りの奴ら・・・特に、後ろで携帯構えてる奴ら。
私ら一応、あんまし表にはでないほうがいいんだ。
一応唐獅子おじいちゃんからは、「面倒事は解決したから。もう気にすることないよ。ネットに顔上げても問題ないよ。あ、でも正式な軍隊には入らないでね。」・・・って言われたから大丈夫ではあるんだろうけども、でも、「不安が解消されたか?」で言えばそうでないし、そもそも普通に晒し者になりたくないし・・・。
・・・・よし、コイツラの携帯を壊すか。・・・いや、流石に早計か。寧ろそんな動画が出回るほうがよっぽど・・・。・・・うん。ネットに顔つきで出回る事態になれば、唐獅子おじいちゃんに頼もう。きっとなんとかしてくれる。ありがとうおじいちゃん。すっごい信頼してる。で、さて・・・・・。
「どうしようか。」
「あ・・・その・・・。」
「ん?」
「しょ・・昇子さん・・は・・・。」
「ああ、インシーニェをね。」
「あ・・・そ・・なんだ。」
「そ。で、このあとのことだけど・・まあわかってるよね。この場にいてくれるなら耐えるだけ。別の場所へ動くようであれば、携帯構えて立ち尽くしてる奴らの方に。動けない女性や子どもはできるだけ避けて。」
「え?・・・・あ、はい。」
・・・さて・・・あ、やばい。
遠くの方から気配が近づく。
フィリデイとして備わった、フェアリエにのみ発動する危機感知能力が2度目の警鐘を鳴らす。
・・・フェアリエが・・こっちに・・・・。それも1体や2体じゃない。たくさん・・・・。けど、どこから?・・・っていうかどうして・・・・・・・こいつが仲間呼んだ?・・・いや、それとも私たちがここにいるから?・・・ああ、なんで・・・。
「やっぱり逃げれば良かったなぁ・・・」なんて後悔が胸に募る。
・・・いや、今はそれよりもーーーー。
「全員走って!とっとと逃げて!」
今更になって叫ぶ。馬鹿な叫びを。
・・・だってそう。逃げるったってどこに逃げるよ?・・・家の中?山の上?地下室?金庫の中?・・・・笑える。すぐに見つかって殺されるわ。
フェアリエ確かにフィリデイに寄ってくるけれど、でもフィリデイがいなければ、人間の気配を探って人間を喰う。それが本来の在り方・・なのかな?・・・いや知るか。
とわいえ避難場所もちゃんとある。主な避難場所として候補を挙げられるのは、2カ所。
1つは守護壁を用いて造られた、13番まで存在する砦街の中。・・・兵学校があった場所にて改築が繰り返された、大きな鳥籠の中。
もう1つは、湖。それもとにかく大きく、とにかく深いことを前提として。・・・なにせフェアリエは水を泳げないから。しかしーーーーふと、疑問がよぎる。
ヤマト国は、”島国”だ。つまるところ海に囲まれているわけで・・・でもだとしたら、フェアリエはいったい何処から来た?まさか海を泳いで?
・・・・いや、それよりも、か・・・・。
確かにその可能性も考えられるが、他の可能性も十二分にあり得る。・・・寧ろよりもっと高い可能性として考えられるのは、現存する『飛行型』以上の滑空能力、あるいはれっきとした飛行能力を得たフェアリエが現れたこと。あるいは、船や飛行機に紛れていたこと。
前者に関しては、既に『飛行型』っていう現物が存在している。だからつまり、現存する『飛行型』はヤマト国までの海洋上を滑空するだけの能力をまだ持ち合わせてはいないけれど、『飛行型』が持つ滑空能力、あるいは飛行能力が、フェアリエの急速な進化により上達すれば、ヤマト国まで飛行できる個体が現れてもおかしくはない。
後者に関しては、正直難しい話だけれども、そもそもとして、船内、あるいは機内にフェアリエが紛れていたならば、航行中にそのフェアリエが暴れるはずで、もしそうなれば当然、ヤマト国への入国は禁止にされる。だから・・・仮にもしこれが真実であったならば、そこにはフェアリエの知性が絡んでくるはずで、要は、知性ある個体がフェアリエに指示を出し、フェアリエがそれに従い、ヤマト国に入るまで大人しく待っていたということ。・・・はっきり言って、恐らく、これが1番最悪なケースか・・・・。
そしてだが、最も現実的で、且つ、可能性が高い原因が、1つある。それは・・・研究の為、人間によって国内に運ばれてフェアリエが脱走したというもの。
実際、私は見ている。・・・フィリデイとなる前、あの研究施設でーーーー。
・・・そうであって欲しいな。
どういう形であれ、フェアリエが進化したとなれば、それは戦争の状況がより悪くなることを意味するから。
ただそうなれば、今回この原因は、ヤマト国の自己責任となる。
・・・そもそも、なんで本島で研究するかな。もっと無人島とか使ってやれば・・・・いや、上の人たちだってそれくらいはわかった上でやってるか・・・・。でもだとしたら、本島にフェアリエがいる原因が別にあるってことに・・・・。
いろいろ考えた所で、結局は”それらが無駄であること”を悟った。
「さ、行くよ。」
立ち上がれない女性と子供を抱え上げる。
「あ!、私走れますので!担ぐのはその子だけで!」
「却下。・・・母親なら、子どもを残して死なないでください。」
「でも・・・。」
「大丈夫です。だから安心して・・・・」
言って、上から微かな声が聞こえてくることに気づき、空を見上げる。
「・・・ぶないあぶないあぶないあぶなぁぁぁあいぃぃぃ!!!どわひゃぁぁぁあぁあぁああ?!?!」
上・・・正確には、傾きの緩い斜め上方向から、3人の人影が勢いよく振ってきた。そして・・・「ドゴッッ・・・」・・・石壁がひび割れる程の勢いで壁にぶつかった。
・・・いくら頑丈だからって・・・。
呆れた顔で、そちらを見やる。
「ア゛ハ゛ッ゛!ア゛ハ゛ッ゛!」
正面に向き直せば、三型成熟体が面白そうに笑っていた。
・・・戦う気はないってことで良いのかなぁ・・・・。まぁでも、3人来たし殺ったほうが良いよね・・・。
「いったあ・・・着地やばぁ。」
「みんな無事?」
「コトミちゃん!」
シノ、エリカ、ショウコが、2人に駆け寄り、目前の三型成熟体にインシーニェを向ける。
「どうする?」
エリカが聞く。
「速いとこ片付けないと。別のフェアリエも結構たくさんだったしさ。」
シノが簡潔に答える。
「そっちは普通の?」
シノの言葉に、”フェアリエを実際に見た”と解釈したコトミが、疑問を投げかける。がーーーー。
「普通?」
理解できないシノは、疑問に疑問で返す。
察したコトミが、簡潔に説明する。
「こいつは三型成熟体。他のフェアリエは違うっぽい?」
「あ〜・・・えぇ・・・。」
理解したシノは少し考えるが、すぐに結論を出す。
「違うかな。あっちは懐かしい。こいつはちょっと真新しい。」
「了解。じゃ、さっさとやろう。」
そう言って受け取ったインシーニェを構えるが、しかしーーーー。
目前の三型成熟体は、踵を返して走り去っていった。
・・・速いな。追いかけても離されそう。
しかも相手はフェアリエ。立体的な空間においては、容易に三次元戦闘をこなしてくる。・・・即ち、もしこの5人で追いかけ追いついたとしても、戦闘は困難をきわめ、最悪誰か死にかねないほどの厄介さとなりかねないということ。ただーーーー。
今まで平坦な地の理を活かして戦ってきたフィリデイたちにとって、三次元戦闘の厄介さは、とうてい理解できるものではなかった。
「逃げちゃう!」
エリカが三型成熟体の後を追う。が、しかしーーーー。
「エリカ!避難優先!」
シノの言葉に立ち止まる。
「いいの?」
「1体や2体逃げた所で、”もう全部遅い”から。」
「そっ・・・か。・・・そうだよね。」
シノの言葉を聞いて、エリカは悲しそうに頷いた。
「じゃ、行くよ。」
ーーーー腰を抜かし立てなくなった女性は、この場で1番の力持ちであるシノが・・・子どもは、ルリカが抱え上げ、その場に残っている一般人を中心に、エリカが先導、コトミとショウコが最後尾を守る形で、避難場所への移動を開始したーーーー。
ーーーー移動を始めて暫く・・・・。
・・・まったく、えらいこっちゃ。
移動した距離が長くなるほどに、こちらにフェアリエが吸い寄せられているのを感じる。このままではーーーー。
・・・誰かが囮になった方がいい。・・・よし。
「ショーコちゃん、先に片付けたい。」
「賛成。」
「エリカちゃん!先行ってて!私ら囮になる!追ってきてるフェアリエを始末する!」
「・・・あい!わかった!エリの進行方向はずっと変わらないから!」
「すぐ追いつく!・・・さて。」
「頑張るぞぉ?」
「うん!」
ーーーーポツリポツリと、雨が振り始める。
・・・このタイミングで・・・。良いのか悪いのか・・・・。
フェアリエを始末し終え移動する中、街頭のおかげで明かりはチラホラ。だけどところどころは真っ暗。
夜は深まり、月明りは雨雲に隠され・・・。季節は真冬。目の前には無数の死体。もちろんフェアリエのもの・・・と言えればよかったんだけれどーーーー。
食われかけのピースがところどころに落ちている。・・・ああ、気持ち悪い。
やがてそれらが、雨によって流されていく。
・・・・ユラユラ・・・コロコロ・・・ポテッ・・・と。
「寒い・・・。」
体が震え始めた。
血を洗い流してくれる分にはありがたいけど・・・でもそれ以上に、この季節の雨に野ざらしは、冷蔵庫の中にいるのと同じ。あげく纏まりついた水が体温を急激に奪っていく。
・・・髪も服もびしょ濡れ。ちゃんと対策しとくんだったな・・・。
・・・というか冬なのになんで雨なの?しかもこのタイミングで!雪降れ雪!神様によるいじめか!ああ・・・寒い寒い。
・・・戦闘は終わったんだ。早いとこ移動しよう。
「コトミちゃんこっち。」
「ん。」
屋根の下へと移動する。
「暫く休む?」
「ダメ。早く移動して体温めよう。」
「わかった。ならもう少し頑張ろう。」
「うん。頑張ろう。」
そうして再び、足を動かす。
幸い、この体は丈夫だ。そう簡単に動作不良を起こすことはなければ壊れることもない。だから走れ。走れ。走れーーーー。
「助け・・・・・。」
声は無力にかき消され、やがて雨音だけが全てとなる。
『殺せ。殺せ。殺せ。』
もちろん、目についたフェアリエは、全て殺した。・・・それでも助けられなかった人は、残念に思う。でも仕方がない。全てが救えるほどの万能を、私たちは持ち合わせていないから。だからーーーー。
・・・恨むなら好きに恨むと良いよ。でももし、私のことを恨むって言うのなら、私が何度だって殺してやる。お前も、お前らも、全部ーーーー。
「コトミちゃん!見えたよ!」
「このまま入るの?」
・・・雨に流されたとは言え、私たち血まみれなんだけど・・・・。
「裏門!唐獅子のおじいちゃんが用意してくれてるらしいから。」
「そっか。」
場所は知らない。なんかの施設。立地は広くて、建物は結構大きい。
そこに人をたくさん運べる軍用車がいくつも来ていて、そしてフィリデイだと思われる子どもが相当数いた。もちろん外側に。・・・で、内側には銃を持った一般兵士の人たちがたくさん。
人を運ぶ先は多分、第三兵学校。今は第三砦街『因幡』って呼ばれている場所だろうと思う。・・・ここから一番近いし。
そこの立地はめっちゃ広い。第三兵学校の立地が霞むくらいに。そして、この砦街と呼ばれる鳥籠は、外周を、守護壁が用いられた外壁で囲んでいる。つまり現状で、フェアリエを避けれる唯一の安全地帯。
・・・私たちもそこに向かうことになるのかな?
ーーーー施設内に入ると、近くの扉が開いた。
「ショコちゃん!コトミちゃん!」
「エリカちゃん。」
「みんな無事届けたから安心して・・・って、2人ともびしょ濡れじゃん!」
「そなの。」
「早く暖とって!エリたち、男女別でこことそこの二部屋を使わせてもらってるから。あ、女子はここね。着替えは中にある服適当に選んで。」
「エリカ!」
「わかってるシノちゃん!じゃ、エリもう行くから!」
そうして2人は去っていった。
「頑張れ〜。」
カッパ着てたから、多分助けに行ったんだろう。知らない誰かを。できるだけ多く。
・・・頑張るな〜。
「・・・あったか〜。」
部屋の中には誰もいなかった。
スマホ内のやり取りを見るに、何人かは既に集まってたらしいけど、みんなして誰かを助けに動いたみたい。
「ショーコちゃんの両親、無事かな。」
・・・ショーコちゃんが家に戻った時、既に親はいなかったらしい。そして周囲にはフェアリエの姿を確認できたと。・・・連絡は未だ取れず。
「無事なんじゃない?」
「心配じゃないの?」
「・・・・・きっと大丈夫だから。」
「・・・・。心配じゃないの?」
親に対する心配がまったく見受けられない。・・・「どうせ生きてるだろうから心配してない」・・・とかじゃなくて、「別に死んでも気にしないから心配してない」と、そう言っているように聞こえてしまう。
「本当に・・いいの?」
「いいよ。」
「・・・そっか。」
・・・いや、よくない。これはよくない。
「・・・着替えたらもっかい見に行こ。」
コトミの言葉に、ショウコは「仕方がないなぁ」・・・と、言いたげな表情。
ショウコの瞳の中には、コトミしか映っていない。
「わかった。じゃあ、施設内と外のテント見てみて、それでいなかったらもう一回家に帰ってみよう。」
・・・じゃあって・・・・これでいいのかな。
ーーーー着替えたコトミたちは、ショウコの親を探した。けれど避難場所にはいなかった。だから自宅に向かった。カッパを羽織って。
ーーーー周囲に見える人影はゼロ。・・・避難が滞りなく進んだのか、それとも家の中に引きこもっているのか・・・。あるいは最悪、全部殺された想定もできなくもないけれど、その実感はあまり湧いてこない。
幸い、隣町には唐獅子おじいちゃんがいて、また、ここら周辺の地域は元803部隊員の故郷だったから、なんとか持ち堪えることができた。・・・おかげで突然溢れたフェアリエに大しても、迅速に対応できた・・・らしい。
今はチラホラと確認できる程度。多分、暗がりに隠れて取り逃がした残党。それを駆け回るフィリデイたちが刈り取っていく。
そして、聞いた話曰く、他のみんなだけじゃなく、沢山のフィリデイが動いているとのこと。
・・・フェアリエが溢れたのは、ここらだけじゃなかったってことか。・・・けど、だとしたら、一体どこまで・・・・・・。
絶望・・・ではないが、それに近しい感情が心に沸き起こる。けれどーーーー。
・・・今はとにかく、行こう。早くーーーー。
ーーーーフェアリエが何処から来たのかは、まだわからない。
もちろん、ヤマト国の自己責任かもしれない。けれど、世界中でこれと同じ事態が起きているらしい。・・・つまりヤマト国だけではないと・・・・。
ならばやはり、『泳げる新種』、『飛べる新種』、『人間に近しい知性を持つ新種』の、何れかが生まれたか・・・・あるいは全てか・・・・。
・・・でも既存種は?なんでここにいるの?お前ら海泳げないはずじゃ?・・・・克服でもしたのかな?それかまさか、新種を足場に?
・・・・いや、ちょっと待って。やっぱおかしくない?・・・そもそも大陸横断防壁基地は?正面突破された?でも崩壊したなんて聞かされてないよ?どういうことだ?抜け道でもあった?
ーーーー考えている間に、自宅に辿り着く。
外から見る限り、荒らされた形跡は無く、カーテンの隙間からは光が漏れている。
ーーーー扉を開け家の中へ。
「どう?」
「いない。」
辺りも含め一通り見回ったけど、見つからなかった。避難場所にもいなかった。
この家に地下室とかは無く、何より、2人の声に、一切の反応が無かった。・・・つまりはここには居ないか、あるいはーーーー。
最悪の想定が脳裏を過る。
ショウコを見る。・・・彼女は、いつもと特に変わりなかった。
「外、出よう。」
「どうする?フェアリエ殺して回る?まだいるっぽいし。」
「うん。そうしよう。」
ついでに両親を探しながらーーーー。
ーーーーそして2人は、街灯を頼りに、終わりかけの世界へと駆け出していったーーーー。
1740.12/22




