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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
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27.神様からの贈り物

 1年の内で、日が出ている時間が最も長い日。即ち、『夏至』。

 その日の『日の出から日の入りまでの明るい時間』。その瞬間。『日(ひ)の神様』が、星に触れて世界を覗いている。

 故に人々は、その日の”日の出”を拝むことで『日の神様』を静かに、微笑むように、穏やかに出迎えることができ、”日の入り時刻前”に併せて祝杯を挙げることで、去る直前の『日の神様』に、己らの心に存在する陽光のような・・・即ち、元気さや明るさを知らしめ、『安心して”この星”と”そこに生きる人々”を見守っていてくれ』という想いと共に、送り出すことができる。・・・・これを『聖日祭』と呼ぶ。

 1年の内で、日が沈んでいる時間が最も長い日。即ち『冬至』。

 その日の『日の入りから日の出までの暗い時間』。その瞬間。『夜(よ)の神様』が、星に触れて世界を覗いている。

 故に人々は、その日の”日の入り”から宴を始めることで『夜の神様』を盛大に、煩く、華々しく出迎え、”日の出”を拝むことで、己らの心にある月光のような・・・即ち、淑やかさや気品を知らしめ、『安心して”この星”と”そこに生きる人々”を見守っていてくれ』という想いと共に送り出すことできる。・・・これを『聖夜祭』と呼ぶ。

 ーーーーとはいえこれらは、所詮、人が人たる故の産物だろう。

 朝に起き、働き、休み、遊び、眠る。そのサイクルを崩さないよう、『聖日祭』と『聖夜祭』、どちらにおいても、”日の出は拝むもの”で、”日の入りは宴の時間”となっている。・・・とはいえだ。

 純粋な心と高潔な精神。人がこの世界を生きていく上で、決して忘れてはならないもの。・・・この世界を・・・・そして己らが穢されぬようする為に、決して、吐き捨ててはならない在り方。・・・・この2つの在り方を刻む為・・・忘れない為。・・・そして、神様という偶像を確かな形と成す為に創り上げられた、れっきとした人の祝い事。

 何故、人々は働き遊ぶか。それは、これからの幸福を勝ち取るため。故に人々は、「己らがこれから幸福を得られますように」と・・・「努力が実りますように」と・・・。心の奥底にある”抗えぬ欲望”という名の性欲を解消する為に、傾倒すべき『日の神様』という偶像を生み出した。

 何故、我々が眠り休むか。それは体力を回復し、心身を整え、これからくる苦難に備えるため。故に人々は、「苦難を乗り越える力を得られますよに」と・・・「身に余る苦難が振りかかりませんように」と・・・。心の奥底にある”物言えぬ恐怖”という名の不安を解消する為に、傾倒すべき『夜の神様』という偶像を生み出した。

 ーーーー祝い事、あるいは宗教。より現代に近い言葉を使うならば、推し。・・・・そういったものは、人の心に巣食う、この世界を滅ぼし得る毒素を抑え込むための鎮静剤として機能している。

 ・・・私は、常々疑問なのだ。・・・「何故人は、そう簡単に発狂しない?」

 当たり前に考えて、『死とい名の終わり。』『己の存在価値。』『「生きる」とは。』『あまりに広すぎるこの世界。』『何も見えぬ暗闇。』『心を狂わせる不気味な音や揺れる白い影。』・・・・それらを前にして、何故人は発狂しないのか・・・。愚鈍で馬鹿だから発狂しないのか?・・・それもあるが、「それ故に」とでも言うべきか・・・・・。

 ・・・私には理解できない。私は今にも発狂しそうだと言うのに、何故人々は・・・・・。

 ーーーーその理由が、”それら”なのだろう。

 だからこそ、祝い事は大事にすべきであるし、神という”不確かな偶像”を否定してはならない。・・・・何より、”その根本にある要素”を、忘れてはならない。

 ・・・まあこれは、何事においても重要な考え方か・・・・。


ーーーーーーーー

 

 山の縁で光が陰る。

 夕焼け色の空が、黒く染められていく。

 太陽が沈み、陽光が消えていく。

 「ふぅわぁぁ・・ぁぁ・・・・・はぁぁぁぁ・・・・。」

 隣でショウコが欠伸をする中、温かいココアの入った水筒を両手で握り締め、コトミはただ、空を眺める。

 冷たい風に吹き晒されて寒い筈なのに、微かに照らされている顔は、何故か暖かみを感じている。

 日の出と日の入り時間に経験できるそんな不思議で穏やかな瞬間が、コトミは大好きだった。・・・まるで世界と一体化してしまったようで、心地よかった。

 だからコトミは、毎年のようにショウコを無理やり連れ出し、この展望台に登っている。

 「・・・日の入りからこの日の出の瞬間までが、闇を纏う夜(よ)ノ神様が世界を覗く日。・・・『かの者は日の入りから日の出までが最も長い時間にのみ顕現なされ、そして我々の邪気を吸い取ってくれる。故に我らは、その御心に感謝し、供物を捧げよう』・・・っていう昔のお祭りが受け継がれて、今に至るの。・・・因みに、時代と共に供物を捧げる行為は減っていって、時間の関係で日の出と日の入り両方を拝む人も減って、結局今は、人々が活気づいて、自由に楽しく生きている姿を見せることが、感謝を捧げる行為として取って代わっていった。だから現代じゃぁ、こうして日の出を拝むなんてのは、数奇な運命に晒された妄信者たちが多くって差別的な視線も強い。けど私はね、思うんだ。」

 毎年のように始まるコトミの一人語りを左から右へと流しながら、ショウコは「ズズズズズズズズ」とココアを啜り続ける。

 「ただの空想話。本当は別にだいそれた目的があって、神様の存在を本気にして作り上げた祭事じゃない可能性だってある。それでも祭事として存在して、こうして今にも受け継がれて・・・。神様がいるかいないかなんてのは大して重要じゃないと思う。大切なのは、祭事の存在そのもの・・・人が縋りつきたくなるような空想であって・・・。それがあったおかげで、今こうしてあそこいる人達は楽しむことができてる。いつも通りの楽しそうな雰囲気が、受け継がれた祭事のおかげで一段と活気づいてるように思える。だったらこれは、”空想の上に成り立つ神様のおかげ”と言えるのかもしれない。だからこうして感謝する。祭事そのものに。祭事の為に生み出された2人の神様に。この祭事を作り上げてくれた人に。そしてもしかしたら存在するかもしれない、本物の神様の為に。・・・それにさ。・・・・人が神様を”勝手に創り出しておいて”、なのにそれを”放棄する”っているのは、どぉうしても、居心地が悪く感じちゃうんだよね。」

 「ハイハイ、ソウデスネ。コトミちゃんハ、関ワリナイノニ、感ジチャウンデスネ?」

 「うん、そうだね。やっぱさ・・・創られながら人に無視されるのは、悲しいじゃん。」

 「ハイハイ。」


 ーーーー光が消え去り、月光が世界を照らす時間となる。

 「顕現の時は来た。我、世界に干渉せんと欲す。開け、ごま。」

 「タ〜ラ〜ラ〜・・・って、お〜い。こんな目の前に降臨されてたまるかぁ〜。」

 「フフフフ。君の思考に惚れちゃってね。来ちゃった。てへッ。」

 「夜ノ神様。思ってたより軽かった件。・・・闇を纏ってるって話だからもっと重々しいお方なのかと思っていました!すごくカッコいい!」

 「だろう?フフフ。さあおいで。一緒に世界を見て回らないかい?」

 「トゥクン・・・。良いのですか?その手を取っても・・・。」

 「ああ勿論だと・・・も?」「へ?」

 ショウコが言い終える前。唐突にして、叫び声が聞こえた・・・ような気がした。

 「・・・結構遠い?」

 不確かながら聞いてみる。

 「ちょびっとしか聞こえなかったもん。・・・けど多分そう?」

 「・・・聞き間違いじゃないよね?」

 「コトミちゃんも聞こえたなら。」

 「・・・面倒事だよね。」

 「だろうね。浮かれた誰かが気に入らない誰かを襲ったのかも。」

 「・・・嫌な話。」

 「まぁ仕方ないよ。行事ごとでつい浮かれすぎちゃう人って多いし。」

 「聞こえちゃった以上は・・・。」

 「仕方ない。行こっか、コトミちゃん。」

 「ありがと。」

 「いいよ。」

 ーーーーそうして展望台を移動し山を駆け降りる2人だったが、事態は既に最悪を飛び越えてた。

 ・・・そう。仮にもし人類社会の終焉がいつ訪れたかを聞かれたなら、それは間違いなく今日この日と言えるだろう。それ程までに・・・・。


 ーーーー走って、走って、走って・・・・。人目や気配を気にしながらだったから、少しゆっくり目に到着した。そして目ん玉をくり抜かれたかのような気分を味わった。

 「ルリカちゃん!?」

 彼女の視線が一度だけこちらへ向く。

 なんで・・・なんでここに、”フェアリエがいる”の・・・?

 視線の先では、ルリカがフェアリエと、”木の棒切れ”で戦っていた。

 ・・・助けないと!

 「ショーコちゃん!」

 「わかってる!」

 ザワ・・・。

 総毛立つ。全身が硬直する。そしてーーーー。

 「ア゛ハ゛ッ゛。」

 おぞましく醜く、そして汚らわしい。・・・とにかく、気持ちの悪い体躯であるフェアリエの口から、なんとも可愛らしい女の子の、それでもガナリの入ったボロボロの笑い声が聞こえた。

 「うそ・・・。」「やば・・・。」「・・・ッッ!」

 そんな声と、そして目前のフェアリエが放つ異様な存在感を明確に捉え、コトミは驚愕し、ショウコは失笑し、そしてルリカは立ち竦んでしまう程に怯えた。・・・だが、それだけじゃない。叫び声が・・・恐怖に泣き叫ぶ人々の絶望が、ありとあらゆる場所で花開く。さらに、恐怖に塗り固められた絶叫が、風に乗って世界へ散らばる。散らばって、枯れていくーーーー。

 ーーーーその日、”世界中”にフェアリエが溢れた。”世界中”が、絶望で包まれたーーーー。

1740.12/22

ーーーーーー

【聖神祭(せいしんさい)】→

『聖日祭(せいじつさい)(6/22)』と『聖夜祭(せいやさい)(12/22)』。その両方を指す言葉。

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