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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
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26.ただいま

 今朝、ゼロイチ患者のバイタルに変化が起きた。・・・植物状態であることに変わりはないが、しかし、これは明らかに良いことだろう。もしかすると、覚醒の兆候かもしれない。・・・いや、さすがにそれは早計かーーーー。

 とはいえだ。長期に渡りこれといった変化が無かった者たちに変化が起きた。それ自体は良い兆候だろう。どの道、床に伏したまま、意識もなく、ただ死せる運命でしかなかった者たちだ。・・・これを期に、さらなる変化が訪れることを、期待しよう。


ーーーーーー


 3月上旬。卒業式目前。私たちは、中学校へと帰ってきた。

 「3年・・・6組。・・・番外・・・。」

 沼須乃木中学校は、基本4組までであることが多く、時折5組に増えたり、3組だけと減ったりもする中学校だ。・・・ただし、6組は存在しない。特別学級も小学校までで、中学校にはなかった。・・・けど今、元803のみんなは、3年6組という形で、この学校に在籍し続けていた。・・・因みに2年生の頃はちゃんと5組まであって、803のみんなはその何れかにクラス分けされてた。

 「なんか・・・すごい、特別感・・・。」

 「し・・・仕方ないよ。だって私たち、実質、まだ2年生。」

 「そうなの?・・・一応向こうでも、軽くだけど授業してたよ?」

 「軽くだよ。本当に。・・・それに毎日戦闘後の状態だったし、正直、全く覚えてないと言っても過言じゃない。」

 「たしかに・・・。だからこういう・・・。でも卒業するんだよね?」

 「らしいね。・・・まぁ、勉強のほうは、高校でなんとかしてくれるって唐獅子(からしし)おじいちゃん言ってたし・・・・大丈夫。なんとかなる。」

 「唐獅子おじいちゃん・・・私たち助け出してくれてからも、すっごいお世話になってるね。・・・今度なんかしてあげる?」

 「ショーコちゃんがプレゼント?!めっずらしいね。」

 「まーね。流石にお世話になりすぎたし、コトミちゃんのことも助けてくれたし。」

 「・・・そうだね。私のこともショーコちゃんのことも、他のみんなも。ほんと、無事でよかった。」

 「うんうん。」

 「チャンヂャカヂャンチャン。エリ!参上!おっはよ〜う、オォォフタリさぁん!」

 元気のよいハイテンション裏声挨拶で階段を登ってきたエリカが、横の壁から顔を覗かせる。

 「自由登校1日目から来〜るなんてぇ〜・・・さぁ〜すがッ!がッ!がッ!がぁ!」

 コトミとショウコの間に割って入りながら、2人の腰に手を回した。

 「元気だね。」

 「うるさいよ。」

 2人に押しの蹴られるようにして、エリカが扉の前に立つ。

 「だまぁ〜れぇない!行くよー!!ガラガラぁ!!!おッはよぉ〜い!!!!」

 エリカが教室の扉を勢いよく開く。

 「ガリッ!ガシャンッ!!」・・・扉が壊れた。

 「・・・おっふ。」

 一旦冷静になったエリカを傍目に、コトミとショウコは教室へと入っていく。

 「ま、私たちフィリデイだし。」

 「加減しないと・・・。」

 「・・・・ど・・・ど・・どどどどぉしよぉぉぉ!!!みんなぁぁぁぁ!!!!!」

 あとから来た焦りに負けて、一瞬にして冷静さを失うエリカ。そんな彼女に、みんなは優しく微笑みかける。

 「ちょぉぉぉ!!!フォワァァァァァ!!!!」

 優しい微笑みの意図を察したエリカが、ムンクのように叫んだ。そして叫び声は、廊下や階段下にまで響き渡っていた。故にーーーー。

 階段を登るカコ、シノ、リオナの3人が、ある程度を想像して、教室手前の角を曲がる。

 「ちょっ!なにこれ!」

 「壊れてんじゃん(笑)。」

 「どしたのナシノ・・・え゛ッ゛・・・。」

 3年6組の教室は、階段を上がりすぐ横にある。その為、壊れた扉を、遠目でなく目の前で初めて捉える。そのインパクトたるや・・・。

 いくらエリカを知っていようとも、3人にとってこれは、完全に想定外だった。

 「やーい。カコちゃん、やーい。」

 パニックでありながら冷静に状況を判断したエリカが、自らの罪をカコに擦り付けた。

 「はッ?!えっ!?いやっ!ちがうしッ!!」

 「やーい。やーい。」

 「きけや!!!」

 「・・・やーいやーい。」

 ちょっと間を挟んで、シノがエリカに便乗する。

 それを聞いて、リオナもスイッチを切り替えた。

 「・・・カコちゃん・・・ヤッちゃったんだ・・・。」

 「はっ!!えっ?!ちがうし!!ってかシノは一緒にいたぢゃん?!」

 「0.1秒の間に、やっちゃんたんかと。」

 「カコちゃんなら・・・。」

 「ムッリッだッよッ!!リオナちゃんは後ろだったけど、シノはあたしの真横ぢゃん!」

 「わかってるわかってる。つまんないんだからさぁ・・・ほんと。」

 「うるさい!!」

 「んで、どったのこれ?」

 「エリがね・・こう、ガッシャーン・・って。」

 「ヤッちゃったかぁ〜。」

 「ヤッちゃったね。」

 「うん。エリ、ヤッちゃった。・・・エヘッ。」

 「エヘッ!・・っじゃねぇよ!!あたしのさいにしやがって!!」

 「まぁまぁ、落ち着いて。」

 「落ち着けるか!」

 「落ち着けッ!テイッ!」

 「ふにぁッ?!ッッッ!!!おいッ!!!」

 ・・・愛も変わらず・・・いや、随分と久しぶりか。・・・懐かしい懐かしいあの日常が、帰ってきたんだ・・・。

 「・・フフ・・アハハ。」

 「コトミンが笑ったぁぁぁ!!!!」

 「たぁぁぁ!!!」

 「うぉぉぉぉお!!!!」

 「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 「あぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「ちょっと!この扉、何事!!!」

 煩く和やかな3年6組の教室に、担任がようやく到着した。

 「あ!朝香先生!!久しぶり!」「久しぶり〜。」「おはよ〜。」「よ〜。」

 「挨拶の前に説明!!これは何事?!」

 みんなの視線がエリカに向けられる。

 「ま〜・・エリがね。・・・ヤッちゃったよ。テヘッ。」

 「ハァぁぁ〜〜ぁぁぁぁぁ・・・・。」

 額に手を当て、重いため息を吐き・・・朝香先生は、喜びを隠しきれない表情で項垂れてみせた。

 「取り敢えず掃除しましょうか。新聞紙とか布とか持ってきますので、それまでは触らないように。ガラスは危ないですから、ね?」

 「「は〜い。」」「でぃ〜す。」

 そうしてどっか行った朝香先生が、掃除する為の荷物を持って戻ってきて、割れたガラス片を丁寧に集めて、粉々のちっちゃいのは箒で掃いて集めて、それらを厚手の布でしっかりと覆ってゴミ袋に入れたら、そのゴミ袋を教室の隅に置いておいて、「時間が無いから。」・・・と、朝のホームルームを始めた。

 そしたら私、なんか懐かしい気分になって、「ああ・・ようやく帰ってきたんだなぁ。」・・・って。・・・そんな、安心感とも呼べる幸せで穏やかな雰囲気が教室中を埋め尽くしていることに気がついて、とても・・・・とても心が満たされた。「これからもこんな日々が続けばいいな。」なんて願いが、本気で、心の奥底から湧いて出てきた。

 ・・・ねぇ。・・・・・・それくらい、許されるよね?・・・許してくるよね?・・・・・・・・ねぇ。・・・・ねぇ・・・・。

1740.3/--

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