25.涙する父母、泣けなくなった子供たち
フェアリエ戦争は、未だ継続中だ。しかし、現在までに発生が確認された融合体は、その全てが終爆により討伐されるか、あるいは完全に沈黙するかで、当初の危険性は完全に消え失せてしまった。
また、大陸横断防壁基地の堅牢な守りにより、人工河川を越えてくる飛行型や、飛行型が連れる他フェアリエたちも安定しての対処が可能となった。
とはいえ、人間側も、喪失値を制圧するだけの力を持ち合わせてはいない。結果、フェアリエ戦争は完全な膠着状態となった。
ーーーーーーーー
人々は言う。ーーーー今の世界は、安全。安心。安息。そして、平和である・・・と。
それは間違いないと思う。1年前の状況と比べれば、誰も否定はできない。けれど、陸地の半分以上が失われた事実から、目を背けることもできない。
フェアリエ発生前の世界と比べれば、資源は枯渇してるし、住める場所は狭くなってるし、消せない緊張感が常に漂っている。国や軍や研究者がいくら安心、安全、安息を説いても、これらはどうにもならない。でも、”だからこそ”か。・・・今の世界は、”かつてないほどの穏やかな様相”に包まれている。
ーーーー輸送機に揺られながら、地上に広がる街を眺める。
活気ある出店。人の行き交う通り。ごった返す広場。ーーーー人々は、フェアリエ発生前の世界より、生き生きとしているように感じ取れた。
・・・これが、私たちの守った世界なんだ・・・。
誇れる気持ちは湧いてこない。かといって、怒りがあるわけでもない。ーーーーどうでもいい。特に、何かがあるわけじゃない。
別に変人だとかそういうわけじゃなくて、本当に、ただ、どうでもいいんだ。
だって私も、ショーコちゃんも、生きているから。・・・一緒に居るから。
「・・・ムニャムニャ・・いちご大福ぅ・・・。」
「・・・平和だね。」
・・・そう。これでいいんだ。
凱旋とか、表彰とか、賛美とか・・・そんなものは要らない。ただゆっくりと、人知れず家に帰って、忘れかけの普通の日常に馴染んでいく。それで、いい。余計なことは、何もなくていいーーーー。
鋼鉄の床に敷かれた柔らかいクッションの上・・・カタカタカタと揺られながら、気づかぬ間に意識が薄れていくーーーー。
いつの間にかスヤスヤと、心地の良い寝息が聞こえて、深い眠りに落ちていくーーーー。
気分は、快晴の下の草原の上。・・・穏やかで暖かな風に肌を撫でられながら、青臭い匂いや磯の匂いが鼻の奥に充満していくーーーー。
もう時期戻ってくるあの日常が、想い起こされていくーーーー。
「ーーーー・・・ちゃん。・・・お〜い。・・・起きて〜〜〜・・・・。」
「・・・・ん・・・・・。」
朧げな意識の中、機体が揺れていないことに気づく。
・・・・ついたんだ・・・・。
「帰ってきたよ〜。・・・お〜はよ〜〜〜。」
「・・・・ん・・はよ。」
頭の中ポカポカ・・・。こんな気持ちぃ熟睡、いつぶりだろ・・・・。
「みんな待ってるよ。後は私たちだけ。」
「・・・ん。・・・ん?」
顔を上げると、みんながこっちを向いていた。
・・・待ってなくていいのに。
「・・・さきに降りてて・・・・。」
コトミの言葉を聞いて、ツミレが優しく笑う。
「みんなで・・・ね?」
言って、取っ手に手をかける。
「アタシらは、同じ部隊で頑張ったかけがえのない仲間なんだから。」
誰を見るでもなく、ただ前をーーーー。
・・・そっか。・・・悲しい。悔しい。痛い。・・・けど、帰ってきた。ちゃんと。・・・・”残された”みんなで。・・・・それが、何よりも嬉しいんだ。
コトミの口角も、自然と持ち上がる。
「じゃ、行くよ、みんな。」
開かれた扉から風が吹き込み、熱の溜まった肌を心地よく撫ぜる。ーーーー少しして、急激に寒さを感じ始める。
今は3月の上旬。ヤマト国だと、ちょっと寒かったり暖かかったりと、まあ、過ごしやすい時期ってとこか。
ーーーー開かれた扉の縁に手を掛け、光射す外へ。
「昇子!言身ちゃん!」
ショウコの母と父が、2人に駆け寄る。
親たちが、輸送機から降りてくる我が子を涙ながらに抱きしめる。
少し離れた位置に、ミトの両親が立っていた。・・・・2人は、既に知っている。訃報は、その日の内に聞かされていた。ただ・・・娘と共に頑張った子供たちを・・・その笑顔を、ちゃんと近くで見ておきたかった。だからーーーー。
ショウコと一緒に親の抱擁を受けるコトミが、視線の先でミトの母親を捉える。
・・・泣いてる・・・けど、嬉しそう?・・・優しい笑顔・・・。
不思議と、その立ち姿に心が吸い込まれた。・・・包容力、あるいは母性?・・・なんにしろ、ミトの母親が持つその雰囲気に、親の愛情と呼べる何かを感じた。
・・・・・・あれ、涙?・・・私が?
・・・わからない、けど、胸が、苦しい。・・・苦しい。
・・・パパ・・・パパ・・・会いたい・・・。
頭の中がズキズキと痛む。とても不快で、気持ちが悪い。
「・・・コトミちゃん?」
・・・違う。・・・思い出したくない。・・・思い出したくない。・・・あんなのはパパじゃない。・・・間違ってない。・・・私は間違ってない。
思い出すと、想いが溢れてしまう。・・・心の奥底で蓋をしてしまった激情が、心を完全に焼き溶かしてしまう。そうさせない為にーーーー。
「コトミちゃん?!」
防衛本能・・・とでも言うべきか。・・・意識が浮いて、抜け落ちたーーーーー。
・・・まっかっか。・・・わかる?
どうしてだ言身!俺が何をした?
ごめんな・・言身・・・・。
謝ってるじゃん。・・・許してあげなよ。
死ね!死ね!死ね!死ね!
たった1人っきり。・・・親だよ?こんなになってもさ。
言身・・・言身・・・言身ぃ・・・✕✕✕!!!!
いやッ!はなしてッ!・・・パパッ!!
う゛ッ゛ッ゛!!・・・お゛う゛ぇ゛ぇ゛・・・。
・・・楽しいね。・・・染まっちゃえばいい。・・・そしたら痛くないよ。
いたいッ!!いたいッ!!!・・・・イ゛タ゛い゛ッ゛!!!!
キモチイイ?・・・だよね。
✕✕✕・・・・。✕✕✕・・・・。
寂しかった心が、満たされてる。とってもいいこと。これでよかった。・・・よかった。
・・・・ぁ・・・ぁッ・・・・・・。
たくさん。・・・たくさん愛してくれてる。
ねぇパパ!次あそこいく!
言身ぃ・・・ちょっとはしゃぎすぎじゃないかぁ?
元気だよ!もっと遊ぶ!
友達はいいのか?
いっぱい遊んだ!だから今度はパパと遊ぶの!!
はははは・・こりゃ、へばってらんないなぁ・・・。
・・・たのしい?
言身が居てくれるからな。いつも楽しいよ。
・・・さみしくない?
言身が居てくれるからな。寂しくなんてなれないさ。
・・・でも、きのう、ないてたよ?
言身が居てくれるからな。幸せすぎて、感極まっちゃったのさ。
パパ!
どうした?
おはな!
綺麗だね。言身にそっくりだ。
パパ!
どうした?
おはなぁ〜。
ブタさんみたいになっちゃって・・・でも、かわいい!さすが!おれの娘!・・・ママにも見せてやってやろうな。
うん!
・・・ガラガラ・・・カタカタ・・・カラカラ・・・カチカチ・・・・・ピーーー。
・・・ママ、きょうもねんね?
そうだね。
・・・ママ、きょうもねんね?
そうだね。
・・・ママ、きょうもねんね?
そうだね。
・・・ママ、きょうもねんね?
うん。でも明日には、起きてくるよ。きっと。
ほんと!?
ああ。絶対だ。だから・・・✕✕✕。な?言身も待ってる。
パパ?
・・・大丈夫。・・・大丈夫。
ーーーーパパ、このひとだあれ?
・・・ママだよ。言身のママ。
ほんと?!コトミの?!いつおきるの?!
そうだな・・・・言身の夢に、ママが出てきたらかなぁ・・・なんてーーーーーー。
「・・・・パパ・・・会いたい・・・・。」
あふれる涙に、想いが乗って、落ちていく。
心の中の激情が、少しづつ、薄れていく。
このまま記憶すらも流れ落ちてくれれば、どれ程幸せだっただろうかーーーー。
1740.3/--(上旬)




