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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
36/57

25.涙する父母、泣けなくなった子供たち

 フェアリエ戦争は、未だ継続中だ。しかし、現在までに発生が確認された融合体(アマルガム)は、その全てが終爆により討伐されるか、あるいは完全に沈黙するかで、当初の危険性は完全に消え失せてしまった。

 また、大陸横断防壁基地の堅牢な守りにより、人工河川を越えてくる飛行型(アレート)や、飛行型(アレート)が連れる他フェアリエたちも安定しての対処が可能となった。

 とはいえ、人間側も、喪失値を制圧するだけの力を持ち合わせてはいない。結果、フェアリエ戦争は完全な膠着状態となった。


ーーーーーーーー


 人々は言う。ーーーー今の世界は、安全。安心。安息。そして、平和である・・・と。

 それは間違いないと思う。1年前の状況と比べれば、誰も否定はできない。けれど、陸地の半分以上が失われた事実から、目を背けることもできない。

 フェアリエ発生前の世界と比べれば、資源は枯渇してるし、住める場所は狭くなってるし、消せない緊張感が常に漂っている。国や軍や研究者がいくら安心、安全、安息を説いても、これらはどうにもならない。でも、”だからこそ”か。・・・今の世界は、”かつてないほどの穏やかな様相”に包まれている。

 

 ーーーー輸送機に揺られながら、地上に広がる街を眺める。

 活気ある出店。人の行き交う通り。ごった返す広場。ーーーー人々は、フェアリエ発生前の世界より、生き生きとしているように感じ取れた。

 ・・・これが、私たちの守った世界なんだ・・・。

 誇れる気持ちは湧いてこない。かといって、怒りがあるわけでもない。ーーーーどうでもいい。特に、何かがあるわけじゃない。

 別に変人だとかそういうわけじゃなくて、本当に、ただ、どうでもいいんだ。

 だって私も、ショーコちゃんも、生きているから。・・・一緒に居るから。

 「・・・ムニャムニャ・・いちご大福ぅ・・・。」

 「・・・平和だね。」

 ・・・そう。これでいいんだ。

 凱旋とか、表彰とか、賛美とか・・・そんなものは要らない。ただゆっくりと、人知れず家に帰って、忘れかけの普通の日常に馴染んでいく。それで、いい。余計なことは、何もなくていいーーーー。

 鋼鉄の床に敷かれた柔らかいクッションの上・・・カタカタカタと揺られながら、気づかぬ間に意識が薄れていくーーーー。

 いつの間にかスヤスヤと、心地の良い寝息が聞こえて、深い眠りに落ちていくーーーー。

 気分は、快晴の下の草原の上。・・・穏やかで暖かな風に肌を撫でられながら、青臭い匂いや磯の匂いが鼻の奥に充満していくーーーー。

 もう時期戻ってくるあの日常が、想い起こされていくーーーー。

 

 「ーーーー・・・ちゃん。・・・お〜い。・・・起きて〜〜〜・・・・。」

 「・・・・ん・・・・・。」

 朧げな意識の中、機体が揺れていないことに気づく。

 ・・・・ついたんだ・・・・。

 「帰ってきたよ〜。・・・お〜はよ〜〜〜。」

 「・・・・ん・・はよ。」

 頭の中ポカポカ・・・。こんな気持ちぃ熟睡、いつぶりだろ・・・・。

 「みんな待ってるよ。後は私たちだけ。」

 「・・・ん。・・・ん?」

 顔を上げると、みんながこっちを向いていた。

 ・・・待ってなくていいのに。

 「・・・さきに降りてて・・・・。」

 コトミの言葉を聞いて、ツミレが優しく笑う。

 「みんなで・・・ね?」

 言って、取っ手に手をかける。

 「アタシらは、同じ部隊で頑張ったかけがえのない仲間なんだから。」

 誰を見るでもなく、ただ前をーーーー。

 ・・・そっか。・・・悲しい。悔しい。痛い。・・・けど、帰ってきた。ちゃんと。・・・・”残された”みんなで。・・・・それが、何よりも嬉しいんだ。

 コトミの口角も、自然と持ち上がる。

 「じゃ、行くよ、みんな。」

 開かれた扉から風が吹き込み、熱の溜まった肌を心地よく撫ぜる。ーーーー少しして、急激に寒さを感じ始める。

 今は3月の上旬。ヤマト国だと、ちょっと寒かったり暖かかったりと、まあ、過ごしやすい時期ってとこか。

 ーーーー開かれた扉の縁に手を掛け、光射す外へ。 

 「昇子!言身ちゃん!」

 ショウコの母と父が、2人に駆け寄る。

 親たちが、輸送機から降りてくる我が子を涙ながらに抱きしめる。

 少し離れた位置に、ミトの両親が立っていた。・・・・2人は、既に知っている。訃報は、その日の内に聞かされていた。ただ・・・娘と共に頑張った子供たちを・・・その笑顔を、ちゃんと近くで見ておきたかった。だからーーーー。

 ショウコと一緒に親の抱擁を受けるコトミが、視線の先でミトの母親を捉える。

 ・・・泣いてる・・・けど、嬉しそう?・・・優しい笑顔・・・。

 不思議と、その立ち姿に心が吸い込まれた。・・・包容力、あるいは母性?・・・なんにしろ、ミトの母親が持つその雰囲気に、親の愛情と呼べる何かを感じた。

 ・・・・・・あれ、涙?・・・私が?

 ・・・わからない、けど、胸が、苦しい。・・・苦しい。

 ・・・パパ・・・パパ・・・会いたい・・・。

 頭の中がズキズキと痛む。とても不快で、気持ちが悪い。

 「・・・コトミちゃん?」

 ・・・違う。・・・思い出したくない。・・・思い出したくない。・・・あんなのはパパじゃない。・・・間違ってない。・・・私は間違ってない。

 思い出すと、想いが溢れてしまう。・・・心の奥底で蓋をしてしまった激情が、心を完全に焼き溶かしてしまう。そうさせない為にーーーー。

 「コトミちゃん?!」

 防衛本能・・・とでも言うべきか。・・・意識が浮いて、抜け落ちたーーーーー。



 ・・・まっかっか。・・・わかる?

 どうしてだ言身!俺が何をした?

 ごめんな・・言身・・・・。

 謝ってるじゃん。・・・許してあげなよ。

 死ね!死ね!死ね!死ね!

 たった1人っきり。・・・親だよ?こんなになってもさ。

 言身・・・言身・・・言身ぃ・・・✕✕✕!!!!

 いやッ!はなしてッ!・・・パパッ!!

 う゛ッ゛ッ゛!!・・・お゛う゛ぇ゛ぇ゛・・・。

 ・・・楽しいね。・・・染まっちゃえばいい。・・・そしたら痛くないよ。

 いたいッ!!いたいッ!!!・・・・イ゛タ゛い゛ッ゛!!!!

 キモチイイ?・・・だよね。

 ✕✕✕・・・・。✕✕✕・・・・。

 寂しかった心が、満たされてる。とってもいいこと。これでよかった。・・・よかった。

 ・・・・ぁ・・・ぁッ・・・・・・。

 たくさん。・・・たくさん愛してくれてる。

 ねぇパパ!次あそこいく!

 言身ぃ・・・ちょっとはしゃぎすぎじゃないかぁ?

 元気だよ!もっと遊ぶ!

 友達はいいのか?

 いっぱい遊んだ!だから今度はパパと遊ぶの!!

 はははは・・こりゃ、へばってらんないなぁ・・・。

 ・・・たのしい?

 言身が居てくれるからな。いつも楽しいよ。

 ・・・さみしくない?

 言身が居てくれるからな。寂しくなんてなれないさ。

 ・・・でも、きのう、ないてたよ?

 言身が居てくれるからな。幸せすぎて、感極まっちゃったのさ。

 パパ!

 どうした?

 おはな!

 綺麗だね。言身にそっくりだ。

 パパ!

 どうした?

 おはなぁ〜。

 ブタさんみたいになっちゃって・・・でも、かわいい!さすが!おれの娘!・・・ママにも見せてやってやろうな。

 うん!

 ・・・ガラガラ・・・カタカタ・・・カラカラ・・・カチカチ・・・・・ピーーー。

 ・・・ママ、きょうもねんね?

 そうだね。

 ・・・ママ、きょうもねんね?

 そうだね。

 ・・・ママ、きょうもねんね?

 そうだね。

 ・・・ママ、きょうもねんね?

 うん。でも明日には、起きてくるよ。きっと。

 ほんと!?

 ああ。絶対だ。だから・・・✕✕✕。な?言身も待ってる。

 パパ?

 ・・・大丈夫。・・・大丈夫。

 

 ーーーーパパ、このひとだあれ?

 ・・・ママだよ。言身のママ。

 ほんと?!コトミの?!いつおきるの?!

 そうだな・・・・言身の夢に、ママが出てきたらかなぁ・・・なんてーーーーーー。


 「・・・・パパ・・・会いたい・・・・。」

 あふれる涙に、想いが乗って、落ちていく。

 心の中の激情が、少しづつ、薄れていく。

 このまま記憶すらも流れ落ちてくれれば、どれ程幸せだっただろうかーーーー。

1740.3/--(上旬)

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