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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
35/57

24.貴方たちの帰るべき場所は何処に?

『ーーーークィーンクェに関する報告書ーーーー


 『クィーンクェ』。それは、5番目に発生が確認された融合体(アマルガム)であり、頭部から臀部にかけ太くなる細長い胴体と、胴体側面から一線状に、且つ均等に並ぶようにして生える6対の腕を持つ。そして腕には、産毛を想起させる触手が大量に生えている。

 頭部には口と思われる開いた部位が存在するが、これを活用した行動は未だ確認されていない。

 臀部を円周上に囲むようにして、但し、人間で言うところの恥骨結合部と尾骨部を除いた円周上に、均等に配列するように、3対の脚が生えており、これで地面を掴んでいると思われる。しかし、脚の先端部は、まるでブラシのように幾本もの触手が一塊となっているだけであるため、”ヤモリのように吸着している”とも考えられるか。あるいは、後述する攻撃方法を下に考えるならば、幾本もの触手を”地面に突き刺し”固定しているものとも考えられる。とはいえ横ばい状態時に移動を行うことも考えれば、これはあくまで直立状態時のみと推測される。

 クィーンクェの主な攻撃方法は、確認できただけ限りで5つ。

 1つ目は、直立状態時、地面に突き刺した脚の触手を、地中を通し、地上に存在する生命体へ向け伸ばす、中、近距離の攻撃。また、地上に這い出た触手で対象を拘束する2段階目の攻撃手段も確認。

 2つ目は、腕を地面に突き立てる、あるいは薙ぎ払う、中、近距離の攻撃。

 3つ目は、腕から生える産毛のような触手を収縮、圧縮させ、自切とともに超高速で打ち出す、遠距離かつ広範囲の攻撃である。また、自切した触手からは、ナメクジのような、恐らく、フェアリエの不完全個体と推測される個体の発生を確認。・・・なお、このナメクジ個体は動きが遅く、フィリデイである者にとっては対処が容易であるが、【1型成熟体】〈オペラリウス〉の5倍程度の耐久力を誇る為、通常の人間には相当に厄介な存在として認識される。

 4つ目は、横ばい状態時に胴体をのたうつ、近距離の攻撃である。なお、のたうつ衝撃が伝わった地面が大きく揺れ、対象の運動能力を阻害する効果もある。

 5つ目は、鳴き声による広範囲攻撃であり、鳴き声を聞いたものは意識消失の危機に陥るとのこと。・・・但し、これについては視認できず、あくまでも伝聞によって聞かされた内容であるため、未だ詳細は不明か。   』

 

ーーーーーー


 ーーーー目を覚ました私は、輸送機に揺られていた。

 何があったか・・・・朧げな記憶をたどれば、一応は思い出せる。 

 どうやら墜落していた輸送機の外壁は頑丈なようで、地面からの棘攻撃は難なく、炸裂した肉塊は大きく凹む程度で、耐えられていたらしい。だからこそ、死にはしないが動けない程度の攻撃を受けた私を、誰かが抱え上げ、怪我人の仮拠点となっていた輸送機内部へと詰め込んだ。

 その後、立ち上がったクィーンクェは、”何故か”微動だにせず沈黙。

 隊のリーダーの人たちは生きている無線機を使って本部と連絡でもしたらしく、脱出の手筈を整えた。

 脱出に際しては、輸送機がクィーンクェに攻撃されることを警戒して、回収地点を戦場から離す必要があった。だから守護壁(クストース)を越えて、動けるフィリデイがフェアリエを退け、輸送機が待つ回収地点まで移動。そこで私たちは回収され、今に至るーーーー。

 「・・・・今更だけど、アレートとか大丈夫なの?」

 ぐったりと寝転び休む中、近くの会話が耳に入る。

 「大丈夫。この輸送機の外壁にはね、守護壁(クストース)と同じ材料が使われているそうだから。」

 守護壁(クストース)。それはただの頑丈な壁ではなく、”フェアリエを寄せ付けない”という特殊な効果を持つ壁だ。・・・原理とかは詳しく説明されていないけれど、でも、大陸横断防壁基地の壁にもしっかりと使われているし、それに今回のクィーンクェ討伐作戦においても、多少の隙間があれど、戦場外からのフェアリエの流入を全て防いでいた。だからこそ、原理は分からずとも、信頼はできる。

 「ただ・・クィーンクェ討伐作戦開始時にもこの機体は使われてたんだけどねぇ・・・・クィーンクェからは防げなかったみたいで・・・・。」

 「でも地上じゃ役に立ったよ。輸送機周辺には棘が確認できなかった。まあ遠距離攻撃は・・・クィーンクェから切り離されてたって考えれば仕方ないのかも。でも頑丈だったから、押し潰されずに済んだ。」

 「それはよかった。」

 「・・・よかった・・・の、かな・・・。」

 「操縦士のことは仕方ないよ。言い方はアレだけど、必要犠牲だった。じゃなきゃ皆であの世行きだ。」

 「でも・・・」

 「・・・もちろん、生き残れたならそれはそれで幸いだけどね。まあでも、そもそもとして君たちが罪を感じる必要はないよ。私たちも、覚悟してこの戦場に立っているんだから。・・・寧ろ自分たちが残したもので君たちが救われたのならば、十分に命を捧げた甲斐があったというものだよ。私はそう考える。」

 「・・・そっか。」

 ・・・命の価値・・・か。

 かつて捨てた在り方に、小さな迷いが生じる。けれど少し考えて、結局いつもの在り方に落ち着いてしまう。

 ・・・命なんて、みんな無価値。他人の命に勝手なレッテルを貼って良かった悪かったとか、そんなのは自己満足でしかない。生きてる人間が、死んでる人間に対してどうのこうの言う資格なんてない。私たちはただ、「頑張ったね。」って・・・「お疲れ様。」って言ってあげれば、それだけでいい。不必要に何かしたって、それは生きてる人間のエゴでしかないんだからーーーー。

 その後、沈黙が続くなかで、私は静かに眠りについた。そして夢の中で、”また”、”クィーンクェの言葉にならない歌声”が聞こえてきたような気がした。

 ・・・いや、ハッキリと聞いた。”彼女の詩”を。・・・待ち人たる彼女の、”悲しいそうな歌声”をーーーー。

 

 

 「・・・・結論から言おう。君たちは、生きていてはいけない”生物”だ。」

 防壁基地のさらに奥・・・林の中へと降り立った輸送機。そこから招かれた真新しい宿屋の広間の中で、クィーンクェ討伐作戦に参加したフィリデイたちに、その言葉が投げかけられた。

 投げかけられた言葉に、フィリデイたちは困惑し、警戒し、殺意を剥き出しにするものまでが現れる。しかし各隊のリーダーやその他数人は、特にこれといった変化なく、その場に座ったままだった。

 「・・・これは、我々ではなく、世界連合臨時政府及び、ヤマト国政府の両高官が出した結論であり、本来であれば、君たちは今も『5番戦場』にて待機している筈だった。」

 「つまりあなた方は、僕らを助け出した側の人間ということでよろしいですか?」

 落ち着いていた内のフィリデイの1人が、現状の説明をしていた後年の男に分かりやすく問うた。

 「その通りだ。」

 白髭を生やすその男の返答により、場の空気がガラリと変わる。

 「我々は、君たちを”人間”として救い出した。ただし・・・」

 強くなった口調を前に、薄くどよめいていた広間から音が消え去る。

 「君たちを救い出すことはできたが、書類上においては、君たちは既に死亡扱いになっている。」

 フィリデイたちの困惑と疑問が再び活性化し、どよめきが大きくなる。

 「静粛に!・・・我々が認識している範囲で説明する。まず、我々による救出以前に、上は、作戦遂行の為、君たちを既に死んだものとして処理していたわけだが、何故君たちを殺さんとするかについての理由は、定かでない。とはいえ推測するに、安全が確保された現在の世界において、『個としての強さ』と『民衆の希望を一心に背負う』君たちは、容易に『革命の徒』と成りかねんと警戒・・・いや、恐怖した為だろう。それ故に、現在、1番から10番までの全ての戦場に滞在するフィリデイには待機命令が下され、そして今まさにこの瞬間、その場には、”終爆が投下された”。・・・他戦場がどうなったかについて・・・それを我々が知ることができないが、5番戦場においては、取り敢えず君たちを救い出すことができた。・・・さて、まず、ここまでで質問はあるか?」

 場は静かだった。誰も手を挙げなかった・・・が、少しして1人の少年が立ち上がる。

 「殺される理由は、それだけですか?」

 その言葉には、明らかに”ある推測”が隠されているだろうことを、コトミは理解する。だから、白髭の男を注視する。

 「残念だが、わからない。先に述べたものも、あくまでも推測だ。我々は、明確な理由を伝えられてはいない。これでいいかね?」

 「・・・はい。」

 コトミ同様、落胆した少年が椅子に座る。

 「他はあるかね?・・・では次に進む。・・・まず、君たちは既に死人だ。我々はそう報告し、上は完全ではないにしろ、一応は信じている・・・が、これについては、いずれはバレるだろう。そうなれば晴れて君たちは復活を遂げるわけだが、しかし今は、寧ろ、死人であることが君たちを守る盾となる。・・・今の政府は、ハッキリ言って信用ならん。国民の命よりも、秩序維持と国民制御、そして現政府と世界の存続に重きを置いているように見える。さらに得体のしれない専門機関や世界連合との繋がり、且つ、それらとのやり取りの不透明性・・・そうだな・・・要は、本来であれば、そこそこに透明で、”国家方針という名”の川底が見えていなければいけない川の水が、あまりにドス黒く、川底が見えない状況になっているということだ。誰もそんな川の水に浸かりたくはないだろう?そんなわけで・・・もし君たちが生きていると分かれば、君たちや、そして救い出した我々をも手に掛ける可能性が、今の政府からは感じられるというわけだ。故に、警戒に警戒を重ね、君たちを極秘に救い出した。・・・恐らくはバレていないだろう。だが万に一つの自体も考え、暫く君たちには、この場に留まってもらう必要がある。・・・・君たちは、強い。大人の人間よりも幾分と。・・・だがそれはフェアリエに対する強さであり、人間が使う兵器や暗殺術に関して言えば、君たちはあまりに無力だ。・・・どれ程早く動けようが、銃による制圧をかけられれば即死。毒を盛られても即死。人気のない通りで首を切られても即死。・・・政府が動けば、君たちはほぼ必ず殺される。そうさせない為にも、率直に言うが、事がある程度済むまで、君たちを人里から隔離する必要がある。君たちはこの宿屋とその周辺から、出てはならない。そういう話だ。・・・さて、ここまでで質問はあるか?」

 各々理解できているのか、あるいは理解せずただ消極的なだけか・・・。どちらにせよ、質問をする者は居なかった。

 「・・・まあ、いい。質問があれば、いつでも聞きに来てくれればいいさ。我々も、基本はこの宿屋に寝泊まりしている。・・・さて、では、次に移ろう。・・・一応だが、今後の方針については、確実ではないにしろ、ある程度の方向性は決まっている。」

 白髭の男が、軽く頬を緩め、笑顔を見せる。

 「・・・君たちには、本国に帰ってもらうことになるだろう。・・・政府に危険視されている以上、表舞台に立たせるわけにもいかないし、何より親や民衆の視線があるだけで、君たちの安全は十分に確保できると考えているからね。・・・それとだけど、君たちが死んでしまったことは、まだ親たちや民衆には伝わっていない。これに関しては、国も慎重なんだろうね。暫くは、関係者以外知ることはないだろう。ただ、できればだけど、ここにいる子達とのやり取り以外・・・つまり親兄弟や友達との連絡は、強制はしないけど、できるだけ避けてね?・・・そういったところから、君たちの生存、そしてこの場所が逆探知されてしまうかもしれないから。だから、ね?」

1740.1/--

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