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八百万の火玉花道  作者: 椿 木春
イベリス[第一章・第2幕]
34/57

23.待ち人は下を見ない

 本来の作戦であれば、まず、通常兵器による火力支援があり、次いで着地できるエリアを作ってから降下を始める予定だった。・・・だが、クィーンクェよりの不明確な攻撃により、部隊は壊滅の危機に陥る。

 これを脱する為、神子隊を乗せた小型輸送機は特攻を。・・・戦闘機、戦闘ヘリは、クィーンクェとフェアリエを攻撃し、注意を引く役目を。・・・運搬機は、その場からの撤退を。・・・以上の行動をもって、”多少の犠牲で”、なんとか場を持ち直すことには成功していた。

 

ーーーーーーー


 空を飛ぶ機体が次々に墜ちていく中、803は”全員”が無事に着地し合流を果たした。

 その後、別の神子隊も合わせて、戦場南側のフェアリエは、あらかた殲滅し終えることができた。

 残る北側は、そちらに位置する部隊が何とかしてくれるとのことらしい。そしてーーーー。

 クィーンクェは未だ動かず、樹木の如く、ただ、そこに鎮座しているーーーー。

 「ふぅ・・・。一安心って感じ?」

 「だね。・・・・ん、ふんあぁぁぁ・・あぁぁ・・・・。」

 ショーコが背伸びをする。

 つられて、コトミもあくびをした。

 2人は周囲に比べ、だいぶ呑気だった。

 周囲では、血塗れになった怪我人の手当てが急がれていた。

 ・・・・あれは流石に・・助からないかな・・・・。

 死体となりかけの女の子から視線を外し、軽くショウコを見つめる。

 「・・・ん?」

 「いや。・・・無事でよかったってね。」

 「・・・んふ、そうだねぇ〜。」

 抱き合えば、鼓動が伝わっていくる。それで・・・やっぱりその音が、一番心を落ち着かせてくれる音だってことを再確認した。

 「コトミちゃんはあったかい。」

 「動き回ったもん。・・・けど、汗まみれ。」

 「返り血もいっぱいだね。」

 「臭う?」

 「いつもの。」

 「私も。」

 「んふ。」


 ーーーー軽く休んだから、立ち上がる。

 「・・・私たちも探しに行こっか。」

 「そだね。」

 特攻した小型輸送機や、囮となった機体がクィーンクェよりの攻撃を受け、その中の一部が、爆散することなく戦場に墜ちた。・・・あるいは着地に成功したと言うべきか。

 おかげで、無事に着地した機体の中を漁れば、残っていた物資を・・・本来であれば守護壁(クストース)の近くに落とす予定だった神子部隊用の沢山の物資を、手に入れることができた。

 ーーーーその後、動かないクィーンクェを警戒しながらも、フィリデイの役目は一旦打ち止めとなるため、守護壁(クストース)のそばで、体を拭いたり、服を着替えたり、怪我した子の応急処置を手伝ったり、ご飯を食べたり、横になったりと・・・そんな、戦場ど真ん中とは思えない程のまったりとした時間を過ごしていたーーーー。


 ーーーーまだ薄明かりが残る夕暮れ前。

 ・・・・ざわざわ・・・・ざわざわ・・・・ケタケタ・・・・キチキチ・・・・・・。

 ・・・・なに?

 耳を澄ませても、聞こえてくるのはすすり泣く声ばかり。

 怪我した子への応急処置は一通り終わり、ご飯や着替えといった行為も終え、みんな疲れたのか、とても静かだった。・・・仮に異音でも鳴れば、きっとその位置を特定できるはず。しかしーーーー。

 「・・・・ボト。」・・・柔らかすぎず、かといって硬くもない・・・とにかく、よくわからない”なにか”がクィーンクェの足元に落ちた。

 「・・・あれ・・なに?」

 誰かの声の視線の先・・・気づいた複数人の視線が、その一点に集まる。

 ・・・白い・・塊?

 それはプニプニとした感触なのだろう。・・・そう、まるでーーー。

 「おっ○いじゃん。ぷふ。」

 誰かが、言ってしまった。だけどそんなことは置いてけぼりでーーーー。

 「散開!!」

 別の誰かが叫ぶが、呆気にとられ・・・しかし1秒も経たぬ間に、座ったまま横に飛ぼうと脚に力を入れた、その瞬間ーーーー。

 「キチ・・メキ・・ズバッ!!」・・・地面がヒビ割れ、盛り上がり、白く尖った触手の先端がーーーー。

 「い゛ッぅ!!!!くぅあぁ゛あ゛あ゛!!!」

 右脇腹に突き刺さった棘を急いで切り離す・・・が、再び異音が鳴り響く。

 「キチキチキチキチギチギチギチギチ・・・。」

 そして幾重にも重なる、産声や女の絶叫。

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」

 異音と絶叫が脳内で響き渡る。

 耳を塞ごうが、意味をなさない。

 そしてあまりの不快さに、吐き気や頭痛を催す。

 それでも今は、意識を手放してはならない。手放してしまえば、その瞬間に、棘に”絡み取られてしまうから”。

 ーーーー逃げられなかった子たちは、まるで、蜘蛛の巣に囚われた虫達のようだった。そしてーーーー「天から星が降ってくる。」・・・形容するならば、まさにその通りだろう。・・・「グチャリ・・・。」ともいわず、ただ「ドスン・・・。」と、鈍い音が大地を揺らし、ゆらりと持ち上がる極太(ごんぶと)の触手の先端には、血と肉と瓦礫がみっちりとこびりついていた。即ちーーーー。

 クィーンクェの腕に潰された子たちは、遠目であっても、もう生きてはーーーー。

 ・・・まだ動いてる。けどーーーー。

 それらは微かに動く程度。あと数分か数秒の命。

 ・・・もう、無理だ。・・・ごめん。

 棘を避けながら、諦める。けれどその最中に、”それ”が視線に入った。・・・クィーンクェから落ちていた、白い塊だ。それも1つでなく、数え切れない程たくさんのーーーー。

 ・・・動いてる・・・・蠢いてる・・・・。

 鈍く這いながら、確かに動いている。ナメクジのように。血の匂う方向へ。つまりーーーー。

 視線を、潰された子たちへと向ける。

 ・・・まだ動いてる。まだ息が・・・・助ける?いやどのみち・・・でも・・・・。

 「早く死んで」。・・・・間違いなく、その思いが心に浮き出た。・・・だが、それよりも気にすべきは、潰されず、しかし棘に絡め取られたままの子たちか。もしナメクジがそこに向かっているとするならばーーーー。

 「手の空いてる奴!援護!”生きてる”奴を助ける!」

 離れた場所からの大きな声。

 別部隊の誰かが、クィーンクェよりの攻撃が薄くなったのを見計らい、即座に行動を起こしていた。

 「ショーコちゃん!」

 「どーするの!」

 「あのナメクジみたいなの!ツミレちゃんも!!」

 「あ、うん!803はクィーンクェから落ちた白い塊の処理を優先して!!」

 803は、みんななんとか棘を避けた。だからこその指示。

 ・・・これで何とか・・・。

 そう願うばかりだ。・・・だが、戦っている相手は神ではなく、人でもない。・・・紛うことなき悪魔だ。故に、そのような願いは聞き届けられなかったのだろう。

 ーーーー天を仰ぐ巨躯が揺れ、キチキチキチと、”脳みそを食い散らされている”ような不快な音が響く。

 揺れた巨躯が、のたうつように倒れ、硬い大地を荒波のように揺らす。

 石や瓦礫が辺りに飛び散り、砂煙が舞い上がり、そしてーーー。

 20hzに満たない、”おどろおどろしくも神々しい”鳴き声が、大地を通し世界に響かせられ、フィリデイたちの鼓動を狂わせた。

 「・・・ぁッ・・・ッ・・かはッ・・・・・・。」

 その場にいたフィリデイたちが、自らの心臓を鷲掴みにしながら地面に突っ伏す。・・・涎が零れ、涙が溢れ、苦しみに藻掻く中、手ずからに逃げ道を探し続ける。

 ーーーー幸いにして、地面から棘が生えてくることはなかった。・・・おかげで突っ伏したフィリデイたちは、何とか立ち上がることができた。しかしーーーー。

 まるでその瞬間を待っていたかのように・・・あるいは前準備として溜めが必要だったのか・・・・どちらにせよ、”空を飛ぶ機体が撃ち落とされた原因”であるクィーンクェよりの攻撃が、”広範囲に向け同時多発的”に炸裂。結果、音を置き去りにした肉塊が、”全て”のフィリデイに直撃したーーーー。


 ーーーー無意識ながら、「・・・・・・何が・・起きたのだろうか・・・・。」・・・と、情報を精査していた。

 しかし答えは得られず、金属が響くような音が耳の中で鳴り続ける。・・・それは激しく、そして痛みを伴う程の耳鳴りだと理解した。

 そんな耳鳴りの合間を縫うようにして、苦しみに悶え、痛みに泣き叫ぶ声が耳に届く。だから視界を開くが、微かな視界は朧げなまま、世界を鮮明に捉えることはなかった。それでもーーーー。

 それでも、地獄のような様相が周囲に広がっているだろうことは、霞む視界であっても容易に理解できてしまった。・・・だって赤いモザイクがそこら中にーーーーーーーー。


 ・・・空は青かった。・・・吹き上げた血飛沫を鮮やかに彩る程にーーーー。

 ・・・太陽はカンカン照りだった。・・・大地に残る痕跡を全て焼き溶かしてしまう程にーーーー。

 ・・・これで・・終わり・・・・。

 遠い遠い昔に経験した、死の淵・・・。そこに立って、本能が泣き叫ぶ。・・・「死にたくない!」、と。

 だけど世界は不条理で、かつて自身に投影した物語の勇者みたいには為れないことに、ただただ笑うしかなかったーーーー。

 「・・・生きてるね。それじゃあ、持ち上げるよ。」

 そう言うと、彼はコトミを片手で抱え上げ、皆が集まる場所に運んだ。

 「鎮痛剤を打つね。・・・コトミさんの怪我の処置、頼める?」

 「うん。任せて。」

 「アサ・・ツジくん・・・。」

 潰れかけの肺と喉で、コトミが声を振り絞る。

 「ショ・・コちゃん・・・は?」

 「ショウコさんなら大丈夫。今、処置を受けてるよ。命に別条はないから。」

 「・・・そっかぁ・・・。」

 安堵の声を漏らし、意識がゆっくりと落ちていく。

 眠りにつきそうになる中で、”誰かの詩”が聞こえたような気がした。

1740.1/--

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