22.神風に吹かれて
『クィーンクェ』ーーーーそいつは、『ソルチェス』程の巨体を持ち合わせてはいないが、しかし、細長い胴体中部の両側面から生やす、6対の、腕と思われる触手を広げれば、『ソルチェス』とも引けを取らない程の大きさであると錯覚させられる。そんな『クィーンクェ』。・・・形状だけを見れば、『地球史』のカンブリア紀に生息していたとされる、『オヴァティオヴェルミス』によく似ているかーーーー。
そしてだが、他の融合体もまた、かつて『地球』に存在したとされる何かしらの生き物の姿を象っていると、確認できた。
果たしてこれは、偶然なのだろうか。それとも、必然であると判断すべきかーーーーー。
いや、そこに大した意味を持たせる必要はないか。
どういった意味であれ、理屈であれ、それらは、命星で生きる人間たちにとっては無意味な空想であり、そもそもとして、彼らは今、融合体を討伐すべく奮闘しているのだから。
・・・・つまるところ、気にしたところで、何かが変わるわけでもあるまい、ということだーーーー。
ーーーーーーー
「距離400。クィーンクェは直立不動状態を継続中。未だ動きがありません。よってこれより、戦場構築部隊が守護壁の設置に取り掛かります。これが完了次第、我々は旋回飛行を維持しながら、最接近を開始。戦場に入り次第、皆さんを降ろします。・・・その後、我々は戦場から離脱し、再び距離を維持しながらの旋回飛行を開始。上空よりフェアリエの位置や、クィーンクェの挙動などの情報を無線機を通し通達します。確認、よろしいですか?」
「確認しました。ありがとうございます。」
ツミレの返事を傍目に、三桁に及ぶ守護壁運搬機が、クィーンクェへの接近を開始した。
彼らの役目は、守護壁を用い、クィーンクェを中心とした半径70メートル程の円形の戦場を作ること。
そして803含む8つの神子隊を乗せた16機の”小型”輸送機の役目は、戦場の構築が完了次第、旋回飛行を維持しながら、クィーンクェへと接近し、神子隊を戦場の各地点へと無事に届けること。
次いで803含む8つの神子隊の役目は、戦場内に存在するフェアリエの殲滅し、クィーンクェの前後を挟むように4部隊づつが合流。以後は、クィーンクェの討伐作戦開始まで、待機となる。
ーーーー自分たちの役目を軽く再確認し終えたコトミが、閉じた目を開く。
とても深く深呼吸をしたおかげか、心は驚くほどに平静だった。・・・むしろ奮い立っているか。
先程までの物言えぬ恐怖は、一体全体何処へやら。・・・その事実に、若干の恐怖を覚える。だがそれすらもーーーー。
「みんな、インシーニェは携帯状態に。何があっても冷静に。アタシたちはこれから、クィーンクェと殺り合う。・・・正直、あんなデカブツをどうやって殺すんだって感じだけど、でもアレだってフェアリエであることに変わりはない。だからさーーーーー」
彼女のひと言ひと言から、力強さ、元気さ、希望といった、あったかみを感じる。・・・つい最近、心をどん底に落としていたとは思えない程のーーーー。
一度ヒビ割れ、修復され・・・・結果として、彼女は以前に増して不屈の精神を手に入れたような気がする。・・・それは素晴らしいことなのだろう。しかしコトミは、正面切ってそれを「よかった。」とは思えなかった。だってそれは、ただの我慢に過ぎないから。我慢である以上、限界は存在しているから。けれどーーーー。
立ち直って絶望するか、部屋に閉じこもったまま絶望するか。・・・前者なら、きっとみんなと一緒に死ねるだろう。しかし後者なら、その訃報を耳にするか、あるいは気遣いで知らされぬまま朽ち果てていくだけ。・・・どちらにせよ、やはり正しい結果などは何処にもないのだろう。
それを知って、だからコトミは複雑な心持ちで、鼓舞の言葉を並べる彼女を、ただジッと見つめるだけだったーーーー。
「告白でもするの?」
隣で一緒に座るショーコが、嫉妬混じりにコトミへ問う。
「・・・んへ?」
言葉ではなく声としてしか認識していなかった為に、理解が遅れる。
「ああ、いや、違うよ。そんなんじゃない。」
ショーコへ向けた視線を、ツミレへと向け直す。そして信頼で持って、哀しさ混じりの言葉を返す。
「”わかってるでしょ?”」
「はいはい。」
ダルそうに頷いたショーコは、それ以上に何かを伝えようとはしなかった。・・・伝える必要も無かった。だってーーーー。
ーーーーー近くの空で星が降る。轟音を鳴らし降り続く。降って降って墜ちていくーーーー。
「状況確認!」
「回避!回避!」
「何処へ!」
「なに!?」
「みんな落ち着いて!」
操縦士も、観測員も、803の部隊員も・・・・みんなが慌てふためいている。
近くの空で再び炎が舞い上がり、運搬機が・・・”機動性確保の為の小型輸送機”すらもが、次々に墜ちていっている。クィーンクェから遠ざかったって意味もなく、理解及ばぬままに墜とされ続けている。
ただ幸いにして、守護壁の設置は大方完了しているらしい。上空から確認できる限りではあるが、地面に円形の戦場が出来上がっていた。だけどーーーー。
危機の中での幸いな状況は、可能性を絞る結果となる。しかもその可能性は、高確率で大きな危険を孕んでいるものだ。
それを咄嗟に理解した数人が、息を呑む。耳につけたインカムに意識を削がれる。そしてーーーー。
「・・・ジジ・・特攻する!備えろ!」
前方を飛行する、803の男子たちが乗る輸送機。そこに一緒に搭乗している教官が、噛み締めた声で告げた。
「は!?」
「え?!」
「ちょっ!!」
みんなが驚き慌てふためく中ーーーー。
「全員どこでも掴まって!!」
意見する間もなく、身体が宙に浮きそうになる。そして後ろに引っ張られる。・・・機体が降下しながら速度を上げたせいだろう。そしてーーーー。
戦闘機じゃないから、そこまでの速度は出ない。それでも、機体が今にも壊れそうな音を上げる程の速度で、緩やかな曲線を描きながら、”機体の片翼が大破した”。
・・・墜ちる!!!
機体が激しく揺れ、墜落は免れないとみんなが悟った。だがーーーー。
「飛び降りろ!」
操縦士の張り上げた声を聞き、みんなの視線が交差する。
「行って!」
ツミレが叫び、みんなが”間髪入れず”に空へと飛び出す。・・・パラシュート同士が絡まる危険性はあるが、それ以上に、戦場の外へと投げ出されない為にーーーー。
「・・・ジジ・・着地したらパラシュートを捨てて、フェアリエの殲滅を開始!併せ、南南東外縁部にて合流!」
声を聞き、合流地点の方向を確かめる。
・・・逆じゃん!
コトミとショーコは、合流地点から離れて行くようにして飛行していた。そのためーーーー。
「ショーコちゃん!右に回りながら!」
「うん!」
パラグライダーのように・・・とはいかないが、それでも軽く制御はできるため、舵を右に傾ける。
だが大して旋回もできないまま、地面に近づいた。
「そろそろ!」
「うん!」
パラシュートを切り離し、フェアリエを踏みつけ、地面を転がり衝撃を和らげる。そして即座に起き上がり、インシーニェを構えた。
・・・ショーコちゃんはあっちか。
少し離れたことと、場所と、次の行動を一瞬で判断し、その方向へと走りながらフェアリエを切り裂いていくーーーー。
戦場内には、フェアリエがいっぱいだ。パラシュートで飛んでいた時から、既にフェアリエはワラワラと集まってきていた。
仮にパラシュートのまま地面に近づきすぎると、フェアリエを土台にして踏みつけジャンプしたフェアリエから、攻撃を受けてしまうかもしれなかった。だから地面からある程度の距離でパラシュートを切り離したわけだが、当然それも危険なわけで、「もし着地に失敗してたら・・・。」・・・なんて考えが、頭を幾度も過ぎる。
・・・大丈夫。ショーコちゃんは無事。みんなは・・・・・・。
インカムから援護要請の声が聞こえてこない時点で、”恐らく”無事と願うしかない。・・・仮に着地に失敗していたとしても、多少、話すまでに間はある筈だしーーーー。




