21.星が降った夜明け前
確認された3体の『ソルチェス』は、全て討伐された。そうして人間たちには、再びの平和がーーーーーー訪れることは無かった。
やはり『フェアリエ』をどうにかしない限り、この『フェアリエ戦争』に終わりはないのだろう。そしてーーーーーー。
『ソルチェス』討伐以降も、融合体の発生は立て続けに確認され、人間たちはあらゆる作戦でもって対抗し続けている。
しかし今のところ、大した戦果は得られていない。
ーーーーーー
「こちら『ウグイス』。本部、応答願う。」
「ウグイス、確認。いかがされたか?」
「『クィーンクェ』は、立ち上がって以降、微動だにしていない。一度近づいてみようと思うが?」
「ーーーーーー指揮官よりウグイスへ。その必要は無し。貴官は継続して、一定の距離を保ち旋回飛行を行われたし。以上。」
「こちらウグイス。了解した。」
男は通信を切り、クィーンクェを中心にして、再び旋回飛行を始めた。距離にしては、400メートルほど離れた位置か。
「ーーーーウグイス。血気盛んなのは良いが、余計なことをする必要はない。そもそも我々には何もできない。」
「わかってます。」しかしーーーー。
共に空を飛ぶ仲間からの言葉に、男は苛立ちを覚える。
当然のことだろう。男は、フェアリエ戦争が始まる以前から、既に軍人であったのだ。家族を・・・祖国の子供たちを守るために、軍人となったのだ。訓練を積んだのだ。そしてパイロットとなったのだ。
ーーーだが、今の彼はどうか?
かつて、戦場の主役を担っていたはずの空を飛ぶ鋼の殻は、フェアリエ戦争においては脇役の脇役。フェアリエに対する攻撃は、爆弾やミサイルによる一撃の大きな火力よりも、銃器による持続的な最低限の火力が優先されたのだ。
あげく、フェアリエに対抗するため生まれた兵器は、守るべきはずの子供たちが成ったもの。
あまりに情けない。あまりに不甲斐ない。
故に彼は、自分を殺したくなった。そうして、死に場所を求めるようになった。ーーーー「兵器と成った子供たちに対し、せめて少しでも役に立てるのならば」・・・・と。そしてーーーー。
「いつか必ず、果たすべき時は来る。」
男の仲間たちもまた、それは同じであった。
「・・・・・。」・・・・わかっている。
その日が来るなど決まってなどいない。故に疑念は払拭されない。しかしそれでも、男たちは信じるのだ。信じて、役目を果たし続けるのだ。1人の軍人としてーーーー。1人の親としてーーーーーー。
ーーーーー夜明け前・・・薄明るい遠くの空で、星が降ったような気がした。・・・ただ、小さな窓から見えた、あまりに遠くの光だったが為に、それが本当に流れ星であったかはわからなかった。
・・・・もうすぐ、始まるんだ。
『クィーンクェ』。それは5番目に発生が確認された融合体であり、観測の限りでは、現在発生が確認されている融合体の中で唯一、『保有エネルギー量』が『総質量数』を上回っている個体である。
しかし、これが何を意味するか。・・・それについては一切が不明であり、現状においてはただ空想することでしか予測できない。だからこそーーーー。
「距離1000入りました。これよりは旋回しながら近づいていきます。神子隊の皆さんは、クィーンクェに対する警戒を。違和感があればすぐに報告お願いします。」
「「「了解。」」」「「らじゃ!」」
みんなの声を聞いて、ようやく『クィーンクェ討伐作戦』の序曲が始まったような気がした。
気が付けば、どこか上の空だった心臓が奮い立っていた。
気が付けば、開かれた輸送機の片側から、みんなが顔を覗かせていた。
「なんていうか・・・シダ植物みたいだね。」
誰かが呟いた。
つられて、みんなもそれぞれに口を開く。
「芋虫じゃない?」
「いや、にしては手が長いよ?」
「ていうか立ってるじゃん?」
「翼みたい。空飛ぶのかな・・・。」
「大アリクイの威嚇ポーズ・・・。」
「あ、わかる!手はいっぱいだけど似てるよね!」
「そういやカコ、いつもあんな感じじゃん?怒ったときさ?」
「うるさい!」
「全体もそうだけど、腕の一本一本もシダ植物みたいだね。」
「なんか可愛いね。」
「それは遠いからだよ。あれ、15メートル。」
「確かに・・聞いたらちょと・・・でもやっぱ、こうして見る分にはさ?」
「さすがに。だってあれ触手だよ多分。うねうねしてる。」
気持ち悪さと神々しさをもった可愛気な立ち姿。・・・雰囲気的にはそんな感じか。
とはいえあれがフェアリエの集合体であることに変わりはなく、あの”物言えぬ恐ろしさ”を、心の奥底で確かに感じ取っていた。
1740.1/--(下旬)




