01.Pain!Pain!Pain!Pain!
『ソルチェス.01』の肉体は、『終爆』から放たれた太陽のような光を前に消し飛んだ。
続き、『大陸横断防壁基地』北側に位置する【連邦区画】近郊にて発生した『ソルチェス.02』に対しても同様の作戦が取られ、これもまた同様に成功した。
しかし【テルラ防壁基地】の中央近郊にて発生した『ソルチェス.03』への同様の作戦に関しては、完全に成った『二型成熟体・飛行型〈アレート〉』と、『二型成熟体・自爆型〈エクスプロデンス〉』の襲撃を前に、失敗。観測部隊よりの報告によれば、『終爆弾道ミサイル』の軌道上にて、『エクスプロデンス』を連れた『アレート』が群を形成。接触タイミングに合わせ、全ての『エクスプロデンス』が一斉に自爆し、『アレート』諸共、終爆弾道ミサイルを消し飛ばしたようだ。
ーーーーーー
ーーーー母は死んだ。父も死んだ。弟も妹も死んだ。友人も死んだ。恋人も死んだ。みんな死んだ。・・・・もうどこにも、俺の死を悲しんでくれる人は居ない。
だらか俺はここにいる。俺みたいな奴らが集められて、この部隊は構成された。
要はこの部隊は、憎悪に囚われた死にたがりのクソ野郎どもの集まりだってことだ。
そして俺たちはこれから、『ソルチェス』とかいうデカブツをぶっ殺しに行くそうだ。
「盛り上がってきたな。」
「じゃあとっとと曲かけろよ。じゃねぇと乗れねぇだろうが。」
硬くてガタガタとうるさい輸送機に揺られながら、ーーー(A)とーーー(J)が会話する。
「何がいいよ?」
「いつものに決まってんだろぉが。」
「はいよ。」
ーーー(A)がラジカセのボタンを押した。
流れるのは、決まって同じ曲。「痛みが俺たちに信念をくれた」と力強く歌う曲。知っていたが、あまり聴いたことが無かった曲。”誰が作ったのかもわからない”曲。ネット上転がっている、いくつもある”名無し”の曲の一つ。
だが、今日に至っては一番好きな曲だ。
これを聞いてさえいれば、あのウンザリするクソみたいな泣き声に惑わされずに済む。
「やるぞ、オメェら。」
「「「ウィ!!!」」」
輸送機から飛び出した身体は、重力に引かれて落ちていく。だが、風が俺たちを押し上げてくれる。まるで翼を持った気分だ。
ーーーーいや、今の俺たちはムササビか。
ウイングスーツを着ている以上、そうとしか見えない。・・・・だがやはり、鳥であることに変わり無し。例え滑空しかできずとも、人が空を自由に飛んでいることに変わり無し。
「このまま突っ込むぞ!起爆タイマーを入れろ!」
無線機越しに声が届き、一瞬、脳内を反芻していた曲の音がかき乱されるが、次の瞬間には心臓の鼓動に合わせて再び爆音が流れ始める。
「Pain!(痛みだ!)」
叫び、前に背負った袋に手をかける。・・・・その中には、細長い針状のインシーニェを大量に仕込ませた特製の爆弾が入っている。
群れを成したフェアリエたちのすぐ上を飛び去りながら、袋をフェアリエに向かい落とす。またそれと同時に、勢いのままフェアリエの群れを突き破り下に抜ける。するとーーーー。
落とした袋の口が開き、中の爆弾が顔を見せる。そしてーーーー。
セットしたタイマーが0を示した瞬間、大量の針状のインシーニェが、爆発に乗り周囲に飛び散る。・・・・仮にフェアリエの上側を飛んで居たら、彼ら自身にも針状のインシーニェが突き刺さっていただろう。しかしフェアリエの下側に移動したことで、針状のインシーニェはフェアリエに突き刺さるか、あるいは貫通しても、速度と威力が落ち彼らに届くことはなかった。
「弾道ミサイル通過まであと2・・1・・今!」
瞬間、崩壊したフェアリエたちの群れの間を縫うようにして、終爆弾道ミサイルがフェアリエにより形成された『盾』を通り過ぎる。
「通過確認!よし!」
『エクスプロデンス』は自爆せずーーーー結果、『終爆弾道ミサイル』が目標めがけて落下していく。
「ざまぁないぜクソが!!死んでろ!!!」
口汚く言葉を放ったーーー(J)は、中指を立てながらニコやかに”笑ってみせた”。そしてーーーーー。
白く光る太陽のような輝きが『ソルチェス.03』の頭上にて放たれ、鼓膜を”抉る”ような・・とにかく気持ちが悪い音が空間に響き渡る。
それは決して大きな音ではなかった。だが、鼓膜が”抉られている”と錯覚してしまう程に不快な音であったがために、その場にいた者たちにとっては、手榴弾やミサイルの爆発音といった鼓膜を”破る”音よりもさらに大きな音が鳴り響いたと錯覚してしまう程の爆発音だった。そのせいかーーーー。
「ふざけッ・・・くッ!!」
”何か”を想起し苛立ちを覚えたーーー(A)は、だが次の瞬間には体勢が崩れ、”掴んでいた『アレート』”を手放してしまった。そしてーーーー・・・・
「『ソルチェス』の高さは30mであり、『ソルチェス』の抵抗、あるいは内部構造による起爆の失敗を避ける為、『終爆』は消失半径が50mのものを、『ソルチェス』の頭上5〜10m地点にて使用する。
しかし、『ソルチェス』の頭上からさらに30〜40m上付近・・・地上から約70m地点にて飛行を続ける『アレート』及び『エクスプロデンス』が形成する群れ・・・通称『盾』により『終爆』が防がれることで、『一次作戦』は失敗した。
続き『二次作戦』として、『終爆』を二発使用しての作戦が敢行されたが、起爆地点到達前に落とされることで、これも阻止された。
これらを受け、作戦立案科は『盾』をどうにかしなければならないと判断したため、『三次作戦』は、『インシーニェ』を仕込ませた爆弾を戦闘機と軍用ヘリが運び、『盾』に直接落とすことで『盾』一時的に崩壊させ、その間に『終爆』を『ソルチェス』に通す作戦を敢行。しかし『アレート』の襲撃により戦闘機と軍用ヘリが撃墜される形でこれも失敗。
さらに『四次作戦』として、『盾』に対し、『三次作戦と同様の爆弾』を『遠距離』から放った。しかしこれも、目標地点到達前に、『アレート』により阻止された。
これら四度の作戦の失敗を以て、『軍用兵器のみを用いての終爆投下作戦』は全て凍結。以後はフィリデイを用いての『決死作戦』を主軸とした終爆投下作戦を敢行する運びとなった。
では、『決死作戦』の説明を行う。
お前たちはウイングスーツを着用し、襲い来る『アレート』を交わし、返り討ちにし、その上で爆弾を『盾』に届け落とすこと。以上だ。」
言い終えた男は、机に両手をつき、俯き、深呼吸を入れる。そしてーーーー。
「ーーー(K)。ーーー(A)。ーーー(J)。ーーー(S)。・・・今作戦において、お前たちが選ばれた理由・・・わかるな?」
彼らに向かいそう発言する男の顔は、無表情だった。・・・だが長く付き添った関係上、彼らには、男の心持ちがハッキリと理解できた。
「気にするなよ。」
リーダーであるーーー(K)が、「やれやれまったく。」と首を振りながら発言した。
他三人もケラケラと笑いながら、ーーー(K)の想いに頷き肯定する。
「決死の作戦なら、俺たちが一番の適任だな。」
「そうだぜ教官。あんたが悲しむ必要はないし、オレらはやり遂げるさ。」
「言わずもがな。」
「そら、ーーー(S)もこう言ってら。」
「普段口数が少ない分、説得力あるだろ?」
「だなだな!どうよ、教官殿?」
教官が曲げた腰を立て直す。そして、言葉にはしなかったが、軽く鼻で笑ってみせた。
「何言ってるか分からんな。私は別に、お前たちのことを憂いたりなんかしていない。」
彼らから勇気を貰ったのか、教官の言葉からは『自信』が感じ取れた。
「ハイハイ、ソウデスカ、教官殿ハ正シク軍人デアラセラレルノデスネ〜。」
発言したーーー(A)が楽しそうに笑う。が、しかしーーーー。
「その通りだ。・・・お前たちと違ってな。」
教官の言葉に皆がムッっとなり、少しだけしんみりとした空気が漂った。
「そういうの、言っちゃダメっすよ教官殿。俺らだって、ちゃんと覚悟してますから。」
本心からの言葉・・とは言えない。けれどその心には、確かな覚悟が存在しているはずでーーーー。
だが、それすらも理解した上で、教官はーーーー。
「生意気を言うな。死を受け入れられる人間なんていてたまるか。」
若干の悲しみと、結果生まれる怒り・・・いや、憤怒か。・・・教官は静かに・・しかし血が流れるほどに強く、拳を握りしめていた。だがーーーー。
「あんたがそれ言うか?」
教官の発言に対し、紛うことなき怒りに震えたのはーーー(J)だった。
「俺ら知ってるからな?この戦争が終わったら、あんた死のうとか考えてるだろ。」
ーーー(J)の発言に対し、教官が素人では気づけない程度の反応を見せる。そしてーーーー。
「なぜ、そう思う?」
教官はしらばっくれた。
その行為に、ーーー(J)は余計に腹が立った。だからーーーー。
「遺書、丁寧に包みやがって・・・・読んじまったよ。」
怒りはある。だがそれ以上の悲しさ・・あるいは悔しさに、声色は薄く・・声量も小さくなっていった。だがーーーー。
「・・・そうか。」
力が抜け落ち着いた教官が、諦めたように言葉を放った。・・・要は、「・・・すまない。」。それが、教官から帰ってきた言葉だったわけだ。
結局、ーーー(J)はまた怒りに満ちた。
「ハッ・・・何が多くを犠牲にしすぎた・・だ。あんたは軍人だろうが。なら割り切れよ。あんたは間違ってない。あんたは正義の立役者。全てはこの戦争を勝って終わらせる為の必要犠牲。決めつけろ。逃げるな。生きてなきゃ称賛も罪も意味ないだろうが。」
彼は言っているのだ。「俺たちは道具。あんたも道具。道具は正しく使われてこそ。」・・・と。
要は役目だ。戦争の世界において人には役目が与えられるのだから、それを正しく果たせ・・・と。
「だったら、お前たちには生きて帰ってもらわなくちゃいけないな。」
「は?」
想定外の・・あるいは望んでいたかもしれない言葉を前に、ーーー(J)の口から失礼が漏れた。
「決死の作戦。・・・高度70mに位置するフェアリエに対し、ウイングスーツで突っ込む。パラシュートはあるが、開傘に必要な高度は理論上ですらギリギリ・・・・現実的に見て不可能と言っていいだろう。・・・・恐らくお前たちは、地面に激突する。そうなればまず助からない。生き残ってもフェアリエの餌食だ。それにそもそも、『終爆』の衝撃波、爆風、逆風からすら逃げられない。どうあがいたって、お前たちが助かる可能性はゼロと言っていい。」
それは至極真っ当な話だった。作戦内容を聞けば、誰もが同じ結論に辿り着くほどのーーーー。
「『決死』などと綺麗事で着飾ってはいるが、実のところ『必死』の作戦というわけだ。」
だがそれでも、教官は否定した。『必死』であるその事実を口にしながら。
故に彼らは、その根拠を、教官の瞳を強く見つめながら、静かに待った。そしてーーーー。
「盾にて群がる『アレート』を使え。」
教官の言わんとしたことは、至極単純だった。
『アレート』で衝撃波を防ぎ、『アレート』の飛行能力を活用する。ただそれだけ。・・・だがーーーー。
「上手くいくかは定かでない。しかし、やらなければただ死ぬだけだ。だからどうにか、やってみせろ。」
「丸投げかよ。」
「ああ、そうだ。」
ーーーーーそれで・・・それで俺たちは話し合った。話し合って、なんとか教官の元へは帰る術を確立したのに・・・「クソッ!・・・クソッ!・・クソがッ!!」
怒りはなかった。ただ、悲しみだけが溢れていた。頬に涙が伝っていた。それでーーーー。
光の粒子が指に触れた。
「はは・・なんだ・・・・。ふざけんなよ。」
心は、人を殺し尽くせるだけの憎悪で満ちていたーーーー。
心は、愛する人たちを抱きしめて泣き喚きたくなるほどの歓喜で包まれていたーーーー。
とても不快なはずが、思いの外、心地よく眠ってしまえる。
このまま深くまでーーーー落ちて・・・落ちて・・・落ちていくーーーー。
・・・・死にそうになって、ふと、思った。
俺たちは死にたがりだが、別に本気で死にたかったわけじゃない。
全てを失ったあの痛みは、確かに心を抉られた痛みそのものだ。もしもあのままなら、間違いなく死を選んでいただろう。
だが俺たちは、乗り越えた。乗り越えて、強くなった。信念を得た。
もう何にも怯えない。全てを喰らい尽くすその日まで、決して止まらない。
だからフィリデイとなったんだ。多くが脚を竦ませる中で、俺たちは進んで兵器となっていった。
決して、堕ちたわけじゃない。寧ろ成ったと言うべきだ。
だが結果はこのざま。俺たちは世界の歪さに触れながら、この世界に喰われてしまう。
覚悟していた覚悟さえ忘れてしまう。
死にたい心を乗り越えた筈なのに、今は早く死んでしまいたい。だってこんなの、あんまりだから。
ああ、神様・・・なぜ・・・なぜ・・・なぜ・・・・なぜ人を、早くに裁かないのですか?
なぜこうもなるまで放置するのですか?
なぜーーーーー。
ーーーーー
確認された爆発半径は、50mをゆうに超えていた。その原因としては、『ソルチェス.03』の自爆によるものではないかと推測された。その上で。
恐らく彼らは、裏世界由来の物質に触れたと推測される。死体や血痕が確認されなかった以上、消失したと見て間違いないだろう。
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