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20.お酒は美味しいですか?それとも苦しみを忘れる為、あるいは喜びを分かち合う為の薬剤ですか?

 フェアリエは成長するだけに留まらず、進化する。そしてフェアリエの進化は、現生生物のそれとはまるで次元が違った。

 本来、生物における進化は、途方もない世代交代を繰り返す中で徐々に発生していくものだ。決して、昨日今日でキリンの首や象の鼻が長くなった訳では無い。

 しかしフェアリエの進化は、世代交代を必要としなかった。

 尽きることのない未知のエネルギーがかの者らの細胞を無限に増殖させ、成長を続ける内は、様々な形態を経て成体へと生まれ変わることができた。

 ”だが、未知は生まれず。まるで現生生物の真似をしているかのように、既存生物と似た進化を繰り返すだけだった”。そして結局は、一つの形へと辿り着く。

 フェアリエはフェアリエでしかない。

 フェアリエにとってしてみれば、バッタのような脚力も、サメのような牙も、オオアリクイのような爪も、ワニのような顎の力も、全て始めから持ち得ている。

 進化すれど、フェアリエにとってのそれは退化でしかなく・・ということだ。故にフェアリエの成体は、大抵が同じ姿を象る。多少の差異はあれど、そこに大きな違いはない。

 個体が得た進化は不変だ。変わった部位は、元に戻ることも、それ以上成長することも無い。しかしフェアリエは、自らの意思・・・もとい、集合意識によって、全てが決せられている。故に行く先も自由自在だ。

 例えばフェアリエの意識が「人間になりたい」で統合された時、フェアリエは文字通り、人間と同じ姿を手に入れるだろう。・・・知性はさておき、な。

 さて、そういうわけで、フェアリエの形状には特に変化がない・・・はずだった。

 しかしある日、フェアリエは唐突に強くなった。ある日、まるで統率者が居るかのように統制の取れた動きをし始めた。ある日、爆発する個体が現れた。ある日、羽のような部位を有するフェアリエが現れた。

 フェアリエは進化すれど、変わることはない。・・・その筈だったが、異変が起きた。あるいは必然の結果か。フェアリエにも、個々に特徴が現れ始めたのだ。

 そんなわけで科学者たちは、『フェアリエ』を属名とし、新たな種名を付けることにした。

 フェアリエ発生時にその全てを占めていた【第一種幼体】を、〈アント〉。

 フェアリエ戦争/サミア及びテルラ戦線期中期頃に発生が確認された【第二種幼体】を、〈レジーナ〉。

 『第一種幼体』の全体、『第二種幼体』の一部から成ったとされる【一型成熟体】を、〈オペラリウス〉。

 『第二種幼体』から成ったとされる、フェアリエ戦争/サミア及びテルラ戦線期の最終盤にて登場した【二型成熟体・自爆型】を、〈エクスプロデンス〉。

 現在、進化の途中段階として確認された羽根の生えた個体である【二型成熟体・飛行型】を、〈アレート〉。

 そして推測として語られていた、「今後もさらなる別個体が発生するだろう」という考えが、『アレート』の発生過程を経てほぼ確定の事実として処理されるようになった。

 加えここ最近で、『フェアリレーダー』と呼ばれるフェアリエ観測機器に、「既存個体と波長が同じながらも、持てるエネルギー量が異常に高い個体」がいくつか観測された。

 これを受け、ある一つの推測が立てられた。それは、「フェアリエが融合したのではないか?」というものだ。

 そしてこれが事実であった場合、「理論上、”星を完全に消し去る事”が出来る兵器」を作れてしまうことが分かってしまった。


ーーーーーー


 人工河川手前にてフェアリエの進行が停止してから、早二週間。その間に幾度かフェアリエが姿を見せたものの、結局、人工河川を越えてこちら側に侵攻してくることは、一度もなかった。

 この事実を受け、世間一般では既に、「安全圏の確率」が成されたかのような風潮が漂い始めていた。だけど・・・・・。

 昨日の明朝。フェアリエの【融合体】・・・〈アマルガム〉と呼ばれる存在の発生を確認。加え、かの者が〈エクスプロデンス〉同様に自爆する個体であることも確認。

 発生が確認された同系統の3体には、個体識別名として【輝く太陽>>ソルチェス】という名が与えられ、それぞれに、01、02、03、と、番号が振り当てられた。

 そして現在。『ソルチェス.01』が、この『防壁基地第八区画』に向かい進行していることが、私たちに通達された。

 進行速度は、毎時10キロメートル。

 人工河川から『ソルチェス.01』の現在地までの距離は、およそ700キロメートル。

 休息状態を取りながらの侵攻の為、『ソルチェス.01』の人工河川到達予定時刻は、6日後の明朝と予測。

 形状としては、粘土を適当に丸めた程度の単純さ。

 大きさは、縦幅20メートル、横幅24メートルと、そこらの一軒家と見紛う程。

 現実的観点からの限界と推定されるソルチェスの爆発による完全消失範囲は、およそ800メートル。但しソルチェスは、現在も追随する他フェアリエと融合を繰り返しており、このままエネルギーを溜め込み続けた場合、理論上は無限に範囲が広がり続けるとされる。

 また『インシーニェ』と同様の効果を発揮する、『神の杖』と呼ばれる新兵器の使用が成されたが、ソルチェスの討伐には至らず。加えソルチェスは、周囲に追随するフェアリエと融合することで、本来であれば治すことのできない『インシーニェ』による傷を、完全治癒。ソルチェス完全討伐の為には、一瞬でソルチェスの全てを消し去ることができる兵器が必要であるとされた。

 「そんなもの、あるわけないじゃん。」

 一通りの話を聞いた誰かが・・・あるいは全員が、そう感じた。

 実際、人類が生み出して最も強力な破壊兵器である核でさえ、フェアリエを前にしては赤子が手にした手榴弾といか言いようがなかった。

 仮に核を使用したところで、フェアリエの殲滅を完了する為には、この星を数度殺さなければならないから。

 そんなわけで、人間が何をしようソルチェスは止まらないと・・・・ソルチェスの存在を聞かされた者たちは、ただ、嘆くしなかった。

 しかしどうやらお偉方は、始めから何やら対処法を持っていたようで、『神の杖』に続く新たな新兵器の使用が決定された。その名は・・・『終末爆弾』。略して『終爆』。

 それは核兵器に代わる・・・あるいは核をも凌駕する『惑星破壊兵器』であり、フィリデイに並び立つ人類の最高最悪の傑作と呼ぶに相応しい兵器であり、非人道的で道徳も倫理すら欠いた悪魔のような兵器だったーーーーー。


 皆一様に遠くを眺め、誰も彼もが固唾を飲む。

 終爆投下まで、残りあと4分。

 「これ、終わったら。・・・オレ、結婚するんだ。」

 言身ことみの隣でうつ伏せになる昇子しょうこが、冗談交じりに言葉を発す。

 「今それ言う?」

 「物語だと死亡フラグだけど、現実じゃ意外に生存フラグになるっぽいから。」

 「誰情報?」

 「ママ情報。」

 「いつ情報?」

 「さあ?」

 「現実にフラグなんてないよ。あるのは思い込みだけ。信じればどうにだってなれる。」

 「これ(終爆によるソルチェス.01の討伐完了)を?私たちが?」

 「そうそう。なるなる。」

 「オカルトに傾倒しそうな発言だね。」

 「どこが?」

 「思い込み。信じればどうにだってなる。」

 「それは心の持ち様の話だよ。誰にとっても大事なこと。」

 「笑止千万。無意味滑稽。プーックックック。」

 「それでも、大抵の人にとっては大事なことだから。」

 「私たちには必要ないね!」

 「あるよ。・・・きっと。」

 「ないでしょ?私はコトミちゃんを疑わないよ?」

 「盲信こそ哀れなり。」

 「コトミちゃんだってそうぢゃん?」

 「だね。」 

 ーーーー遠くの空が光る。その光はまるで、太陽が2つあると錯覚してしまうような光だった。

 防壁上・・私たち近くにあった『観測本部』の無線機から音が流れて、それを聞いた人の口角が上がった。そして普段はまともに笑わない大人たちが、満面の笑顔で両の手を空に上げる。ーーーー「祈りは届いた!神よ!ありがとう!」・・・とーーーー。

 「我々人類の勝利だ!!!」

 一つの宣言と共に、人類は二度目の歓喜に溺れていった。

 皆が酒をあおり、笑い合い、叫び合い、ふざけ合い・・・・そして、楽しみ、愉しみ、最後には深い眠りに落ちていく。こんな日常が何時までも続けばと、誰もがそう願った。だけど・・・・。

 神様が生まれたことでフェアリエが発生したと言うのならば、フェアリエという存在はきっと、人間を断罪する為の使者なのだろう。ならばこの戦争は、人間が死滅するその時まで、決して終わることはない。

 この歓喜に対する私の苛立ちは、きっとそんな空想的な思考から生まれているに違いない。だけどそれでも・・・私はそれでも、信じている。人が己を人間である自称するならば、最後には必ず勝利を手にするだろう・・・と。

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