19.世間の声が善悪を決する
フェアリエは、【超越種】に分類される。
超越種とは、文字通り、『多くの生物が持つ再生力や細胞の機能を超越した種』であるが、それと同時に、生物としての枠組みを逸脱した生命体に与えられる『称号』でもある。
つまり超越種とは、進化の先で辿り着いた一種の完成形であり、故に元となった生物自体が異なる事もあるということだ。
例えば『フィリデイ』も、機能的には超越種に分類されるが、あくまでも種は『ホモ・サピエンス』であり、『超越種』は分類された種にプラスαとして付け加えられる形となる。要は、『ヒト科ヒト属ホモサピエンス>>超越種』となるということだ。
さて、では、『フェアリエ』とはいったいナニなのだろうか?
例えば、生物の分類には界門綱目科属種と七つの階層があるわけだが、『宇宙から来た生命体』・・・現在においては『フェアリエ』に該当するソレは、いったいどのように分類されるのだろうか。
もちろん、これは空想でしかなく、実際問題として明確に定義することはできないだろう。しかしやはり、未知である以上、考えずにはいられないものだ。
この世界にはカマキリと呼ばれる昆虫がいるが、そいつは立派な鎌状の腕を持ち、時に鳥をも食らう肉食昆虫だ。そしてだが、カマキリの仲間でないくせに、このカマキリに似た形状を持つ昆虫も多く存在している。いわゆる収斂進化・・・系統的に遠い関係にある異なる生物が、類似した生活環境や生存圧力に適応した結果、独立して互いによく似た形態や形質を持つに至る現象・・・というやつだな。ネットで調べればすぐに出るし、聞いた事がある者の多いだろう。
さて、そんなわけでだが・・・まあ、フェアリエの分類に関しては何とも言えないだろう。現状で『外生命体』と発表している以上、現生生物の括りに入れるわけにはいかないからな。
だが”形状”に関しては、現生生物と似通った箇所が存在していてもおかしくはないだろうと推測できる。
フェアリエがどこから来たのかはさておき、この星・・・命星に適応している以上、フェアリエの故郷たる星も、ある程度は命星の自然環境と似通っている可能性が高い。
そしてだが、環境が似ていれば当然、生物の進化もある程度は似た形で成されるだろうと推測できる。
ではその上で、命星の現生生物の中で最もフェアリエと似通った生物とは何だろうか?
ーーーー答えは、『猿』、『ゴリラ』、『オラウータン』・・・そして『人間』だ。
フェアリエは四足歩行の者が多い。それはフェアリエの基本形状的に、二足の時よりバランスが取りやすく、且つ、動きやすいからだろう。要はそちらの方が便利ということだ。しかし中には、”不便でありながらも”直立二足歩行を行うフェアリエもいる。人間に近いのはこちらのフェアリエだ。
では何故、不便であるはずの直立二足歩行を行っているのか?・・・残念だが、それについての”誰もが納得しやすい合理的な推測”は未だ浮かばずだ。とはいえしかし、既に多くの者が『フェアリエは外生命体である』という虚言を信じ切っている以上、真実を語る必要は今のところ無い。
ーーーーー
酷く冷めていることは自覚している。私は誰も愛せない。
みんなは私を好きでいてくれるけど、でもそれは自分中心にってだけ。自分を捨ててまで本当の私を知ろうとしてくれる人じゃない。だから私は、昇子ちゃん以外の誰もを愛せない。
昔の私はきっと他人。私は変わってしまった。あるいは、ようやく自分となっただけかも。
まあ、いいんだ。そんなことすらどうだってよくなってしまった。こうして考えてしまっている以上は気にしている筈なんだろうけど、でも、今の私としてはどうだっていい。
けれどどうしてか、私はみんなを心配してる。
イコルがそうさせたのか、あるいは元からあった感情が強まっただけなのか・・・。どっちにしろ、私はみんなを心配せずにはいられないーーーーー。
「ピーーッ」・・っと音が鳴って、言葉が届く。
「やったね!コトミちゃん!」
昇子ちゃんの声は嬉しそうだった。
「そうだね。」
「どうしたの?」
声だけでも私の心配事を察したのか、昇子ちゃんの「どうしたの?」は早かった。
私は少し考えて、答えを返す。
「・・・フィリデイがね・・役目を終えちゃったから。・・・ここ以外にみんなの居場所なんてないのに・・・。」
「・・・ん?どういうこと?帰る場所はみんなにあるよ?」
「そうだけど・・・そうじゃないよ。・・・みんなはフィリデイで・・他のみんなは人間だから。」
「・・・んんん?」
言葉じゃ上手く説明ができない。けれど私の心には、確かな不安が募っていく。なのに世界は歓喜の声に包まれていて・・・・”みんなにもある筈”のこの抱えた不安は、浮き足立つ陽気に完全に掻き消されてしまっているーーーーーー。
その日の夜。私の元に、彼は訪ねてきた。
「言身さん。ちょっといいかな?」
「・・・アサツジ君。どうしたの?」
彼は少し考えてから言葉を発する。
「起きなかった戦闘が終わった後、君と昇子さんとの会話を聞いちゃってね。・・・それで少し、相談したくなった。この不安は、流石に一人で抱え込むべきじゃないって思ったから。」
「そっか。・・・そうだよね。」
私たちは同志を求めている。同志を作らなければならない。より多く、大きく、みんなが拠り所を作れるように。
「”あの噂”、言身さんは何処まで信じてるか聞いていいかな?」
「もちろん。」
あの噂とは、”フェアリエ発生時”からネットで囁かれたとある証言だ。それは・・・・。
「私は、本当だと思ってる。特にここ最近になって、その思いがもっと強くなったよ。」
私たちフィリデイは、フェアリエの気配を察することができる。・・・できるようになった。何度もイコルを打ち込んで。
「アサツジ君は?」
「嘘・・だと思いたいんだけどね。」
仕方のないことだ。・・特に疑念を抱きやすい人にとっては。
疑り深いのは悪い事じゃないけど、でも馬鹿になれないというのは結構辛い。・・・本当は、信じたいことを馬鹿みたいに信じて楽しく生きたいのに、そうできないから。
ーーー重たい心で、重たくなった口を開く。
「・・・フェアリエは、フィリデイから成ったモノ。フィリデイがいずれ成るモノ。・・・流石に嘘だって思いたいよね。」
「そうだね。僕としても・・・・あり得ないと思いはするんだけどね・・・。」
「でもなんでか、そう信じきれない。」
「・・・・そうだね。」
「・・・それで?・・・相談事はここからが本題でしょ?」
「・・・うん。」
そうだ。いつか成るとて、いつかはいつか。今じゃない。それにこれが真実であるという保証もされてないから、疑いはすれど馬鹿みたいに信じることもない。ただ、問題なのはここから。
「フィリデイじゃない・・同じクラスだった友達から聞いたんだけどね・・・。この噂は、やっぱり”世間にも浸透してる”みたいだよ。」
「その人たちは信じてると思う?」
「まちまちかな。・・・まあ、親は否定したそうだったけど。」
「そっか。」
「とはいえだ。既に世間には浸透してるから、仮に僕たちが帰ったとして、今後どうなるか・・・。」
「嫌でも気づくよね、みんなさ・・・。」
「忌避、嫌悪、差別、嘘・・・。みんな背負って生きていかなきゃならない。正直、腹は立つけど、でも仕方のないことだとも思う。だからせめて、みんなが心の底から笑えるような場所を作っておきたい。」
「わかってるよ。」
彼は、過去の私を知っている。だから当然、私の境遇も知っている。その上で、それを活用して欲しいと・・・。
「戻ったら、頼れる人に頼ってみる。」
私に寄り添おうとしてくれた人たちなら、きっと何とかしてくれるだろうから。
「ありがとう。・・・それじゃあ。」
「もう行くの?」
「そろそろ昇子さんも戻ってくるかと思って。」
「・・・別に話を聞かれない限りは・・・・・多分大丈夫だと思う・・・よ?」
「その間と『多分』とがついてる時点で・・・まあそういうことだから。・・・また、話そう。」
「うん。」




