第2話 出会い
どれほどの時間が経ったのだろう。
なかなか開かない目を、俺は重たいまぶたをこじ開けるようにして開いた。
目に映ったのは、暗い夜空だった。
「ああ……こんなことなら、もう少し寝ていればよかった」
何でもないふりをしながら、俺は薄い服を体に引き寄せた。
だが、どれだけ襟元を引っ張っても、寒さは一向に和らがない。冷気が肌に突き刺さり、全身に鳥肌が立った。
『この程度の寒さくらい……』
そう思った、その瞬間だった。
ガタンッ!
馬車が大きく揺れた。
「うわっ!」
体が横に流され、そのまま向かいに座っていた仮面の女の腕の中へ転がり込んだ。
……あれ?
顔を上げると、女の手のひらが高々と振り上げられていた。
『ちょっと待て。まさか、殴るつもりか?』
避けなければ。
そう思ったものの、体は思うように動かなかった。逃げるどころか、首を動かすことさえままならない。
『……あ、これ詰んだな』
「うっ……!」
俺はぎゅっと目を閉じた。
どうやら今回は、大人しく受け入れるしかなさそうだ。
ところが、いつまで待っても痛みはやってこなかった。
代わりに、体がふわりと宙に浮く感覚がした。
恐る恐る目を開けると、女が俺を軽々と抱き上げ、あちこちから顔を覗き込んでいた。
そして、突然叫んだ。
「……あなたは!」
女の動きが止まった。
しばらく俺の顔を見つめていた彼女は、次の瞬間、俺をぎゅっと抱きしめた。
「本当にお久しぶりです!」
「この町にいらっしゃったのなら、せめて顔くらい見せてくださればよかったのに!」
「まったく、あなたは昔から何も変わっていませんね!」
「……」
あまりのことに、俺は苦笑することすらできなかった。
いや、何も変わっていないって。
今の俺の姿を見ても、そんなことが言えるのか?
「うぐっ……! 揺らすな!」
「もういいから……!」
「あはは! ごめんなさい。でも、あまりにも嬉しくて!」
女は俺を離すつもりがないらしい。
仮面に隠れて表情こそ見えなかったが、その声が心から喜んでいることだけは伝わってきた。
しばらく俺を抱きしめていた彼女は、ふと何かに気づいたように動きを止めた。
「それにしても……気づきませんでした」
彼女の声が少し低くなる。
「まさか、ここまで弱っていらっしゃるなんて……」
少しの沈黙のあと、彼女は恐る恐る尋ねた。
「……結局、何かやらかしたんですね?」
彼女が仮面を外した。
露わになった顔には、驚きと心配が浮かんでいた。
『昔はあんなに俺を殺そうとしていたくせに……』
俺は心の中でため息をついた。
『あの頃の殺気は、いったいどこへ行ったんだ?』
「ふふっ。まさか、何千年も前のことをまだ覚えていらっしゃるんですか?」
彼女は俺の表情を読み取ったかのように笑った。
「あの頃の私は、まだ子供でしたから」
……子供?
当時も十分恐ろしかった気がするのだが。
彼女は俺に手を差し出した。
「せっかく再会できたのですから、まずは自己紹介をしましょうか。私はセリナです」
そう言うと、向かい側で布をかぶって眠っていた男を足でつついた。
「それで、こっちは……おい、起きなさい」
「……うるさい」
男は面倒くさそうに寝返りを打った。
「起きなさいってば!」
「主人というものは、客人に対する態度も知らないのか」
「誰が客人よ! いいから起きなさい!」
セリナがもう一度蹴ると、男はようやく渋々と体を起こした。
そして俺を見た瞬間、目を見開いた。
「……なに?」
眠たげだった目つきが、一瞬で鋭くなる。
「あなたは……!」
男は俺を凝視した。
「死んだものだとばかり思っていましたが……生きていらっしゃったのですね」
彼の視線が、俺の顔から全身へとゆっくり下りていく。
しばらくすると、男はあからさまに眉をひそめた。
「……それにしても、何という有様ですか」
「……」
「昔と比べれば、虫けら同然の力しか残っていないようですね」
……こいつ。
「過去の因縁なら、今ここで片づけて差し上げましょうか?」
男は腰に差した剣を抜いた。
そして、その刃をぺろりと舐めた。
「今なら、一瞬で終わらせられそうですし」
「ちょっと、アンカバンド!」
セリナが怒鳴った。
「冗談だ。冗談」
アンカバンドは面倒くさそうに剣を鞘へ戻した。
そして、何も言わずに自分が使っていた毛布を俺に投げてよこした。
俺は毛布を受け取り、呆然と彼を見つめた。
……何なんだ?
さっきまで殺すだの何だのと言っていたくせに、どうして急に毛布をくれるんだ?
『いったい、どうして二人ともそんなに心配そうな顔をしているんだ?』
俺は二人を交互に見た。
セリナとアンカバンド。
王国の宝を盗み出したあの頃、セリナはソードマスターで、アンカバンドは彼女の使い魔だった。
それなのに、今も二人で旅を続けているらしい。
『……もしかして、いつの間にか伴侶にでもなったのか?』
子供の頃なら、きっと腹を立てていたかもしれない。
だが、今はただ不思議に思うだけだった。
俺の視線に気づいたセリナとアンカバンドが、互いに顔を見合わせた。
「……何を見ているんですか?」
「別に」
「怪しいですね」
「本当に何でもない」
俺は慌てて視線をそらした。
そのとき、セリナが尋ねた。
「ところで、あなたはどうしてこの町へ?」
「……ちょっと事情があってな」
「そうですか」
彼女はしばらく俺を見つめたあと、くすりと笑った。
「私は普段、他人の事情にはあまり興味がないんです。でも、あなたのことなら話は別ですよ」
セリナはアンカバンドをちらりと見た。
「あなたが昔、私とアンカバンドを引き合わせてくださったでしょう?」
「……そうだったな」
「昔は本当に嫌でした。どうして私がこんな奴と一緒にいなければならないのかって」
「……主人。今からでも遅くはない。少し黙っていたらどうだ?」
「嫌よ?」
セリナはいたずらっぽく笑った。
「でも、今となっては感謝しています。あなたがいなければ、今の私はいなかったでしょうから」
彼女は俺に手を差し伸べた。
「ですから、私にできることがあれば何でも言ってくださいね」
アンカバンドも俺をちらりと見た。
「主人がここまで言っているんだ。話してみたらどうです? 聞ける頼みなら、聞いてやらないこともありません」
……本当に口の悪い奴だ。
俺は少し迷ったあと、事情を話すことにした。
この町に入れない理由から、今の自分がどれほど困った状況にあるのかまで。
二人は黙って俺の話を聞いてくれた。
そして、自分たちの乗っている馬車は、この先さらに遠くまで進まなければならないのだと説明した。
その代わりに、二人は俺に金と服を渡し、この世界の基本的な知識やギルドについて教えてくれた。
おかげで、これからどうすればいいのか、少しだけ見えてきた。
短い会話を交わしているうちに、夜は明け、朝が訪れていた。
「それでは、そろそろ行くとしよう」
俺は毛布を返し、二人に別れを告げた。
「二人とも、気をつけてな」
「ちょっと待ってください!」
セリナが再び俺をぎゅっと抱きしめた。
「……ぐえっ!」
「久しぶりに会えて、本当に嬉しかったです! だから、また会いましょうね!」
「わかったから、息が……!」
「約束ですよ!」
俺は何とか彼女の腕から抜け出し、手を振った。
馬車がゆっくりと動き始める。
セリナは窓から身を乗り出して手を振り、アンカバンドは面倒くさそうに頬杖をつきながら俺を見ていた。
「次に会うときは、せめてまともな姿でいてくださいよ」
「……お前こそな」
馬車は遠ざかっていった。
長く続いてきた縁だったが、再会はこうして短い時間で終わった。
俺はしばらく馬車が消えていった方向を眺め、それから踵を返した。
もう、本当に一人だ。
町に足を踏み入れた瞬間、俺は立ち止まった。
『……ここが、俺の知っているあの町なのか?』
目の前に広がる光景は、記憶の中のものとはまるで違っていた。
通りには、さまざまな魔獣の皮や角、正体のわからない素材、華やかな装飾品が並んでいる。
見慣れない種族がそれぞれの言葉で話し、武器を身につけた冒険者たちが忙しそうに行き交っていた。
かつては小さな村にすぎなかった場所が、今では立派な都市へと変わっていたのだ。
『世界もずいぶん変わったものだな……』
俺はゆっくりと通りを見回した。
とりあえず、セリナの話では、まずギルドを探すべきらしい。
『ギルドなら、大きな看板があるはずだが……』
周囲をどれだけ見回しても、それらしいものは見つからなかった。
『……ないな』
もちろん、俺が見落としているだけかもしれない。
だが、今の姿で誰かに道を尋ねるのも面倒だった。
『まあ、ひとまず歩いてみるか』
知らない道なら、歩けばいい。
歩き続けていれば、いつかは見つかるだろう。
そんなことを考えながら、しばらく歩いていたときだった。
「おい、兄ちゃん!」
突然、数人の男たちが行く手を塞いだ。
いかにも柄の悪そうな連中だった。
一人は斧を持ち、もう一人は俺の服装を頭から足先まで眺めている。
「この町は初めてか?」
「だったら通行料を払ってもらおうか。おい」
斧を持った男が、斧の刃で地面をガンガンと叩いた。
脅しと呼ぶのもおこがましいほど、稚拙な行動だった。
……だが、問題は別のところにあった。
『金を払うべきか?』
俺はポケットの中を確認した。
セリナからもらった金はある。
しかし、この町にどれほど長く滞在することになるのかわからない以上、ここで無駄遣いするわけにはいかなかった。
それに、今の体では何か起きてもまともに対処できそうにない。
『困ったな……』
この町にずっと居続けるわけにもいかない。
何より、この世界で生きていくには、コールドが必要だった。
だが、今の俺には、それすら十分にない。
『……どうしたものか』
そのとき、ふとセリナの言葉を思い出した。
金を使って、自分を守ってくれる傭兵を雇う者もいるらしい。
俺は手の中のコインを見つめた。
そして、チンピラたちの後ろに立っている男に目を留めた。
黒髪。
腰に差した一本の剣。
そして、一目見ただけでも相当な実力者だとわかる雰囲気。
男はこの騒ぎに興味すらないかのように、無表情で立っていた。
『……あいつなら』
俺は少し考えたあと、声を上げた。
「おい、そこの黒髪!」
男の視線がこちらへ向いた。
「俺を守ってくれないか? 報酬はゴールドで払う」
男は答えなかった。
ただ、じっと俺を見つめている。
すると、俺の前を塞いでいたチンピラたちの顔が、みるみる青ざめていった。
「……おい」
「な、何だよ……?」
連中は黒髪の男を見て、互いに顔を見合わせた。
そして、何も言わずに慌てて逃げ出した。
……何なんだ?
俺は、彼らが去っていくのを呆然と見送った。
そのときだった。
黒髪の男が大股で近づいてきたかと思うと、俺の襟首をつかみ、壁に押しつけた。
「……あんた」
その声は冷たかった。
「今、俺をゴールド数枚で雇うと言ったのか?」
男は俺が差し出した金をちらりと見た。
「こんなもので?」
鼻で笑われた。
俺は壁にもたれながら、どうにか姿勢を立て直した。
「じゃあ、どうすればお前を雇える?」
「……は?」
「俺の騎士になってくれ」
男は一瞬、言葉を失ったように俺を見つめた。
「……話が通じないのは、あんたのほうらしいな」
「お前が望むものを与えよう」
男は俺を頭の先から足元まで眺めた。
ぼろぼろの服。
青白い顔。
今にも倒れそうな体。
誰がどう見ても、金のない物乞いにしか見えないだろう。
男の口元に、嘲るような笑みが浮かんだ。
『はあ……こいつ、本気で言っているのか?』
彼はため息をつき、町の奥を指さした。
「向こうに山が見えるだろう?」
都市の向こうには、黒々とした山がそびえていた。
「あの山で、ある実を取ってこい」
「実?」
「治癒の実だ。それを持ってきたら、あんたの提案を真剣に考えてやる」
男は俺をまっすぐに見つめた。
「もっとも、そのときも今みたいに情けない姿だったら、話は別だがな」
俺は男の顔を見つめた。
妙だった。
俺を見下す態度はともかく、彼の目にはどこか不安げな色があった。
むしろ、俺よりも焦っているようにさえ見えた。
『……何か事情があるらしいな』
「わかった」
俺は頷いた。
「その実を持ってきたら、この町にいる間、俺の騎士になってくれるんだな?」
「……約束は守れよ」
「お前もな」
「いいだろう」
男は背を向けた。
「期限は四日後だ。そのとき、ここでまた会おう」
彼は路地へと入り、そのまま姿を消した。
俺は男が消えた方向を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……俺の騎士になってくれればいいんだが」
実は、あの山には行ったことがあった。
もちろん、ずっと昔の話だが。
あの頃は、こんなことで悩む必要などなかった。
山へ行って、知り合いに頼むだけでよかったのだから。
『まあ、人脈はこういうときに使うものだ』
俺は小さく笑った。
『カカノチに頼めば、すぐに手に入るだろう』
あの場所では、治癒の実などそれほど珍しいものではなかった。
問題は、別のところにあった。
『それにしても、治癒の実か……』
俺は男の顔を思い浮かべた。
特に病気を患っているようには見えなかった。
体が不自由そうにも見えなかった。
『……いったい、どこが悪いんだ?』
気にはなったが、無理に聞き出す必要もない。
約束は四日後だ。
だが、俺はすぐに考えを改めた。
『……今のうちに渡してしまったほうがいいな』
俺はすぐに歩き出した。
問題は、男の住処を知らないことだった。
だからといって、諦めるつもりはなかった。
俺はギルドを探しながら、男の痕跡を追った。
どれほど時間がかかろうと、構わなかった。
『……見つけた』
ごくわずかだが、男の匂いを感じ取ることができた。
昔なら、こんなことは朝飯前だっただろう。
だが今は、集中力を保つことすら難しい。
感覚は鈍り、体は重い。
それでも、完全に見失うことはなかった。
匂いを頼りに何度も路地を曲がり、ようやく一軒の家にたどり着いた。
『ここか』
俺は窓へ近づいた。
カーテンの隙間から、室内の様子が見えた。
そこには、黒髪の男がいた。
そして、その腕の中には幼い少女が抱かれていた。
……いや。
よく見ると、その少女はぴくりとも動かなかった。
男は少女を抱きしめ、ただひたすら涙を流していた。
「……すまない、レイ」
小さな声が漏れた。
「すまない……」
俺は手に持っていた実を見下ろした。
『……これでは助けられないだろうな』
あの少女は、すでに死んでいた。
治癒の実は、傷を癒やし、病を治す助けにはなる。
だが、死者を蘇らせるためのものではない。
俺は少し迷ったあと、窓を叩いた。
コン、コン。
男が顔を上げた。
警戒するような目で俺を見つめながらも、腕の中の少女を離そうとはしなかった。
俺は窓に息を吹きかけ、指で文字を書いた。
約束の実だ。
男は文字を読んだ。
しばらく何も言わなかったが、やがてゆっくりと立ち上がった。
そして、扉を開けて外へ出てきた。
その顔は暗く沈んでいた。
「……本当に持ってきたのか」
男は俺の差し出した実を見つめた。
「まさか、本当に山まで行くとは思わなかった」
「約束したからな」
俺は実を手渡した。
男は少しの間、俺を見つめていたが、やがてそれを受け取った。
そして、俺を家の中へ招き入れた。
男は実をすり潰し、汁を作った。
それから、慎重に妹の口へ流し込んだ。
一滴。
また一滴。
しかし、何の変化も起こらなかった。
少女は目を開けない。
呼吸もしていない。
男の手が震えた。
「……どうしてだ」
唇がかすかに震える。
「どうして、何の反応もないんだ……?」
俺は何も言わなかった。
すでにわかっていたからだ。
その少女は、もう生きてはいない。
男はしばらく妹を見つめていたが、やがて力なく俯いた。
「……ああ」
小さな呻き声が漏れた。
「ああ……」
その目から涙がこぼれ落ちた。
俺はその姿を見つめてから、杖を持ち上げた。
そして、男の脚をぐっと突いた。
「……おい」
男が驚いて顔を上げた。
「何をするんだ?」
「もう終わりだ」
俺は淡々と告げた。
「……何だと?」
「いい加減にしろ。もう終わったんだろう」
男の瞳が揺れた。
俺は杖を下ろし、彼を見つめた。
「あんたは過去に囚われている」
「……」
「それでも、あんたはまだ生きているだろう」
俺はゆっくりと言葉を続けた。
「ここで絶望して、それでどうする? 本当に成し遂げたかったことは何だったんだ?」
男は答えられなかった。
代わりに、彼の脳裏に古い記憶が蘇った。
妹のレイは、病に侵されていた。
両親はすでに亡くなっており、二人には互いしかいなかった。
生きていくため、彼らはギルドに入った。
依頼を受け、魔獣を狩り、少しずつ金を稼いだ。
薬を買うためだった。
しかし、どれだけ薬を飲ませても、レイの病は治らなかった。
そうして時が過ぎ、ついにレイは死んだ。
それでも、彼は妹を手放すことができなかった。
自分がもっと努力していれば。
もう少し金があれば。
もう少し強ければ。
もしかしたら、レイを救えたかもしれない。
そう思い続けていた。
彼は死んだ妹を抱きしめ、呟いた。
「……レイ」
そのとき、かつて妹が口にした言葉が脳裏をよぎった。
お兄ちゃんは、本当に優しいお兄ちゃんだったよ。
だから……もういいんだよ。
もう、ここにいないで。
その言葉が何を意味していたのか、彼はようやく理解した気がした。
レイは、自分が死んだあとも、兄が過去に囚われ続けることなど望んでいなかったのだ。
「……ああ」
男は妹を抱きしめ、泣いた。
ずっと押し殺してきた感情が、一気に溢れ出したかのようだった。
俺は何も言わず、その姿を見つめていた。
だが……。
「……ん?」
突然、視界が揺れた。
体が異様なほど熱い。
まるで全身に火がついたかのようだった。
『……何だ、これ?』
脚から力が抜けた。
杖をつこうとしたが、指先に力が入らない。
「おい……?」
男が泣くのをやめ、顔を上げた。
「ちょっと、あんた……!」
声が遠ざかっていく。
俺はそのまま前へ倒れ込んだ。
男が慌てて俺を受け止めた。
「おい! しっかりしろ!」
彼は俺をソファに寝かせ、額に手を当てた。
その瞬間、男の表情が強張った。
「……体が燃えるように熱いじゃないか!」
彼は慌てて濡れた布を用意し、俺の額に載せた。
そして、しばらく俺のそばを離れなかった。
死んだ妹を抱きしめて泣いていた男は今、目の前で倒れた見知らぬ人間を心配していた。
……まったく。
俺は心の中でため息をついた。
『他人の心配をしている場合じゃないだろうに……』
しかし、その言葉を口にする力すら残っていなかった。
俺の意識は、ゆっくりと闇の中へ沈んでいった。
今日は少し書く気がしませんでした




