夏の雨と涙
私 43歳
明美 19歳
私は家のリビングで一人、娘の帰りを待つ。
外は雨が降っている。そこまで強い雨ではないけども、雨音が家の中からも聞こえるくらいだ。
あんなに小さかった明美が、もうすぐ成人を迎えるくらいの歳になるなんて。
月日が経つのはあっという間だ。
そりゃ、私もおばちゃんになるわけだ。んー、気持ちはまだまだ若いつもりなんだけど。
それにしても帰りが遅い。高校を卒業して就職をしたのはいい。ただ、夜の10時を過ぎても帰ってこないのは仕事ではなくて、きっと遊び歩いてるからだと思う。
我が子が大人になっていくのはとても嬉しいんだけど、親からどんどん離れていって、手の届かないところに行ってしまうような。それは凄く寂しいし、辛い。
物音がした。きっとアケミだ。
「ただいま〜、あー疲れた」
「お帰りなさい、あーちゃん。ご飯食べる?」
「ん〜、帰りに食べてきたからいいよ。もうこんな遅いし。前も言ったやろ? 遅い時はご飯いらないって」
一人分の置いていた夕食の用意。
「ねぇあーちゃん。最近ずっと帰りが遅いのって仕事の残業? 連絡くらいしてほしいんやけど……」
「も〜、うるさいなぁ、母さんは。仕事でも遊びでもどっちでもいいやんか。もう、私大人やで?」
アケミは私の顔も見ず、話す。
「毎日遅いと心配にもなるでしょ。休みの日もずっと出かけてるし、せめて誰とどこに行ってるかくらい教えてくれてもいいやないの」
私の言い方もどんどんキツくなってきてしまう。
違うんだ。ホントはそうじゃないんだ、言いたいことは。
私はあなたがとても大事だから。
あなたに何かあったら心配だから気になるだけなのに。なんでもっと優しく言えないんだろう。
「ウッザ! もうほっといてくれる? 母さんマジめんどいんですけどー」
アケミはそのまま自分の部屋に行こうとする。
「待ちなさい、あーちゃん!」
「なによ〜、疲れたしお風呂入りたいんやけど……」
私はアケミの頬を思いっきり叩いた。
「母さんの気持ちも知らないで……」
アケミはとても痛そうにしている。私も痛い。心が痛い。
アケミは無言で自分の部屋に素早く入ってしまった。
部屋の中が、なんだかがちゃがちゃと騒がしい。何をしてるんだろう。
しばらくしてから、物音が止んだ。
アケミの部屋はリビングから出た廊下の向こう、玄関の近くにある。
リビングの扉は閉めたままで、向こうにアケミが立っているのが見えた。
「母さん……私、家出ていくから」
え。
「あーちゃん、そんないきなり……」
リビングの扉を開けると、アケミはもう玄関の方で靴を履き、外に出ようとしていた。ここはハイツの一階だ。
「じゃあね」
玄関のドアが勢いよく閉まる。
——ぽとり
アケミが。あーちゃんが家を出た。
私は寝間着だったので、薄い上着を羽織り、外に出た。
もう、アケミはいなかった。
雨がしとしとと降っている。
——ぽとり
私は言葉も出ず。
ただ、ただ泣いていた。
もっと優しくしていたら、アケミは出て行くことはなかったんだろうか。
アケミの言い分をもっと聞いていたら、言い合いにはならなかっただろうか。
後悔しても、もう遅い。
しとしとと降る雨が、私の涙を洗い流していた。
——ぽとり
——ぽとり




