第5話 フリーな結婚
魔法の薬屋マクスウェル二号店。
「いらっしゃいませ~」
華奢な男性が、出迎える。
オネエだ。
「お久しぶりです。リップさん」
「…」
「あら、ミントちゃん。可愛い女の娘連れねえ〜」
リップ。
生粋の精霊オネエ。女性の心を持つ人。
「ステラ叔父さん、離婚してないじゃないですか」
「黙りやがれ。ミント」
ステラ・マクスウェル。35歳。
荒くれ気質の魔法使い。
周りに誰も聞いてないかを疑っている。
隠し事をしたい男の人。
隠したいことは、オネエのリップさんのことなのだろうか。
「リップさんと結婚してるじゃないですか」
「言うなよ。恥ずかしいんだよ」
「照れちゃって、可愛いわ〜」
ステラ叔父さんは、精霊オネエのリップさんと結婚している。
ジェンダーフリーだ。
男同士の結婚。
いや、違う。男と精霊オネエの結婚だ。
ウッドブルグの街の法律では、全然大丈夫。
ステラ叔父さんは、20歳の時に結婚した。
チューリップの精霊のリップさんと。
第5話 フリーな結婚
「男の人と男の人…」
思いつくこと。
ローズのおばさんは、こういう小説をいくつか読んでいた。ローズも読んだ。
女性が読んで楽しい。ボーイズラヴ。
興味がある。ローズも、グッとくる。ドキドキする関係だ。
勝手な男の子ミントの叔父さんは、ひと味違うようだ。
我が道を突き進んでいるステラ叔父さん。
ツワモノだ。
「僕、この娘と婚約したんです」
ミントは、ステラ叔父さんたちにローズのことを紹介した。
婚約。この男の子は、勝手に決めた。
でも、ジェンダーフリーに好意的ならば、多様な恋に、理解ある男の子ということ。
「可愛い女の娘と婚約したんだな」
驚くという感じのステラ叔父さんだが、ひと安心という気持ちが大きいようだ。
「お前は、やっぱりノーマルだと思ってたぜ」
「うれしいわ〜。可愛いお嫁さんね〜」
二人に歓迎された、ミントとローズ。
果物をご馳走してもらうことになった。
ダイニングテーブルに、二人ずつ並んで食べる。
サクランボとお水。
「サクランボ、好きかしら〜」
「好き」
答える。リップさんは、優しい。
「あら〜。良かったわ〜」
同じ精霊同士、気が合うのか。サクランボが好きなのか。
たくさん食べるローズ。美味しい。
「ミントちゃんは、良い子だから何でもまかせなさいね〜」
何でもまかせられるのか。そういえば、身のまわりのことは何でも用意してもらっている。
おじさんとおばさんにも、何でもしてもらっていた。
面倒事の苦手なローズ。
「何でもまかせられるのなら、婚約ありかも」
考える。ラクできるのは良い。
「幸せになれるわよ〜。ワタシもステラさんと結婚して幸せになれたもの〜」
「ミントと結婚。幸せ」
考える。そうか。幸せになれるのか。結婚って。
「精神治療薬の研究は、順調ですか」
「何とも言えねえな」
「僕は、植物栄養剤を研究してます」
「…」
難しい話をしている。
下を向く。ミントは、難しい話をする。
ローズは、メイド服姿のまま、きていた。
「ローズちゃん、どうしたの〜」
「メイド服…」
「可愛いわね〜」
「難しい話」
わからない。何だか、モヤモヤする。
「ミントちゃんのどこが好きかしら〜」
「…」
考えたことない。好き。
「真面目なところかしら〜」
「…」
わからない。でも、真面目でカッコいい。
ミントのことがわからない。
知らない人。
名前だけ知ってる。わからない話をする。
他の人。
でも、婚約者。
ルビーの指輪を左手の薬指につけている。
ジッと見る。二人で、同じ指輪をつけている。
婚約者。心がゆれてきた。ふわふわする。
「ルビーの指輪ね〜」
「指輪」
ミントとおそろい。このルビーは、綺麗。
これから、ずっとつけてもいいもしれない。
「ゆっくり考えるといいわよ〜」
リップさんは、結婚する時、給料三ヶ月分のダイヤの指輪をもらったという。
今も、二人の左手の薬指に輝いている。
ステラ叔父さんが、20歳の時、手を取り合って、中央庭園の教会で結婚を誓ったのだという。
それは、静かな結婚だった。
20歳での男の結婚の決まりは、この街特有の法律である。
そのほとんどは、ドリアードとの結婚。
他の植物精霊との結婚はめずらしい。
出会いは、難しい。恋は、いつも奇跡である。




