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EP 8

最凶の自警団と、リミッター強制解除

「ブゥゥゥン……!」

空を真っ黒に染め上げるほどの不気味な羽音が、のどかなポポロ村の上空を瞬く間に覆い尽くした。

地下ハッチから次々と這い出し、空へと飛び立ったのは、六角形の赤いエネルギーシールドを展開する強襲部隊『死蜂機ネクロワスプ』の群れだった。

「チィッ、今度は空からかい! 泥臭い真似してくれるじゃないか!」

スアイが蛍光イエローの作業着を翻し、暗殺斧チェーンソーを構える。だが、上空数十メートルの高度から無数に放たれるチタン合金の毒針ガトリングの雨に対し、近接武器では分が悪すぎる。

「村のみんな! 避難訓練の通りに動いて! キュルリンちゃん、迎撃システムの起動をお願い!」

キャルルが特注安全靴で地面を蹴り砕き、毒針の雨をステップで回避しながら大声で叫んだ。

その声に応えるように、広場の隅のサイレンが一段と高く鳴り響いた。

直後、俺は目を疑う光景を目の当たりにした。

「おうおうおう! わしらの村を荒らそうなんざ、百年早いんじゃオラァ!」

「今日の晩飯の伊勢海老(化け物)は、一匹残らずウチの網で捕まえるよ!」

麦わら帽子を被った農家のおじさん、おばさんたちが、タローマン製の『魔導防弾チョッキ』と『魔導ヘルメット』を完璧に装着し、手に最新鋭の『魔導ライフル』を構えて納屋から次々と飛び出してきたのだ。

さらに、普段は肥料を運んでいるドワーフ製のトラクターの荷台には、物々しい『魔導誘導バズーカ』がズラリと並べられている。大国の正規軍すら真っ青の、完全武装の私兵部隊(PMC)――これが、絶対中立特区ポポロ村『最凶の自警団』の真の姿だった。

「防空システム、オンライン! 迎撃開始!」

キュルリンが巨大なツールベルトから魔導端末を引き抜き、画面を叩く。

ガシャン! と音を立てて、村の畑のあちこちに偽装されていたビニールハウスが開き、中から巨大な『魔導対空砲』がせり出してきた。

「撃てぇぇぇッ!」

農家のおじさんの号令と共に、対空砲とトラクター上のバズーカが一斉に火を噴く。

閃光と爆音が村を揺らし、上空のネクロワスプの群れに直撃した。

しかし――。

「ええっ!? 弾かれてるよ!?」

キャルルが驚きの声を上げた。

ネクロワスプたちが展開している六角形の赤いエネルギーシールドが、魔導砲の直撃を受けても波打つだけで、致命傷を与えきれていなかったのだ。

「クソッ、ドンガン帝国から密輸したプロトタイプの対空砲なのに! なんで出力が足りないんだい!」

キュルリンがゴスロリドレスの裾を握りしめて歯ぎしりする。

「回路は正常だよ! でも、大国の税関インスペクションを誤魔化すために、魔力炉にガチガチの『安全装置リミッター』が掛けられてるんだ! これじゃあ、シールドを貫通できない!」

「なんだ、そんなことか」

俺は鼻で笑い、キュルリンの背後に立ってその魔導端末の画面を覗き込んだ。

「えっ……カナタさん?」

「俺の前世(ブラックIT企業)じゃ、安全第一なんて言葉は辞書に載ってなかった。機械の寿命より、納期(今この瞬間)がすべてだ。……貸してくれ」

俺は空中にシステムウィンドウを展開し、村の魔導防空システムのネットワークにダイレクトに侵入した。

機械が壊れないように設定された、出力上限100%のロック。こんなものは、徹夜明けのエナジードリンクで脳を麻痺させていた前世の俺に比べれば、あまりにも過保護すぎる。

「対象、全魔導対空砲および魔導バズーカ。魔力炉の出力リミッター、強制解除アンロック。セーフティプロトコルを完全に破棄する」

俺が脳内でカチャリと『鍵』を開け、仮想キーボードをターン! と弾く。

「……オーバークロック、200%だ。ぶっ放せ、おじさん達!!」

ヴィィィィィィンッ!!

次の瞬間、対空砲とバズーカの砲身が、限界を超えた魔力の過負荷オーバーロードによって、あり得ないほどの真っ赤な光を放ち始めた。

「うおおおっ!? なんだこのパワーは! トラクターがひっくり返るぞ!」

「いいから撃ちな! 晩飯のエビフライが逃げちまうだろ!」

ズドガァァァァァァァンッ!!

放たれた魔導レーザーの極太の光の柱が、空を一直線に貫いた。

出力が2倍に跳ね上がったその一撃は、ネクロワスプの赤いシールドを紙切れのように容易く消し飛ばし、上空に群がる機械の蜂たちを、文字通り一網打尽に蒸発させた。

「ギ、ギィィィッ……!」

断末魔と共に、火を噴きながら黒焦げになったネクロワスプの残骸が、バラバラと村の広場へ降り注いでくる。

「やったわ! カナタさん、すごい!」

キャルルが歓喜の声を上げ、キュルリンも「信じられない、魔力炉が焼き切れる寸前の神業だよ!」と興奮して俺の背中をバンバンと叩いた。

「ふむ……。落ちてきたこの残骸、香ばしくローストされていて、殻の焦げた匂いがたまりませんね。これならすぐに剥いて食べられそうです」

いつの間にかリバロンが、墜落してきたネクロワスプの残骸(エビ肉)をテーブルクロスで綺麗にキャッチし、美しく盛り付けていた。

「わぁっ! ちょうどいい焼き加減! これにマヨ・ハーブをかけたら絶対に美味しいわよ!」

「ああ、早くビールを持っておいで! サウナ上がりの体に最高のアテだ!」

村の農家たちも「大漁だべ!」「エビ祭りだ!」と盛り上がり、もはや死蟲機たちはただの『空から降ってくる高級食材』へと成り下がっていた。

しかし、俺の『鍵使い』の直感は、まだ警鐘を鳴らし続けていた。

地下のシステムコードの異常な流れは、まだ終わっていない。

     * * *

同時刻、天界『セレスティア』。

ワイズはノートPCの画面に映る、ポポロ村の住民たちがネクロバグをエビ焼きにして宴会を始めている光景を見て、カプチーノの入ったタンブラーをギリッと握り潰しかけていた。

「……チッ。ただの火力バカの村ではないようですね。あのイレギュラーの男、こちらの兵器をハッキングするだけでなく、味方の兵器のリミッターまで書き換えるとは」

ワイズの端正な顔が、怒りと屈辱で醜く歪む。

ゴッドチューブのコメント欄には、「おでん村の無双スゲー!」「エビ美味そうww」といった、ワイズの想定した『悲劇とざまぁ』とは全く無関係のコメントとスパチャが乱れ飛んでいた。

「ふざけるな……。神である私のシナリオ(ヤラセ)を、一介の人間が台無しにするなど許されるはずがない。物理的な火力が通用しないなら……システムを内側から喰い破ってあげましょう」

ワイズの指先が、怒りに任せてエンターキーを激しく叩く。

その瞬間、ポポロ村の広場で歓喜に沸いていたキュルリンの魔導端末が、突如として不吉な『赤いエラーコード』を大量に吐き出し始めた。

「えっ……嘘!? 防空システムのコントロールが、奪われてる!?」

俺がハッと地下のハッチに目を向けると、そこから音もなく這い出してきたのは、目に見えない電子のウイルスをばら撒く特化型――『死寄生蟲機ネクロパラサイト』の群れだった。

お読みいただきありがとうございます!


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