EP 4
神の攻撃と、リーザ先輩のポイ活裏技講座
「……えっと、カナタ先輩。昨夜の『神の襲来』とやらは、結局どうなったんでしょうか?」
小鳥がチュンチュンと鳴く、平和で爽やかなポポロ村の朝。
俺は、昨晩から一歩も動かず聖剣を構え続けていたユートに、淹れたてのコーヒーを差し出した。
「ああ、あれか。俺の組んだ『全自動迎撃システム』が、スパムメールの如く全自動でゴミ箱に叩き込んでおいたよ」
「ス、スパム……?」
「要するに、ワイズの野郎が送り込んできた悪性の魔力コードを、村の結界が物理的に弾き返して、ついでに『タローマート』の電子ポイントに自動変換するマクロを組んでおいたんだ」
俺が空中に展開したウィンドウを指差すと、そこには【神の怨念:自動変換完了。+150,000ポイント獲得】という、ふざけたログが表示されていた。
「神の怒りが……お買い物ポイントに……!?」
ユートが白目を剥いて聖剣を取り落とした、その時だ。
「ちょっとカナタ! また勝手に村の防衛システムいじったでしょ! 私の端末に、見たこともない桁のポイントが振り込まれてるんだけど!」
バンッ! と音を立てて、ツインテールの元アイドル・リーザが鼻息を荒くして広場に駆け込んできた。彼女の片手には、カナタが以前ハッキングで作り出したスマートフォン型の『村人専用・決済端末』が握られている。
「村の防衛に協力してくれた住人への、正当な『配当金』さ。良かったなリーザ、これで今月の家賃どころか、最新の化粧品も買えるぞ」
「う、うわぁぁぁん! カナタのバカ! 最高! 愛してるわ! これでやっと、お肌の曲がり角に抗える……!」
大歓喜してその場をピョンピョンと跳ね回るリーザ。
その姿をポカンと見つめていたユートに、リーザがふと視線を向けた。
「……あら? ユート君、あんた今日はお休みよね。その端末、ちゃんと使えてるの?」
「えっ? あ、はい。キャルル村長からいただいたお給料が入っている、魔法の板ですよね。でも、使い方がわからなくて……」
ユートが恐る恐る自分の端末を見せると、リーザの目の色がカッ! と変わった。
「あんた、信じられない! 『初回ログインボーナス』も『歩数計連動エコポイント』も全く受け取ってないじゃない! これだから最近の勇者はダメなのよ!」
「ひぃっ! す、すみません! 勇者時代は、お金は全部ギルドの天引きで……!」
「いい? ポポロ村ではね、ポイント(お金)はただ貯めるだけじゃダメ。いかに効率よく循環させるか、それが『ポイ活』の極意なのよ。……ちょっとついてきなさい、私が直々にタローマートでの経済回しを教えてあげるわ!」
リーザはユートの腕をグイッと掴むと、村の端にあるプレハブ小屋――カナタが作り出した異世界初の完全無人コンビニ『タローマート・ポポロ村支店』へと彼を引きずっていった。
「カナタ先輩ぇぇぇっ……!」
「頑張れよ。リーザのポイ活講座は、魔王の説教より長いからな」
俺はコーヒーを啜りながら、哀れな後輩を見送った。
* * *
タローマートの店内。
真っ白で清潔な照明の下、棚にはルナミス帝国では見たこともないような色鮮やかなパッケージの食料品や、日用品がズラリと並んでいた。
「ここは……王族の宝物庫ですか……?」
「バカ言わないで、ただのコンビニよ」
リーザは腰に手を当て、先生のようなドヤ顔でユートに解説を始めた。
「いい、ユート君。この店の商品は、私たちが畑仕事や害虫駆除で稼いだ『ポイント』で買えるの。でも、定価で買うのは三流よ。一流のポイ活民は、この『タイムセール・クーポン』を使うの!」
リーザが端末の画面をスワイプすると、バーコード付きの割引券が表示された。
「これをレジにかざせば、お弁当が二割引。さらに、村の清掃クエストで拾った『空き缶』を回収ボックスに入れれば、還元率がプラス5%……!」
彼女の指先が、かつてのアイドル時代を彷彿とさせるような滑らかな動きで、端末の画面をタップしていく。
金にがめつい、と聞いていたが、彼女の顔はどこか活き活きとしていて、何よりユートの手元を覗き込みながら「ほら、ここを押すのよ」と優しく教えてくれる姿は、完全に面倒見の良い『お姉さん』だった。
「リーザさん……あの、どうして俺なんかに、こんなに親切に教えてくれるんですか?」
ユートが不思議そうに尋ねると、リーザは少しだけバツの悪そうな顔をして、そっぽを向いた。
「別に……。あんた見てると、昔の私を思い出すのよ。大人たち(プロデューサー)に搾取されて、ボロボロになって、それでも笑わなきゃいけなくて……。あんたも、神様とかいうクソプロデューサーの元で、ずっと無理してたんでしょ?」
「リーザさん……」
「ここ(ポポロ村)は違うわ。働いた分だけ、ちゃんと報われるの。だからあんたも、自分のためにポイントを使いなさい。……ほら、これ。あんたのカサカサの肌と胃袋に効きそうな『特製ハチミツプリン』、私のおごりよ」
リーザがドンッ、とユートの胸に押し付けたのは、タローマートの大人気高級スイーツだった。
ユートの瞳に、再び感動の涙が浮かぶ。
「う、うぅっ……! リーザ先輩……っ! 俺、一生先輩のバックダンサー(草むしり係)やりますぅぅっ!」
「よしよし。じゃあお会計するわよ。ええと、今の還元率なら……」
二人がレジに向かおうとした、まさにその時だった。
「おっ、買い出し組。楽しそうだな」
ふらりと店に入ってきたカナタが、二人の端末の画面を覗き込んだ。
「カナタ先輩! 今、リーザ先輩に割引クーポンの使い方を……」
「割引クーポン? ……ああ、これか」
カナタはユートの端末を手に取ると、ニヤリと不敵に笑った。
「せっかくの初任給の買い物だ。これじゃあ、ちょっとケチくさいだろ」
「えっ?」
「対象、タローマート決済サーバー。ポイント還元率の定数設定を……一時的に書き換え(オーバーライド)」
カナタの脳内で、カチャリと鍵が回る音がした。
直後。ユートとリーザの端末の画面がバグったように激しく明滅し、『割引率:20%』の文字が、信じられない速度でスロットマシンのように回り始めた。
そしてピタリと止まったその数字は。
『特別ハッキング・クーポン適用:割引率 99%(さらにポイント1000倍還元)』
「「……は?」」
ユートとリーザの声が完全にハモった。
「よし、これで店ごと買えるな。好きなもんカゴに入れろ」
「カ、カナタのバカァァァッ!! なんでアンタはいつもそうやって、経済の概念を物理的にぶっ壊すのよぉぉっ!!」
「えっ!? ちょ、これ使ったら俺、ルナミス帝国の国家予算以上のポイントが……っ!? 犯罪じゃないですか!?」
「バグらせたのは俺だ、気にするな。ほら、プリン溶けるぞ」
パニックになって悲鳴を上げるリーザとユートの背中を、カナタは笑いながらポンと叩いた。
ポポロ村の経済システムすらも私物化する、元社畜ハッカーの理不尽すぎるチートの無駄遣い。
「あわわわ……ポイントが……ポイントがインフレしていくぅ……!」
ユートが端末を握りしめて震える中、タローマートの自動ドアが開き、ゴスロリドレスの天才少女・キュルリンが転がり込んできた。
「カナターーッ! 大変だよぉ!」
彼女の手には、昨晩の『神のノイズ』の残滓を詰め込んだ、奇妙な振動を放つ謎の機械が握られていた。
「昨日の『神の魔力コード』を解析して、ユートのお兄さんの肩こり解消マッサージ機を作ってみたんだけど……なんかカウントダウン始まっちゃったぁ!」
「おいバカ! 店の中でそんなモン持ち込むな!」
神の怨念とポイントとハッキングが入り乱れる、ポポロ村の騒がしくも愛おしい日常は、今日も爆発音と共に更けていくのだった。




