EP 10
超電光流星脚と、極上の死蟲海老天丼
「グガァァァァァァァァァッッ!!」
村の広場の中央が、まるで火山が噴火したかのように内側から激しく爆散した。
舞い上がる土砂と石畳の破片の中から姿を現したのは、複数の蟲を無作為にすり潰して固めたような、冒涜的で巨大な鋼鉄の異形だった。
見上げるほど巨大なカブトムシの超合金装甲。死蟷螂機のすべてを両断する超高周波ブレードの鎌。死蜘蛛機の火炎を吐く腹部。そして背中には、その巨体を宙に浮かせる死蜂機のエネルギーウイング。
天魔窟の最下層から引きずり出された悪夢、合成死蟲将軍機。ワイズが電脳戦の敗北にブチギレて放った、最強の物理的絶望だ。
「チィッ! あんなデタラメな合成獣、ドワーフの設計思想じゃ絶対にあり得ないよ!」
キュルリンがオーバークロックした魔導バズーカを構えながら悪態をつく。
「四の五の言ってる暇はないよ! 村の畑が燃やされちまう!」
スアイが蛍光イエローの防寒着を翻し、暗殺斧のエンジンを全開にしてキメラの足元へ斬りかかる。リバロンも凄まじい闘気を纏った名刺刃を雨霰と投擲し、自警団の農家たちも対空砲を撃ちまくる。
だが――キィンッ! ガキンッ!
「なっ……あたしの斧が弾かれた!?」
スアイが驚愕に目を見開く。キメラを覆うネクロビートルの超合金装甲は、ポポロ村の過剰な隠し火力すらも完全に跳ね返していた。
『ギギギギギ……!』
キメラが巨大なカマキリの鎌を振り上げ、村の宿屋ごとスアイたちを真っ二つにしようと迫る。
「カナタさん! ハッキングでアイツを止めて!」
キャルルが叫ぶ。だが、俺は空中に展開したウィンドウを見て、激しく舌打ちをした。
「ダメだ、ネットワークが物理的に切断されてる! さっきのサイコパス神、俺のハッキングを警戒して、あいつの制御を完全な『アナログ(手動)』に切り替えやがった!」
天界のワイズは、電子戦の敗北を学習し、今度は純粋な「質量と装甲」という原始的な暴力だけで俺たちを押し潰そうとしているのだ。
(……クソ上司が。小賢しい仕様変更で逃げられると思うなよ!)
俺は、全速力でキメラの足元へと駆け出した。
「カナタ様!? 前に出るのは危険です!」
リバロンの制止を振り切り、俺はキメラの分厚い装甲の直下に滑り込んだ。
ネットワーク越しにシステムが弄れないなら、直接触れて物理法則の『概念』をハッキングするまでだ。
「どんな超合金だろうと、分子と分子が結びついてる『鍵』があるはずだ。……見つけたぜ」
俺はキメラの鋼鉄の脚に両手を触れ、俺のユニークスキルを全開にしてシステムの深層へとダイブした。
「対象、ネクロキメラ・ジェネラル。装甲を形成する全分子結合ロック……強制解除!!」
俺が脳内で仮想のエンターキーを叩き割る勢いで押下した瞬間。
キメラの全身を覆っていた、いかなる兵器も弾き返す絶対の超合金装甲が、まるで水に濡れた角砂糖のように、ボロボロと音を立てて崩れ落ち始めた。
「ギ、ガァ……!?」
装甲が脆く剥がれ落ち、柔らかい内部の生体機構(エビ肉)が完全にむき出しになる。
防御力ゼロ。ただの巨大な的へと成り下がった。
「今だ、キャルル!! 叩き込め!!」
「ええっ! 行くわよぉぉぉぉっ!!」
俺の合図と共に、キャルルが真っ白なウサギの耳を風になびかせて跳躍した。
彼女の足元、タローマン製の特注安全靴に仕込まれていた『雷竜石』の封印が解放され、紫電の雷光と月兎族の爆発的な闘気が、彼女の全身に凄まじいオーラとなって収束していく。
マッハを超える速度で上空へと舞い上がったキャルルが、空中で身を捻り、全質量を乗せた飛び蹴りの体勢に入った。
「私の村を! 私の仲間を! これ以上荒らすのは絶対に許さないッ!!」
落雷のような轟音と共に、空気を切り裂くソニックブームが発生する。
「月影流奥義――『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッッ!!」
ドッゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
紫電を纏ったキャルルの踵が、装甲を失ったキメラの頭頂部にクリーンヒットした。
1億ボルトの雷撃と、安全靴の規格外の質量が、キメラの巨体を縦に完全に粉砕する。衝撃波が広場を更地にし、合成死蟲将軍機は断末魔を上げる暇もなく、大爆発を起こしてバラバラの肉塊となって吹き飛んだ。
「……ふぅ。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
キャルルがふわりと地面に着地し、テヘッと可愛らしく舌を出して笑う。
その周囲には、キメラの残骸から溢れ出た、極上の『炭火焼き伊勢海老』のような濃厚で香ばしい匂いが、村中に充満していた。
「大勝利だべー! みんな、ドンブリとタローマートの高級天ぷら油を持っこい! 今夜は『極上・死蟲海老天丼』の大宴会だァ!」
農家のおじさんたちが大歓声を上げ、広場は一瞬にして絶望の戦場から、極上の飯テロ会場へと早変わりした。
「カナタさん! ありがとぉっ!」
キャルルが勢いよく俺に抱きつき、その反動で二人して柔らかい草地の上に転がる。
「おっと……。いい蹴りだったぞ、村長さん。……さあ、俺たちも天丼食いに行くか」
最高の仲間たちと笑い合う。俺の望んだスローライフは、今度こそ完全に守り抜かれたのだ。
* * *
同時刻、天界『セレスティア』。
「……あり得ない。私の最強の物理カードが、あんな田舎村のウサギ娘の蹴り一発で……!?」
ワイズは、完全に沈黙したモニターを見つめ、ギリッと血の滲むほど唇を噛み締めていた。
物理的な力業すら通じない。あの村は、もはやただの村ではない。カナタという異常なハッカーを中心に、完全無欠の『バグ領域』と化している。
「いいでしょう。私の直接介入がすべて弾かれるのなら……神としての『正規のシステム』を使って、合法的にあの村を焼き払うまでです」
ワイズは、新たなモニターを展開し、ルナミス帝国で借金と日雇い労働に苦しむ若き勇者――ユート・ディスパーダのステータス画面を冷酷な眼差しで見つめた。
「借金まみれの勇者パーティよ。貴方たちに、特大の神託を与えましょう。……目標、絶対中立特区ポポロ村の殲滅。さもなくば、マグローザ漁船行きです」
最強の村とハッカーの平穏を崩すため、天界のサイコパス神はついに、同じく理不尽に抗う『社畜勇者』を最悪の刺客として解き放とうとしていた。
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