表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾナンス・オンライン  作者: るみにーる
第二章【音階の深層】
9/12

第九話『深層の森の“気配”』

深層の森は、歩くだけで胸の奥がざわついた。

湿度は高いが、第一章の森とは違う。

空気の重さが“音の層”として肌にまとわりついてくる。


風が吹くたび、

木々の葉が重く揺れ、

その揺れが波形となって視界に広がる。


ザワァ……ザワァ……


葉の擦れる音が、

まるで森全体が呼吸しているように感じられた。


胸の奥の壱音が、

その揺れに反応して震える。


ふるり……ふるり……


「……落ち着け。飲まれるなよ」


壱音は弱い。

だが、弱いからこそ外の揺れに引きずられやすい。

深層の森は、音の密度が高すぎる。


一歩踏み出すたび、

足元の土が湿った音を立てる。


ぐしゃり……


その音が波形となり、

地面の奥へ沈んでいく。


——音が沈む森。


そんな異様な感覚があった。


「……ここ、本当にヤバい場所だな」


風が止むと、

森は一瞬で“無音”になる。


鳥の声も、虫の羽音も、

木々のざわめきすら消える。


静寂が、

空気を締め付けるように広がる。


胸の奥の壱音だけが、

かすかに震えていた。


ふるり……


その震えが、

逆に森の静寂を際立たせる。


「……この静けさ、嫌な感じだ」


そのとき——


コツ……コツ……


足音がした。


だが、

その足音は“軽すぎる”。


深層の森の音密度に対して、

あまりにも不自然な軽さ。


視界に波形が広がる。

細く、弱く、

まるで“存在が薄い”ような揺れ。


「……誰だ?」


俺はナイフを構え、

壱音を胸に集中させた。


ふるり……


刃が微かに震える。


茂みが揺れ、

影がひとつ現れた。


だが——

その影は、

“音を持っていなかった”。


《???(プレイヤー)

 音階:無段》


「……プレイヤー?」


だが、違和感があった。


そのプレイヤーは、

フードを深く被り、

顔が見えない。


歩いているのに、

草が揺れない。

足音が波形にならない。

空気が動かない。


まるで——

存在そのものが“音を拒絶している”。


「……お前、無響か?」


その声は、

空気を震わせずに届いた。


まるで、

意味だけが脳に直接流れ込んでくるような声。


「……違う。俺は無響だけど、お前は……」


「俺は“無段”。

 音階を持たない者だ」


その言葉に、

胸の奥の壱音が震えた。


ふるり……!


無段。

ローブの人物と同じ音階。


だが、

このプレイヤーはNPCではない。


名前の横に、

プレイヤー表示がある。


「……どういうことだ?

 プレイヤーで無段なんて……」


「珍しくはない。

 音階を得られずに死んだ者は、

 無段のまま深層へ落ちる」


「……死んだ?」


「ログアウトじゃない。

 “死んだ”んだよ」


その言葉に、

背筋が冷たくなった。


「このゲームは、

 音階を持たない者を“存在”として扱わない。

 存在が薄い者は、

 深層の揺れに飲まれて消える」


プレイヤーは、

ゆっくりと顔を上げた。


フードの奥から、

淡い青い光が漏れている。


その光は、

ローブの人物と同じ色だった。


「……お前、NPCじゃないのか?」


「違う。

 俺はプレイヤーだ。

 だが、音階を得られなかった」


胸の奥の壱音が、

その言葉に反応して震える。


ふるり……ふるり……


「無響よ。

 お前は壱音を得た。

 だから存在できている。

 だが、壱音は弱い。

 深層ではすぐに飲まれる」


プレイヤーは、

俺の胸に手を伸ばした。


その手は、

空気を震わせなかった。


「壱音を守れ。

 それが消えれば、

 お前も“無段”になる」


その瞬間——


ガサッ!!


茂みが揺れた。


重い揺れ。

深い波形。

空気を押し潰すような圧力。


ディープ・ウルフとは違う。

もっと重い。

もっと深い。


プレイヤーが言った。


「来るぞ。

 深層の“音喰い(おとぐい)”だ」


茂みが裂けた。


グォォォォ……!!


空気が震え、

胸の奥の壱音が悲鳴のように震えた。


ふるり……ふるり……ふるり……!!


「……っ……!」


プレイヤーが叫ぶ。


「壱音を守れ!

 飲まれたら終わりだ!!」


深層の森が、

音で満ちた。


そして俺は、

第二章の本当の恐怖を知ることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ