表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾナンス・オンライン  作者: るみにーる
第二章【音階の深層】
10/12

第十話『音喰い、深層の咆哮』

深層の森の空気が、急に重くなった。

湿度が増したわけではない。

温度が上がったわけでもない。


——音が、濃くなった。


胸の奥の壱音が、

ふるり……ふるり……

と震え続けている。


まるで、

“何かに触れられている”ような震えだった。


「来るぞ。構えろ、無響」


無段のプレイヤーが低く言った。

その声は空気を震わせず、

意味だけが脳に直接届く。


茂みの奥から、

重い揺れが近づいてくる。


草が揺れ、

土が震え、

空気が押し出されるように歪む。


ズ……ズ……ズ……


その揺れは、

ディープ・ウルフの比ではなかった。


波形が視界に広がる。

太く、深く、

まるで地面の奥から響いてくるような揺れ。


「……なんだ、この揺れ……」


「深層の捕食者だ。

 音を喰う獣——《音喰い》」


無段のプレイヤーが言った瞬間、

茂みが裂けた。


グォォォォォ……!!


空気が爆ぜた。

胸の奥が押し潰されるような圧力。

耳の奥が震え、

視界が揺れる。


音喰いは、

狼のような姿をしていた。


だが、

その身体は黒い霧のように揺らぎ、

輪郭が定まらない。


目は赤く光り、

口の奥には“音の渦”が渦巻いていた。


呼吸のたびに、

空気が吸い込まれ、

周囲の音が消えていく。


ゴォ……ゴォ……


「……音を……吸ってる……?」


「そうだ。

 音喰いは“音を喰う”。

 音を立てる者ほど狙われる」


無段のプレイヤーの声が、

淡く響く。


「だが、お前は無響だ。

 音を立てない。

 だから——狙われにくい」


その言葉が終わる前に、

音喰いが跳んだ。


ドンッ!!


地面が爆ぜ、

土が跳ね上がる。


だが、

音喰いの跳躍には“音がなかった”。


空気が揺れただけ。

足音も、風切り音もない。


「……っ……!」


俺は横へ跳んだ。

泥が跳ね、

湿った土の匂いが鼻を刺す。


音喰いの爪が地面を抉り、

土が裂ける。


だが、

その裂ける音すら吸い込まれていく。


ズ……ズ……ズ……


音が、消えていく。


「……これが、音喰い……」


無段のプレイヤーが叫んだ。


「無響! 壱音を鳴らせ!

 存在を示さなければ、飲まれるぞ!」


胸の奥の壱音が震える。


ふるり……ふるり……!


だが、

音喰いの吸引に引きずられ、

揺れが乱れていく。


「……っ……!」


俺は胸に手を当て、

壱音を抑え込むように意識した。


「鳴れ……!

 俺はここにいる……!」


壱音が震え、

空気へ広がる。


ふるり……!


淡い波形が、

音喰いの吸引に逆らうように揺れた。


その瞬間——


音喰いの赤い目が、

俺を見た。


「……っ……!」


無段のプレイヤーが叫ぶ。


「壱音を鳴らしたな!

 存在を示した!

 だから狙われるぞ!!」


音喰いが跳んだ。


グォォォォ!!


空気が爆ぜ、

胸の奥が震える。


俺は泥を蹴り、

横へ跳んだ。


音喰いの爪が地面を裂き、

土が吸い込まれるように消えていく。


「……音を……喰ってる……!」


「そうだ!

 音喰いは“存在の揺れ”を喰う!

 壱音を狙ってくるぞ!」


胸の奥の壱音が震える。


ふるり……ふるり……!


音喰いが再び跳んだ。

その軌道が、

波形として視界に浮かぶ。


——見える。


呼吸の揺れ。

筋肉の収縮。

空気の歪み。


すべてが波形となって視界に広がる。


「……行ける……!」


俺は泥を蹴り、

音喰いの懐へ滑り込んだ。


ナイフを構え、

壱音を刃へ乗せる。


ふるり……!


「——壱音・揺律刃ッ!!」


ザシュッ!!


音喰いの身体が揺れ、

黒い霧が散った。


だが——

音喰いは倒れない。


むしろ、

霧が濃くなり、

赤い目がさらに光った。


無段のプレイヤーが叫ぶ。


「無響! 逃げろ!

 音喰いは“壱音を喰う”!!

 今のお前じゃ勝てない!!」


音喰いが吠えた。


グォォォォォォ!!


空気が裂け、

世界が揺れた。


胸の奥の壱音が、

悲鳴のように震える。


ふるり……ふるり……ふるり……!!


「……っ……!」


視界が白く染まり、

膝が崩れた。


音喰いが迫る。

赤い目が、

俺の壱音を狙っている。


——喰われる。


その瞬間——


空気が、止まった。


風が止み、

葉が揺れず、

音が消えた。


世界が“無”になった。


そして——


「無響よ。

 まだ死ぬには早い」


あの声が、

背後から響いた。


ローブの人物が、

音もなく現れた。


その手が、

俺の胸に触れた。


壱音が、

静かに震えた。


ふるり……


音喰いが吠えた。


だが、

ローブの人物は微動だにしない。


「深層の音喰いは、

 壱音では倒せない。

 だが——

 “弐音”なら話は別だ」


ローブの人物が、

俺の胸に手をかざした。


「無響よ。

 ここからが本当の深層だ」


音喰いが跳んだ。


世界が揺れた。


そして——

第二章の核心が、

静かに開かれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ