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レゾナンス・オンライン  作者: るみにーる
第二章【音階の深層】
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 第二章【音階の深層】                 第八話『深層の森、初めての“音律”』

霧を抜けた瞬間、空気の質が変わった。


湿度は高いままだが、

肌にまとわりつく重さが違う。

まるで、空気そのものが“音を孕んでいる”ような圧力があった。


深く息を吸うと、

土の匂いに混じって、

微かに金属のような、

乾いた音の匂いがした。


——音の匂い?


そんなもの、現実には存在しない。

だが、この世界では確かに“匂いとして感じる”のだ。


胸の奥の壱音が、

ふるり と震えた。


「……ここが、第二章の世界……」


霧の向こうに広がっていたのは、

第一章の森とはまったく違う景色だった。


木々は高く、

幹は太く、

葉は濃い緑で、

風が吹くたびに重い音を立てる。


ザワァ……ザワァ……


葉の揺れが波形となって視界に広がる。

その波形は、第一章の森よりも“深い”。


揺れの層が厚い。

音の密度が高い。


まるで、森そのものが“生きている”ようだった。


「……ここ、やばいな……」


足元の土を踏むと、

ぐしゃり と湿った音がした。


その音が波形となり、

地面の奥へ吸い込まれていく。


——音が、地面に“沈む”。


そんな感覚があった。


胸の奥の壱音が、

その沈む音に引きずられるように震える。


「……落ち着け……」


胸に手を当て、

壱音を抑えるように意識する。


だが、

この森の“音の密度”は異常だ。


第一章の森が“浅瀬”なら、

ここは“深海”だ。


音が重い。

揺れが深い。

空気が厚い。


そのとき——


バキッ……!


枝が折れる音が、

空気を裂いた。


その音は、

第一章では考えられないほど“重かった”。


視界に波形が広がる。

太く、深く、

まるで地面を揺らすような波形。


「……来る……!」


胸の奥の壱音が震え、

その震えが俺の視界を研ぎ澄ませる。


草の揺れ。

空気の流れ。

土の震え。


それらが重なり、

ひとつの“存在”を示していた。


茂みが裂けた。


グルルル……ッ


低い唸り声。

だが、第一章のビーストとは違う。


音が重い。

揺れが深い。

存在が濃い。


《ディープ・ウルフ(Lv12)》

——深層の狼。


毛並みは黒く、

目は青く光り、

呼吸のたびに胸が大きく膨らむ。


その呼吸音が、

空気を震わせていた。


ゴォ……ゴォ……


「……強い……」


第一章のビースト・レゾナントよりも、

明らかに“音の質”が違う。


ディープ・ウルフが一歩踏み出す。


その足音が、

地面を震わせた。


ドン……!


波形が視界に広がり、

胸の奥の壱音が揺れる。


「……っ……!」


揺れが強すぎる。

壱音が飲まれそうになる。


だが、

ここで怯んだら終わりだ。


俺はナイフを構え、

胸の奥の壱音に意識を向けた。


「……鳴れ……!」


壱音が震え、

刃へ伝わる。


ふるり……


刃が微かに震え、

空気が揺れる。


ディープ・ウルフが跳んだ。


その動きは速く、

重く、

風を切る音が鋭い。


だが——


見える。


波形が、

ディープ・ウルフの軌道を示している。


俺は横へ跳び、

刃を振るった。


ザシュッ!!


だが——

浅い。


ディープ・ウルフの毛並みは硬く、

刃が深く入らない。


「……っ……!」


ディープ・ウルフが反転し、

爪を振り下ろす。


ガァッ!!


風圧が頬を裂き、

土が爆ぜる。


俺は転がり、

泥を蹴り上げながら距離を取った。


「……強すぎる……!」


壱音だけでは足りない。

音階壱は弱い。

存在の証明にすぎない。


だが——

そのとき、

胸の奥の壱音が震えた。


ふるり……ふるり……


揺れが、

ディープ・ウルフの“呼吸”と共鳴している。


「……呼吸……?」


ディープ・ウルフの呼吸音。

その波形が、

胸の奥の壱音と重なっている。


——呼吸の揺れを掴め。


俺は息を吸い、

ディープ・ウルフの呼吸に合わせた。


ゴォ……ゴォ……

 ふるり……ふるり……


揺れが重なる。


その瞬間、

視界が開けた。


ディープ・ウルフの動きが、

呼吸の揺れと連動して見える。


「……見える……!」


ディープ・ウルフが踏み込む。

その瞬間、

呼吸の波形が跳ね上がる。


俺はその揺れに合わせて動いた。


泥を蹴り、

草を滑り、

影のように懐へ潜り込む。


「……っ……!」


ザシュッ!!


今度は深く入った。


ディープ・ウルフが吠え、

身体を震わせる。


その震えが、

地面を伝って足裏に響く。


だが、

俺はもう迷わない。


呼吸の揺れが見える。

動きの癖が見える。

攻撃の予兆が見える。


壱音が震え、

刃が揺れる。


「……これが……音律戦闘……!」


ディープ・ウルフが跳んだ。

だが、

その軌道はすべて見えている。


俺は刃を構え、

壱音を乗せた。


ふるり……!


「——壱音・揺律刃ッ!!」


ザシュウッ!!


ディープ・ウルフが崩れ落ちた。


その身体が粒子となって消えていく。


湿った土の匂いが残り、

風がわずかに吹いた。


《ディープ・ウルフを撃破しました

 経験値+260

 壱音熟練度+3

 新特性:呼吸共鳴こきゅうきょうめい獲得》


胸の奥の壱音が、

静かに震えた。


「……これが……第二章の戦いか……」


風が吹き、

草が揺れ、

その揺れが波形となって視界に広がる。


深層の森は、

まだ始まったばかりだ。

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