歪む世界
前回、ミカは深淵で何度も死んだ。
何度も戻り、何度も光に殺された。
最後のループ——彼は気づいた。
「前に進むだけが、答えじゃない」
そして、反対方向へ飛んだ。
赤い宇宙雲がどこまでも広がっていた。地面はない。空もない。星もない。ただ赤いだけ——何百万年もの昔から腐り続ける血のように濃い赤色。雲はゆっくりと動き、うねり、時折その深淵でかすかな光を放っていた。決して静まることのない海のように。ゆっくりと呼吸する巨人のように。
ミカは再び繰り返していた。彼はまだ奈落の底へ落ち続けている。
体は目的もなく漂っていた。魔力は——もう満ちている。しかし今回は、彼は光に向かって飛ばなかった。
今までずっと、俺は前に進んでいた。
別の方向は試したことがなかった。
彼はこれまでの死を覚えていた。頭が砕け散った。体が爆発した。右腕が吹き飛んだ。どの死も記憶に痕跡を残していた——肉体的な傷跡ではない。消えない恐怖の痕跡だ。
遠く——分厚い赤い雲の隙間から——光の閃光が見え始めた。最初は小さい。ぼんやりとしている。ほとんど見えない。しかし彼は知っていた。あの光は大きくなり、追いかけ、殺しに来ると。
ミカは左手を握りしめた。右手はもうない。右肩の切断面はまだ痛んだ——本当の傷ではない。前のループから持ち越した痛みだ。まるで体の記憶は騙せないかのように。
「ミコウト……空間を裂く剣の進化」
黒かった髪が雪のように白く変わる。暗かった瞳が青く輝き、その中心に月の紋章が灯る。魔力が彼の周りで氷の嵐のように炸裂する——冷たい風が彼の周りを渦巻き、近づきすぎた赤い雲を凍らせる。
今回は——彼は反対方向へ飛んだ。
光に向かってではない。光から遠ざかるように。可能な限り速く。可能な限り強く。
これがうまくいくかどうかはわからなかった。しかし試さなければ確実に失敗する。
光はじっとしていなかった。どこまでもミカを追いかけてくる。
次々と攻撃が放たれる。無数の小さな閃光が光源から迸り、燃え盛る流星の雨のように高速で襲いかかる。空気が唸る。熱い。耳をつんざく。
ミカは逃げながら受け流し続ける。氷の剣が彼の手に現れ、迫る攻撃を斬り裂く。氷の盾が彼の背中に形成され、後方からの攻撃を防ぐ。
「くそっ」
防ぐたびに、彼の手は震え、胸が痛み始める——ただの痛みではない。内側から突き刺さるような痛み。肋骨の間でナイフをぐるぐると回されているかのようだ。
しかし距離は全く縮まらない。光はますます速くなる。攻撃はますます激しくなる。
周囲の空気が熱くなり始める。体内の魔力は燃え盛る石炭のように熱い。息をするたびに、火を吸い込んでいるように感じられる。
くそっ……もう……やめてくれ……
彼は無理をした。もっと速く。もっと強く。胸の痛みを無視して。もうない右腕を無視して。感覚を失いかけている足を無視して。
しかし光は決して止まらなかった。
そして突然——
世界が止まった。
完全な静寂。攻撃の音が消える。風の音が消える。自分の呼吸の音さえ消える。
光が動きを止めた。攻撃しない。追いかけない。ただ静止する。
ミカは眉をひそめた。息はまだ荒い。冷や汗が額を濡らす。
「なに……?」
そして——光が膨れ上がった。
これまでのようにゆっくりではない。突然に。一瞬で。一秒で生まれ、一秒で死ぬ太陽のように。
それはもはやただの閃光ではなかった。爆発する星のように膨れ上がる。周囲のすべてを飲み込む超新星のように。赤い雲がその中心に吸い込まれていく。空気が震える。空間そのものが引き裂かれそうになる。
ミカは悟った。これが切り札だと。
逃げ場はない。隠れる場所もない。
逃げれば死ぬ。耐えれば死ぬ。
ならば——彼は攻撃する。
「ミコウト……絶対零度!」
持てる全ての魔力を——一気に放つ。余さず。何も残さず。
周囲の空気が凍りつく——ただの冷たさではない。空気分子そのものを凍らせる冷たさ。色が消える。音が消える。彼の前方の空間が砕け始める。
青白い氷の攻撃が光に向かって放たれる。ただの攻撃ではない。切ったり突いたりする氷ではない。空間そのものを凍らせる氷——その動きを止め、その時間を凍らせる。
光と氷が激突する。
ドン。
いつもの爆発音はない。耳をつんざく轟音もない。ただ静寂だけ。ミカの髪の先から足の先まで、全身を駆け巡る振動だけ。
その振動はまるで世界そのものが震えているかのようだった。
そして——
バリャッ!
まばゆい白い光が空間全体を満たした。周囲の赤い雲が裂け、世界は嵐の海の船のように揺れた。そして二つの攻撃の衝突は——時空の歪みを引き起こした。
時と空間が混ざり合う。宇宙の岩片が飛び散る。赤い雲は衝突の中心に吸い込まれ、また別の方向へ吐き出される。
空中に——光の亀裂が現れ始めた。砕けたガラスのように。それぞれの亀裂から異なる光が漏れ出る——青いもの、紫のもの、赤いもの、真っ黒なもの。
それらの亀裂の間に——無数のポータルが出現する。数十、数百、おそらくそれ以上。
扉のように大きなもの。隙間のように小さなもの。完全な円を描くもの。歪な形のもの。まるで布地の裂け目のように。
ミカはどこへ行けばいいのかわからなかった。体はもう感覚がない。魔力は尽きた。残された左腕は鉛のように重い。胸は苦しく、目はくらくらする。
どれか一つ選べ……どれを選ぶ……
彼はポータルたちを見つめた。探した。何かを。印を。手がかりを。何でもいい。
混乱の中、彼は一つのポータルを見つけた。最大のものではない。最も明るいものでもない。しかし最も薄暗い。最も静かで。最も目立たないもの。
あれだ。
彼は目を閉じた。
お願いだ……
安全な場所へ連れて行ってくれ。
最後の力を振り絞って、彼はそのポータルに向かって飛び込んだ。
ミカは落ちた。
終わりのない虚無へ落ちるのではない。石の床へ落ちた。硬く、冷たく。ところどころひび割れている。
古い埃の匂い。数千年間誰にも触れられなかった石の匂い。蝋燭の匂い——蝋燭は見当たらないのに。
「ああ……っ」
全身が痛んだ。ただの痛みではない。骨の髄まで突き刺さる痛み。筋肉、関節、腱——全てが苦痛の叫びを上げていた。
彼は立ち上がろうとした。できない。冷たい床を這うことしかできない。
彼は周囲を見回した。
神殿だった。
古い石の壁が両側にそびえ立っている。窓はない。見える扉もない。光は特定できない源から来ていた——ぼんやりと、暖かく、まるで水を透かす太陽の光のように。
石柱が通路に沿ってしっかりと立っている。いくつかはひび割れている。いくつかは苔むしている。しかし全てがまだ立っている。
天井は見えない。暗い。とても高いのかもしれない。どこまでも続いているのかもしれない。
ここは……どこだ?
彼は壁に手を当てて歩いた。石が手のひらにざらついた感触を残す。一歩、また一歩。体はますます重くなり、目はぼやけ、世界はゆっくりと彼の周りで回り始める。
もう……限界だ……
通路の奥に、彼は影を見た。
ぼんやりと。揺らめいて。幻のように。
しかしそれは幻ではないと彼は知っていた。
一人の少女。
ミカの唇が動いた。何か言いたかった。問いたかった。お前は誰だ? しかし声が出ない。
「あな——」
言い終える前に——世界が傾いた。
彼は倒れ、気を失った。
別の場所。ミカから何億光年も遠く離れた場所。
ミヤは暗闇の広がる大地に立っていた。
赤い雲ではない。ミカが経験したような虚無でもない。
だが地面だった。黒く、硬く、ひび割れた大地。焼けた大地のように。死んだ大地のように。
遠く——一つの影が走っていた。速い。素早い。
あいつだ。
ジョロトの仲間。高い帽子と赤い瞳の将軍。黒いスーツの裾が宙に舞い、飛び跳ね、走る。
ミヤは追いかけた。
なぜ追いかけるのか正確にはわからなかった。しかし直感が告げていた——あいつを始末しろ。さもなければ、いつかお前が殺される。
呼吸は整い、足取りは安定している。神器の剣はまだ緑がかった光を放っている。
距離が縮まる。
ミヤは剣を振りかざした。一振りで届く。
振り下ろそうとした、その時——
バリャッ!
遠くからまばゆい白い光。
超新星のように強く。空を裂くほどの爆発のように。
光だけではない。震えだ。骨の髄まで伝わる震え。足元の大地を揺るがす震え。
ミヤの足がよろめき、攻撃が逸れた。
将軍は逃げた——現れ始めた光の亀裂の間に消えた。
「くそっ……」
しかしそれだけではなかった。
周囲の空気が砕け始める。ポータルが出現する。数十、数百。ミカが見たものと同じ——しかしここではもっと混沌としている。吸い込むものもあれば、押し出すものもある。渦巻くものもある。
ミヤは避けきれなかった。
すぐ脇にポータルが開き——彼女を無理矢理吸い込んだ。まるで巨大な手が彼女の腰を掴んだかのように。
「え——」
反応する間もなかった。
ミヤは落ちた。
硬い地面に着地する。しかしミカの神殿とは違う——ここはより暗く、より熱い。硫黄の臭いが鼻をつく。
血の臭い。死んだ何かの臭い。
彼女は立ち上がる。目を暗闇に慣らす。
そして彼女の目の前には——無数の赤い目が闇の中で輝いていた。
アビスのモンスターたち。
一体や二体ではない。数千体。その体は真っ黒で、はっきりとした形はない。猫背の人間のようなもの。四つ足の獣のようなもの。何とも呼べないもの——認識できる形を持たないもの。
彼らはゆっくりと動き、獲物を包囲する狼のように彼女を囲む。
ミヤは慌てない。
彼女は神器の剣を掲げた。緑がかった光がより強く輝く——恐ろしい顔たちを照らし出す。
「聖火の剣……滅斬」
緑がかった光が全域を薙ぎ払う。モンスターたちは消し飛んだ。何も残らない。血も、死体もない。ただの埃だけ。空中に舞う黒い埃は、やがて消えていった。
「面倒ね」とミヤは呟いた。
しかし戦いは終わっていなかった。
彼女の右耳の後ろ——ささやき声が聞こえた。柔らかく、冷たく、近くに。近すぎるほどに。
「なるほど、君が噂の英雄さんってわけ?」
ミヤは振り返った。剣を後ろに振りかざす。速く。全力で。
しかし彼女の方が速かった。
強烈な蹴りが彼女の腹部を襲う。ただの蹴りではない。魔力を込めた蹴り。周囲の空気すら震わせる蹴り。
ミヤは吹き飛ばされた。遠くへ。彼女の体は空中を舞い、黒い大地に叩きつけられる。埃が舞い上がる。
まだ終わらない。
シュッ。シュッ。シュッ。
進化した風の矢——上級のものが——遠くから彼女に降り注ぐ。次々と。速く。致命的に。矢の一つ一つが緑がかった光の軌跡を残す。
ミヤはそれら全てを受け流す。数えきれない矢が彼女に向かって襲いかかる。
剣は驚くべき速さで動く。迫る矢は全て、彼女に届く前に両断される。
全てを受け流した。
彼女は着地する。息は少し上がっている。しかし傷一つない。
最後の矢が落ち、埃が消え始める。
ミヤは一人の影を見た。目の前に。
女。
髪は真紅——枯れた血が地面に染み付いたような色。長く、わずかに波打っている。
黒い服が全身を覆っている。顔以外の肌は見えない。瞳は——ただの赤。これまでの将軍たちのように燃え上がってはいない。しかし確かな危険を感じさせる。
彼女は堂々と立っている。疲れた様子もなく、驚いた様子もない。
ミヤは目を細めた。
「おい、このクソ野郎!てめえは一体何者だ?!」怒りを込めてミヤは叫んだ。その声が闇に響く。
女はすぐには答えなかった。
彼女は笑った。
大声で。自由に。何の重みもなく。その声は、何か面白いものを見ている人の笑い声のように聞こえた。
「へえ、英雄ってのはこんなに弱いもんなの?」彼女は笑いをこらえながら答えた。目を細め、頬をわずかに上げて。
「ああ、まあいいわ。失礼だったわね。」
彼女は少し背筋を伸ばした。笑みはまだ唇に浮かんでいる。
「じゃあ、自己紹介するわ。あたしはマミーナ。七人の将軍の一人、強欲の権能を持つ者よ。 」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ミカはついに深い谷から抜け出し、ある神秘的な寺院にたどり着いた。そこで出会った少女の正体は――。
一方、ミヤは新しい将軍、マミナと対峙していた。彼女が持つ真の力は、貪欲の権威を通して発揮される。




